クリス・ヴォン・スナイダーンとジョン・ウェズリー・ハーディングの来日公演も無事終了し、御覧になった方の中には未だ興奮覚めやらぬといった向きも多いと思います。かくいう私もCVSのステージからは瑞々しいポップ・センス、ウェズの弾き語りからは熱いフォーク魂をそれぞれ感じることができ、大満足のライブでした。CVSについては新作「Spirited」(レイジーキャット)、旧作「ウッド&ワイアー」(セイラー/ブリッジ)の2枚が、ウェズについてはニック・ジョーンズのカヴァー集「トラッド・アレンジ・ジョーンズ」(セイラー/ブリッジ)が来日に合わせて日本でも発売されているので、興味のある方は是非お店で探してみて下さい。

 さて、前回は夏の新作を一気に紹介してみたが、今回は3号のビッグ・ディールに続くレーベル紹介第2弾をお届けしよう。取り上げるのは最近好調なリリースを続けているノット・レイム。8月の4作に加えて9月にもまとめて5作を発売し、ここ2ヶ月で実に9枚もの新譜を届けてくれた。以前この連載でビッグ・ディールを取り上げたときに「今では優良パワー・ポップ・レーベルという言葉がふさわしいのはむしろノット・レイムやパーマネント・プレスだろう」という意味のことを書いたのだけれど、ビッグ・ディールの活動再開が先送りになっている今、ポップ・シーンにおけるノット・レイムやパーマネント・プレスの重要性はますます高まっているように思う。このあたりで一度まとめておくのも悪くはないはずだ。

 ノット・レイムがスタートしたのは今から4年前のこと。中心となっているのはブルース・ブロディーンというポップ・ファン。数多いインディー・ポップ・バンドにもっと機会を与えたいという素朴な動機から通販とレーベル運営の両方を始めたのだという。95年と言えば既にCVSや「Yellow Pills」が一部で話題になり、インディー系のパワー・ポップに注目が集まり出した頃でもあり、こうしたシーンにはまり始めていた僕はどこでCDを入手するかという問題に頭を悩ませていた。そこにタイミングよく登場したのがノット・レイムだった。とにかく通販店としての充実ぶりは他に類がなく、手に入りにくいインディー・バンドのCDをずらりと取りそろえていたのである。その上ノット・レイムはウェッブサイトも持っていた。巷のブームに乗せられてインターネットを始めたばかりだった僕は待ってましたとばかり通販にのめりこみ、毎月20枚以上のCDを買い込む羽目になってしまった。今はもうこんな無茶買いはしなくなったとはいえ、相変わらずここでしか手に入らないCDは多く、今後もお世話になることは間違いなさそうだ。

 ビッグ・ディールとノット・レイムの最大の違いは、個人の趣味性が最初から打ち出されていたかどうかという点にある。試行錯誤の末に方向性を見いだしたビッグ・ディールに対して、ノット・レイムはあくまでブルースという個人の感覚を基盤にしているわけだ。フィルターを通した分だけどうしても幅が狭まってしまうことは否定できないが、その分インディーならではのこだわりが生まれ、一本筋を通した活動が可能になる。レーベルとしてのノット・レイムが支持されているとしたら、原因はそうした私的なパワー・ポップへのこだわりにあると言えるだろう。

 ノット・レイムが現在までに発売したCDは31枚。内容的には通常の新作、前号で紹介したドワイト・トゥイリーやトムズなど元祖パワー・ポップ組を取り上げたアーカイヴ・シリーズ、500から800枚の限定版を中心にしたリミテッド・シリーズ、以上三種類に大別できる。国別に見るとほとんどがアメリカだが、中にはオーストラリア(アイスクリーム・ハンズ、シェヴェルズ、マイケル・カーペンター)、ニュージーランド(デッド・フラワーズ)、カナダ(ケリー・アフェアー)など他国のバンドも含まれている。詳しくはリストを見ていただくとして、ここでは新譜を中心にして主要アーティストを解説していきたい。

●ルークス

 NYのサイケ/パワー・ポップ・バンド。マイケル・マザレラとクリスティン・ピネル(グリップ・ウィーズにも参加)の二人を中心にして中期ビートルズに強く影響されたサウンドを聞かせてくれる。93年にガーディアンから「The Rooks」でデビューを飾った後、ノット・レイムに移籍し、95年に20セント・クラッシュとのカップリング・アルバムとEPを発表。当初翌年には出ると言われていたセカンドは延期が続いていたが、今年の9月にようやく「A Wishing Well」(@)としてリリースされた。三年の歳月をかけて完成にこぎつけただけあって、よく練られた曲作りと緻密なプロデュース・ワークがほどよく調和して、完成度の高いポップ・アルバムに仕上がっている。正直なところ今までの作品にはそれほどのめり込めずにいたのだけれど、新作には素直に圧倒された。管楽器、弦楽器、エレクトリック・シタール、メロトロン等を駆使した60年代風のアプローチが新しいファンには新鮮だろうし、古いファンにはどこか懐かしさを感じさせるはず。アグネリ&レイヴ、フランク・バンゴ、ジョー・マニックス(オーラル・グルーヴ)、ファーストにも参加していたリチャード・X・ヘイマンなどゲストも充実している。

●マーティン・ルーサー・レノン

 LAを代表するパワー・ポップ・アーティスト。本名をトニー・パーキンスと言い、ポップトピアの主宰者としてもお馴染みの人物である。編集盤「Sympophony」や「Yellow Pills」で注目を集め、96年にノット・レイムからデビュー・アルバムをリリース。アルバム一枚通して聞くとやや平板な印象も残るが、ストレートかつキャッチーなメロディーは親しみやすく、ピアノやシンセを担当したアダム・マースランド(コックアイド・ゴースト)の活躍が光るセカンド「Escape to Paradox Island」(A)でも基本路線に変更はない。。

●ミラクル・ブラー

 日本でもセカンド「バルティムーチョ」がリリースされているラブ・ナットのリーダー、アンディ・ボップを中心にしたサイド・プロジェクト。バンドでのノイジーなアプローチは影を潜め、明らかにビートルズを念頭に置いた3分間ポップスへのこだわりがうまく生かされている。デビュー作「Life on Planet Eartsnop」は「Amplifier」誌で多くのファンから98年のベスト・ポップ・アルバムに選出され、個人的にもお気に入りの一枚。一枚だけのプロジェクトだろうと思っていたので、セカンド「Plate Spinner」(B)のリリースはうれしい驚きだった。前作のファンには受けが悪いかもしれないが、スローなナンバーあり、ワイルドなロックンロールありと作風が広がっている点は評価したい。アンディがプロデュースを手がけたスターベリーのメンバーも参加。

●シャザム

 ナッシュヴィルをベースにするポップ・バンド。二年前に東芝からブラッド・ジョーンズ、スウィンガー、シャザムが同時に発売され、パワー・ポップ・ブームが仕掛けられたのを覚えている人もいるだろう。仕掛ける人、それを拡大解釈する人、足を引っ張りたがる人……いろんな人がいたけれど、当時の僕からすれば不毛な発言ばかりが目についたし、批判する側、される側、双方の認識不足にはため息をつくばかりだった。今から思うと時期尚早だったということは言えるかもしれない。オウズリーのソロ・デビューは97年だが、ジャイアント盤が出たのは今年。編集盤「Nashpop」のリリースは98年、そこに収録されたレイヨン・シティ・カルテット、アイドル・ジェッツらがアルバムを発表したのはさらにその後。そして、シャザムの一回り成長したセカンド「Godspeed the Shazam」(C)が9月に登場した。チープ・トリック直系のパワフルでしなやかなメロディ・センスに加えてサウンドの深みを増した傑作だ。プロデューサー、ブラッド・ジョーンズの得意とするひねり具合とバンドのダイナミズムが絶妙にブレンドされ、双方の長所が上手く引き出されている。こういうアルバムをオウズリーと併せて紹介でき、役者がそろった今こそ、ナッシュヴィルを正しくクローズ・アップする絶好の機会だと思うのだが、いかがなものだろうか。

 その他ノット・レイムからは以前この連載で紹介したことのあるサン・ソード・イン・ハーフ、本誌1号にレビューが載ったフランク・バンゴのセカンド、来年早々に三枚目を発表するというマーク・ジョンソンのセカンド再発など、注目すべきアルバムが数多くリリースされ、今後もジーン・クラークのトリビュート・アルバムという二枚組大作が控えている。当分の間目を離すことはできないようだ。

List

The Rooks;Twenty Cent Crush/A Double Dose of Pop!(NL-033)95

V.A./Sympophony(NL-034)95

The Rooks/Chimes EP(NL-036)95

Dead Flowers/Plastic EP(NL-037)96

V.A./The World's Best Power Pop(NL-038)96

Martin Luther Lennon/Music for A World without Limitations(NL-039)96

Michael Mazzarella/Methods of a Mad Rook(NL-040)97

Icecream Hands/Memory Lane Traffic Jam(NL-041)97

The Sun Sawed in 1/2/Fizzy Lift(NL-042)97

The Kelly Affair/Welcome to...the Kelly Affair(NL-043)98

Myracle Brah/Life on Planet Eartsnop(NL-044)98

Frank Bango/Fugitive Girls(NL-045)98

V.A./Nashpop(NL-046)98

Martin Luther Lennon/Escape to Paradox Island(NL-047)99(9月)A

The Rooks/A Wishing Well(NL-048)99(9月)@

Bobby Sutliff/Bitter Fruit(NL-049)99(coming soon)

Myracle Brah/Plate Spinner(NL-050)99(9月)B

Idle Jets/Atomic Fireball(NL-051)99(8月)

The Shazam/Godspeed the Shazam(NL-052)99(9月)C

Michael Carpenter/Baby(NL-053)99(8月)

*Limited

The Chevells/at Second Glance(NLL-001)98

Mockingbirds/Mockingbirds(NLL-002)96/98

Starbelly/Starbelly(NLL-003)98

Doug Powell/Curiouser(NLL-004)98

Wanderlust/Wanderlust(NLL-005)98

Cherry Twister/at Home with Cherry Twister(NLL-006)99

Flamingo/Flamingo(NLL-007)99

The Rockinghams/Makin' Bacon(NLL-008)99(8月)

The Black Watch/The King Of Good Intentions(NLL-009)99(9月)

*Archive

The Toms/The Toms(NLA-001)79/97

Mark Johnson/12 in a Room(NTLMCD10003)92/98

Dwight Twilley/Between the Cracks vol.1(NLA-004)99(8月)