何だかこのところNY周辺のアーティストが気になっている。例えば、本誌前号にもスケジュールが記載されていたマーシャル・クレンショウとマイケル・シェリーのジョイント・ライブが近づいてきたり、ポップトーンズからリリースされたマット・キーティングの新作がやたらと気持ちよかったり、個人的に注目しているアイタン・マースキーが新作で相変わらず小気味いいロックンロールを楽しませてくれたり、フリーディー・ジョンストンが一段と成長した姿を新作で披露してくれいて嬉しくなったり、といった具合である。中でも一番の拾いものはスパイクことマイケル・プリッジェンのソロ。ここで聴ける抜群のメロディ・センスとジャングリーなギター・サウンドは、彼がバーズやビッグ・スターの正当な後継者であることを物語っている。今回は東海岸ポスト・パンクの流れを振り返りつつ、プリッジェンの歩みをたどってみることにしよう(参考;http://spikepriggen.com)。

 これがソロとしては初めてのアルバムとなるプリッジェンだが、全くの新人というわけではない。生年は不明だが、コネティカット州ニュー・ヘイヴンで育ったプリッジェンは、少年時代パンク/NWに影響を受け、同時にチープ・トリック、ビッグ・スター、ドゥワイト・トゥイリーなどのオリジナル・パワー・ポップにも傾倒し、14才になる頃にはいくつかのバンド経験を持つ。地元のアンダーグラウンド・シーンに深く関わり、当時のバンド仲間にはマーク・マルカーイ(ミラクル・リージョン)、ジョン・ブライオン、カーク・スワン(ダンプトラック)らがいたという。

 その後NYに移って伝説のクラブ、ダンステリアに職を得る。ブルー・ピリオドというポップ・コンボを結成し、これがやがてハロー・ストレンジャーズに発展した。この時代(80年代前半)のNY界隈ではクレンショウはもちろん、先々月号でも触れたレーン・スタインバーグ(ウィンド)やスティーヴ・アルマース(スーサイド・コマンドス/ビート・ロデオ)等、既にそれなりのキャリアを持つポップSSWが多数活躍していた。プリッジェンもまたおそらく彼らの存在を励みとして、バンド活動に精を出していたのだろう。この時期知り合った友人として、ダグ・ワイガル(ワイガルズ)、デイヴ・シュラム(ヨ・ラ・テンゴ/シュラムズ)、ケヴィン・セイラム(一時期ダンプトラックに参加/ソロ二枚あり)、マーク・スペンサー(ブラッド・オレンジズ/フリーディー・ジョンストンやケリー・ウィリスのアルバムにも参加)、ジョン・グラボフ(スティーヴ・アルマースと親交があり、最近ではマイケル・シェリーの『アイ・ブレイム・ユー』にも参加)などの名前がホームページで挙げられている。いずれも後に東海岸の音楽シーンで重要な役割を果たすことになるアーティストたちであり、こうした交流がノイズやアート系とは別のシーンをNYに生み出していく源となっていったとも考えられる。ささやかな交流かもしれないが、僕にとっては無視できない流れだ。

 85年には短期間ボストンに移り住み、セス・ティヴン率いるダンプトラックに参加。ちなみに、この時代のライブは今年リリースされた『LEMMINGS TRAVEL TO THE SEA』のおまけディスクで聴くことができる。ハロー・ストレンジャーズが初のアルバムをリリースしたのは少し遅れて87年のこと。リリースはダンプトラックやミラクル・リージョンでお馴染みのインカスから。メンバーにはマーク・マルカーイ、ゲストにセス・ティヴンの名前がある。当時どれほど話題になったのかはわからないが、プリッジェンの飾り気のないソングライティングとよくまとまった演奏からは、未成熟ながらも現在と変わらない素朴な魅力を感じることができる。

 さて、ボストンからニュー・ヘイヴン、そして再びNYに戻ったプリッジェンは90年代に入ると自らレーベル(#1レコーズ)を起こしシングルをリリースするほか、プロデュースも手がけ、他のバンドの後押しをするようになる。そんな中、ハロー・ストレンジャーズ名義の第二弾「Sumthin' Sweet」が91年に発表された。とにかくこのシングルはメンバーが豪華。クレジットを見てみよう。ダグ・ワイガル、ワード・ドットソン(ポンティアック・ブラザーズ/リカー・ジャイアンツ)、ケヴィン・セイラム、そしてマイケル・プリッジェン。過去の人脈に加えて、この時期西海岸からNYに移ってきたドットソンとも交流が深まり、後にリカー・ジャイアンツの『HERE』(94年)にも参加することになる。

 僕が偶然このシングルを見つけたのは94年のことだった。当時『HERE』とケヴィン・セイラムの傑作ソロ『SOMA CITY』(94年)がお気に入りだった僕は、そのときまだプリッジェンの名前は知らず、セイラムとドットソンの名前に惹かれて購入した記憶がある。力強いリズムにフックのきいた「Sumthin' Sweet」は確かにこの二人の長所をうまく組み合わせたかのような好ナンバーだったが、作者の名前はプリッジェンとなっていた。  あれからもう七年が経つ。その後もう少し熱心に探求を続けていれば、マルコム・ロスやキャロライン・ノウ、コンテインなどのアルバムで彼の名前を見つけることができたはずだけれど、僕の場合今度のソロ・アルバムがひさしぶりの出会いとなった(ファンの人ごめんなさい)。これだけのキャリアを持つSSWとしては遅すぎるデビュー作『THE VERY THING THAT YOU TREASURE』は、ベテランによる作品であるが故に、勢いよりも完成度を重視したアルバムと言えそうだ。アダム・ラサス(マット・キーティング、マッダー・ロ−ズ、ヘリウム等を手がける)の的確なプロデュースのもと、じっくりと時間をかけて練り上げられた楽曲の素晴らしさは言うまでもなく、ジョン・グラボフ、マーク・スペンサー、スコット・ヨーダー(フリーディ・ジョンストン、ケヴィン・セイラム、ティム・キャロルらのアルバムに参加)、ブライアン・ドハティ(サイロズ/ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ)等、渋い面子が堅実な演奏を聴かせてくれる。さらに言えば、甘さとほろ苦さの配分が絶妙で、プリッジェンがクレンショウやビル・ロイドといったポップの達人たちに匹敵する才能の持ち主であることもはっきりと示してくれた。

 ファウンテインズ・オブ・ウェインやマイケル・シェリー、マーク・バシノらにより再び見直されているNYのポップ・シーンだが、プリッジェン、あるいはジョージ・アッシャーやジェイムズ・マストロ(ヘルス&ハピネス・ショウ)のように、地味ながら息の長い活動を続けてきたアーティストの存在も忘れないようにしたいと思う。

HELLO STRANGERS/Goodbye (Incas/020)1987

HELLO STRANGERS/Sumthin' Sweet b/w The Way That You Used to Be (#1 Records/001)1991

DUMPTRUCK/Lemmings Travel to the Sea (Devil in the Woods/DIW37)2001

SPIKE PRIGGEN/The Very Thing That You Treasure (Volare/VOL001)2001