前々号で紹介したスティーヴ・ウィンのライブを見てきた。ドリーム・シンジケート時代のナンバーから最新ソロの曲までキャリアを総括するような選曲と、人柄の良さが伝わる温かいステージに取りあえずは満足。来年一月に予定されている二枚組の新作『HERE COME THE MIRACLES』は過去の集大成的な内容ということで、大いに期待できそうだ。

 それ以来気分がすっかり80年代モードになってしまい、このところドリーム・シンジケート、グリーン・オン・レッドなどを(再々再々度?)聴き返している。ロバート・クレンショウ、メイフライズUSA、アンドリューなど、この連載で紹介したいと思っている新譜はたくさん出てはいるのだが、こうなってしまうと止まらない。同じ新作でも自然と80年代インディー生き残り派に目が行ってしまう。偶然というのは不思議なもので、最近購入したアルバムを見ると、ちょうどその手のアーティスト/バンドが数枚揃っているではないか。そんなわけで今回はスティーヴ・ウィン来日記念、あの人もまだがんばっている特集です。ポップからは少し離れるかもしれないけど、勘弁してね。

 まずはマット・ピウィッチから。どこかで聞いたことのある名前だなと思ったあなたはさすが。スティーヴ・ウィンの話題に続いてマットの名前を出したのにはわけがあって、実はこの人、16年前にドリーム・シンジケートと共に来日したことがあるレイン・パレードのメンバーだったのだ。一連のLAインディーズ・バンドの中ではサイケデリック色が濃く、ぼんやりと靄のかかったようなけだるいサウンドが独自の雰囲気を醸し出していた。バンド解散後はあのクレイジー・ホースに参加し、『LEFT FOR DEAD』(90年)では正式メンバーとして重要な役割を果たしたこともあるので、そちらでご記憶の方もあるだろう。『HELLENES』は、かつてティム・リー(ウィンドブレイカーズ)と共同名義でリリースした『CAN'T GET LOST WHEN YOU ARE GOIN' NOWHERE』(86年)に続く作品。ソロとしては初めてのアルバムになる。

 ジョン・トーマン(レイン・パレード)、元スニーチズのアレック・パラオ(現マッシュルーム)、ビリー・ブレイズの三人を軸に、ラルフ・モリーナ、ビリー・タルボット(共にクレイジー・ホース)、スティーヴン・ロバック(レイン・パレード/ヴィヴァ・サターン)らをゲストに迎え、レイン・パレード時代の繊細なサイケデリアに、クレイジー・ホース直系のざっくりとしたギター・サウンドをプラスして、骨太ロックと夢幻的な世界を組み合わせることに成功している。正直レイン・パレードにそれほど思い入れはなかったんだけどね。このアルバムはかなり好み。二曲目の力強さにはノック・アウトされてしまった。

 ちなみに、これをリリースしたインビトウィーンズは、昨年ニール・ヤングへのトリビュート盤を製作し、マット・ピウィッチやスティーヴ・ウィンら、かつてのLAシーンをフォローした人選でファンを喜ばせてくれたオランダのレーベル。シスコのインナーステイトと共に、その活動には要注目だ。

 大のドリーム・シンジケート・ファンとして知られ、自らも80年代にNYでアブソリュート・グレイのドラマーを務めていたパット・トーマスは、今までにもシスコのヘイデイ、独ノーマルなど、いくつかのレーベルに関わり、80年代LA/シスコのインディー・ファンには見逃せないリリースを続けてきた。現在運営するインナーステイトでもその方針に変わりはなく、スティーヴ・ウィン、バーバラ・マニング、ゲイリー・フロイド(シスター・ダブル・ハピネス)など、ラインナップを見ていると頑固おやじぶりに呆れつつ、うれしくなってしまう。

 そんなインナーステイトから注目作が二枚届いている。そのうちの一つ、マップ・オブ・ワイオミングは、元フライング・カラー(87年に唯一のアルバム『FLYING COLOR』をリリースしたシスコのギター・ポップ・バンド)のデイル・ダンカンを中心にして、ジョン・スチュアート(同じくフライング・カラー)、トム・ヘイマン、昨年来日したクリス・ヴォン・スナイダーン(一時期スニーチズ、フライング・カラーに在籍)、ラリー・デッカー(トランスレイター)など、シスコの実力派を揃えた五人組。『TROUBLE IS』は『ROUND TRIP』(98年)に続くセカンド・アルバムだ。フライング・カラー時代は初期バーズを思わせるフォーク・ロックを聴かせていたデイルだが、現在はもっと枯れた味のカントリー・ロックに作風が変わってきている。フライング・カラーが『ミスター・タンブリン・マン』だとしたら、こちらは『ロデオの恋人』に当たると言えばわかりやすいかな。グラム・パーソンズほど濃くはないけど。

 そのマップ・オブ・ワイオミングでペダル・スティール他を担当しているトム・ヘイマンは、もともとフィラデルフィアの痛快ロック・バンド、ゴー・トゥー・ブレイジズ(88年にデビューし、編集盤を含めた6枚のアルバムをリリース)のギタリストだったが、現在はシスコに移って活動中。チャック・プロフィット、クリス・ヴォン・スナイダーン(プロデュースも担当)らが参加した初ソロ『BOARDING HOUSE RULES』では、お得意のスライドを思う存分駆使して、土臭いカントリー・ロックを聴かせてくれる。

最後に紹介するのはマイク・レヴィ。マット・カージェスと共に、シスコのポップ・バンド、スニーチズを率いていた人物だ。英国ギター・ポップ・ファンの間でも人気が高いスニーチズについて、それほど解説する必要はないだろう。哀愁を帯びたメロディ・センスは60年代/70年代ポップスやソフト・ロックの影響を強く感じさせ、解散が惜しまれたバンドの一つだった。スニーチズ最後のフル・アルバムが確か94年のリリースだったから、本当にひさしぶりという感じがする。

 ドラム以外の楽器をほとんど一人で担当した初ソロ『FIREFLIES』は、スニーチズ同様、あるいはそれ以上に徹底してノスタルジックなポップ感覚を前面に押し出した佳作と言えそう。自ら演奏するピアノを軸にして、曲によってはストリングスを効果的に使い、優しい調べをマイルドなアレンジで包み込んだ極上のポップ・ワールドを展開していく本作には、古くからのファンも溜飲を下げるに違いない。

 ドリーム・シンジケート、レイン・パレード−−かつてLAインディー・シーンを牽引してきたメンバーたち、あるいはトランスレイター、フライング・カラー、スニーチズ−−シスコのインディー・シーンを支えてきたメンバーたちが健在で、今もリリースを続けているのは頼もしい限り。個人的に見守っていくことはもちろん、再評価の方も今後に期待したいところである。

1)MATT PIUCCI/Hellenes (Inbetweens/IRCD006/2000)

2)MAP OF WYOMING/Trouble Is (Innerstate/5009/2000)

3)TOM HEYMAN/Boarding House Rules (Innerstate/5010/2000)

4)MIKE LEVY/Fireflies (Parasol/PAR-CD-058/2000)