最新レビュー


12/1 - 12/31


V.A./The Tom T.Hall Project(Sire/31039-2)

とにかく参加アーティストの豪華なこと。貫禄のジョニー・キャッシュに始まり、溌剌とした歌いっぷりが印象的なケリー・ウィリス、軽く流しながら重みを感じさせるリチャード・バックナー、正統的に迫るR.B.モリス、珍しくムードたっぷりのフリーディ・ジョンストンから、ジョニー・ポロンスキー、ロン・セクスミス、アイリス・デメント、シド・ストロー&スケルトンズ、ジョー・ヘンリー、マーク・オルソン&ヴィクトリア・ウィリアムズにいたるまで、最後まで気の抜けない強力なラインナップが楽しめる。面子だけで当然買いの1枚。

カントリー界ではかなり有名な人物であるトム・T・ホールですが、恥ずかしながらほとんど知らなかったので、これを機会に調べてみると、大体以下のような事実が判明しました。既にご存知の方は以下をとばして下さい。36年ケンタッキー生まれ。60年代前半にソングライターとして活躍を始め、ジョニー・ライトが歌った"ハロー・ヴェトナム"がカントリー・チャートのNo.1に。やがて自作曲を自分で歌うようになり、67年には"I Washed My Face in the Morning Dew"(ここではジョニー・キャッシュがカヴァー)がヒット。68年にはジェニー・C・ライリーの歌った"Happy Valley P.T.A."(ここではシド・ストローがカヴァー)がまたもNo.1。この後も自作曲を中心にヒット・チャートを賑わせ、70年代後半からは散文の執筆も手がけた。作風は「ミュージカル・ジャーナリズム」とも評されている。「実体験を対象とし、ヴィヴィッドなイメージと性格描写、見事に浮かび上がる日常の断片と、フレーズのユーモラスな展開で、彼はユニークな歌のカタログを作り上げた」(「カントリー・ミュージックの巨人」東亜音楽社刊より)

ジョン・ヘンリーは11才の頃、最初の「フェイヴァリット・ソング」がロジャー・ミラーとトム・T・ホールの曲だったとライナーで回想している。クロスビートのレビュー(吉本さん)によると、あの「心優しきニヒリスト」ヴォネガットもファンだったらしいし、こうなると歌詞の内容が知りたくなってきますね。無理を承知で言えば、対訳付きの国内盤を望みたいところ。


Beaver Nelson/The Last Hurrah(Freedom/FR1019)

Tim Easton/Special 20(Heathen Records/HR1)

Neal Casal/Basement Dreams(Glitterhouse/no number)

この3枚についてはコンク・レコードのサイトでレビュー済み。新譜コーナーを参照して下さい。

Jim Cuddy/All in Time(WEA/CD2301)

ブルー・ロデオのメンバーによるソロ。詳しくはクロスビート3月号を参照のこと。

David Zollo/Uneasy Street(Trailer/12)

jem8号にインタビューを掲載したアイオワのネオ・ルーツ・ロッカー。ハイ・アンド・ロンサムを率いて既に3枚のアルバムをリリースしており、ソロ・アルバムもこれで2枚目になる。バンド同様、基本は70年代のストーンズを思わせるアーシーなロック。フィドルやスライド・ギターを大きくフィーチャーし、力強いうねりを感じさせるサウンドは相変わらず。また、トッド・スナイダーの新作にピアニストとしてゲスト参加していることからもわかるように、彼は基本的にギタリストではない。本作でも彼が演奏しているのはピアノやオルガンが中心であり、ギターは同郷の大先輩ボー・ラムジーやハイ・アンド・ロンサムのダーレン・マシューズにまかせている。キーボーディストのリーダー・アルバムとなると何となく妙技の披露だとか音の追究だとか、そういうエゴの突出した方向を連想しがちだが、彼の場合、鍵盤楽器はさりげなくアピールする程度にとどめ、全体的にはオーソドックスなバンド・サウンドでまとめ上げているところに好感が持てる。

Bob Egan/Bob Egan(no label)

ウィルコやフリークウォーターのサイドマンとして活躍していたスティール・ギタリストによるソロ・アルバム。完全に自主製作ながら自作曲のレベルは高く、想像以上の完成度だった。何と言っても特筆すべきはその歌声。といっても決して上手いわけではなく、ジョージ・ハリソン風のへたうま路線というか、どこか不安定な震えを持つ中に厚みを感じさせる、ちょっと不思議な魅力を持っている。ジーン・クラークにも似てるかな。さらにその歌声を生かす方向でまとめた簡素な演奏も素晴らしい。音の隙間から生々しさが匂い立ち、録音現場に立ち会っているような臨場感が感じられる。これはお薦めです。

Buttercup/Buttercup(Spirit of Orr/so15)

編集盤「Firewoks vol.2」でそのよさを知り、あわてて過去の2枚を購入したところ、セカンドの97年作「Love」がお気に入りとなり、繰り返し聴くことになってしまった、マサチューセッツ州のルーツ・ポップ・バンドから早くも新作が届いた。カントリー風味を強めたギター・ポップと言えそうなバンドの佇まいは素朴な味わいを増し、田舎臭さが一層強まっている。決して悪くはないのだが、前作が良すぎたせいか、ちょっと今回はそれほどのめり込めない。前作にあった躍動感をもう少し加えてくれるとよかったのだが...。次作に期待。

Patrik Tanner & the Faraway Men/Sparks Would Fly(Dark One/DO-0002)

スウェーデン生まれ、ミネアポリス在住のシンガーによるセカンド・ソロ。Milesのカタログでは、ビリーズやマーティン・ゼラーの名前が引き合いに出されていたので購入してみたのだが、いわゆる中西部バンドとはかなり毛色の異なるサウンドにびっくり。ビリーズのようなロック色はほとんどないし、最近のオルタナ・カントリーとは違って全体的にクリーンな音作りをしており、ぱっと聞いた感じではかなり主流派カントリーに近い感じを受けた。しかし、慣れてくるとこれが結構くせになる音だったのだ。普通この手のシンガーはタフなイメージにすり寄る結果、暑苦しくなりがちなのだが、彼の場合線の細さがいい方向に作用して、すっきりと軽く仕上げているため聞きやすく、フィドルを削ったシンプルなトリオ演奏にも無理がない。その上、泣きの入ったポップなメロディー・センスはかなりのもの(中でも5は名曲)。予想とは随分違ったが、これはこれで気に入った。前作も聞いてみよう。

The Webstirs/Rocket to the Moon(Ginger/GR4005)

シカゴのポップ・バンドによるセカンド。もともとはシャンペーンで別個に活動していたバンドのメンバーが集まって結成されたのだとか。かなり前に出回っていたようですが、聞き逃していた1枚。紹介が遅くなってしまいましたが、これは傑作です。正直言って前作はまだまだという感じでしたが、この新作ではよく練られた曲の旨みと確かな演奏の二拍子がそろっているだけでなく、くすぐり方が実に上手くなっており、二番せんじに陥ることなく、随所に過去のバンドの影(バーズ、クィーン、ビートルズ等)を感じさせつつ、その上でしっかりとしたオリジナリティを確立するという、なかなか難しい技をすっかり体得したようです。あと一ひねりあればという部分もありますが、ここまでやってくれれば取りあえず十分。最近のポップ・アルバムとしてはかなり印象に残るアルバムでした。

Evelyn Forever/Lost in the Supermarket(Airplay/TAL0027)

ニュー・ジャージーの注目新人によるセカンド。まだ習作という感じのファーストに比べると格段に成長の跡がうかがえる。まだ荒削りでどこか素人っぽさも残ってはいるが、それを補ってあまりある曲の魅力が爆発しており、これまた98年の収穫の一つと言えそう。「International Pop Overthrow」の冒頭を飾っていた"Magic of the Moment"も収録。もともとはこれを聴いてファンになってしまったのだが、アルバム全体としてはこの曲ほどひねりは少なく、もう少しストレートに迫る曲が多い。プロデュースはヘルス&ハピネス・ショウでお馴染みのトニー・シャナハン、エンジニアは元dB'sのジーン・ホルダー、というように地元の先輩から強力なバック・アップを受けているのも見逃せない。

Mark Bacino/Pop Job...the Long Player(Parasol/Par-cd-023)

NYのポップ・シンガーによるファースト。ウィリー・ワイズリーやマイケル・シェリーがゲスト参加している。甘いヴォーカルとキャッチーなメロディーを軸にして、ポップの王道をいくレベルの高い楽曲が並ぶあたり、新人離れした力量を感じさせる。スポンジトーンズとクリス・ヴォン・スナイダーンの間をいくような印象も受けた。曲の長さが平均2分半(一番長い曲でも2分51秒)というところはその長さでポップ・ソングが成立していた時代への郷愁、マージー・ビートへのこだわり、さらにはメロディーへの自負を物語っているかのようだ。小粒ながらも完成度の高い一枚。

V.A./It's Only A Dream(Medulla/MED037)

各人の見た夢を題材にした曲を他のシンガーが歌うというユニークな企画盤。参加メンバーがすごい。ジョージ・アッシャー、クリス・バトラー(ウェイトレスィズ)、リチャード・X・ヘイマン、リチャード・バロン(ボンゴス)、ジェイムズ・マストロ(ボンゴス、ヘルス&ハピネス・ショウ)、ローレン・アグネリ&デイヴ・レイヴ、エイミー・リグビー等、東海岸のポップ・アーティスト大集合といった感じだ。企画はどうやらプロデュースも担当したマーク・シジウィック[Mark Sidgwick]によるものらしく、ホーリー&ジ・イタリアンやハウス・オブ・アッシャー、自ら組んだイースタン・ブロックなど、長年の経験を生かした彼ならではの人脈と言えるだろう。

Doug Powell/Curiouser(Not Lame/NLL0004)

96年にマーキュリーからアルバム「Ballad of the Tin Men」を出していた、ナッシュヴィルのポップ・シンガーによる新作。「Nashpop」で一足先に披露されていた"Torn"も収録。インディー落ちとはいえ、基本路線に変わりはなく、ちょっとひねりの入った甘いポップ感覚を生かした好盤に仕上げられている。周到に練り上げられ、隅々まで気を配ったプロダクションといい、くっきりとしたメロディー・ラインといい、巧みなコーラス・ワークに張りのあるヴォーカルといい、この隙のなさはどう考えてもメジャー向きなのに、これがノット・レイムの限定版でしか出せないというのはどうにも解せない。もっと表舞台で勝負できる人だと思うのだが。

Darin/Solitarium(Copper/CPE2251)

オースティンのポップ・シンガーによるファースト・ソロ。実はこの人、以前アルバムを出している。オースティンで注目のルーツ系女性シンガー、トリシュ・マーフィーと組んだトリシュ&ダーリンとしてアルバム「Tongue & Groove」(Rehab Records/MURF911-2/年号不明)をリリースしているのだ。その頃はトリシュ・マーフィーの夫だったはずだが、今もそうなのかは不明(この新作にもトリシュ・マーフィーが1曲ゲスト参加している)。そのアルバムで聞かせていたオーソドックスなアメリカン・ロックはどうやらトリシュの趣味だったようで、このアルバムはコッパーからのリリースということからもわかるように、ポップな仕上がりを見せている。方向的にはブラッド・ジョーンズやロス・ライスの路線だが、部分的にアーシーな持ち味も顔をのぞかせているところがユニーク。やりたいことはわかるけど、もう一つかな。

(追記:あとからバイオを確認したところ、ダーリンはトリシュの兄弟だと書いてありました。以前どこかで夫だという話を聞いてずっと信じこんでいたんですが、やっぱりこういうことは確認してから書かないと駄目ですね。ここに訂正しておきます。)