最近のお気に入りはフィラデルフィアのルーツ・ロック・バンド、マラーのセカンド(傑作!)だが、四月には大好きなピーター・ケイスとジュールズ・シアの新作が出るので今から楽しみ(本誌が発売される頃にはとっくに出回っているはず)。ジュールズをリリースするラウンダー傘下のZoeレーベルは他にもジョン・リネル(ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ)、ケネディーズ、ジュリアナ・ハットフィールドなんかを抱えていて、このところ目が離せませんね。国内に目を移すと、本誌四号で取り上げたスクラフスのアルバムがクラウンからまとめてリリースされることになった。デビュー作『ワナ・ミート・ザ・スクラフス?』他三枚が四月に、新バンド、メッセンジャー45を含む二枚が五月に発売されるとのこと。メンフィスのパワー・ポップを代表する好バンドをまだ耳にしたことがない方はこの機会をお見逃しなく。

 さて、前置きはこれくらいにして本題に移ろう。今回取り上げるのは、五月にいよいよ初のソロ・アルバムをリリースするというウィル・キンブロウ。彼の名前を知っている人が日本に(あるいはアメリカにも)それほどいるとは思えないけれど、それなりのアメリカン・ロック・ファンならどこかで彼の名前を目にしたことがあるはず。というのも、キンブロウはトッド・スナイダーのバック・バンド、ナーヴァス・レックスのギタリストとして知られ、スナイダーの『ステップ・ライト・アップ』(96年)『ビバ・サテライト』(98年)といったアルバムでは重要な役割を担っている上、キム・リッチー、ギャリソン・スター等ナッシュヴィル周辺で活躍するアーティストのアルバムにも顔を出しているからだ。最近の活動としては、ナッシュヴィル期待のSSW、ジョッシュ・ロウズのセカンド『ホーム』(国内盤はビデオアーツから)におけるほとんどの曲でギターを担当しているのも見逃せない。

 こうした経歴から、なるほどウィル・キンブロウという人はナッシュヴィルに数多く存在するセッション・ギタリストの一人なのか、と納得してしまうのは決して間違いではないけれど、それが全てというわけでもない。自らが中心となったバンドで印象的なアルバムを何枚か残していることもあって、少なくとも僕の中ではキンブロウの名前は、ティム・リー、ボビー・サトリフ(共にウィンドブレイカーズ)、ビル・ロイド等と並んで80年代から活躍している南部のポップ・シンガー・ソングライターの一人として位置づけられている。おそらく今度リリースされるソロ・アルバムによって、ソングライターとしてのキンブロウの姿は改めて浮き彫りにされるはずなのだが、その前に予習として彼の活動を一通りまとめておきたい。

 ウィル・キンブロウの活動歴は84年にアラバマで結成されたウィル&ザ・ブッシュメンまで遡ることができる。曲作りを手がけるウィル・キンブロウ、サム・ベイラーの二人を中心にしてベーシストのマーク・ファフを加え、ドラマーは随時交代する形をとっていた。バンドはやがてナッシュヴィルに拠点を移し、87年にデビュー・アルバム『Gawk』をリリースする。録音をティム・リーとランディ・エヴァレットが手がけたこのアルバムは、そこからも想像がつくように、ウィンドブレイカーズ同様アメリカ南部の土臭さと英国ギター・ポップの持つセンシティヴィティをミックスし、当時のカレッジ・ロック・シーンを代表する名作だ(このアルバムは昨年末にキンブロウ自身のインディー・レーベルから再発されている)。

 アラバマ出身とはいっても、彼が10代を過ごした時期はパンク/ニューウェイヴ全盛期であり、オールマン・ブラザーズ・バンドよりコステロやクラッシュのインパクトが強かったのは当然のことだろう。しかしながらニール・ヤングからは相当大きな影響を受けたようで、本作にもそのものずばり「ニール・ヤング」というナンバーが収められている。再発にあたりボーナス・トラックとして収録された「ディア・アレックス」にも注目。この時期アメリカの若手バンドの間でアレックス・チルトン/ビッグ・スターの再評価が巻き起こっており、彼らもその例外ではなかったということだろう。

 続いて発表されたセカンド『Will & the Bushmen』(89年)は、プロデュースを担当したリチャード・ゴッテラーの好みもあってか、音がすっきりと整理され過ぎ、1stにあった素朴な魅力が薄れてしまっているのは残念だが、メロディ重視のギター・ポップ・アルバムとしてはよくまとまった一枚に。ラスト・アルバムとなった『Blunderbuss』(91年)は少しソリッドな味を加え、メリハリの効いた佳作。ゲストにブラッド・ジョーンズ、ラドニー・フォスターらを迎え、現在につながるナッシュヴィル・コネクションの原型が垣間見えるところも面白い。ちなみにタイトル・トラックはブラッド・ジョーンズとベイラーの共作であり、ブラッドのソロ・アルバム『ギルト・フレイク』でも再録音されている。

 以上三枚のアルバムを残して解散したブッシュメンに続いて、キンブロウは現在ソロで活躍するトミー・ウォマックと共にビス・キッツという新バンドを結成。しかし、このバンドも長く続かず、アルバム『Bis-Quits』(93年)を残して解散し、その後は前述のようにトッド・スナイダー他のサポート活動に専念することになる。ビス・キッツ時代のキンブロウはノイジーなギターの多用、もともと持っていたルーツ・テイストの拡大といった点に特徴があり、サザン・ポップからオルタナ・カントリーへの移行とでもいうべき変化が顕著だった。

 90年代初頭のアンクル・テュペロ、シュラムズといった元祖オルカン派と歩調をあわせるかのような彼の動きは、トミー・ウォマック、トッド・スナイダーといった、ブルース/カントリーに造詣の深いルーツ派との交流を経て、ようやく時代とシンクロしようとしている。編集盤『Fireworks vol.2』(98年)でいち早く披露されていたソロ作品二曲(うち一曲は『ビバ・サテライト』に提供した「ゴッドセンド」のセルフ・カヴァー)は、サン・ヴォルト的なざらつきと生々しさを感じさせる佳曲だった。ニール・ヤングとビッグ・スターをルーツに持ち、一時はポップ・バンドを率いていたこの才能豊かな人物が、一体どんなアルバムを届けてくれるのか、僕は今かなりの期待と共にキンブロウのソロ・アルバムを待ち望んでいるところなのだ(ウィル・キンブロウのソロは彼自身のレーベル、ワクシー・シルヴァーからリリース予定。詳しくは下記へ)。 http://www.waxysilver.com

1)Will & the Bushmen/Gawk (Mustang / 1987) (Waxy Silver / WS0001 / 1999)

2)Will & the Bushmen/Will & the Bushmen (SBK / CDP-92875 / 1989)

3)Will & the Bushmen/Blunderbuss (SBK / OXCD9141-2 / 1991)

4)The Bis-Quits/The Bis-Quits (Oh Boy / OBR012-2 / 1993)