今回はいつもの路線に戻って、新作の中からポップなアルバムを二枚紹介しよう。シカゴを拠点にするビッグ・ハローとタイム・ボム・シンフォニー、それぞれのセカンド・アルバムが届いている。どちらも個人的にヘヴィ・ローテーション中。本誌読者には強力にプッシュしておきたいアルバムである。ビッグ・ハローは女性ヴォーカル、タイム・ボム・シンフォニーは男性ヴォーカルという違いはあるにしても、ソリッドなギター・サウンドを軸にパワフルでメロディアスなポップ・ワールドを展開しているところは両者とも共通している。さらにもう一つ共通点を挙げるとしたら、いずれもドラムを担当しているのがブラッド・エルヴィスだということだろう。

 ブラッド・エルヴィス−−何やら怪しげな名前だが、これはもちろん芸名で、本名はブラッド・スティークリー。それでは、なぜエルヴィスというセカンド・ネームがついているのかというと、ブラッドはエルヴィス・ブラザーズのメンバーだったからなのだ。

 エルヴィス・ブラザーズといっても日本のファンにはあまり馴染みがないかもしれない。シカゴの南に位置する学生街、イリノイ州シャンペーンで80年代前半に結成され、その後シカゴに拠点を移したポップ・バンドがエルヴィス・ブラザーズだ。メンバーはグレアム・エルヴィス(vo,g)、ロブ・エルヴィス(vo,b)、ブラッド・エルヴィス(ds)の三人。もちろん彼らは実際の兄弟ではない。今までに三枚のアルバムを発表しているものの(『Movin' Up』83年、『Adventure Time』85年、『Now Dig This』92年)、96年初頭に惜しまれつつ解散してしまった。

 ルックスや名前、時代的背景からネオロカ・バンドと思われているふしもあるが(中古屋ではロカビリー・コーナーにアルバムが置いてあったりする)、実際にはもっとポップ寄りの作風を持つバンドだった。僕が95年に和歌山で見たライブでも(彼らは日本のファン、篠田明子さんの尽力により二度来日を果たしている。このときのライブは二度目)、プレスリーやカール・パーキンスのカヴァーを披露しており、50年代のロックンロールが原点にあることは間違いないのだけれど、同時にビートルズやビッグ・スター(「September Gurls」!)のカヴァーも取り上げていて、オリジナル・ソングにも後者の路線は多い。彼らの間口の広さと柔軟な姿勢は、いわゆるネオロカ・ムーヴメントとは明らかに一線を画していた。

 そんなわけで、エルヴィス・ブラザーズをロック史の中に位置づけるなら、ストレイ・キャッツよりもむしろマーシャル・クレンショウやビート・ロデオ、マーク・ジョンソンといった、ポップなオールディーズ感覚を持ったアーティストと同列に語るべきだと個人的には思っているし、土地柄を考慮すれば、チープ・トリックやシューズなど、イリノイのオリジナル・パワー・ポップ世代と、ヴェルヴェット・クラッシュ、マテリアル・イシューなどの間をつなぐミッシング・リングのような存在と考えてもいいはずだ。

 ヴァートブラッツ、アウトナンバードといったバンドを筆頭に、以前この連載でも取り上げたことのあるニック・ラッド(Bラヴァーズ/ターニグ・キュリオス/ブロウン)、ボブ・キンベル(ウィアード・サマー)、ポール・チャスティン(チュー・チュー・トレイン/ヴェルヴェット・クラッシュ)、ダーレン・クーパー(チュー・チュー・トレイン/スリー・アワー・ツアー)、ブライアン・リーチ(ラスト・ジェントルメン/シュガーバズ)、ジェイ・ベネット(タイタニック・ラブ・アフェアー/ウィルコ)、アダム・シュミット(ファーム・ボーイズ)など、シャンペーンという場所は、80年代以降多数の才能を輩出している。以前ブラッドに話を聞いたところ「シャンペーンのシーンはひとつの巨大なファミリー・ツリーみたいなものなんだよ」とのことだった。

 なるほどその言葉通り、このあたりの交流は結構入り組んでいる。ブラッド自身、かつてポール・チャスティンやダーレン・クーパーとバンドを組んでいたことがあり(ブラッドの後にリック・メンクが加入して、チュー・チュー・トレインが生まれた)、それが縁で90年代前半にはエルヴィス・ブラザーズとスリー・アワー・ツアーのドラマーを兼任していた。また、岩本編集長もお気に入りのアダム・シュミットはソロ・デビュー(91年)する前、ファーム・ボーイズという自分のバンドに続いて、一時期エルヴィス・ブラザーズに籍を置いていたことがあったという。さらにアダム・シュミット、ブライアン・リーチ、ボブ・キンベルの三人はダイアモンド・スター・ハローというプロジェクトを組んでいて、パラソルからアルバムを発表する予定になっているのだが、これはアダム本人のソロと同じく延期が続いている。

 腕のいいドラマー/ソングライターとして、シャンペーン/シカゴのポップ・シーンをくぐり抜けてきたブラッドは、エルヴィス・ブラザーズの末期、95年に自らのバンドをスタートさせた。それが前述のビッグ・ハローである。当初男性三人組だったバンドは一旦活動を停止した後大幅なメンバー・チェンジを行う。翌年女性ヴォーカリストのクロエ、ミリオン・オクロックのジョン・ミリオンを迎えて再始動。98年には1st『The Apple Album』をリリースした。それに続くアルバムが今年発売された『The Orange Album』だ。ベーシストが女性に交代してコーラスに厚みが出た一方、パンチの効いたクロエのヴォーカルと、ブラッドによる巧みなソングライティング/ドラミングは前作と変わらず。古くはゴー・ゴーズやバングルス、あるいは少し前ならブレイク・ベイビーズやマフズといった元気のいいガールズ・ポップ路線の現在形を聴きたいと思うなら、ビッグ・ハローは文句なくお薦めです。

 今回紹介するもう一枚、タイム・ボム・シンフォニーの方はバンドではなく、シカゴのポップSSW、ダーレン・ロビンズによる個人プロジェクト。ロビンズは、エルヴィス・ブラザーズがバッキングを担当した(当時メンバーだったアダム・シュミットを含む)ソロ・アルバム『Steals Your Girlfriend』を88年に発表したことで知られる。その後はリリースから遠ざかってしまうが、タクシーの運転手などをしながら曲を書き続け、97年にタイム・ボム・シンフォニー名義の1st『If You See Kay』を発表(グレアム・エルヴィス、ロブ・エルヴィスが全面的にサポート)。それに続く『Rules Get Broken』はアダム・シュミットをプロデューサーに迎え、前作以上に痛快で切れのいいパワー・ポップを楽しませてくれる。レッド・クロス、トミー・キーン、以前紹介したロラスといったあたりのファンは必聴の会心作だ。

1)ELVIS BROTHERS/Movin' Up & Adventure Time (2 in 1) (Recession/54246-2/1983+1985/1995)

2)DARREN ROBINS/Steals Your Girlfriend (Like/DLR001/1988)

3)BIG HELLO/The Orange Album (Break-Up Records/B-U!014/2000)

4)TIME BOMB SYMPHONY/Rules Get Broken (Chequered Requerds/CR-003/2000)