今回は特集に合わせて、80年代のポップ・バンドについて。「ビートルズの遺伝子/80年代編」を企画中という話を聞いたとき、僕の頭の中をいくつものバンドがかけめぐった。その内の一部は特集で紹介することができたが、漏れてしまったバンドは数多い。補足する意味でまとめておこうというわけ。

 その前に一つ確認しておくと、80年代の米インディー・シーンはガレージ/サイケ、もしくはフォーク・ロック的なバンドが多く(パンク/ハードコア・ファンならまた別の見方もできるだろう)、ビートルズ・テイストを売りにしたポップ・バンドがそれほどいたわけではないということだ。スポンジトーンズは例外として、R.E.M.やロング・ライダーズなどは、どちらかといえばバーズにそのルーツを求めた方が自然だし、dB'sやゲーム・セオリー、トミー・キーンあたりはビッグ・スターもしくはアレックス・チルトンの影響が強い。

 まあ、どちらもビートルズに刺激を受けて生まれたバンドだと解釈すれば、間接的には影響を受けているわけだが、むしろビートルズ的なポップ体質は、シューズ、20/20、ロマンティックス、ドゥワイト・トゥイリー、フィル・セイモアなどといった元祖パワー・ポップ派に顕著であるように思える(ストレートな部分を抽出した形ではあるけどね)。このあたりのバンドを括るには、78年から82年というような別の時代区分が必要になってくるため、今回プッシュはしなかったけれど、いずれ「ビートルズの遺伝子/パワー・ポップ編」なんていうのが実現するときはよろしく。

 さて、先ほど「それほどいたわけではない」と書いたビートルズ・テイストを持ったバンドだが、裏を返せば少数ではあるにせよ、80年代のインディー・シーンに存在したわけである。特集で取り上げたシスコのフライング・カラーもその一つだ。メンバーの一人、ヘクターことヘクター・ペニャローザ(でいいのかな? 綴りはPenalosa)はソロ活動もしていて、今までに二枚のソロ・アルバムを発表。ファースト・ソロ「HECTOR」(88年)はインディーからのリリース、セカンド「MUSIC FOR CATS」(Bam Balam/97年)はスペインのレーベルからと、入手は難しいかもしれないが、特にファーストは楽曲の粒が揃っており、探す価値のあるアルバムだ。意図的にビートルズの線を狙ったとしか思えない「Hurt So Bad」をはじめ、60年代の素朴さを持ったポップ・ソングがぎっしりと詰まっている。

 中西部のキンクスと呼びたくなるレパーズは、スポンジトーンズと並んでマージービート・ファンに大推薦しておきたいバンド。カンザス州カンザス・シティー出身の四人組で、実は70年代から活動しているベテランである。デビュー作「KANSAS CITY SLICKERS」(Moon/77年)に続いて発表した「MAGIC STILL EXISTS」(88年)は、タイトル通り(ビート・ポップの)魔法がまだこの時代に生き続けていることを証明してみせた佳作。60年代リヴァイヴァル・バンドの多くがもっと黒っぽく、騒々しいサウンドに流れがちである傾向を考えると、ほのぼのとした彼らの味わいは貴重だと言える。99年の新作リリースに期待と「Trouser Press Record Guide」にも書かれていたが、残念ながらこのアルバム以降、音沙汰がない。どなたかメンバーの動向を御存知の方はご一報を。

 NY(ホボーケン?)のロックフォニックスはレパーズに比べると60年代風味は薄いけれど、プリムソウルズを連想させるパワフルなビート、チープ・トリックにも似たストレートなポップ・センスが持ち味。軽めのパワー・ポップ・バンドとしては、かなりいい線をいっていた。もともとこのバンドを知ったのは、80年代や90年代の知られざるポップ・バンドに焦点を当てたコンピレーション「BAM BALAM EXPLOSION Vol.5」(ヘクターのセカンドをリリースしたBam Balamから。余談だが、このシリーズはディスコグラフィが充実していて、「YELLOW PILLS」以上に資料的価値が大きい。この手のバンドを掘り下げようと思う人は必携の編集盤です)に収録されていたからだ。ミニ・アルバム「FILM AT 11」(88年/ジャケットはなぜかゴジラ)と唯一のフル・アルバム「GET THE PICTURE?」(89年)を残して解散してしまったようだが、中心人物トム・コンテは現在ヒップ・リッパー(同じく「BAM BALAM EXPLOSION Vol.4」に一曲収録)を率いて活動中という。

 最後に紹介するアザー・キッズは、スティーヴ・ワトソンを中心に、ウィスコンシン州マディソンで84年に結成されたトリオ。EP「LIVING IN THE MIRROR」(85年)と二枚のフル・アルバム、「HAPPY HOME」(87年)「GRIN」(90年)を発表した後、解散してしまった。その三枚全曲を二枚のCDに収録したコンピレーション「NEVERLAND」が97年に出ているので、まとめて聞くにはそちらが便利かも。タイトル・トラックである「Neverland」(1st EP収録)は、ギター・ポップ・ファン必聴の名曲であり、ヴァンダリアスのジムジム・ヴァンダリアことダン・サーカも、昔「Audities」誌上で「Great Tune」とほめてました。

 やや大味になってしまった後期はともかく、初期はビートルズ/バーズ風味が強く、ストレートでパワフルなサウンドは、マテリアル・イシューやポウジーズに通じる部分もある。最初の二枚は当時ウィスコンシン州のインディー・バンド、スプーナーでドラムを叩いていたブッチ・ヴィグがプロデュースを担当……と書くとオルタナ・ファンも興味を持ってくれるかもしれない。だが、くれぐれもニルヴァーナのような音は期待しないように。あくまでポップ・バンドです。

 以上四組のうち、現在CDで入手可能なのはヘクターのセカンドとアザー・キッズのみ。今後の再評価に期待したいところ……って何かいつも同じ様なこと書いてますね(苦笑)。この他、アイオワのダングトリッパーズ、NYのウィンドなどは、本誌でもお馴染み、和久井光司さんの編集した「ワールド・フェイマス・ギター・ポップ」(音楽之友社)で紹介済み。それ以外にも、ワシントンDCで活躍し、二枚のアルバムを残したネイバーズ(中心人物ジョン・モアメンは現在ソロで活動中。97年のEPは傑作でした)、特集で取り上げたウィアード・サマーのギタリスト、ニック・ラッドが率いていたターニング・キュリオス、LAインディーズの重鎮、ザ・ラストなど、アルバムを残しながら埋もれているポップ・バンドはたくさんある。機会があればまた取り上げてみたい。

HECTOR/Hector(Cryptovision/CRL1700)88年

LEOPARDS/Magic Still Exists(Voxx/200.048)88年

ROCKPHONICS/Film at 11(Actual/ACT7001)88年

OTHER KIDS/Neverland(Spinolio/MP001)97年