ポップトピア(*)に続くパワー・ポップ・イベント「インターナショナル・ポップ・オーヴァースロウ(I.P.O.)」が昨年夏にLAで開催され、さらにはビッグ・ディール、ノット・レイム、パーマネント・プレスなどの注目レーベルが次々に話題作をリリース。98年にはあのナックやルビナーズなど大ベテランのアルバムまで登場し、新旧取り混ぜUSポップ・シーンは相変わらずの活況を呈している。なかなか全貌をつかみにくいこのシーンだが、インディー・レーベル、エアーメイルの地道な活動に加えて、今年はビクターがビッグ・ディールのライセンスを取得する等、日本でも明るい材料がそろってきた。最近注目のポップ・バンドをここで一気に紹介!

*……93年にLAのトニー・パーキンス(マーティン・ルーサー・レノン)が中心になってスタートした「バブルガム・クライシス」を前身とするパワー・ポップ・イベント。96年から名称を「ポップトピア」に変更して、規模も拡大。一カ所に限定した大規模なフェスティヴァルとは違って、複数のクラブを中心に同時並行して行われるショー・ケース的な面が強い。時期は毎年二月頃。10日間に渡って百以上のバンドが集まり、過去の出演者にはエミット・ローズ(97年)、ラズベリーズのスコット・マッコール(98年)などの大物も含まれる。

 前回紹介したパーセノン・ハックスリーの最新情報として、驚いたことにELOパート2の ツアー・メンバーに加わったというニュースが伝わってきた。今後の展開次第では面白い成果 も期待できそうとはいえ、それよりもソロ活動を優先してほしいという気もするのだが……。

 さて、今回は少しスタイルを変えて、最近のアメリカン・ポップ・シーンをかいつまんで紹 介することにしよう。タイミング良く「インターナショナル・ポップ・オーヴァースロウ」 (以下「I.P.O.」)の国内盤がリリースされたこともあり、その収録アーティストを中心にし て地域別にまとめてみた。

 まずは東海岸から。デラウェアのコールフィールズ(「I.P.O.」にはジョン・フェイがソロ 名義で参加)、メリーランドのスプリッツヴィル、NYのルークス、ペンシルヴァニアのチェ リー・トゥイスターなど既にある程度の評価を確立しているバンドが多い中、この地域で今注 目の新人と言えばニュー・ジャージーのイブリン・フォーエヴァーだろう。本誌前号レビュー でも取り上げられていたフランク・バンゴと並ぶ、ニュー・ジャージー新世代と言うべき存在 である。デビュー作は97年の「ナイトクラブ・ジッターズ」。かつてのホボーケン・ポップの イメージとはひと味違う力強いサウンドを聞かせていたとはいっても、多数ある同系統のバン ド群を越えるような個性はまだ見あたらない。それが「I.P.O.」の冒頭を飾った新曲"マジッ ク・オブ・モーメント"ではコーラス・アレンジ、曲調などに一ひねり加えて大きく成長。昨 年末にリリースされたばかりの二枚目「ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット」(@)には同 曲も収録し、ときおり変化球を交えながらパワーで押し通す力作に仕立て上げている(エンジ ニアは元dB'sのジーン・ホルダー)。

 対してNY在住のジョージ・アッシャーは80年代から活躍しているベテランだ。古くはビー ト・ロデオやボンゴス、近年はシュラムズでキーボードを担当しながら自らの活動も続け、ア ルバムを三枚残している(うち一枚はハウス・オブ・アッシャー名義)。四枚目となる「ダッ チ・エイプリル」(A)は前作「ミラクル・スクール」に比べると起伏に乏しい印象も残るが、 フォーク・ロックやサイケをうまく消化した独自のポップ・センスは健在。くせのある歌声も 一度聞いたら忘れられない特徴を持っており、はまるとなかなか抜け出せない魅力がある。最 近では東海岸のポップ・デュオ、アンビヴァレント・ブラザーズのプロデュースを手がけた上、 ジェイムズ・マストロ、リチャード・バロン、スティーヴ・アルマース、リチャード・X・ヘ イマンといった東海岸の同世代ポップ・シンガーが集まったユニークな企画盤「イッツ・オン リー・ア・ドリーム」(各人が見た夢に関する曲を他のシンガーが歌うという内容)に一曲提 供しているのも見逃せない。

 ジョージ・アッシャーほどではないとしても結構息の長い活動を続けているのが、ニュー・ ジャージーのグリップ・ウィーズ。「I.P.O.」には未収録だが、イベントの方には当然出演し ている。東海岸ではチープスケイツの後を継ぐサイケ・ポップ派の代表であり、四年ぶりのセ カンド「サウンド・イズ・イン・ユー」(B)を聞けば、ルークスと並んでその筋では人気が 高いのもうなずける。音の方は60年代の香りをぷんぷん漂わせているジャケットそのままとい った感じ。かつてのペイズリー・アンダーグラウンドを思わせる徹底ぶりは大したものだ。メ ロトロンやハモンドをふんだんに使用したサウンドは前作よりポップ度を増し、バンドの成長 ぶりを物語っている。ニール・ヤング"ダウン・トゥ・ザ・ワイアー"のカヴァーあり。

 続いてはI.P.O.やポップトピアの開催地でもあるLAおよび西海岸。さすがモダン・パワー・ ポップのメッカだけあって、注目バンドの数は他とは比べものにならない。ワンダーミンツや シュガープラスティック、前号で取り上げたP・ハックス、本号にインタビューが掲載されてい るジェイソン・フォークナー等が既に日本でも紹介済みだし、この後もコックアイド・ゴース トやベイビー・レモネード等のビッグ・ディール組が控えている。今年はさらに、トーリーズ のデビュー・アルバム(ジェリーフィッシュ・ファン必聴!)や、カイル・ヴィンセントの傑 作ファースト・ソロも国内発売が予定されており、このあたり今後ちょっとした波紋を呼びそ うな気配がある。

 「I.P.O.」収録の西海岸派としては、シスコのジフィポップ、アリゾナのジェニーズ、フィ ル・スペクターを現代流に翻案したサウンドを聴かせてくれたLAのマット・ブルーノなども 目に付くが、一番の注目株は新曲"ミッドテンポ・トラップ"を提供しているチューウィ・マー ブルだろう。LAを中心に活動する四人組で、パーマネント・プレスからリリースされたファ ースト・アルバム「チューウィ・マーブル」(C)が昨年日本でも発売されている。ブリテ ィッシュ・ポップをもとにしたドリーミーな味わいは単純にパワー・ポップと言い切れない深 みも兼ね備え、メンバー言うところの「ネオ・ポップ」という言葉がまさにぴったりだ。  チューイ・マーブルより長いキャリアを持つティアラウェイズはLA周辺の五人組。収録曲 "イッツ・ア・ブレイクダウン"は割と大人しめの仕上がりだが、アルバム「グラウンズ・ザ・ リミット」(D)ではもっとパワフルではじけた演奏を聞かせてくれる。ちなみにこのアルバ ム、もともとはアール・マンキーがプロデュースを手がけたデビュー作「シー・ザ・サウンド」 (94年)を再発・改題したもの。セカンド「デ・ラ・ヴィナ」(96年)の方は詰めの甘さが前面 に出てしまいもう一つ。次作での巻き返しに期待したい。

 もう一人、日本ではほとんど無名とはいえ、サン・フランシスコを拠点にするジョン・モア メンの名前も覚えておいて損はない。もともとは80年代にアルバム二枚を残したネイバーズと いうポップ・バンド(スペインのバム・バラムから二枚組のベスト盤が出ている)に在籍して いた古株の一人だが、最近初のソロEP(E)をリリースし、好評を博している。ここから取 られた「I.P.O.」収録曲"トゥゲザー・アゲイン"に代表されるように、甘く切ないメロディ に定評があり、素朴なギター・サウンドにも好感が持てる。

 「I.P.O.」に収録されていない国内未紹介組では、既にアルバムを四枚リリースしているシ スコのクリス・ヴォン・スナイダーン、ポップトピアの主催者でもあるマーティン・ルーサー・ レノン、初期ニック・ロウを思わせるのりのよさを身上とするウォルター・クリヴァンジャー (本号が発売される頃には待望のセカンドをリリース)なども要注目。

 中西部に目を移すと、こちらにも個性的なポップ・バンドが目白押し。ミネアポリスのセミ ソニックやヴァンダリアスなど、日本でも紹介済みのバンドは取りあえず置いておいて、ここ では未紹介のバンドを押さえていこう。まず、イリノイのナーク・トゥインズはニュー・フェ イスと思いきや、実体はシューズのジェフ・マーフィーと90年代前半にアルバムを二枚発表し ているハーブ・アイマーマンというベテラン二人によるユニット。「I.P.O.」収録の"アゲイ ンスト・ザ・グレイン"でもおわかりいただけるように、両者の持ち味を組み合わせたマイル ドな作風が絶妙のコーラスと相まって、70年代にタイム・スリップしたかのような錯覚を味あ わせてくれる。アルバム「イーザー・オア」(F)は97年を代表する名盤の一つ。

 ノット・レイムからリリースされた四枚目「フィジー・リフト」(G)が既に熱心なファ ンの間で話題になっているサン・ソード・イン・ハーフも中西部(ミズーリ州セント・ルイス) を代表するポップ・バンドの一つだ。スクィーズ、クラウデッド・ハウス、ジェリーフィッシ ュの系譜に連なる、完成度の高いねじれポップは一聴の価値あり。

 オハイオのマインド・リールズはバーズやビートルズ、少し前ならエリック・ヴォークスを 思わせる近ごろでは珍しい正当派ギター・ポップ・バンド。パワー・ポップと言うよりフォー ク・ロックに近い部分もあり、印象的なメロディーを軸にしたシンプルな演奏には時代を超え た普遍性が感じられる。今のところ唯一のアルバム「マインド・リールズ」(H)は地味なが ら、隠れた傑作というにふさわしいクォリティの高さを誇る。

 「I.P.O.」には未収録ながら是非取り上げておきたいのが、シカゴのウェブスターズである。 95年にアルバム・デビューを飾り、昨年「ロケット・トゥ・ザ・ムーン」(I)をリリースし たのだが、ジェリーフィッシュやベン・フォールズ・ファイブの影響からまだ脱し切れていな いファーストに比べると、セカンドでは完全に一皮むけている。彼らにバーズの影を見る人も クィーンの影響を感じる人もいるだろう。いやスクィーズだ、やっぱりビートルズだといろい ろ思わせつつ、結局これがウェブスターズなんだと納得できてしまうところにはただならぬ才 能を感じる。正直言ってここまでいいバンドになるとは思っていなかった。技ありの一枚。

 南部のポップ・バンドでは、オースティンのブルー・カートゥーンに注目しておきたい。オ ースティンと言えば一方でルーツ・ロックや埃っぽいシンガー・ソングライターのイメージも 強いのだが、古くはレイヴァーズ、ジャヴェリン・ブーツ、最近ではコットン・メイザーやフ ァストボール等ポップ・ファンにも無視できない流れが一方にある。そういったバンドと比べ るとこのブルー・カートゥーンはかなりルーツ寄りとはいえ、仕上がりはあくまでポップ。ロ イ・フリント(20/20)がプロデュースを手がけたデビュー・アルバム「ブルー・カートゥー ン」(J)は何とビル・ロイドのカヴァーも含み、バーズに通じるアーシーな感覚とブリティ ッシュ・ポップに通じる哀愁をミックスした好盤と言えそうだ。「I.P.O.」収録の新曲"シー ズ・ゴーン"からも彼らのそんな魅力はよく伝わってくる。

 また、一昨年ブラッド・ジョーンズやスワン・ダイブを中心に一部で盛り上がりを見せたナッ シュヴィルのポップ・シーンも相変わらず盛況のようだ。ノット・レイムから新作をリリース したばかりのダグ・パウエル、本誌前号でも岩本さんが紹介していたオウズリー(セマンティ ックス)、二月に国内盤がリリースされたロス・ライスなど、いずれも手堅くまとめていて悪く はないが、三月末にいよいよビル・ロイドの新作が発売されるとあっては、まず何よりそちら をと言いたくなってしまう。昨年出た編集盤「ナッシュポップ」には、そのビル・ロイドを 筆頭にナッシュヴィルのポップ派ばかり十五組全十八曲が収められており、興味がある人には 恰好の入門編としてお薦め。

 最後にスローンのブレイクにより注目が集まっているカナダ。他にもナインズやクール・ブ ルー・ハロー等の注目新人がしのぎを削る中、「I.P.O.」ではブラウン・アイド・スーザンズ がピック・アップされている。パーマネント・プレスからのデビュー・アルバム「アフタヌー ン・ティー」(K)にはブリティッシュ・ポップやジェリーフィッシュの強い影響がうかがえ、 小粒ながらも全体を覆う幻想的なムードがその手のファンにはたまらない一枚。  というわけで、全12枚を厳選して紹介してみたが、これでもI.P.O.出演バンド一四〇のうち、 たった十分の一に過ぎない。これだけのバンドが日本はもちろん、アメリカでもなぜそれほど 話題になっていないのかと言えば、理由の一つは時流と関係ない音楽がほとんどだからだろう。 その結果メジャーは手を出さず、インディー主体の彼らは自然と各自で流通や広報を手がけな くてはならなくなる。それが次第に草の根的な交流につながり、イベントの必要性も高まって きたというわけだ。確かにアメリカのポップ・シーンは一つのレベルでは盛り上がっているよ うに見えるが、一概にこれを大喜びできない病根が別のレベルに存在していることも忘れては ならないのである。

−−アルバム・ピック・アップ(I.P.O.)−−

International Pop Overthrow(Air Mail/AIRCD-006)98

収録アーティスト: Evelyn Forever/The Tearways/Chewy Marble/Mett Bruno/Stagefright/Jiffipop/Double Naught Spies/The Jennys/Nerk Twins/Brown Eyed Susans/John Faye/Kerosene Hero/The Mind Reels/The Sun Sawed in 1/2/John Moremen/John McMullan/Blue Cartoon/Stickman/George Usher/Single Bullet Theory

 98年の夏にスタートした同名のイベントに併せて制作されたサンプラーCD。会場で配布された後、アメリカではデル・ファイからリリースされたものが日本でもエア・メールから今年一月に発売されている。同種の「ポップ・アゲイン」(こちらはポップトピアのサンプラーCD。同じくエアメールから発売)と比べても収録曲のレベルは高く、今のポップ・シーンを知るには最適の一枚だ。イベントの名前はもちろんマテリアル・イシューのファースト・アルバムから。開催地は同じLAだが、規模が大きくなるにつれ、その弊害と硬直化が目立つようになってきたポップトピアに対して、より柔軟な対応を基本にしており、第一回の98年は10日間に渡って一四〇以上のバンドが参加した。中心となったのは、ジャーナリストとしてもお馴染みのデヴィッド・バッシュ。「冬のポップトピア」に対して「夏のI.P.O.」がLAの新しい風物詩として定着していくことが期待されている。ちなみにエアメールからは、ラブレス、チープ・トリックのトリビュート盤などに加えて、カイル・ヴィンセントのお蔵入りになっていたアルバム(何と世界初CD化)もリリースされたばかり。USポップ・ファンにとっては当分目が離せないレーベルになってきた。

@ Evelyn Forever/Lost in the Supermarket(Airplay/TAL0027)98

A George Usher/Dutch April(Parasol/Par-cd-045)98

B The Grip Weeds/The Sound is in You(Buy or Die/BOD9817-2)98

C Chewy Marble/Chewy Marble(日本コロンビア/COCB-83055)97

D The Tearaways/The Ground's the Limit(Pinch Hit/PH003)97

E John Moremen/...and the Sun Shines(Pop Static/PS-01)97

F The Nerk Twins/Either Way(Broken/BR12345-2)97

G The Sun Sawed in 1/2/Fizzy Lift(Not Lame/NL-042)97

H The Mind Reels/The Mind Reels(Javelin/jrcd401)97

I The Webstirs/Rocket to the Moon(Ginger/GR4005)97

J Blue Cartoon/Blue Cartoon(Aardvark/AR-72001)97

K Brown Eyed Susans/Afternoon Tea(Permanent Press/PRCD52708)98

前号の追加・訂正

前号P・ハックス記事中、参加作コーナーにジェフリー・フォスケット「クール・アンド・ゴーン」を入れ忘れていました。また、ダッズの録音は残されていないと書きましたが、どうやらライブ作があるようです(?)。