この号が出る頃には好評のうちに終わっている(推定)チャック・プロフィットの公演だが、このアルバムからの曲も演奏してくれただろうか。今回真っ先に紹介したいのはレーズンズ・イン・ザ・サンのアルバム『RAISINS IN THE SUN』だ。何はともあれ、メンバーを見てびっくり。今名前を挙げたチャック・プロフィットにジュールズ・シアー、ジム・ディッキンソン、ポール・コルデリー、ショーン・スレイド、ハーヴェイ・ブルックス、ウィンストン・ワトソン、以上7名によりアリゾナ州ツーソンで行われたセッション(99年5月)が収録されている。内容についてはこの面子から想像されるように、R&Bやソウルを基本にして、ゆったりと、あるいはファンキーに奏でられるディープなアメリカン・ミュージックである。この渋いアルバムのどこがポップなのかと訝しがる向きもあるだろうが、そこは、うーん、集まったメンバー自体がポップなのだ(?)という苦しい言い訳をして先に進もう(笑)。

 チャックとジュールズについては以前共作したこともあり、ここでの共演も驚くには当たらない。ジム・ディッキンソンについても同様で、グリーン・オン・レッドの『KILLER INSIDE ME』(87年)をプロデュースしたあたりからチャックとは旧知の仲であり、チャックが参加したライブ・アルバムもリリースしているほどだから、なるほどと納得できる。意外というか、あれと思ったのはポール・コリデリーとショーン・スレイドのコンビの方だ。

 僕がこの二人の名前を覚えたのは、ミュージシャンとしてよりもボストンのスタジオ、フォート・アパッチを拠点にするエンジニア/プロデューサー・チームとしてであり、レモンヘッズ、ジゴロ・アンツ、ジュリアナ・ハットフィールド、タックルボックス、あるいはダイナソーJr、バッファロー・トム、モーフィンなど、ボストン周辺のギター・バンドを手がけていたことが何よりもまず印象に残っている。その一方、アンクル・テュペロ、ブラッド・オレンジズなど初期オルタナ・カントリー勢も二人で手がけており、その仕事ぶりには密かに共感を覚えたりしていたのである。

 レディオヘッドやホール、昨年のウォーレン・ジヴォンなどを彼らの代表作とする紹介記事もあるけれど、個人的にはアンクル・テュペロの初期2枚こそを代表作と考えたい。『NO DEPRESSION』(90年)と『STILL FEEL GONE』(91年)におけるパンキッシュなハード・ギターとルーツ・テイストの融合−−90年代のオルタナ・カントリーをある程度方向づけた独特のサウンドにはかなりの程度、この二人が絡んでいるような気がするのだが……。

 ラウンダーのホームページではアンクル・テュペロの名前こそ出てこないが、バッファロー・トムやレディオヘッド等の経歴を踏まえて、「彼らの存在はこのプロジェクトにおけるグレイト・サプライズの一つ」とはっきり書かれている。具体的には「彼らのパンク・パワーとポップ・ポリッシュ(つや、光沢)のブレンドがここに大きな影響を与えている」ということだが、まさにその通りだと思う。実際よく聴いてみると、ソウルフルではあるけれど、王道ソウルの滑らかさとはどこか違うノリがある。ホーン・セクションを使用せず、チャックのギターを演奏の要にしていることもあり、いい意味でゴツゴツしたロックっぽさが特徴の一つとなっているのだ。このあたりにコルデリー&スレイドの音に対する勘のようなものが出てきているというのは考えすぎだろうか。

 残る二人についてだが、まずハーヴェイ・ブルックス(B)はジム同様かなり古くから活躍するベテラン・ベーシスト。ドアーズ、マイルス・デイヴィス、ボブ・ディランらと演奏経験ありとのこと。ウィンストン・ワトソン(ds)については、レゲエ・バンド、メディテイションズのメンバーだったという他に、ディランやスティーヴィー・サラスとの活動がよく知られている。その他、パーセノン・ハクスリーと組んだヴェグ、あるいはクリス・バロウズ、ハウ・ゲルブ(ジャイアント・サンド)、メリーアン(サイドワインダーズ/サンド・ルビーズのデイヴ・スルテスによるプロジェクト)等のアルバム、幻に終わったロー・ワット(ジン・ブロッサムズの元メンバーが作ったバンド)などに参加しており、アリゾナ周辺のバンドによく絡んでいるドラマーというのが個人的な認識だ。この連載でも二回ほど名前を出した覚えがある。

 いずれにしても、この豪華な顔ぶれによるセッションが、チャックやジュールズのソロとはまた違ったグルーヴを生み出すことに成功しているのは間違いない。近年のスーパー・グループとしては、ガーターボール、コンチネンタル・ドリフターズ等に次いで、記憶に残すべきセッション・バンドだと思っている。

 またも残りが少なくなってしまった。以下は駆け足で最近のルーツ・ポップの収穫を。まずメジャー移籍三作目を出したばかりのオールド97's。これがかなりいい感じだった。初期はカウパンク風のサウンドだったのが、前作『FIGHT SONGS』(99年)あたりからポップ度を高め、今回はさらに聴きやすくなっている。ルーツ・テイストを根っこに持ちながらパワー・ポップ・ファンにも受け入れられそうな親しみやすさが大きなポイント。

 ハングタウンの二作目にも同じような傾向が見られるが、オールド97'sに比べるとポップ度は低めで、アーシーな臭みが強い。ただし、サン・ヴォルトやブルー・マウンテンのように強烈な個性はなく、あくまで薄味のルーツ風味だから、土臭いロックンロールが大丈夫な人には強く推薦したいバンドである。もともとはフロリダのパワー・ポップ・バンド、ベアリー・ピンク(ビッグ・ディールに二枚のアルバムを残し、日本盤も出ていた。そういえばセカンドにはジム・ディッキンソンも参加してました)に在籍していたテッド・ルーカスが独立して始めたといういきさつがあるだけに、ルーツとポップの混ぜ具合は手馴れたもの。ファーストは自主レーベルからのリリースだったのが、今回ブラック・ドッグ(ブルー・マウンテンのメンバーによるインディー・レーベル)に移籍したようだ。

 そのブラック・ドッグからもう一枚、注目作がリリースされている。レーベル・カラーからいうとちょっと異色なポップ派、ビッガー・ラヴァーズのデビュー作である。バズ・ジーマー、ローリング・ヘイシーズ、そしてマラー等の活躍により注目を集めているフィラデルフィアから登場した新バンドだが、バンド名からわかるようにビッグ・スターのサードを意識したサウンドに、ムーヴやチープ・トリックのポップ性、dB'sやソフト・ボーイズのひねり具合、さらにルーツ・テイストをミックスした音楽性が何ともユニークで、憎めない。これからが楽しみなバンドの一つだ。

RAISINS IN THE SUN/Raisins in the Sun (Rounder/11661-3177-2)2001

OLD 97'S/Satellite Rides (Elektra/62531-2)2001

HANGTOWN/Eleven Reasons (Black Dog/BD1011)2001

BIGGER LOVERS/How I Learned to Stop Worrying (Black Dog/BD1013)2001