チャック・プロフィットのライブを見てきた。長年のパートナー、ステファニー・フィンチと2人による演奏で、期待通りのステージに大満足。前号で紹介したレーズンズ・イン・ザ・サンのナンバーも聞けたし、『ハーティング・ビジネス』の曲もこうしてシンプルなアレンジで聴くとまた違った魅力があったり、再発見もいろいろ。そういえば、マーシャル・クレンショウが9月に再来日決定とのニュースもあり(マイケル・シェリーとのジョイント公演になるとか)、そちらにも期待したい。

 話は変わって、ジェイソン・フォークナーの2枚組デモ/カヴァー集については先月号で紹介させていただいた通りだが、今回はかつてのバンド仲間、ジョン・ブライオンについて。待望のソロ・アルバム『MEANIGLESS』が今年1月にネット通販先行でリリースされている。一度はメジャーから発表される予定で、サンプル盤まで配布されながら発売中止になっていた、いわくつきのアルバムだ。そのうちどこかで買えるだろうと様子を見ていたら、どうも出回る気配がなく(三月頃の話。今では流通しているかも)、ノット・レイムの通販でも通常のオーダーとは別扱い。そんなわけで僕は結局ubl.artistdirect.com(www.jonbrion.comから行けます)を通じて購入した。送料を考えると割高になるので、普段はあまり単発のオーダーはしないことにしているのだが、何と言ってもこの日が来るのを何年も待っていたジョン・ブライオンのソロである。この場合はいたしかたない。

 もともと僕がブライオンの名前を覚えたのはご多聞にもれず、エイミー・マンのアルバム『WHATEVER』(93年)がきっかけだった。ここでブライオンはプロデュースを手がけるだけでなく、演奏でも大活躍。凝りまくった60年代風のサウンド・アプローチの中に、才気のほとばしりと、それをうまくコントロールする冷静な視点の両方を感じさせ、大物の予感を既に漂わせていたのだった。

 その後、80年代前半にバッツ名義でアルバムを一枚リリースしていたこと、ティル・チューズデイの末期にツアー・メンバーとして参加していたこと、ジェリーフィッシュの『SPLIT MILK』(93年)にもゲスト参加していること等を知り、気になっていたところへ、グレイズのアルバム『RO SHAM BO』(94年)が届く。今にして思えば豪華な面子(ジェイソン・フォークナー、ジョン・ブライオン、バディ・ジャッジという三人のソング・ライター+ドラムのダン・マッキャロル)によるポップ・バンドだったが、ご存知のようにレコード会社先導型の急造バンドだったため、短命に終わり、以後メンバーはそれぞれの活動に移っていく。一例を挙げると、ブライオンはホリーズへのトリビュート・アルバム『SING HOLLIES IN REVERSE』(95年)に「Sorry Suzanne」を提供。原曲のよさを生かしながらもギミックを多用し、七分以上の長尺ナンバーに仕立て上げた斬新な解釈が、つわもの揃いの同盤参加者の中でも一際印象的だった。

 90年代後半はハリウッドのクラブ、ラルゴでライブ・ショウを毎週金曜に行いながら、さまざまなアルバムにゲスト参加し、活動の幅を広げていく。イールズ、ブライアン・スティーヴンス、アンドリューのようなポップ派からエリオット・スミス、ギャリソン・スター、メアリー・ルー・ロードといった新世代SSW、ジミー・デイル・ギルモアやジョン・ハイアットのようなベテラン、あるいはグラント・リー・バッファロー、ウォールフラワーズのようなルーツ派まで、ブライオンが参加した作品を数え上げればきりがない。プロデューサーとしてもルーファス・ウェインライト、フィオナ・アップル等を手がけ、その手腕は高く評価されている。さらに昨年はエイミー・マンの音楽を大きくフィーチュアした映画『マグノリア』のスコアを担当し、サントラとは別にブライオンのナンバーを集めたオリジネル・スコアもリリース。グラミー賞にノミネートされ、ようやく彼の名前が世間に広まったところへ、いいタイミングで登場したのが今回のアルバムということになる。

 で、届いた新譜はどうだったかというと、大傑作とはいかないまでも、なかなかの佳作。抑制をきかせたクールなポップ感覚といい、表面上はあっさりと聞けるにもかかわらず、多種多様の楽器を駆使していて、実は奥の深いサウンド・プロダクションといい、いかにも通好みの作品に仕上がっている。期待が大きすぎたせいか、最初はちょっと肩透かしを食った感じだったけれど、細部を楽しみながら聴き返すうちにぐんぐん引き込まれていく、そんな感じのスルメ・アルバムだ。ビートルズやジェリーフィッシュのファンなら各所に仕掛けられたくすぐりがたまらないだろうし、ラストに切々と歌われる「Voices」カヴァーに涙しないチープ・トリック・ファンはいないだろう。いずれにしても、マイケル・ペンやE(イールズ)に並ぶモダン・ポップSSWが、ようやく発表してくれた代表作と呼べるアルバムだけに、少しでも多くの人に聴かれることを願っている。

 ジェイソン・フォークナー、ジョン・ブライオンとくれば、次は当然(?)バディ・ジャッジ。グレイズでは「第三の男」的な存在としてあまり目立たなかったが、バンド消滅後も引き続き音楽活動を続けているようだ。昨年はマイケル・ペンやエイミー・マンのアルバムにゲスト参加していたし、いつの間にかひっそりとソロもリリースされている。『PROFILES IN GLOWHENGE』と題されたこのアルバムは、19世紀初頭にボストンで簿記係をしていたスパルディング氏が作り上げたミュージカル・マシンにインスパイアされた、一種のコンセプト・アルバムに仕立てられていて、なかなかユニークな試みといえそう。バディ自身によるチューバがほのぼのとした味を醸し出し、トム・ウェイツあたりが得意とするクルト・ワイル的なスタイルに、ちょっとポップ味を加えた不思議なノスタルジック・ワールドが楽しめる。マイク・ディニーンがプロデュース他で協力し、エイミー・マンやダン・マッキャロルがゲスト参加。サンクス欄にはジョン・ブライオンやマイケル・ペンの名前も。

 最後にもう一つ、最近入手したジョン・ブライオン参加のポップ作を。ソーリンという新人?(ビートルマニアのレノン役経験があるらしい)による六曲入EPで、ブライオンは一曲だけドラムを担当している。ノット・レイムのカタログではクリス・ヴォン・スナイダーン、フランク・バンゴ、P・ハックスのファンにと紹介されていたが、しなやかなメロディと声は確かにCVSを思わせる。スティーヴ・ブノウスキー(コネティカット州のルーツ・ポップ・バンド、ハンナ・クラーナのメンバー/最近リリースしたソロにはソーリンもゲスト参加)とも交流があるようだ。東海岸からまた一人注目のポップ派登場といったところか。

JON BRION/Meaningless (Straight to Cut-Out/00001)2001

O.S.T/Magnolia (WEA Japan/WPCR10641)2000

BUDDY JUDGE/Profiles in Glownhenge (Kraftmatic Adjustable Music/no number)2001

SOLIN/Put Another Date on Life (Orange Records/no number)1999