今からもう15、6年前、アメリカのインディーズ・シーンが日本で話題になり始めた頃、その中心はR.E.M.とドリーム・シンジケートだった。R.E.M.がその後どんどん知名度を高めていったのに比べると、ドリーム・シンジケートの方は84年の初来日以降もう一つ盛り上がらないまま解散を迎えてしまい、今となっては知る人ぞ知るという存在かもしれない。

 だが、スリー・オクロック、レイン・パレード、トゥルー・ウェスト、グリーン・オン・レッドなど数多くのバンドが活躍した、LA周辺における60年代リヴァイヴァル・ブーム(マスコミはこれをペイズリー・アンダーグラウンドと呼んでいた)の中で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやテレヴィジョン直系と言ってもいいノイジーで影のあるサウンドと、ジム・トンプソン、ジェイムズ・エルロイ(『ダズリング・ディスプレイ』収録の「405」はエルロイに捧げられている)といった犯罪小説の大家にも通じるダークな視点を兼ね備えた、ドリーム・シンジケートの硬派なポジションは貴重なものだった。過去のバンドとして忘れ去るにはあまりに惜しい音楽性を持っていたことは間違いない。

 オリジナル・アルバムは全部で4枚。『酒とバラの日々』(82年)『メディシン・ショウ』(84年)『アウト・オブ・ザ・グレイ』(86年)『ゴースト・ストーリーズ』(88年)のすべてがほぼリアル・タイムで日本にも紹介されている。僕自身今でもよく聞き返すのは最もポップ度の高い『アウト・オブ・ザ・グレイ』(ボーナス・トラックを加えたAtavistic盤が入手しやすいはず)だが、バンドとしての特徴をよく示しているのは『酒とバラの日々』や『メディシン・ショウ』など、カール・プレコダ在籍時のアルバムだろう。全体像をてっとり早くつかみたいという人にはライノ編集のベスト盤をお薦めしておきたい。

 そんなドリーム・シンジケートのリーダーだったのが、11月に来日の決まっているスティーヴ・ウィンだ。サイケデリック・リヴァイヴァルとも騒がれた彼らだが、レイン・パレードやグリーン・オン・レッドの初期に比べて、実際の作風はもっと骨っぽさを感じさせ、このあたりはジョン・フォガティ(9才の時にはC.C.R.のファン・クラブに入っていたという)やニール・ヤングをフェイヴァリットに挙げているウィンのオーソドックスなロック指向が根底にあったとも考えられる。

 89年にバンドを解散させた後もウィンは充実したソロ活動を続け、現在までに9枚のアルバムを発表している。最初の2枚『ケロシーン・マン』(90年)『ダズリング・ディスプレイ』(92年)には、フェルナンド・ソーンダース(ルー・リード・バンド)、リチャード・ロイド(テレヴィジョン)、ピーター・バック(R.E.M.)のような大物から、クリス・カカヴァス(グリーン・オン・レッド)、ラス・トールマン(トゥルー・ウェスト)、ハウ・ゲルブ(ジャイアント・サンド)、ジョネット・ナポリターノ(コンクリート・ブロンド)、ジョン・ウェズリー・ハーディング等、西海岸の友人たちまで、幅広い面子が参加。いずれもバンド時代のハード・ボイルド感覚を残しながら、マイルドなポップ・センスを際立たせた佳作だった。

 その後も『FLUORESCENT』(92年)でシンプルな味わいを前面に出したかと思うと、ハウス・オブ・フリークス、サイロス、ロング・ライダーズなど、80年代米インディーズ・ファンにはたまらないメンバーと組んだガーターボール名義の『GUTTERBALL』(93年)や『WEASEL』(95年)では一転して荒々しく迫り、昔からのファンを喜ばせてくれた。96年にはNYに移り住み、カムのメンバーをバックにした『MELTING IN THE DARK』(96年)、ポップな側面を強く打ち出した『SWEETNESS AND LIGHT』(97年)、初期ドリーム・シンジケートを思わせるダークな『MY MIDNIGHT』(99年)など、相次いで力作を発表。最近はネット配信にも意欲的に取り組み、来年春に発売予定の新作を録音中と、その動向から目の離せない状態が続いている。

 今年に入ってから始めたemusic.comの"Single of the Month"は中でも要注目。友人とセッションした曲を毎月ネット配信するというもので、幅広い交友関係を持ち、早くからインターネットに興味を持っていたウィンならではのユニークな企画である。emusic.comは、他にもゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの新作をネット・オンリーで配信するなど、音楽ビジネスのあり方に一石を投じたことでも知られている。こうしたネットの利便性を生かした試みは今後もどんどん増えていくことだろう。ちなみに"Single of the Month"でウィンが共演したアーティストは以下の通り。

1月:クリス・ブロコゥ(カム)&デイヴ・デカストロ(ヘルス&ハピネス・ショウ)

2月:ジョネット・ナポリターノ(コンクリート・ブロンド)

3月:パコ・ロコ(スペインのバンド、オーストラリアン・ブロンドのギタリスト)

4月:エリック・アンベル(デル・ローズ)

5月:リチャード・ロイド(テレビジョン)

6月:バーバラ・マニング

7月:ジェイムズ・マストロ(ボンゴス、ヘルス&ハピネス・ショウ)

8月:ポーラー(スイスのミュージシャン)

 ダウンロードは左記から。値段は1曲当たり$0.99だが、30秒程度の試聴もできる。

http://www.emusic.com/artists/7239/Steve_Wynn_/

 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、C.C.R.、ニール・ヤングなど、アメリカン・ロックの遺産を現代に受け継ぎ、それをモダンな形で再構築しているスティーヴ・ウィンの才能と道筋を、ここ日本で確認することができるとは思ってもいなかっただけに、今回の来日公演はまさに朗報である。どんなステージを見せてくれるのか、今から楽しみだ。このチャンスをお見逃しなく。

1)DREAM SYNDICATE/Out of the Gray(Special Remaster Version) (Atavistic/ALP66CD/1997)

2)DREAM SYNDICATE/The Best of Dream Syndicate (Rhino/R2 70373/1992)

3)STEVE WYNN/Kerosene Man (Rhino/R2 70969/1990)

4)STEVE WYNN/Sweetness and Light (Zero Hour/2160/1997)