まずコンチネンタル・ドリフターズの新作がついに出たので、その話題から。三枚目となる『BETTER DAY』は、通好みのセレクションで知られるレイザー&タイからのリリースだ(マーシャル・クレンショウやダー・ウィリアムス等、地元NYの優良シンガーをプッシュするほか、ジュールズ・シアーやエリオット・マーフィーの編集盤、ウィリー・ナイルやボンゴスの再発などが個人的には印象深い)。

 一時期流動的だったメンバーは、ここ数年落ち着いており、三人の主要ソングライター−−ピーター・ホルサップル(元dB's)、スーザン・カウシル(カウシルズ)、ヴィッキー・ピータースン(元バングルス)−−にマーク・ウォルトン(元ドリーム・シンジケート)、ロバート・マック、ラス・ブラッサードらを加えた六人の顔ぶれは、前作『VERMILLION』(独Blue Rose/98年/米盤は99年にレイザー&タイから)と変わりない。独自のサザン・ポップを追究する路線も従来通りだけれど、今回の特徴としては、ソウル/R&B色が強くなり、全体的に逞しさを増したことが挙げられるだろうか。特にホルサップルのナンバーでは随所にファンキーなアレンジが施され、このバンドがニュー・オリンズを拠点にしていることを改めて実感させてくれる。

 もちろんそれだけでなく、女性二人を含むシンガーの多さを生かしたコーラス・ワーク、ポップな側面を代表するスーザンのソングライティングの巧みさ(「Someday」最高!)など、聴き所は多い。ノリのよさでは過去最高の出来栄えを見せたこのアルバムは、今のところ彼らの代表作と言ってもいいだろう。

 この他、四月から六月にかけてアレハンドロ・エスコヴェド、ウィスキータウン、ルシンダ・ウィリアムズ、ティム・キャロルらが次々と秀作をリリースして、相変わらずの充実を誇る(もう一つの?)アメリカン・ロック・シーンだが、個人的なお気に入りは、エスコヴェドの新作と今回の本題、キャッシュ・ブラザーズの米デビュー作である。もっと限定した言い方をすれば、エスコヴェドの「Rosalie」とキャッシュ・ブラザーズの「Night Shift Guru」−−この二曲を毎日聴かないと気がすまないという、何だかよくわからない時期が三週間くらい続いていたのだ。まあ、これって昔からよくあることで、数年前だとスティーヴ・アールの「Poison Lovers」なんて一週間毎日聴きながら泣いてたからなあ(実話)。

 で、実はどっちについて書こうか迷っていた。しかし、エスコヴェドについては、かつて国内盤も出ていて、知ってる人にそれほど説明はいらないはずだから、今回は知名度がさらに低いキャッシュ・ブラザーズを取り上げることにする。出身はカナダだけれど、やはりカナダ出身のブルー・ロデオやトラジカリー・ヒップが古き良きアメリカン・ロックの伝統を受け継いでいるように、彼らの音楽性の基本は、多少の屈折はあるにせよ、ある意味でアメリカ人以上にアメリカを感じさせる正統的なフォーク・ロックであると言っていい。そこにはスプリングスティーンやニール・ヤングのように、語るべき情熱と奥深さがあり、ジュールズ・シアーのようなポップ性もあり、さらにそれぞれ美声とは言い難くとも重なることによって、デレヴァンテ兄弟のように、その声が力強い存在感と不思議な魅力を生み出していく−−そんな強力な兄弟デュオがキャッシュ・ブラザーズなのだ。

 実の兄弟であるアンドリュー・キャッシュ(兄)とピーター・キャッシュ(弟)の二人によるキャッシュ・ブラザーズは今から二年ほど前に結成され、99年にデビュー作『RACEWAY』を発表。当初はライブ会場でひっそりと売られていたらしいが、翌年には通販店マイルズ・オブ・ミュージックのカタログにも掲載され、一部で話題を集める。ほどなくセカンド『PHONEBOOTH TORNADO』が届けられ、今年の四月にはファーストから四曲を削り、新曲三曲(前述の「Night Shift Guru」「I Am Waiting」「Dream Awake」)を加えた米デビュー盤『HOW WAS TOMORROW』も登場した(スプリングスティーンのカヴァー「Nebraska」はどちらにも収録)。あえてダウナーな方向性で統一したかのようなセカンドよりもヴァラエティ豊かなファーストの方が断然好み。どれか一枚となると、「Night Shift Guru」が入っていて入手しやすい分、Zoeの編集盤をお薦めしたい。それで気に入ったらセカンド、さらに資料的価値からファーストと買い揃えていくのがベストだろう。

 キャッシュ兄弟にはここに至るまで、それぞれ結構長いキャリアがある。アンドリューの方は80年代後半からソロで活躍。アイランドから『TIME AND PLACE』(88年)『BOOMTOWN』(89年/ドン・ディクソンのプロデュース)、MCAに移って『HI』(93年/ボブ・ワイズマンとアンドリューの共同プロデュース)と計三枚のソロ・アルバムをリリースし、95年にはアーシュラ(URSULA)名義で『HAPPY TO BE OUTRAGED』というアルバムも発表している。

 一方ピーターの方はスカイディッガーズというバンドを友人のアンディ・メイズらと結成し、『SKYDIGGERS』(90年)『RESTLESS』(92年)『JUST OVER THIS MOUNTAIN』(93年)『ROAD RADIO』(95年)等のアルバムをリリース。初期R.E.M.風のカレッジ・ロック(これはアンディの持ち味と唱法を強く反映)とルーツ・ロックをミックスしたオーソドックスな作風で人気を集めた。異論もあるだろうが、代表作はワイルドな側面を強めた『ROAD RADIO』だと思う(キャッシュ・ブラザーズでも再録音されたピーター作の名曲「You've Got A Lot of Nerve」=「Nerve」はここに収録。実はスカイディッガーズ・ヴァージョンの方が完成度は高い)。おそらくピーターとしては、バンドでやりたかったことをやり尽くしてしまったのだろう。97年には脱退してしまう。残ったメンバーはそのまま活動を続け、アルバムもリリースしているけれど、『ROAD RADIO』にあったような個性のせめぎ合いが消えてしまったのは残念。脱退後のピーターはしばらく別の道を模索した結果、今まで考えたことのなかった兄との共同作業を思いつき、キャッシュ・ブラザーズの結成に至るという次第。

 『HOW WAS TOMORROW』に対する各種のレビューを見ると、やはりというか意外にというか(マーク・オルソン在籍時代の)ジェイホークスがよく引き合いに出されている。声質こそ異なるものの、ハーモニーとメロディ重視、正統的な音作りといったあたりに共通点は多く、それも否定できないなと思う一方、それだけで語り尽くせない部分も大きいように思える。端正なだけでなく、どこか無頼派的な魅力を漂わせたキャッシュ・ブラザーズの世界を是非一度体験してみてほしい。

CONTINENTAL DRIFTERS/Better Day(Razor&Tie/79300182864-2)2001

CASH BROTHERS/Raceway(Cash Brothers Music/CD00845)1999

CASH BROTHERS/Phonebooth Tornado(Four Chord/4C001)2000

CASH BROTHERS/How Was Tomorrow(Zoe/01143 1019-2)2001