日本でもオウズリーやコットン・メイザーがリリースされ、アメリカのインディー・ポップ・シーンの活気が少しずつ伝わるようになってきた。それはそれでうれしいことだが、このシーンの奥深さについては何度も書いている通り。

 例えば6月にはナッシュヴィルのモンスターズ・オブ・ポップ・フェスティヴァルが、7月末にはインターナショナル・ポップ・フェスティヴァル(I.P.O.)の第2回が開催され、相変わらずイヴェントも盛んだし、気になる新譜も続々と到着している。ちなみにI.P.O.では、日本から出演したサマンサズ・フェイヴァリットが20/20のロン・フリントと一緒に「Remember the Lightning」を歌う一幕も見られたとか。ただ、問題はこの手のニュースを伝えてくれるメディアが日本にないことで、企画を探している衛星放送なんかがI.P.O.を取材して放映してくれると助かるんだけど……。どうかな? きっと加入者が増えるよ(十人くらいは)。今年の春にSXSWのジャパン・ナイトだけを放映して識者を呆れさせたBS2も、そんな間の抜けた取材をするくらいなら、断然こちらを取り上げるべきだったと思いますがね。

 さて、今回はそんな底なし沼の世界から最近の注目作を何枚か紹介しよう。まずはジョージア州ローレン・セヴィルという町から登場したスター・コレクター。『Songs for the Whole Family』(@)というデビュー・アルバムを今年発表したばかりだが、実はポップ・ファンのツボを押しまくる好バンドなのだ。同じジョージアでも80年代のインディー系(R.E.M.やガダルカナル・ダイアリー)とも、最近話題のキンダーコア/エレファント6系の持つスノッブな味わいともまた違った魅力がある。フックのきいたメロディーと分厚いハーモニーは、しいていえばジェリーフィッシュに近いといえるだろう。まだ荒削りで、大味なところはあるけれど、一作目でこれだけの出来なら文句なし。今のところ今年の新人の中では一押しだ。

 続いては西海岸のベテラン、ランデル・カーシュがついにリリースしたソロ名義の一作目(A)も要注目。70年代にジェフリー・フォスケット(先日ブライアン・ウィルソンのサポートで来日)と共にプランクスというパワー・ポップ・バンドを組んでいた人物で、80年代にはジェーン・ウィードリンのソロ・デビュー作に全面協力した経験もあり、IRSからアルバムを1枚リリースしていたアコースティック・トリオ、ショー・オブ・ハンズでもお馴染みの存在である。まさに待望の新作では、かつてのバンド仲間−−ジェフリー・フォスケット、ルーアン・オルソン(ショー・オブ・ハンズ)−−やスーザン・カウシル(コンチネンタル・ドリフターズ)などをゲストに迎えて、プランクス時代を思わせるパワー・ポップ・ナンバーからロイ・オービソン風のムーディーなナンバーまで、多彩な技を披露している。収録曲のうち「Expectations」は、日本のレイジー・キャットが5月にリリースした編集盤『Postcards from the Other Side』(ルーツ派からポップ派まで幅広く海外のインディー・アーティストを収録した好盤)にも収録されてました。

 ビートルズ・ファンに大推薦のデヴィッド・グレアムは、昨年末にデビュー作『Toy Plane』を発表しているが(少数しかプレスしなかったのか、現在入手困難)、わずか半年のインターバルで2作目を届けてくれた。そのものずばりのタイトル『Beatle School Graduate Class of '70』(B)と、ホワイト・アルバムを模したジャケットを見れば、もう本誌読者には何の説明もいらないのではないかと思う。ずばりご想像通りビートルズです。いくつか補足をしておくと、デヴィッド・グレアムはもともとミュージカル「ビートルマニア」のポール・マッカートニー役を演じたことで知られ、ミスター・ビッグの「To Be with You」の共作者としても有名な人物。『イエロー・ピルズVol.4』を通して彼の存在を知ったとき、あまりに70年代的な作風に驚いた記憶があり、『Toy Plane』が出たときも飛びついて購入したのだが、期待が大きすぎたのか、印象はもう一つ。しかし、今度のアルバムはかなりいい。そこかしこにビートルズの雰囲気を漂わせ、『ホワイト・アルバム』のけだるさや70年代前半のポール・マッカートニーが持っていた牧歌的なムードも再現しつつ、自己主張した佳作といえそうだ。エミット・ローズ、ヴァン・デューレンに続く才能の出現と断言してしまおう。

 インディー・レーベルの動向に目を向けると、まずノット・レイムから遅れていた新作がまとめて発売された。ノット・レイムはもともと通販業務が主で、今回紹介したようなアルバムは、僕もほとんどここを通して購入している(ウェッブサイトは http://www.notlame.com/)。コロラドに住むブルース・ブロディーンがほとんど一人で運営しているため、いろいろトラブルも多いが、やはりポップ・ファンにとってはチェックしておきたいお店の一つだ。

 レーベルとしてのノット・レイムから8月にリリースされたのは、ドゥワイト・トゥイリーの未発表曲集(C)、ナッシュヴィル期待のポップ・バンド、アイドル・ジェッツのデビュー作、オーストラリアのステージフライト(『I.P.O. vol.1』に1曲収録)というバンドを率いていたマイケル・カーペンターのソロ、ジム・バスナイトによるプロジェクト、ロッキンガムズのフル・アルバム、以上4枚。編集盤『Nashpop』でもお馴染みのアイドル・ジェッツは期待通りの出来だったし、ドゥワイト・トゥイリーの編集盤も予想以上に楽しませてくれた。同時にコッパーからリリースされた正真正銘の新作『Tulsa』も悪くはなかったが、曲のグレードはこちらの方が上だろう。昨年シングルで発表されていた"Perfect World"にはベテランならではの成熟した甘さが堪能できる名曲。

 なお、このレーベルはこれからのリリースとして、いつまで延びるのか、パラソルのアダム・シュミット以上に延期が続いているルークス、昨年のアルバムが大好評だったミラクル・ブラー、ポップトピアの中心人物マーティン・ルーサー・レノン、元ウィンドブレイカーズのボビー・サトリフなどを予定している。

 昨年末にマーク・バシノで注目を集め、今年はティム・ベスト(元ガール・オブ・ザ・ワールド)、ジューン&ザ・イグジット・ウォウンズ(中心は元トウィギーのトッド・フレッチャー)と懐かしのラインナップで攻めるパラソルからは、ニック・ラッドのソロ・アルバム(D)が登場した。得意のフォーク・ロックに力強いギター・ポップを組み合わせ、ちょっと地味めのヴェルヴェット・クラッシュといった雰囲気を漂わせたアルバムに仕上がっている。一般的にはニック・ラッドと言ってもほとんど知名度はゼロだが、パラソルのCD1番(93年)だったブロウンのリーダーと言えば、ピンと来る人もいるはず。シャンペーンのインディー・シーンでは古くから知られたギタリストで、80年代にはBラヴァーズ、ターニング・キュリオス(アルバム1枚あり)を率いて活躍し、ボブ・キンベルのウィアード・サマーでも重要な役割を担った過去を持つ。現ヴェルヴェット・クラッシュのポール・チャスティン、リック・メンクと共にビッグ・メイビーというバンドを組んだこともあった。90年代に入るとソロ名義のシングルや前述のブロウンで注目を集めたが、その後は復活したウィアード・サマーの活動に力を注ぎ、自らの活動はしばらく休止。長い活動歴の割に今まで表面に出てこなかった人だけに、今回のアルバムをきっかけにして、きちんとした評価を期待したい。

 その他の注目レーベルとしては、ノット・レイムと並んでファンに人気のパーマネント・プレスがあり、ウォルター・クリヴェンジャーの傑作セカンドに続いて、バッドフィンガーの『Airwaves』が再発されている。9月にリリース予定のヴァン・ディレッキーズも今から楽しみだ。

 最後に気になる編集盤を二枚。一つはカナダのビッグ・スター・ファンクラブ、「バック・オブ・ア・カー」編集による『Teenster』。70年代のロックンロールにインスパイアされたオリジナルを集めた好企画だが、何とミッチ・イースターが久しぶりにミッチ・イースター・サウンド(笑)というソロ・プロジェクト名義で曲を提供している。ノリノリのグラム・ナンバーはファンなら必聴の会心作。

 もう一つは以前本欄で紹介したことのあるI.P.O.のサンプラー第二弾(E)。今回は2枚組にヴォリューム・アップし、ジェイソン・フォークナー、ダニー・ワイルド、ビッグ・ハロー、ウェブスターズ、元ジフィポップのリック・ギャレゴによる新バンド、クラウド・イレヴンなど、全42組を収録している。

*前号でヴァン・デューレンのベストCDについて触れましたが、その後確認してみたら80年代の音源を集めたものでした。というわけで『Are You Serious?』が一部CD化されていたというのは間違いです。その代わりといっては変ですが、何と日本のエアー・メイルが『Are You Serious?』の発売を決定したとの情報が飛び込んできました。もちろん世界初CD化! 発売予定は10月25日だそうです。お楽しみに。

@Star Collector/Songs from the Whole Family(Pop Records/PR001)99

ARandell Kirsch/Near Life Expeareance(Dental Records/PJM17)99

BDavid Grahame/Beatle School Graduate Class of '70(Dog Turner/no number)99

CDwight Twilley/Between The Cracks Vol.1(Not Lame/NLA004)99

DNick Rudd/One Track Mind(Parasol/033)99

EV.A./International Pop Overthrow Vol.2(Del-Fi/DFCD2116)99