ここ2回ほどテーマを決めてやってきましたが、今回はここ数ヶ月のお気に入りポップ・アルバムについてアト・ランダムに紹介してみましょうか。

 まず、2月にリリースされたマイケル・ペンの新作。これがかなりいい。ブレンダン・オブライエンと組んだ前作『リザインド』(97年)もビートルズ・テイストをうまくすくい上げた力作だったが、今回はさらにキャッチーなメロディ・ラインを前面に押し出し、相変わらずサウンド処理に凝りまくりながら、一回り成長したところを見せている。マシュー・スウィートとビートルズを足して2で割ったような「Lucky One」もいいけれど、何と言っても最高なのは「High Time」。力強いドラムに弾けるようなギターが絡む一見シンプルなナンバーだが、随所に聞こえるメロトロン(なのかな?

 それっぽい音)、一瞬ひずむギター、オールディーズ風のコーラス……とさまざまな要素を絡めていくテクニックはさすがとしか言いようがない上、さらに間奏で聞こえる天使のようなハミング(奥さんのエイミー・マンによるものか?)とハープのえもいわれぬ美しさ、そこにギターが切り込んでくるスリリングな瞬間……、いや、もうたまりません。個人的にはこの1曲のためだけでも買う価値大いにありと断言しておきます。

 エイミー・マン以外には、旧友パトリック・ウォーレン(80年代初期に活躍したドール・コングレス以来の付き合い。ドール・コングレスはマイケル・ペン、ガブリエル・モーガンらを中心にしたアート・ロック・バンド。82年にエニグマから『Concrete and Cray』という12インチEPをリリースしている)、セッション・ドラマーのヴィクター・インドリゾ(レッド・クロス『サード・アイ』にも参加経験あり)グラント・リー・フィリップス(グラント・リー・バッファロー)、バディ・ジャッジ(ジョン・ブライオン、ジェイソン・フォークナーと一緒にグレイズを組んでいた)も参加。ブレンダン・オブライエンが手がけた1曲を除いて、すべてセルフ・プロデュースとなっている。

 続いてはついに復活を遂げたマイケル・クエシオ! というわけでジュピター・アフェクト初のフル・アルバムが届いた。スリー・オクロックの解散後、パーマネント・グリーン・ライトを結成し、ずっと活動を続けていたが、もう一人のソングライター、マット・ディヴァインとの双頭バンドゆえか、今一つマイケル自身のポップ・センスが鈍り気味だっただけに、歯がゆい思いをしていたファンも多かったことだろう。新バンド結成の報には、あきらめ半分期待半分というのが僕の正直な気持ちだったし、98年のデビューEPにもそんな気分を吹き飛ばすだけのパワーは感じられなかった。

 ところが、予想はいい方へと裏切られたのである。今度のアルバムは今までの迷いを断ち切ったような力強さにあふれているし、かつての叙情性も戻ってきている。

 とにかく「Method 1」(タイトル『アリスになる2つの方法』に引っかけたのだろう)と題された前半の構成が心憎いほどうまい。バブルガム・ポップにホーンを絡めた「White Knuckle Sound」に始まり、ハードなナンバーを2曲続けて景気をつけたかと思うと、一転してアダルトなムードを持った曲、サイケな味付けを施したナンバーなどで変化を持たせる。さらにシンプルでメランコリックな旋律が美しいバラードをじっくり聴かせた後、ストレートなパワー・ポップ・ソング「Druscilla I Dig Your Scene」で締めくくるという、まあよくあるライブ的な手法だけれど、しっかりメリハリをつけながら駄曲がないという素晴らしさ。後半に不満がないわけではないが、これならスリー・オクロック時代のファンも満足することができるはず。プロデュースはお馴染みのアール・マンキーが手がけている。

 さて、以上80年代から活躍している西海岸のベテラン2人を取り上げてみたけれど、今度はナッシュビルの動向に目を向けてみよう。

 日本でも一時注目されたナッシュビルのポップ・シーンでは、むしろその後充実した作品が数多くリリースされており、スワン・ダイブ、ロス・ライス、オウズリーなど日本でお馴染みの面子以外にも、ビル・ロイド、レイヨン・シティ・カルテット、シャザム、アイドル・ジェッツ等、今後の紹介が待たれる傑作が多数控えている。今名前を挙げたのは、すべて編集盤『Nashpop』(98年)に収録されていたアーティスト/バンドだが、そのラストを飾っていたスワッグも待望のデビューEPをリリースした。

 僕が入手した『Different Girl』は限定千枚の10インチ・ピクチャー・ディスクで(CDもあるのかどうかは不明)、4曲のゴージャスなポップ・ソングが収められている。まるでクレム・コムストック(前々号参照)が手がけたような、60年代のヒット・チャートを思わせるナンバーあり、ビーチ・ボーイズやビートルズを思わせるナンバーあり、わずか4曲の中にポップの旨みをこれでもかというくらい凝縮したこのEPは、限定版にしておくのがもったいないほど完成度が高く、一般にもアピールする力を十分持っているように思える。

 ちなみに、この完璧なサウンドを作り上げたのは、コットン・メイザーやシャザムで知られるブラッド・ジョーンズ。抜群のコーラス・ワークと確かな演奏を聴かせるのは、ロバート・レイノルズ、ジェリー・デイル・マクファーデン(共にマーヴェリックス)、トム・ピーターソン(チープ・トリック)、ケン・クーマー(ウィルコ)、ダグ・パウエル(ソロ2枚あり)、スコッティ・ハフの6人。『Nashpop』のときにハフの名前はなかったので、その後加わったらしい。カントリー界のヒット・メイカー、元祖パワー・ポップ派、オルタナ・カントリー派が集まってドリーミーなポップ・ソングを作っているという(笑)、何だかよくわからない集団だけれど、まあこれも一種のスーパー・バンドと言っていいのかな。全曲レイノルズ、マクファーデン、ハフの3人が作者としてクレジットされており、中心になっているのはおそらくレイノルズとマクファーデン(マーヴェリックスの曲作りはラウル・マロ主体なので、レイノルズがサイド・プロジェクトを持つこと自体は不思議ではない。マクファーデンのソロ2枚を聴く限り、あまり彼の個性は反映されていないようだが)。いずれにしても、4曲だけでお預けを食わされた形がいつまでも続くのは我慢できない。早くフル・アルバムを!

 この他、最近の収穫としては、前号レビュー欄で岩本編集長も取り上げていたマーク・ジョンソン(マーシャル・クレンショウやロイ・ウッドのファンは必聴!)、元ウィシュニアクスのアンドリュー・チャルフェンが女性ヴォーカリストと組んだトロリーボックスなどを挙げておきたい。相変わらずマイナーなものが多いし、何だかこのページって本誌の中で浮いてるような気がしてきたけど、気にせず続くのだ。 Michael Penn/MP3 Jupiter Affect Swag/Different Girl Mark Johnson TrolleyVox