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2/1 - 2/28

Kelly Willis/What I Deserve(Ryko/RCD10458)★★★★

 期待通りの傑作。オースティンではロイド・メイネスと並んで信頼度抜群のデイヴ・マクネイア(ジミー・デイル・ギルモア、マイケル・フラカッソ、モンテ・ウォーデン等の渋めアーティスト、さらにはケイシー・クロウリーやトリシュ・マーフィーのような女性シンガーものからシルヴァー・スクーターのようなギター・ポップまで、幅広く手がけている)による的確なプロデュース、堅実なサポート陣(チャック・プロフィット、夫のブルース・ロビソン、その兄、チャーリー・ロビソン、ジョン・D・グレアム等)も申し分なく、ケリーの素朴で可憐な魅力がうまく引き出されている。ゲイリー・ローリス(ジェイホークス)との共作、ニック・ドレイク、ポール・ウェスターバーグ、チャック・プロフィット&ダン・ペンのナンバーを収録し、何かと話題の多い一枚。


Cesar Rosas/Soul Disguise(Ryko/RCD10459)★★★☆

 ロス・ロボスのメンバーによる初ソロ。初期ロス・ロボスが持っていた痛快なロックンロールやテックス・メックス色を強く打ち出している。近年の作品もあれはあれで面白いのだが、多くの批評家のように絶賛する気にはなれなかったので、こういう作品は大歓迎だ。


Steve Earle & Del McCoury Band/The Mountain(E-Squared/1064-2)★★★☆

 「エル・コラゾン」収録の"I still Carry You Around"を発展させてまるまる1枚アルバムを作ってしまったスティーヴ・アールとデル・マッコーリー・バンド。たまたま中古屋で見かけて買ってみたデル・マッコーリー・バンドの92年作にはスティーヴ・アールのカヴァーが収録されており、「エル・コラゾン」以前から両者につながりがあったことがわかる。個人的にはブルーグラスって独特のアクが今一つ好きになれなかったし、初めて聴いてみたデル・マッコーリー・バンドにしてもやはり僕にはあまり馴染めなかったことは正直に告白しておきたい。でも、今回のアルバムにそういった違和感を感じることはほとんどなかったのは何故だろう。確かにブルーグラスなんだけど、それ以外の要素も入っているからだろうか。単に僕がスティーヴ・アールのファンだからというだけでなく、そこには何かがありそうなのだが、うまく説明できない。この追求は今後の個人的課題だな。


Paul Westerberg/Suicaine Gratifaction(Capitol;Toshiba-EMI/TOCP65146)★★★☆

 ソロ3作目。今までの中では一番シンプルな作品だし、ピアノの弾き語りによる落ちついたナンバーなど、意外な部分も多い。その一方、要所要所にハードなナンバーも用意され、ヴァラエティに富んだ作りが単調さに陥ることを防いでいる。1枚通して聴けば、今のポールのシリアスな姿が浮かび上がり、なかなか感動的なアルバムだ。ベスト・トラックは"Best Thing That Never Happened"。これを自信過剰な男の歌と思ってはいけないのであって、ふられた男が「おれは最高なのに」と強がりを言っているだけなのだ。こういうやせかまんに魅力を感じるか、情けないと思うか、そこに評価の分かれ目があるような気がする。


Sycamores/Realizer(Veto/VR1010)★★★☆

 ぶっきらぼうなロックンロール・テイストを持つオルタナ・カントリー・バンドによる3枚目。ちょっと大人しめだが、いかにもミネアポリス出身らしい野暮ったさはずばり好み。ランク・ストレンジャーズのマイク・ウィスティがプロデュースを担当し、ミネアポリス・コネクションの一端がうかがえるのも面白い。いささか乱暴だが、ビリーズ、ベルウェザー、アメリカン・ペイント、カルティヴェイターズ、スコット・ローレント、パトリック・タナー、そしてこのサイケイモアズといったあたりをポスト・シェイホークス/ギア・ダディーズというまとめ方をしてしまうことも可能だろう。


Mayflies USA/Summertown(Yep Roc/2011)★★★☆

 チャペル・ヒルから登場した有望新人。Yep Rocのイメージ(南部のオル・カン・シーンをまとめた好オムニバス「Revival」シリーズ、マーキュリー・ダイム、トゥー・ダラー・ピスルズ等)からすると意外なほどストレートでドリーミーなポップ・バンドだ。ビートルズやビッグ・スターを思わせる曲作りはなかなかのものだし、ハーモニーもばっちり。メンバー4人中3人がヴォーカルを取れるっていうのは強みだね。写真を見るとまだ若そうだし、これからに期待大。プロデュースは最近グローリー・ファウンテン、ガンプション、ドールフル・ライオンズ、ウィスキータウン、フラット・デュオ・ジェッツなど、地元バンドのプッシュに余念のないクリス・ステイミーが担当。

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Gigolo Aunts/Minor Chords and Major Themes(E Plunbus Unum/EPUD41206)★★★☆

 間にEPはあったけれど、随分久しぶりのフル・アルバム。ストレートでパワフルなギター・ポップのお手本とも言うべき王道を行く音作りはさすが。マイク・デネーンのプロデュース作って基本的にひねりすぎって印象が強いのだが、素材次第でよくも悪くもなるのだということを実感させられた。


Umajets/Swollen and Tender(Victor/VICP-60581)★★★☆

 2枚目。前作よりもずっとフォーク・テイストが強まり、賛否両論あるでしょうが、僕はこちらの方が好き。


King Radio/Mr.K Is Dead Go Home(Tar Hut/0005)★★★☆

 アングリー・ジョニー、ロンサム・ブラザーズなどでお馴染み、最近ではレイ・メイソンのトリビュート盤が話題になったマサチューセッツのインディー・レーベルから届いた新作が2枚。

 キング・レディオは、スカッド・マウンテン・ボーイズのツアーでベースを担当したことのあるフランク・パデラーロを中心にしたボストンのバンド。これがデビュー作。枯れた味のルーツ・ポップを基本にしながら、ところどころブラスをフィーチャーしてノスタルジックな味を強めてみたり、60年代ガレージ風のナンバーやピアノ・バラッドがあったり、結構いろいろな側面を持ったバンドだ。

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Martin's Folly/Man,It's Cold(Tar Hut/0006)★★★

 NYのバンドによる、96年の1stに続く2作目。エリック・アンベルのプロデュースにひかれて手にした前作はどこか中途半端な印象が残ったが、今回はまあまあ。全体的にはオルガンやホーンを使って、スワンプ・テイストを持った泥臭い路線を狙っている感じ。個人的にファンキーな曲が苦手なので、3よりは5のようにストレートなナンバーの方に親しみがわく。スローな曲も結構いい味出してます。ペレ・ウブのトニー・マイモーンがゲスト参加。


Damnations TX/Half Mad Moon(Sire/31031)★★★

 女性2人、男性2人のオルタナ・カントリー・バンド(フロム・オースティン)。親父のダミ声が多いオルカン・バンドの中では女性2人によるコーラスというのはなかなか新鮮でよい。ヘイゼルダインよりパワフルな分こちらの方が好きかも。プロデュースは元レイヴァーズのジョン・クロスリン。それにしてもサイアーはこれを出してティム・キャロルの新作を出さないとは、一体どうしたのだろう。

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Gourds/Ghosts of Hallelujah(Munich/MUSA506)★★★

 昨年のセカンド、EPに続く3枚目。1stと同じくオランダのレーベルからのリリースだ。2ndとEPを出していたウォーターメロンは最近名前を見ないけど、どうしたんだろう。一時はサイアーの配給で順調なリリースが続いていただけに、サイアーの動向と絡めて気になっているんだが……。それはともかく、内容的には従来の路線をキープし、好調を感じさせる仕上がり。ウィルコを脱退したマックス・ジョンストンも水を得た魚といった感じでフィドルを弾きまくっている。

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Jason Folkner/Can You Still Feel?(Elektra;Eastwest/AMCY-7003)★★★

 方向的にはこうなるのもわかるし、よくできたアルバムではあるけれど、個人的には前作の方が好き。オーヴァー・プロデュースと言うより、全体的に曲の出来がもう一つということが大きな理由である。


Sand Rubies/Release the Hounds(San Jacinto;Contingency/DRAM2032)★★★

 また出ました。過去の音源を集めた編集盤ですが、今回はカヴァーを中心にしています。トム・ペティに始まり、セインツ、ボブ・ディラン、ロッキー・エリクソン、ビートルズ、ニール・ヤング、レコーズ、ラブなど新旧取り混ぜ全12曲。やっぱりという確認と、あんな曲がという意外性の両方が楽しめます。


Poppy Nosh/Sour Apples(Tripper)★★☆

 ノース・キャロライナのパワー・ポップ・バンド、バルウィンケル・ガンジーの中心人物、ロナルド・タッカーがリチャード・フォルツと組んだ新バンドによる2枚目。60年代サイケを基本にして、カラフルで幻想的なポップ・サウンドを聴かせてくれる。個人的にサイケがそれほど好きではないため点は辛いが、好きな人にはたまらない音だろう。プロデュースはロナルドとリチャードが手がけているが、ミックスはウェス・ラショーが担当し、2曲がミッチ・イースターの録音である(ミッチはゲストでギター、ベースなども担当)。


Dave Schramm/Hammer and Nails(Blue Rose/0081)★★☆

 ソロとしてはリターン・トゥ・センダーの限定盤に続く2枚目。聴く前から予想していたように、前作同様の弾き語り路線。悪くはないが、まるまる1枚この調子だと音楽的な評価は低くなってしまう。こういうアルバムを楽しむには歌詞に目を向ける必要があるのだけど、読み込んでいる余裕がない。取りあえず、最後のインスト"Ragle Gumm"というタイトルは、P・K・ディック「時は乱れて」の主人公の名前であることを付け加えておこう(個人的にはディックの中ではそれほどの作品とは思わないが、「NW−SF」連載時に読み、サンリオSF文庫の第1回配本作品であることから、懐かしさでは群を抜いている作品。ちなみに個人的ディック・ベスト1は昔も今も「ユービック」です)。