以前この連載でも触れたたことのあるジーン・クラークへのトリビュート盤『Full Circle』がついにリリースされた。

 ジーン・クラークといえばもちろんロジャー・マッギンと共に初期バーズを支えた人物。66年に脱退するまで「すっきりしたぜ」「シー・ドント・ケア・アバウト・タイム」など、いくつもの名曲を残している。バーズ脱退後はゴスティン・ブラザーズ、ダグ・ディラードらとの活動を通して、いちはやくカントリー・ロックに取り組み、71年のソロ『ホワイト・ライト』におけるシンプルな音作りと深みは(特に日本の)SSWファンに強烈なインパクトを与えた。以下字数の都合もあって省略するが、こうして91年に他界するまでの歩みをたどっていくと、カントリー・ロック一筋だったグラム・パーソンズと違ってアプローチが多彩だった分、ジーン・クラークにはどこかとらえどころのない印象がつきまとっているかもしれない。

 しかし、フォーク・ロックのパイオニア、優れたソングライター、さらに圧倒的な存在感を持つヴォーカリストとして、音楽ファンの心に彼の名が確実に刻み込まれてきたことは確かだし、80年代にロング・ライダーズ、テクストーンズらがジーンをゲストに迎えてアルバムを作ったり、90年代にホルサップル&ステイミーやヴェルヴェット・クラッシュが彼の曲をカヴァーしたり、ティーンエイジ・ファンクラブがそのものずばり「ジーン・クラーク」という題の曲を作ったりして、若手からのリスペクトが絶えず続いてきたのも、彼の音楽がエヴァーグリーンなものである証拠だろう。

 今回のトリビュート・アルバムはビル・ロイド、ボビー・サトリフ(このアルバムと同時期に待望のセカンド・ソロをリリース)、クリス・ヴォン・スナイダーンなどの中堅どころからウォルター・クリヴェンジャー、グリップ・ウィーズ、メイフライズUSA、シャザムなどの新人まで、ノット・レイムのレーベル・カラーにふさわしくポップ系を中心にしたラインナップだ。もちろんそれ以外にもシド・グリフィン、スティーヴ・ウィン(秋に来日する模様)などの80年代LAアンダーグラウンド組、テクストーンズ時代からジーンと親しく、共作アルバムも作っているカーラ・オルソン、ロジャー・マッギンをゲストに迎えてアルバムを制作したことのあるケネディーズ、オルタナ・カントリー勢からラスト・トレイン・ホーム、意外なところで70年代後半に「マグネット&スティール」のヒットをとばしたウォルター・イーガン(別人?)、さらに兄弟のリック・クラーク、息子のカイ・クラークなど、総合的にはかなり幅広い人選がなされている。

 昨年リリースされたグラム・パーソンズへのトリビュートのようにメジャーな大物が含まれているわけではなく、どちらかといえば地味な参加面子だ。だが、だからといって内容に見るべき点がないわけでは決してない。古くからのバーズ・ファンは、わけのわからない連中がと目くじらを立てる前に、本作の狙いをよく理解しておくことが大切なのではないだろうか。

 じゃあその狙いとは一体何なのかというと、ポップとルーツ・ミュージックの間を行き来した存在としてジーン・クラークをとらえつつ、両者の複雑な入れ子構造を、今のインディー・ポップ・シーンと結びつけて提出することにあったのではないかと僕は思っている。これはジーン・クラーク=『ホワイト・ライト』という半ば固定化したイメージを持つ日本人にとっては非常にわかりづらいポイントかもしれないが、ヴェルヴェット・クラッシュやTFCの流れを知っている人にとっては、ごく自然な結びつきとしてスムーズに理解することができるはずだ。

 そもそもジーンには、ニュー・クリスティ・ミンストレル時代にビートルズの「シー・ラブズ・ユー」を聞き(2日間に40回はかけたとか)、「これが未来だ」と気づいたという有名なエピソードがあり、LAでマッギンと出会ったとき、まず2人でピーター&ゴードンみたいなことをやろうと持ちかけた話もよく知られている事実である。フォークやカントリーに根ざした音楽性を持ちながら英国ポップに片足つっこんでいたことを考えれば、今回のようなポップ系のセレクションはむしろ順当というべきものだし、ギター・ポップの雛形をアメリカにおいて作り上げたのがバーズだとしたら、現代のポップ勢がそのルーツに回帰していくのも無理はない。

 具体的な成果としては「すっきりしたぜ」を独自のパワー・ポップに仕立て上げたメリーメイカーズ、そのルーツがバーズにあることを今さらながら認識させられたジョージ・アッシャー、ヴォーカルとムードが何ともそっくり大賞のマーク・ホワイティス・ヘルム(「アメリカン・ドリーマー」をカヴァー)、オリジナル・ソングで勝負と思いきや実際はほとんどコラージュというレアーズなどの名前を挙げておこう。もちろん2枚組全36曲のヴォリュームだから他にも聴きどころは多数ある。そんなわけで、少なくとも僕はこのトリビュート盤を大いに楽しむことができた。あなたもそうであると非常に嬉しいのだが。

 ところで、この他にも昨年から今年にかけて、インディー系の注目トリビュート盤が実はいくつかリリースされている。まず筆頭に挙げたいのがボビー・フラー・トリビュート『Bobby Fuller Four-ever!』(#9レコード/連絡先;090-4196-9828)である。昨年リリースされていたものだが、最近大手の流通を通すようになり、入手しやすくなったそうだ。参加メンバーはヤング・フレッシュ・フェロウズ、インクレディブル・カジュアルズ、マーシャル・クレンショウなど。ビル・ロイド、ジョージ・アッシャー、ウォルター・クリヴェンジャーなどが『Full Circle』と重なっている。

 続いてはレフト・バンクへのトリビュート盤『Shadows Breaking Over Our Heads』。こちらにはジグソー・シーン、フランク・バンゴ、ジェイソン・フォークナー、ケン・ストリングフェロウ、シェイン・フォーバート、マーク・ジョンソンなどが参加。

 最後にカナダのインディー・レーベルがリリースした『Around the Universe in 80 Minutes』。これは大胆にもクラトゥへのトリビュート集だ。ブルー・カートゥーン、ジェイミー・フーヴァー、エド・ジェイムズらが参加。ちなみに、今年になってこのレーベルはベイ・シティ・ローラーズへのトリビュート盤も発表している。筆者は未入手だが、きっと面白い作品集に仕上がっていることだろう。

Full Circle(tribute to Gene Clark)

Bobby Fuller Four-ever!(Tribute to Bobby Fuller Four)

Shadows Breaking Over Our Heads(Tribute to Left Bank)

Around the Universe in 80 Minutes(Tribute to Klattu)