ポウジーズのインストア・ライブを名古屋で見た。結構長く演奏してくれたのがうれしかったし、生で聴く二人のハーモニーは想像通りとはいえ絶品でした。ボックス・セット実はまだ買ってないんだけど、やっぱり買わなきゃな。

 そのボックス・セットをリリースしたノット・レイム(本誌6号参照と書いてから気がついたけど……売り切れなの?)から、新譜が五枚届いている。この中で一番ポップなのは、オーストラリアはシドニーを拠点にするマイケル・カーペンターだろう。『HOPEFULNESS』は『BABY』(99年)に続く二作目であり、ソロ・キャリアはまだ浅いが、結構長い活動歴の持ち主だ。叔父と叔母が持っていたビートルズに衝撃を受け、ブロークン・ヒーローズというバンドを結成したのが十代の頃だった。その後友人に誘われイレヴン・イレヴンに参加。七年間在籍した一方、曲作りからは遠ざかり、バンド時代の最後に自らスタジオを設立してからはエンジニアとしての道を歩むことに。しかし、豪州のパワー・ポップ・バンド、ピラミディアクスの録音を手がけたことから基本に立ち返ることを決意。具体的にはメンバーからティーンエイジ・ファンクラブ、ラズベリーズ、バッドフィンガー、ナックなどを教えてもらったことがきっかけだとか。

 これこそ自分の進む道……と思ったかどうかはわからないけれど、取りあえず50年代や60年代のカヴァーを演奏するバンディッツに参加してライブに精を出す。95年からは曲作りを再開。98年のI.P.O.(インターナショナル・ポップ・オーヴァースロウ)にはステージフライト名義で参加し関係者の注目を集め、ノット・レイムからソロ・デビュー。チャレンジャー7、78サーブ、アマンダ・イーストンなどのプロデュースを手がけるうえ、エヴァ・トラウトでもドラムを担当、ピラミディアクスのメンバーが中心となったフィンカーズにも参加……と、オーストラリアの新しいポップ・シーンを支えつつ活動中というわけだ。

 デビュー作を聴いたときは、悪くないけどもう一つという印象だったのだが、新作は一皮むけたというか、力強くなったというか、結婚直前の四ヶ月で録音されたというだけあって、愛と希望に満ちあふれた佳作に仕上がっている。思い切りポジティヴ、かつ余裕すら感じさせるその作風は、たとえて言えばカイル・ヴィンセントから大仰な部分を抜いてジェフリー・フォスケットの爽やかさを加えた感じ……と言ってもわかりにくいか。簡単に言えば明るいバッドフィンガー? ポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソン風のメロディ・センスを軸にしているが、それだけでなくトム・ペティ的なアメリカン・ロックの要素をスパイスとしてふりかけてあるから甘いだけに終わっていないし、「ビートルズの遺伝子」と「ビーチ・ボーイズの遺伝子」をうまくかけあわせたタイトル・トラック以外にも佳曲がつまっている(一曲ビーチ・ボーイズのカヴァーあり)。とにかくポップ・ファンなら一度聴いてみて損はないと思う。作為を感じさせない自然体の才能に思わず舌を巻くはず。

 それに対してシャザムの三枚目『REV 9』は録音に凝りまくった、確信犯的な一枚。全7曲27分という小品ながら、内包している音の世界は広くて深い。ロックのダイナミズムを基本に据えつつ、チャレンジ精神を作品に反映していくあたりはまるで中期から後期にかけてのビートルズを思わせる。そう、本作における音の広がりのルーツに『ホワイト・アルバム』があることは間違いないだろう。テルミン大爆発の一曲目から好きなことをやってるなという感じがしたけれど、ラストを締めくくる「Revolution 9」はあのコラージュ・ナンバーを彼らなりに発展させた、2000年版ジョン・レノンといった趣の異色作。ジョージ・マーティン役を見事に果たしたプロデューサー、ブラッド・ジョーンズの貢献も見逃せないし、バンドとしての成長をはっきりと示した意欲的なミニ・アルバムだ。

 続いてはミラクル・ブラーの三枚目。ファーストはもろにビートルズ路線だったが、セカンドで少し幅を広げ、本作はちょうどその間といった印象を受けた。いずれにしても60年代や70年代へのオマージュというコンセプトに変わりはなく、アンディ・ボップのソングライティングは相変わらず冴えている。従来のパワフル路線に加えて、ほろ苦さを感じさせる「Message '78」や「She's Gonna Fly」といったナンバーの完成度が非常に高く、大人の哀愁を漂わせているあたりが今回のポイントかもしれない。

 ノース・カロライナのベテラン、テリー・アンダースンの復帰作もついにリリースされた。80年代にはファビュラス・ノブス、ウッドペッカーズ(後にウッズ)といったバンドで活躍し、90年代にはESDに二枚のソロ・アルバムを残し、最近はバックスライダーズの新メンバーとしての活動も伝えられるロックンローラーの新作は、理屈抜きに楽しめる一枚。ESDが消滅したとき、今後の動向が一番気になっていた人だけに、この復活は本当にうれしかった。内容の方も期待を裏切らず、軽めのロックンロールを主体に、飲んで騒いでちょっと泣かせる酒場のエンターテイナーぶりを思う存分発揮している。ジャック・コーネル(ウッズ)、ロジャー・ガプトン(バックスライダーズ)といった地元の友人に加え、ゲストにロッド・アバーナシイ(アロガンス)、ビッグ・アルも参加。もともと曲調が似ていることもあり、NRBQのファンに大推薦しておきたい。

 ノット・レイムとしては珍しいタイプの個性派シンガーソングライターが最後に紹介するマーク・ヘルム。エリオット・スミスやイールズ風、アルバムは『今宵その夜』+『シスター・ラヴァーズ』という触れ込みだったが、実際に『EVERYTHING'S OK』(NL-061)を聴いてみると、もう少しアーシーな曲やジョン・レノンっぽいナンバー(三曲目なんかもろ)もあり、一筋縄ではいかないユニークな音楽性が楽しめる。詳しい経歴は不明だが、ワシントンDCのレディオブルーというバンドに在籍していたようで、同地のベテラン、スコット・マクナイト(80年代にジョン・モアメン率いるギター・ポップ・バンド、ネイバーズで活躍し、その後ケヴィン・ジョンソン&ザ・ラインメンに参加。最近ソロ・アルバムもリリース)が録音や演奏に協力している。

 ジーン・クラークへのトリビュート、テリー・アンダースンやマーク・ヘルムなど、今年発売されたアルバムを振り返ってみると、ポップを基本にしながらもレーベルとしての幅を少しずつ広げているノット・レイム。今後のリリースにも期待してます。

1)MICHAEL CARPENTER/Hopefulness (Not Lame/NL-059/2000)

2)MYRACLE BRAH/The Myracle Brah (Not Lame/NL-060/2000)

3)THE SHAZAM/Rev 9 (Not Lame/NL-063/2000)

4)TERRY ANDERSON/I'll Drink To That (Not Lame/NL-062/2000)