シアトルで長く活動しているバンドの一つにヤング・フレッシュ・フェロウズ(以下Y.F.F.)がある。日本での知名度はかなり低いが、84年のデビュー以降既に十枚以上のアルバムをリリースしており、ガレージ/パンクから、サイケ・ロックやフォーク・ロック、古いポップスまで、多彩な要素をごちゃ混ぜにしてユーモアのスパイスを振りかけたような作風にファンは多い。ポウジーズ/ソルティーンのケン・ストリングフェロウも、バンドを始める前からずっとファンだったと言っているし、他にも多くのミュージシャンからリスペクトされている。

 聴いたことがなくても、あちこちでY.F.F.の名前を目にしている人がいるはずだ。例えばゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツのファンなら「トゥイスティング」(『フラッド』収録)の中にdB'sと並んで登場した妙な名前のバンドとして、Y.F.F.の名前をご記憶かもしれない。あるいはR.E.M.のファンなら、ピーター・バック〜マイナス5経由でY.F.F.のフロントマン、スコット・マッコーイにたどり着いたという人も多いだろう(近年スコットはR.E.M.のツアーやアルバムにも参加している)。さらにディープなNRBQファンなら、テリー・アダムスがY.F.F.やマイナス5のアルバムに参加していることは先刻ご承知のはず。

 まあ、本当はこんなにいろいろ名前を出さなくても、ああY.F.F.ねと簡単に通じるような環境が理想なんですが、そこまで世間は甘くないからね。93年に一度来日もしていて、知ってる人は知ってるんだろうけれど、それも八年前の話だし。

 残念なことに、その来日以降は活動があまり伝わってこず、アルバムは97年にひっそりスペインのレーベルから出たくらい。だが、彼らはそのまま消えてしまうようなヤワなバンドではなかったのである。四年ぶりとなる新作『BECAUSE WE HATE YOU』は何とマイナス5の新作『LET THE WAR AGAINST MUSIC BEGIN』とのカップリング。しかもどちらも大充実の内容ときているから、ファンとしては大満足だし、この際ファン以外の人、Y.F.F.初体験という人にも自信を持って推薦したくなるアルバムなのだ。

 まず『BECAUSE WE HATE YOU』の方から紹介していこう。メンバーは、ほとんどの曲作りを手がけるスコット・マッコーイ(vo,g)、オリジナル・メンバーのチャック・キャロルに代わって89年から参加したカート・ブロック(g/ファストバックスと掛け持ち)、スコットの奥さん、クリスティ・マクウィルソン(昨年出たソロの日本盤が三月にPヴァインから出たばかり)を助けてピケッツというオルタナ・カントリー・バンドにも参加していたジム・サングスター(b)、パワフルに叩きまくるくせに可愛らしいイラストが得意なタッド・ハッチソン(ds)−−従来と変わらない四人である。  もう若くも新鮮でもない年齢のはずなのに、いつも以上に力強い内容が頼もしい。何しろ冒頭の「Barky's Spiritual Store」からして元気いっぱい。旧ヴァージョン(前作『A TRIBUTE TO MUSIC』にも収録)をはるかに凌ぐかっこよさで、気合いの入り方が違うなと感じる。他にも60年代ガレージ/サイケ風のナンバーあり、トミー・ボイス&ボビー・ハート(モンキーズでお馴染みのソングライター・チーム)のヒット曲「あの娘は今夜」の痛快パワー・ポップ版あり、お得意のテーマ曲(今回はプレジデンツ・オブ・USAとのツアー・テーマ)からニール・ヤング風のナンバーまで、スコットの幅広い才能を実感できる上に、ちりばめられたユーモア・センスやどこかほのぼのとした味わいは彼らならでは。スコットやジムが敬愛するNRBQがそうであるように、パフォーマー、エンターテイナーとしてのこだわりと豊富な音楽知識がうまく融合され、演奏することの楽しさがダイレクトに伝わってくる、ハッピーな一枚である。

 マイナス5の方も主にスコットが曲を書いている点では同じだが、外部からゲストを迎えるユニット故か、ハチャメチャ度は低く、Y.F.F.よりまっとうな印象を受ける。過去の作品『OLD LIQUIDATOR』(95年)『THE LONESOME DEATH OF BUCK McCOY』(97年)−−『MY CHARTREUSE OPINION』(89年)はスコットのソロを名義変更して再発したもの−−などでは、ピーター・バック、ケン・ストリングフェロウ、ジョン・オウアらが参加。フォーク・ロックやソフト・ムードのポップスを基調にした佳作を生み出している。

 新作でも参加メンバーや基本方針に大きな変更はない。ただ、一曲目や三曲目(曲調は違うけれど、コーラスが『スマイル』風)のような、ビーチ・ボーイズ/ブライアン・ウィルソンを意識したナンバーの出来がかなりいい、ということは言っておこう。もともとフェイヴァリット・アルバムにビートルズ『ホワイト・アルバム』、キンクス『ヴィレッジ・グリーン』等と並んで『ペット・サウンズ』を挙げているスコットだから、それほど意外な感じはしないけれども、ここまでやるとは思っていなかった。しかも一曲目にはロビン・ヒッチコックやハイ・ラマズのショーン・オヘイガンまで引っぱり出してきている。個人的にはY.F.F.復活の方を歓迎したいのだが、若い人の間ではこちらの方が話題になるかもしれない。それを狙ってのカップリングだとしたら少し悲しいけれど、どちらもいい作品であることは確か。これを機会にY.F.F.の旧作も聴いてみてね。

 調子に乗ってだらだら書いていたら、他の作品に触れる余裕がなくなってしまった。あとは駆け足で。日本でもフィルターから一部が紹介されているパラソルから、注目作が続々と登場している。素朴な女性シンガー、ジェニファー・ジャクソン(ブラッド・ジョーンズがプロデュース)、元ビート・ロデオのスティーヴ・アルマース(スウェーデンのレーベルから出ていたアルバムをリイシュー)、よだれが出そうな参加メンバーが魅力の『SHOE FETISH』(シューズへのトリビュート・アルバム)なども見逃せないが、やはり一番の収穫はジョージ・アッシャー『DAYS OF PLENTY』だろう。おとなしい感じがしていた近作に比べて勢いのあるナンバーが増え、その一方でマイルドなメロディ・センスにはいっそう磨きがかかり、ここにきてついに決定打が出たかという感じ。中でもメロトロンを効果的に使ったタイトル・トラックは名曲。今までのアルバムにはハウス・オブ・アッシャー名義の『NEPTUNE』(90年/97年にCD化)、ソロ名義の『LUDLOW』(91年/98年にCD化)、『MIRACLE SCHOOL』(96年)『DUTCH APRIL』(98年)などがあるので、是非旧作にも耳を傾けてみてほしい。

YOUNG FRESH FELLOWS/Because We Hate You (Mammoth/MT-65509-2)2001

MINUS 5/Let The War Against Music Begin (Mammoth/MT-65509-2)2001

GEORGE USHER GROUP/Days of Plenty (Parasol/CD-058)2001

V.A./Shoe Fetish: A Tribute to Shoes (Parasol/CD-065)2001