日本のインディー・レーベルから注目作が2枚出ているのでご紹介させていただく。まずはレイジー・キャットがリリースした編集盤第3弾『WHAT'S UP BUTTERCUP?』。実は解説も担当しているので、詳細はそちらに譲るとして、既発表曲ではスプリッツヴィルの「フォーエヴァー」(『コンプリート・ペット・ソウル』収録)、P・J・オコネルの哀愁カントリー・ロック「New Orleans」、未発表曲では、ビーティフィクスお得意のビートルズ風ナンバー、クランベリー・ソースのビーチ・ボーイズ風ナンバー、ビル・ロイドの貫禄あふれる王道ポップ・ナンバー(出たばかりのコンピレーション『ALL IN ONE PLACE』にも未収録)、クリス・ヴォン・スナイダーンのハイトーン・ヴォイス炸裂ナンバー、日本代表ムーヴィン・ジェリーのワイルドなR&Rナンバー、ウィリー・ワイズリーのコラージュ感覚も見事なモダン・ポップ・ナンバーなど、佳曲がぞろぞろ。王道ロックンロール、正統派のポップ・ファンならこれを見逃す手はありません。大型輸入盤店でも扱っているはずだから、探してみて(連絡はcat@ask.ne.jpまで)。

 続いては本誌先月号でもレビューが載っていたレーン・スタインバーグの編集盤。リリースしてくれたエム・レコーズに大感謝の一枚だ。僕にとってスタインバーグは『イエロー・ピルズvol.2』に収録された「エンプティ・ボーイ」の作者であり、何よりも80年代にアルバム二枚(プラスEP一枚)を残したNYのポップ・バンド、ウィンドの中心人物として記憶されている。それにしても、どうして彼の編集盤が日本で? と最初はとにかく驚いてしまったが、解説を読んで納得。日本のギター・ポップ/ソフト・ロック愛好家の間で彼のプロジェクトの一つ、ウォール・オブ・オーキッズ(リリースは7インチ一枚のみ)が話題になっていたらしいのだ。そもそも不勉強にしてウィンドは知っていても、ウォール・オブ・オーキッズは聴いていなかった僕には何だかピンとこない話だったけれど、この編集盤でそのナンバーを聴いてみたら、なるほど確かに素晴らしい。まあ、理由はどうあれ再評価が進むのは喜ばしいことですね。

 ウィンドの真価については、続いて同じエム・レコーズから発売される予定の『ベスト・オブ・ウィンド』で明らかにされるはずなので、乞うご期待。ビート・ポップ風味が強い一方、メロウな名曲「You Changed」を含むファースト『WHERE IT'S AT WITH』(82年)、ガレージ/NW色が濃くアグレッシヴなセカンドEP『GUEST OF THE STAPHS』(84年/プロデューサーはミッチ・イースター)、マジカルでストレンジな味わいを強めたサード『LIVING IN A NEW WORLD』(86年)−−ウィンドのアルバムは、いずれも埋もれさせておくには惜しいクォリティを保っており、できればオリジナルな形での復刻を望みたいところだが、取りあえずはこうしてスタインバーグの名前が日本で認知されていくだけでも満足しなくてはなるまい。

 ブライアン・ウィルソン、ラヴィン・スプーンフル等を思わせるだけでなく、40年代の映画音楽、ジャズ、ミュージカル、60年代のマージー・ビート、さらにはフランク・ザッパまで、スタインバーグの音楽的背景はかなり幅広い。中でもジミー・ヴァン・ヒューゼン(映画音楽やジャズの分野で知られる作曲家。シナトラにも多数の曲を提供)は随分お気に入りのようで、タン・スリーヴのファースト(99年)では彼のナンバーを四曲も取り上げている(そのうちの一曲「I Could Have Told You」は今回の編集盤でもウォール・オブ・オーキッズ版を披露)。昨年はタン・スリーヴのセカンド、ノエル・カワーズ・ゴースト名義のEPを発表し、まだ意気盛んなスタインバーグのポップ・センスを体感するには最適の入門盤である本作。英米を問わず、すべてのポップ・ファンに大推薦しておきたい。

 こうなったら、ついでにスタインバーグがレーン・オレンド名義でプロデュースを手がけたチープスケイツや、その中心人物シェイン・フォーバート(ファースト・ソロ『Kalkara』は隠れた名盤です)あたりも、どこかで盛り上がって再発とならないものだろうか。そちらにも密かに期待。  さて、最後にノット・レイムで購入した輸入盤を二枚紹介しておこう。ついに登場したP・ハックスのセカンド『PURGATORY FALLS』(厳密には少し前にライブCD-Rがリリースされているので、三枚目というべきか)は、ゴードン・タウンジェントとパーセノン・ハクスリーの二人による、プライヴェートな小品集といった趣きがある。前作ではバンド・メンバーだったロブ・ミラーが二曲ベースを担当する他、リック・メンク(ヴェルヴェット・クラッシュ)がゲスト参加。個人的には「Goldmine」のようなナンバーがあと一、二曲あると、もっと楽しめたように思うのだが、アルバムの成立由来(97年に亡くなった以前の奥さんに捧げられている)を考えれば、これはこれとして、じっくりと聴き込む必要があるだろう。

 元ジン・ブロッサムズ、現ガス・ジャイアンツのロビン・ウィルスンについては、本誌2000年4月号で近況をレポートしておいたけれど、ガス・ジャイアンツのファーストに続いて、新作『THE POPPIN' WHEELIES』がリリースされた。TVアニメ(?)のサントラという変則的なアルバムだが、内容は最高。ジン・ブロッサムズ時代のポップ・サイドをそのまま推し進めたようなオリジナル・ナンバーを軸に、トミー・キーンのカヴァーを三曲も収録し(初期を代表する「Places That Are Gone」「Back Again」など)、パワフルでメロディアス、瑞々しくて口当たりのよいロビンの長所が思う存分発揮されている。

 実際に存在するのか架空のアニメなのか、実はよく知らないのだけれど、ちなみにポッピン・ウィリーズとは宇宙を旅するロック・バンドの名前。彼らの使う「魔法のギター」とそれを狙う悪の一味−−ヤッターマンのドロンジョ(古い?)みたいな悪女とテクノ・ポップスというロボット・バンド−−といったベタな設定がいまどきのアニメ・ファンにどこまで通用するのか、いささか疑問ではある。だが、「アイアン・ジャイアント」が多分そうだったように、いかにもアメリカンな大時代的センスが逆にノスタルジーをかきたてて日本でも話題に……という可能性はあるかも。ホームページ(www.thepoppinwheelies.com)にはQ&Aのコーナーもあって笑えます。「どうして宇宙を旅しているの?」「地球の音楽シーンは退屈だからさ」なんてね。日本びいきのロビンは日本のファンに是非聴いてほしいという希望を持っているそうなので、興味のある輸入盤屋さん、ディストリビューター他の方々は是非コンタクトを取ってみて下さい。

V.A./What's Up Buttercup? (Lazy Cat/meow05)2001

LANE STEINBERG/Lane Steinberg Collection 1984-2000 (em/EM1015CD)2001

P.HUX/Purgatory Falls (Nine Eighteen Records/001)2001

THE POPPIN' WHEELIES/The Poppin' Wheelies (Uranus/002)2001