今回は紹介しそびれていたものも含めて、ここ数ヶ月の個人的な収穫をまとめて。まずは八月にリリースされたイェイフーズ。これが初めてのアルバムになるけれど、アメリカン・ロック大好き族の中には名前を聞いたことがあるという人も多いだろう。95年頃からライブではお馴染みの存在だし、今は亡きESDレーベルのコンピレーション『EAST SIDE STORY』(96年)にも一曲収録されていたから、待っていた人にとっては随分長い間お預けを食わされたことになる。しかし、結論から言うと、待った甲斐は十分あった。

 何と言ってもこのバンドはメンバーがすごい(少なくとも個人的にかなり食指をそそられるメンバーだ)。ダン・ベアード、キース・クリストファー(共に元ジョージア・サテライツ)、ダン・ベアードとは古くからつきあいがあり、以前この欄でノット・レイムからの新作を紹介したことのあるテリー・アンダースン(元ウッズ/バックスライダーズにも参加)、プロデューサーとして多くのルーツ・ロック・バンドを手がけ、自身も優れたソロ・アルバムも二枚残しているエリック・アンベル(元デル・ローズ)−−この四人がそれぞれの持ち味を生かしたナンバーを持ち寄り、とうとう痛快なロックンロール・アルバムを作り上げてくれたのである。悪いわけがないではないか。

 軽快でポップなテリー・アンダースン、骨太サザン・ロックの王道を行くダン・ベアード、ルーツ・ロックの酸いも甘いもかみ分けて、オルタナ・カントリー・シーンの礎を築いてきたエリック・アンベル。彼らの功績について、よく知っている人も知らない人も、取りあえずこのアルバムを聴いてみてほしい。直情的な反逆性や現実への不満、あるいはテクニックの有無や長大な組曲にロックの本質があると考える人にはあまりお薦めしないけれど、難しい理屈抜きに楽しめるロックが最近少ないんじゃないかと嘆いている人には大推薦しておく。

 九月には南部やNYを含むツアーを展開中の彼らだけど、生で見てみたいですね。アルバムの最後ではアバの「ダンシング・クィーン」を自己流に料理して、お茶目なエンターテイナー精神を発揮してくれている彼らのことだから、きっと楽しいライブを体験できることでしょう。

 続いては、嬉しいライブ盤を二枚。もう解散してしまったけれど、テキサス州オースティンのルーズ・ダイアモンズは、ミネアポリスのジェイホークスやイリノイのアンクル・テュペロと並んで、90年代のネオ・ルーツ・ロックを語る際にはずせない重要バンドの一つだった。メンバーはそれぞれソロで、あるいはサポート活動で、今も健在なところを見せてくれているが、今回彼らの前身バンド、ハイウェイメンのライブが陽の目を見ることになった。

 『LIVE TEXAS RADIO』には、ハイウェイメンがオハイオからテキサスに移った直後(ルーズ・ダイアモンズと改名する前)の90年、地元FM局に出演したときのライブが収録されている(おまけに86年のEP全四曲他を追加)。しなやかで透明度が高く、同時にエネルギッシュでもある彼らの演奏は、今聴いても少しも色あせていない。90年代初期といえば、80年代に注目を集めた米インディー・シーンが一つの曲がり角を迎えていた時期。当時オースティンにこれだけピュアなロック・バンドが存在し、これほど充実したライブを展開していたという事実はあまり知られていなかったはず。僕自身今まで推測するしかなかった当時の音源に接することができ、改めて「米インディー・ロック正統派」の奥深さを垣間見た思いがする。こういう貴重な発掘はこれからもどんどん続けてほしい。  十年前のライブをリリースしてくれたハイウェイメンに対して、新しめの録音により、現在の姿を疑似体験させてくれるのはトミー・キーン。今さら紹介するのも気が引けるのだが、80年代から活躍するベテランだ。ザ・フーやビッグ・スター直系のシンプルかつパワフルなサウンドを持ち味とし、マタドールからの近作二枚は国内盤も出ていた。98年と2000年のライブを収録した『SHOWTUNES』は、代表曲をほとんど網羅し、入門盤としてもうってつけと言えそう。この人の場合、スタジオ盤もライブっぽく録音されているから、それほど新味があるわけではないけれど、「Long Time Missing」「Nothing Can Change Me」と続く冒頭部分から爆発するソリッドなポップ感覚がファンにはたまらない。思わず98年に見たライブを思い出してしまった。ちなみにそのときのサイド・ギターはジェイ・ベネット(タイタニック・ラブ・アフェア/ウィルコ)。ここではスコット・ジョンソン(おそらく元ジン・ブロッサムズ/現ピースメイカーズのスコット)が四曲にゲスト参加している。

 そのトミー・キーンが一時助っ人として参加していたこともあるヴェルヴェット・クラッシュがアルバムを二枚リリースしてくれた。一枚はファーストのボーナスつき再発、もう一枚は初期シングル集。新作じゃないのは残念だけれど、後者は初CD化となるファースト・シングルを含んだ待望の一枚。僕が米インディーにはまるきっかけとなったバンドだから、この時代の音は冷静に聞くことが難しいんだよね。とにかくギター・ポップ/パワー・ポップ・ファンは必携の編集盤とだけ言っておこう。あとはポール・チャスティン関連の音源(ソロEP、ナインズ、バグ・オー・シェルズ等)をまとめたCDとリヴァーブスの再発に期待したいところ。

 再び気分が十年前に逆戻りしたところで余談を一つ。トミー・キーン、ヴェルヴェット・クラッシュ、さらには彼らとも交流のあったアダム・シュミット(新作よかったですね)など、ニュー・モード・パワー・ポッパーたち、あるいはデル・ローズのような骨太ロックンローラー、はたまたルーズ・ダイアモンズやパイントップスのように日本では無名のネオ・ルーツ・バンド……前回紹介したマイケル・プリッジェンあたりもそうだったけれど、(一部を除いて)この十年間なかなか日本では話題になりにくい人ばかりを好きになる自分の音楽趣味に対して、ときおり不安になるときがある。

 そういうとき、一番手っ取り早い解決法は同好の士を見つけることだろう。近くにいないときはファンジンを眺めるのも効果的だ。イギリスの老舗ファンジン「Bucketfull of Brains」の巻頭には、毎号プレイ・リストとして編集者のお気に入りナンバーが掲載されているが、最新59号を見ると、キャッシュ・ブラザーズ「Night Shift Guru」とアレハンドロ・エスコヴェード「Rosalie」の二曲がちゃんと選ばれていた(わけがわからない人は九月号参照)。揺らぐ自信を支え直してくれたテリー・ハーモンとニック・ウェストに感謝しつつ、次号に続く。

THE YAYHOOS/Fear Not The Obvious (Bloodshot/BS082)2001

THE HIGHWAYMEN/Live Texas Radio (no label/no number)2001

TOMMY KEENE/Showtunes (no label/no number)2001

VELVET CRUSH/A Single Odessey (Action Musik/AMCD103)2001