ジン・ブロッサムズというバンドを御存知だろうか。バーズ風のフォーク・ロックにトム・ペティにも通じる骨太なロックンロール、さらにはR.E.M.以降のカレッジ世代に顕著なギター・ポップ風味をミックスした好バンドだったのだが、97年初めのライブを最後に解散している。89年にインディーからデビューして約八年の間に残したアルバムは三枚。そのうちA&Mからの二枚、『ニュー・ミゼラブル・エクスペリアンス』(92年)『コングラチュレイションズ・アイム・ソーリー』(96年)は日本盤も発売され中古屋でもよく見かけるし、昨年ベスト盤も出たばかりなので、入手は難しくないはず。90年代にメジャーで活躍したバンドとしては数少ない正当派だっただけに、解散を惜しむ声は多かった。

 さて、そのジン・ブロッサムズが解散後、二つのバンドに分裂したことはファンの間ではよく知られている。一つはヴォーカルのロビン・ウィルソンとドラムのフィル・ローズを中心にしたファロアズ(Pharoahs)、もう一つはギターのジェシ・ヴァレンズエラとスコット・ジョンソンを中心にしたロー・ワット(Lo-Watt)だ。

 ファロアズの方は数年前にアルバムを完成させ、一時はA&Mから発売される予定だったのだけれど、会社の合併騒動に巻き込まれ、契約が切られてしまう。しばらくメンバーは落ち込んでいたというが、バンド名をガス・ジャイアンツに変更して再スタートし、アルバムの方もアトミックポップというネットを拠点に注目を集めているインディーから昨年秋に無事発売された。

 ガス・ジャイアンツのデビュー作『From Beyond the Back Burner』はジン・ブロッサムズ時代と同じくジョン・ハンプトンがプロデュースを手がけ、ロビンがほとんどの曲を書いている。以前と比べると隠し味だったルーツ色は姿を消し、ハードにドライブするナンバーがメインになっているため、最初は物足りなく感じる人がいるかもしれない。しかし、よく聞けば随所にポップなアプローチが見られ、大味なハード・ロック・バンドとは一線を画していることがわかる。ロビン自身が言うようにチープ・トリックを連想させる部分もあり、再出発にかける意気込みが伝わってくる力作だ。ちなみに日本をイメージしたというジャケット(フランク・ミラーと組んだ『ハード・ボイルド』で知られるジェフ・ダロウによる)は日本びいきのロビンが長年温めていたアイディアだという。彼らのホームページには日本語による紹介コーナーもあるので、一度のぞいてみてほしい。

 ロー・ワットの方は97年4月に行われた最初のショウを皮切りに、ジェシ、スコットのジン・ブロッサムズ組に加え、ダリル・アイカード(b)、ウィンストン・ワトソン(ds)という面子で地元アリゾナを拠点にして活動を続けていたが、さすらいのドラマー、ウィンストン・ワトソンがまず抜けてしまい、スコットも後述のピースメイカーズに専念するため脱退。さらにジェシ自身も昨年ロスに移ってしまったため、現在は残念ながら活動休止状態とのこと。クリスマス・アルバム『A Christmas to Remember』(Vel Vel/98年)に提供したオリジナル・ソングが今のところ公式に発表された唯一のナンバーになる。

 というわけで、ようやく動き出したジン・ブロッサムズ残党の活動をざっとまとめてみたが、決定打を放つにはまだもう少し時間が必要なようだ。そんな中、彼らの後輩に当たる人物がいきなり特大ホームランを打ってしまった。何のことかというと、昨年末に入手して以来、現時点まで最大の愛聴盤『Honky Tonk Union』のことである。代打に出てきていきなり場外大当たりという感じの本作を作り上げたのはロジャー・クライン&ザ・ピースメイカーズ。そう、前段で触れたようにスコット・ジョンソンがロー・ワットに続いて参加したピースメイカーズとはこのバンドのことだ。ロジャー・クラインの名前を知る人は日本ではほとんどいないだろうが、ジン・ブロッサムズ同様アリゾナを拠点にしたリフレッシュメンツで活躍した人物といえば、ああそうかとうなずく人もいるだろう(それもないって?)。

 リフレッシュメンツはマーキュリーに『Fizzy Fuzzy Big & Buzzy』(96年)『The Bottle & Fresh Horses』(97年)と2枚のアルバムを残して解散。ノリのいい軽快なロックンロール・バンドとしてはかなりいい線をいっていたし、結構好きだったのだけれど、正直ロジャー・クラインの名前はほとんど印象に残っていなかった(今ジャケットを見直したら正式なメンバー表記がないのだから、それも無理はない)。

 全ての曲作りとプロデュースを自ら手がけた新作は、題名やジャケットから連想されるようなホンキー・トンク色は薄く、あくまで基本はロック。どこかルーズな感じを漂わせつつタイトにまとめたナンバーの数々は、バンド時代の方向性を受け継ぎながら、さらにロック色、ポップ色を強めており、ブルース・スプリングスティーン、トム・ペティ、さらにはスティーヴ・アールあたりが持つ土臭さと骨太感覚を基本にしている一方で、若々しさと哀愁を混ぜ合わせた同時代感覚をも兼ね備えている。パイントップス、Vロイズ(新作ライブでラーズの「ゼア・シー・ゴーズ」をカヴァーしているのには驚いた)など最近の注目新人に共通するハイブリッド・センスがここでも鍵になっていると言えるだろう。その点はジン・ブロッサムズに似ていなくもないが、ピースメイカーズの場合はもっとルーツ風味が強い。

 オールド・ファンにとっては軽すぎる、あるいはポップすぎるということになるのかもしれないし、グランジ以降のメジャー・シーンからするとクセがない分扱いにくいバンドになることもわかるが、個人的にはこういうバンドこそアメリカン・ロックの王道に位置すべきだと思う。とにかく注目すべきバンドの登場であることに間違いはない。品番もなく、小さなインディー・レーベルからのリリースだから入手は難しいかもしれないけれど、彼ら自身のホームページや通販店マイルズ・オブ・ミュージック(http://www.milesofmusic.com/)を通じて購入は可能。興味のある人は是非どうぞ。

 それにしても気になるのはジェシ・ヴァレンズエラの動向である。かつての仲間がこれだけ頑張っているのだから、ファンとしては一刻も早い活動再開を望みたいものだ。

1)Gas Giants/From Beyond the Back Burner(Atomic Pop/AP0002-2)99

2)Refreshments/Fizzy Fuzzy Big & Buzzy(Mercury/314 528 999-2)96

3)Refreshments/The Bottle & Fresh Horses(Mercury/314 536 203-2)97

4)Roger Clyne & the Peacemakers/Honky Tonk Union(Emma Java Recordings/no number)99