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3/1 - 3/31

Wilco/Summer Teeth(Reprise;WEA Japan/WPCR10214)★★★★★

かなり今までと方向性を変えてはいるが、曲自体の魅力は相変わらずだし、どちらかといえば散漫な仕上がりだった前作より、アルバムとしてもまとまっており、文句なし。今のところ上半期ベスト1。


Walter Clevenger/Love Songs to Myself(Permanent Press/PPCD52711)★★★★

期待通りの2作目。前作よりもゆったりした余裕のようなものが感じられ、気持ちよく聴ける。パワー・ポップというより、オールディーズ風味を効かせたロックンロール・アルバムというべきか。

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Rayon City Quartet/Blue Suit And Tie(No Label)★★★★

「Nashpop」に収録された"Spirit of 76"で一躍注目を集めた、ナッシュビルのポップ・バンドによる、昨年の末に出ていたデビュー作。紹介が遅れたが、かなりよいので取り上げておく。これがデビュー作であることに間違いはないが、実はギターのジェフ・シーズはもともとブラック・クロウズの初期メンバーである。ただし、ファースト・アルバム「Shake Your Money Maker」(90年)に参加した後、脱退している。骨太感覚に共通するものがないわけではないのだが、本作を聞けばわかるように、ジェフのルーツはあくまでポップにあり、音楽性の違いがおそらくは脱退理由だったのだろう。さて、故郷のナッシュビルに戻ったジェフは、高校時代のバンド・メイト、ロバート・グリーン(vo,g)と共に新バンド、レイヨン・シティ・カルテットを結成。前述のコンピレーションでデビューを飾ることになる。

本作の内容はというと、"Spirit of 76"同様アーシーなポップ・ソングがぎっしり詰め込まれており、完成度は高い。ポップというよりも王道アメリカン・ロックと言うべき風格も感じられ、トム・ペティ、後期リプレイスメンツ、ジン・ブロッサムズらに共通する、ルーツ風味を効かせた痛快なナンバーの数々は、メジャーで活躍できるパワーと魅力を兼ね備えている。今はしがない自主製作だが、やがてビッグな存在になったとしても、まったく不思議はない。むしろメジャーはこういうバンドとさっさと契約して、売り出すべきだと思う(きっと売れないだろうけどね)。

プロデュースのジャスティン・ニーバンクは、ジェイソン&スコーチャーズやクリス・マッケイのエンジニアとしてならした後、フレディ・ジョンズ・バンド、イアン・ムーア、マイティ・ジョー・プラムなど、ブルース/サザン・ロック系の泥臭いバンドからトリップ・シェイクスピアのようなポップ・バンドまで幅広く手がけており、彼らのようにアーシーかつポップなバンドには適任と言っていいだろう。


Graverobbers/Between the Devil and the Deep Blue Sea(Safari/007)★★★☆

レイヨン・シティ・カルテットを少し軽くして、コステロをふりかけたようなルーツ・ポップ・バンド。ケヴィン・ジョンソンとも仲のいいカール・ストラウブを中心としたヴァージニア州の4人組だが、アルバムはこれでもう3枚目になる。僕は1stしか持っていないが、それと比べると本作は全体的にシンプルになり、ちょっと泣きの入ったメロディー・センスは鋭さを増しているような気がする(特に"Tonight"は絶品)。

僕はMilesで購入しましたが、ケヴィン・ジョンソンを出しているサム・レコードのサイトで扱っています。ただ、これは漠然とした感想ですが、この手のルーツ・ロック+ポップという音は、オルタナ・カントリーの中でも評価が低いような気がします(気のせい?)。ポップと言い切るにはアーシーで、ルーツと言い切るにはポップすぎる、要するにどちらともつかない中途半端な部分が敬遠されるのかもしれません。でも、個人的にはその間に位置するようなバンドに共感度大なので、このグレイヴラバーズやレイヨン・シティ・カルテット、さらにはバズ・ジーマー、トッド・ニューマンあたりには頑張ってほしいものです。


Cultivators/Mama's Kitchen(Hayden's Ferry/9901)★★★☆

ミネアポリスのオルタナ・カントリー/ルーツ・ポップ・バンドによる2枚目。前作はダン・イズラエル&カルティヴェイターズ名義だったが、今回はバンド名だけになっている。音としてはグレイヴラバーズよりはルーツ度が高く、曲によってはカントリーやトラッドの風味が強い。ディランっぽいダミ声のヴォーカルからするともっと年季の入ったバンドかと思わせるが、リーダーのダンはまだ27才で、もともとミネアポリス近郊の出身。シカゴでキャリアをスタートさせ、その後オースティンに移り、92年にはPotter's Fieldというバンドを結成。96年にミネアポリスに戻るまではずっとオースティンで活躍していたというから、そちらのキャリアも結構長い。そう思って聞くと、南部の匂いが漂っているようにも思えるが、基本的にはギア・ダディーズやジェイホークスなど、ミネアポリスの新しい伝統を受け継ぐバンドとしての資質を強く感じる。先月取り上げたサイケイモアズ、それにビリーズ、スコット・ローレント、ベルウェザーなどと並ぶ有望株。

ゲストにクリスティン・ムーニー(ピーター・ヒメルマン、マーティン・ゼラーを始め、ウィリー・ワイズリー、マット・ウィルソンなどポップ系から前出のスコット・ローレント・バンドまで、ミネアポリス界隈ではあちこちで名前を見かける人気女性)、ジェフ・ヴィクター(ピーター・ヒメルマン・バンド)、マイク・ラッセル(ジョー・ヘンリー、ジェイホークス、ハニードッグスとの活動で知られ、現在はオリジナル・ハーモニー・クリークディッパーズのメンバー)などの名前があり、ミネアポリス・コネクションの一端がうかがえる。

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Rainravens/Rose of Jericho(Blue Rose/0084)★★★

オースティンの好バンドによる3枚目。今までと同じく、落ち着きのあるアーシーなサウンドを聴かせてくれる。前作の後、ギタリストとベーシストが脱退し、バンドとしては壊滅状態だったが、ヴォーカルのアンディ・ヴァン・ダイク、ドラムのハーブ・ベロフスキーの2人を中心に存続を図り、今回はガーフ・モリックス(g)、スティーヴ・メンデル(b)という強力な助っ人を用意して、新たなグルーヴを生み出すことに成功している。他にイアン・マクレガン、イアン・マシューズ、デイヴ・マクネイア(プロデュースも担当)と、オースティンのベテラン陣も参加。

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Troy Young Campbell/Man vs. Beast(M.Ray/13907-2)★★★

続いてオースティン勢をもう一人。ブルー・ローズ盤も出ているが、僕が買ったのはUS盤。80年代にはハイウェイメンを率いて活動し、90年代にはルーズ・ダイアモンズの中心人物として名前を知られていたトロイ・キャンベルの初ソロだ。澄んだ歌声と優しいメロディーが印象的な、しっとりとした感触の歌が11曲収められている。かなり地味ではあるが、思い切り和むには最適のアルバム。それにしてもこのジャケットはもう少し何とかならなかったのだろうか……(まるでパンクかハードコア・バンドみたい)。ミッチ・ワトキンス、ジョン・D・グレアム、パティ・グリフィンらがゲスト参加している。


Jon Dee Graham/Summerland(New West/NW6006)★★★

オースティン3連発の締めくくりは、ベテランのこの人にお願いしよう。ソロ2作目は、シェイヴァー、スティーヴン・ブルトンでお馴染みの新興レーベルからのリリースだ。凄みのあるがらがら声と、さりげないようでいて重みのある演奏は前作と変わりはない。レインレイヴンズやトロイ・キャンベルと同じような音を指向していても、貫禄が漂ってしまうのはやはり年の功だろうか。ただし、全体的にまとまりすぎというところに少々不満が残る。ファーストの"Soonday"のようにハードなナンバーが1,2曲あるとメリハリがついていいと思うのだが、それは今後のお楽しみということに。

4で印象的なヴォーカルを披露しているのは、レインレイヴンズのアルバムでも一緒に参加していたパティ・グリフィン。他にはトリシュ・マーフィーとケイシー・クロウリーもゲスト参加(?)。プロデュースとギター担当のマイク・ハードウィックは、デヴィッド・ハーリー、マイケル・フラカッソ、トリシュ・マーフィーなど、数多くのサポートで知られるギタリスト。

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John P.Strohm/Vestavia(Flat Earth/FLTCD113)★★★

ブレイク・ベイビーズ、アンテナを経て、ギター・ポップからルーツ・ロックに向かい、ようやくその才能が花開いた感のあるジョン・P・ストローム。前作はハロー・ストレンジャーズとしてのリリースだったが、今回はメンバーをがらりと変えて、エド・アッカーソン、ピーター・アンダーソンらによるサポートを除くと、ほとんどの演奏を一人で手がけている。ルーツ・ロックを基本にして、ポップ・テイストをまぶした作風は相変わらずだが、前作にあったバンド・サウンドの厚みは薄くなり、その分スタジオで作りこんだポップ的なアプローチが目立っている。ビートルズを思わせる2がいい例だろう。個人的には前作の方が気に入っているが、これはこれで狙いは悪くない。

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Joe Henry/Fuse(Mammoth/35498-0190-2)★★

実は「トランポリンズ」が僕にはもう一つだったのだが、今回もあまりピンと来ない。例えば7みたいなビートが出てくると、僕はもうそれだけで聞く気がなくなってしまうという偏見に満ちた人間なのだ。過去の作品で好きなのは「Short Man's Room」(92年)か「Kindness of the World」(93年)ということになるので、いけないとは思いつつ、ついあの頃の音を追い求めてしまうのである。まあ、アーティストの変化についていけない、悪いファンの典型ということで、お許しを。


Bill Lloyd/Standing on the Shoulders of Giants(Koch/8035)★★★

ソロ3作目。期待の割にはもう一つ、というのが正直な感想。僕にとってはファーストの印象が強すぎて、どうしてもそれと比べてしまうため、単純に新作最高と言い切れないもどかしさが残る。それをねじふせるだけのパワーは、もう求めてはいけないのだろうか。でも、繰り返し聴いていると段々よくなってきた。タイトル・トラックは何でもアイザック・ニュートンの言葉「もし私が他の人より少し先を見ることができるとしたら、それは私が巨人の肩に乗っているからだ」からとったのだという。

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Gladhands/Wow and Flutter(Big Deal;Victor/VICP-60657)★★★☆

日本先行でリリースされた3枚目。ビッグ・ディールは現在配給先の問題から活動停止中で、今回は日本との契約があったため、たまたまリリースができたのだが、向こうではアーティストへの連絡も何もなく、グラッドハンズもベアリー・ピンクも当然のことながら相当怒っている。ほんと、これが買えるのは今日本だけなんだから、みなさん感謝して聞きましょう。内容はというと、今までのひねくれポップ・センスにさらに磨きがかかり、ヴァラエティに富んだ曲をうまくまとめた好盤です。日本盤にはチープ・トリック「Southern Girls」とパイロット「Magic」のカヴァー付き。同時発売の2作目「La Di Da」もいいですよ(こちらはヴァン・デューレンのカヴァーを2曲追加収録)。

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Tearaways/In Your Ear(Pinch Hit/PHR-038)★★☆

カリフォルニアのパワー・ポップ・バンドによる待望の3作目。ファーストに続いてアール・マンキーのプロデュースだが、ファーストほどふっきれていないし、メロディの切れも今一つ。一番良くないのは、個人的にメジャー路線に走りすぎと思っているセカンドからのナンバーを4曲も収録しているところ。ファン・サービスのつもりかもしれないが、これはファンなら逆にうれしくないような気がする。せめて録音をやり直すとかできなかったのかな。

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