米田郷之氏の前号コラムには笑わせていただきました。特に弁護はいたしません。ノット・レイムってまさにあんな感じです。5号で「トラブル多し」と断っておいたのはこういうことがあるからなんですよ。個人的な通販経験から言ってもあそこのミスは群を抜いており、一時期は注文したものが届かなかったり別のものが届いたりして、僕自身何度苦情のメールを書いたことか。大抵は次回の注文でカヴァーすることにしてましたが、アメリカ人のアバウト感覚を学習するにはもってこいのお店なんです。というわけで米田さん、安心して下さい(笑)。みんなあの程度のトラブルは経験済み。そんなサイトを紹介するなんてと怒る人もいるでしょうけど、海外通販店多しとはいえ、あれだけの品揃えをしているところは他にないんだよね。インディーもの入手にある程度の困難はつきものとあきらめていただくしかありません。ただし念のために言っておくとノット・レイムはあくまで例外。他の大型通販店では注文の取り違えなんてまずあり得ませんから、これから海外通販に挑戦しようという人は心配せずにチャレンジしてみてね。

 さて、今回はここ数ヶ月のお気に入りポップ・アルバムを何枚か紹介してみましょう。

 まずは問題(?)のノット・レイムからリリースされたボビー・サトリフの新作『Bitter Fruit』から。以前出回っていたカセットの曲や編集盤『Hit the Hay』に収録されていた曲も含み、厳密には新作と言えないかもしれないが、ウィンドブレイカーズ解散後にこつこつ録音されていたナンバーを集大成した本作は、90年以降の長い沈黙を前にしてやきもきしていたファンにとっては最高のプレゼントと言えるだろうし、初めて彼の名前を知ったという人にも十分アピールする質の高さを誇る、充実したセカンド・ソロ・アルバムだ。個人的なベストは叙情的なメロディー、ジャングリーなギター・サウンド、パワフルな演奏が一体となった「One Way Ticket」。バーズを思わせるフォーク・ロックを基本にして、ビッグ・スター風のポップ感覚をミックスしていく手法はウィンドブレイカーズ時代と変わらないとはいっても、中にはサイケ色を強めたナンバーやELOに影響されたという「Days of Summer」のような曲もあり、幅のある音作りが楽しめる。本作が気に入った人は、ウィンドブレイカーズの諸作(アナログ五枚、CD二枚あり)、ウィンドブレイカーズのもう一人の中心人物、ティム・リーのアルバム、さらにボビーの1stソロ『Only Ghosts Remain』(87年)といった旧作を中古屋で探してみてほしい。

 ちなみにノット・レイムからは続いてケン・シャープ、ダグ・パウエルなどの新作が発売されているものの、現時点では未聴。到着次第また取り上げることにしたい。

 続いてはアイタン・マースキーの『Get Ready for Eytan』。NYを拠点にする新人で、これがデビュー作らしいが、トッド・ソロンズ監督の映画『ハピネス』(98年)においてマイケル・スタイプの歌うテーマ曲を書いたこともあり、サウンド・エディターとして多数のインディー映画に関わってきた経歴と妙なユーモア感覚の持ち主である。例えばジャケットを見てみよう。綺麗なお姉さんのデート前に気合いを入れている様子がうかがえる(小さくて見えないでしょうが、鏡に貼ってあるのはアイタンの写真)。これは別に普通の場面なのだが、CDをひっくり返すとアイタンがテレビを一生懸命見ていて、隣でお姉さんが呆れているという光景が……(笑)。ありがちなオタクねたに思わずひいてしまう人も多いことでしょう(アイタンの虚ろな笑顔はかなり危ない)。しかし、内容は最高。サーフ・ミュージックやパブ・ロックの要素を取り入れた、ポップなロックンロール満載の傑作だ。『Amplifier』誌のレビューではジャン&ディーン、ロックパイル時代のニック・ロウといった名前がひきあいに出されていたが、NRBQあたりに通じるどこかとぼけた味わいもあり、理屈抜きに楽しめる一枚。

 マーク・バシノやニック・ラッドに続いてパラソルから登場したマット・ブルーノは、シアトルの注目ポップ・アーティスト。以前この連載で『International Pop Overthrow』という編集盤を取り上げたときに名前だけは挙げておいたので覚えている人がいるかもしれない。フィル・スペクターの現代版とも言える収録曲「That Someone」は佳曲の集まった同作の中でも特に印象的なナンバーであり、この路線でアルバムが作られたならちょっとすごいことになるはずだと密かに期待していたところだったのだ。昨年自主製作で発表されていたものの再発ということだが、僕にとってはパラソル盤が初体験。わくわくしながら『Punch & Beauty』を聴いてみる。ちょっと期待していた路線とは方向が違ったけれど、よくできたポップ・アルバムだ。ストレートなパワー・ポップありドリーミーなナンバーあり、一部打ち込み風のサウンドにはあまり馴染めなかったが、これはこれで好みだからよしとしよう。ただ、結局スペクター路線は「That Someone」だけだったんだね。この曲から始まってビーチ・ボーイズ風の「Do You Love Me?」、クラシカルな導入からブライアン・ウィルソンの「リオ・グランデ」を思わせる中間部へつなげる構成がユニークな「Lover May I?」と続いていく終盤の流れが面白かった。

 コットン・メイザー、オウズリー、ミラクル・ブラー、マイケル・ペン、デヴィッド・グレアムなど、このところ「ビートルズの遺伝子」コーナー向けのアルバムがアメリカから続々と登場しているけれども、そのリストにぜひ追加したいアルバムが出ている。トゥー・リップスの『The Lost Album』がそれである。聞き慣れないバンド名だが、実はアニメ『シンプソンズ』で知られる声優のダン・カステラネッタによるプロジェクト。さすが声優だけあってレノン、マッカートニーそれぞれの特徴をよくつかんだヴォーカルを聴いているだけでも楽しめるのに加えて、ビートルズを強く意識した演奏の方もなかなか。サウンド作りの中心はプロデュースも手がけたカート・アンダーソン(エイミー・マンやルーファス・ウェインライトのアルバムでエンジニアを務めている)、ローラ・ホールのコンビだと思われるが、ジョン・ブライオン、バディ・ジャッジの元グレイズ・コンビ、リック・メンク(ヴェルヴェット・クラッシュ)、ブレンダン・ベンソンなど、西海岸の実力派がこぞって参加しているのも見逃せない。

 この他の注目作としては、ラブ直系のソフト・ポップを聴かせるマイク・ランドル、ラスティ・スクィーズボックス(共に元ベイビー・レモネード)、それぞれのデビュー作がある。個人的にはもう一つだったけれど、ワンダーミンツやハイ・ラマズのファンにはお薦めです。