最新レビュー


11/1 - 11/30


Scott Laurent Band/Better Off (Oar Fin/OAR49826)

少し前に出ていたようだが、買いのがしていた1枚。以前このコーナーでもファースト・アルバムをレビューしたことのある、ミネアポリスのオルタナ・カントリー・バンドによるセカンド・アルバムだ(1stのレビューはこちら)。そのときは爽やか路線という印象だったのが、セカンドでは随分とたくましくなっている。プロデューサーがトム・ハーバーズ(古くはソウル・アサイラム、ジェイホークス、ギア・ダディーズ、マグノリアス、ランク・ストレンジャーズ、最近ではハニードッグス、シヴァーズ、アメリカン・ペイントなど、ミネソタの重要バンドを数多く手がける)に変わったことが一つの原因かもしれない。ラウドで粗雑な音を自在に使いこなしながら整合性を心がけ、手堅くまとめていくのは、トム・ハーバーズの最も得意とする手法の一つだし、新作のサウンドは彼の手がけたギア・ダディーズやハニードッグスを強く連想させる。しかし、一方でこの変化はバンド自身の成長の結果でもあるはずだ。サウンドはもちろん、ゆったりとしたうねりと激しさを兼ね備えたスコット・ローレントのソングライティングは、もともと十分な才能を感じさせたが、さらにスケール・アップしており、2作目にして早くも大物の風格を漂わせつつあるほど。また一つ、中西部に見逃せないバンドが増えたことは間違いない。

Tom Freund/North American Long Weekland (Red Ant/63291-12308-2)

ジャズ・ベーシストからSSWに転身したという変わり種シンガーによるデビュー作。94年頃からサイロズと活動を共にしていたので、名前は知っていたが、彼自身の歌を聞くのは初めてだ。なるほどジャージーな雰囲気があちこちに感じられる。ただしあくまで基本は歌にあり、曲によってはグレッグ・リーズのペダル・スティールが前面に出たりして、それほどジャズ色は強くはない。全体に漂う落ち着きと、洗練されたルーツ風味は、プロデュースを手がけたマーヴィン(元ローン・ジャスティス、ソロも3枚ほど出している)の功績か。Pulseの紹介記事でも名前が挙げられていたが、やはりトム・ウェイツあたりに資質は近いのだろう。ピアノとストリングスを効果的に使った5などを聞くと、ランディ・ニューマンの影響なども感じさせる。ハードボイルドがよく似合いそうな音楽で、それほど好みの分野ではないが、完成度の高い、大人のアルバムといえそうだ。ジャズ畑からハモンドの名手、ジミー・スミスが参加。他のゲストには、このところあちこちで名前を見かけるラミ・ジャフェ、お馴染みジョン・ブライオン、クリス・マッケイ等の名前がある。ビートルズ"Cry Baby Cry"のカヴァーあり。

Carlo Nuccio/Loose Strings (Monkey Hill/MON8139-2)

やっと出ましたね。コンチネンタル・ドリフターズを脱退してしまった創始者、カルロ・ヌッチオ(ヌッシオ?)による初ソロ・アルバム。そもそも、コンチネンタル・ドリフターズは92年頃、カルロとレイ・ガヌシューの2人を中心に結成され、ピーター・ホルサップル、ゲイリー・イートン、マーク・ウォルトンらが初期のメンバーだった(カルロは同時期に、スティーヴン・ロバック率いるヴィヴァ・サターンでもドラムを担当している)。当時SOLから出ていたシングルを聞くとこのバンド、今と違って最初はかなり南部志向が強かったことが分かる。その後レイとゲイリーが抜け、ずっと協力してきたスーザン・カウシル、ヴィッキー・ピーターソンの女性コンビが正式に加入。94年と98年に2枚のアルバムを出しているが、セカンドの制作前にカルロは脱退している。少なくとも1stの時点では自作曲を2曲提供し(他のメンバーは全員1曲ずつ)、間違いなくバンドのリーダー的存在だったはずなのに、何故脱退してしまったのかはよくわからない。アルバムのサザン・ポップ風味が彼からすると甘すぎたということだったのだろうか。確かにカルロの持つ泥臭さは、コンチネンタル・ドリフターズがセカンドで見せた英国風の音楽性とはかなり趣きが違うようにも見えるが、実はそれほど大きな溝はない。となると、やはり人間関係か。

それはともかく、ソロ・アルバムである。スワンプというほどずぶずぶではなく、バンド・サウンドよりはあくまで個人を重視。予想通り南部風味を効かせたシンガー・ソングライター的なアルバムに仕上げられている。かといって全編弾き語りというわけではなくて、ほとんどの曲でバジー・ラングフォードのエレクトリック・ギターをフィーチャーし、単調にはなっていない。ディランがもっとドスをきかせたようなダミ声は、1枚通して聞くとつらいのではと思っていたが、実際は曲によって軽めに歌っており、結構ヴァラエティに富んだアルバムだ。オルガンでボブ・アンドリュースも参加している。


Cry Cry Cry/Cry Cry Cry (Razor & Tie/7930182840-2)

ダー・ウィリアムズ、ルーシー・カプランスキー、リチャード・シンデルの3人によるスペシャル・ユニットによるカヴァー集。東海岸のフォーク・サーキットでは有名な3人で、ルーシー・カプランスキーについては今年P−ヴァインから国内盤も出ている。80年代カレッジ・ロックをフォークに翻案する試みとしては、成功しているかどうかは別として、R.E.M.の名曲"Fall on Me"が興味深い。同じような例としてはショーン・コルヴィンが「カヴァー・ガール」で取り上げていたポリスがあり、メジャー、インディー取り混ぜて、80年代のロックがそろそろスタンダード化しつつある時代なのかな、という印象を持った。もちろん、これは個人的に僕が一番共感できたのがこの曲だったというだけの話で、アルバム全体の視野はもっと幅広く、ロバート・アール・キーン、グレッグ・ブラウン、レスリー・スミス、ジュリー・ミラー、ロン・セクスミスなどの曲を取り上げている。それぞれのサイトは下記の通り。

Cry Cry Cry
Dar Williams
Richard Shindell


Gourds/Gogiitchyershinebox (Watermelon/10071)

ダグ・サームの新作でも数曲バッキングを担当しているという、オースティン期待の新人による新作EP。スタジオ録音3曲とライブ5曲を収録しているが、何と言っても、まずは1曲目の"Ziggy Stardust"(デヴィッド・ボウイ)カヴァーの面白さに注目だろう。往年のグラム・ロック・ファンが聞いたら卒倒しそうな、本格的ルーツ・ヴァージョンだ。でも、パロディという雰囲気はあまりなくて、あくまで真面目にやっているところが逆におかしい。2曲目はスヌープ・ドギー・ドッグのナンバー(?)。3曲目は今年のセカンド収録曲だ。

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Hayseed/Melic (Watermelon/11074)

フィドルやマンドリンを多用した、ナッシュヴィルのルーツ・シンガー。小太り、丸眼鏡の人の良さそうなルックスからも想像できる、まろやかで温もりのあるヒルビリー風の曲を、味のある歌声で聞かせてくれる。ルシンダ・ウィリアムズ、ジョイ・リン・ホワイトらがゲスト参加。

Flat Duo Jets/Lucky Eye (Outpost/CPRD-30033)

クリス・ステイミーとスコット・リットがプロデュース(クリスはベースも担当している)というので、ためらわずに購入。ノース・キャロライナを拠点に80年代から活躍するルーツ・ロッカー、デクスター・ロムウェバー(古くはLet's ActiveやSnatches of Pink、最近ではClarissaのメンバー、サラ・ロムウェバーとは兄妹、または姉弟)とクロウの2人によるユニットのメジャー移籍第1作。僕が唯一持っている旧作「White Trees」(Sky/93年)では、ロカビリー、ヒルビリーを基本にして、ガレージやオールディーズのスパイスをふりかけたような作風だったが、本作はもう少し落ちついた音になっている...と書こうとして両方とも聞き直してみたら、そんなに変わってないじゃないの。記憶はやっぱり当てにならないね。貫禄が付いた分、ヴォーカルの迫力は「White Trees」を上回っている印象すらある。録音がクリアなだけに、余計それが目立っているのかも。

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Lindisfarne/Here Comes the Neighbourhood (Park/PRKCD47)

シド・グリフィンがプロデュースと聞き、ためらわずに購入。70年代から活動するイギリスのフォーク・バンド。恥ずかしながら初めて聞きましたが、ほのぼのしていて、思ったほどトラッド色もきつくなく、ずばり好みの音でした。この分野も奥が深そうだから、あまり手を出さないようにしていたのだが、やはり押さえておかないと駄目か。取りあえずベスト盤を聞いてみたら、ますますよかったので、これはまずいと思う今日この頃。

Kelly Affair/Welcome...to the Kelly Afair (Not Lame/NL-043)
Miracle Blur/Life on Planet Eartsnop (Not Lame/NL-044)
Frank Bango/Fugitive Girls (Not Lame/NL-045)
V.A./Nashpop (Not Lame/NLL-046)
Starbelly/Lemon Fresh (Not Lame/NLL-003)
Wanderlust/Wanderlust (Not Lame/NLL-005)

このところ紙のカタログは発行せず、ホームページとe-mailの案内により販売業務を行っているNot Lame。今年はむしろレーベル運営の方に力を入れており、Mark Johnsonくらいしか本欄では取り上げてこなかったが、Frank Bangoの新作が届いたついでに、少し古いものも含めて今年のリリースをまとめておこう(Starbellyだけは笠島さんからお借りしました。感謝)。

まず、ケリー・アフェアーはカナダのポップ・バンド。最近はベアネイキッド・レイディーズやスローンのブレイクで、カナダがもっと注目を浴びるかと思っていたら、なかなか他のバンドまではみなさん手が回らないようで。ちなみに個人的に注目したいカナダのバンドといえば、筆頭にあげたいのがナインズ、クール・ブルー・ハローの2組。あとロズウェルズとブラウン・アイド・スーザンもいい線いってるかな。もっと遡れば、パースートゥ・オブ・ハピネス、54-40、オッズ、Jr.ゴーン・ワイルドなどなど、ポップ系にもいいバンドがたくさんあるので、余計なお世話でしょうが、スローン最高と言っている人たちは、もう少し他のバンドにも注目してみるとよいのではないかと思います。スローンもスーパー・フレンズもザンパノも悪くはないけれど、前述のバンドと比べると、どうも過大評価されている気がしてならない。特にスローンの1stや2ndなんて、それほどの出来とは僕には思えないのだが。

というあたりで話を元に戻すと、このケリー・アフェアーも僕にはもう一つだった。サイケっぽいギター・ポップという狙いはわかるし、2曲目のようにそれなりの曲もあるけれど、どうもメロディーの切れが鈍く、あと少しでかゆいところに手が届くという中途半端な印象を受けた。要するに雰囲気ばかり先行してしまって、曲が後からついてきている感じを受けるのだ。ただ、決して嫌いな音ではないので、今後に期待したい。

ミラクル・ブラーは今年ビッグ・ディールからセカンドをリリースしたラブ・ナットのメンバー、アンディ・ボップによるプロジェクトだ。実はラブ・ナットは1stのガレージ風味にちょっと馴染めず、中古屋に売ってしまった覚えがある。そんなわけで、さほど期待せずに聞いてみたら、こちらはビートルズを相当意識した(特に8曲目)、メロディー重視のポップなアルバムで、かなり気に入った。録音がちょっと粗いのは玉にきずだが、バンドでもこれをやればいいのに、というのはファンのわがままですね。今回紹介する中ではこれが一番お薦め。

ミラクル・ブラーの次にプッシュしたいのがこのアルバムだ。フランク・バンゴは以前「I Set Myself On Fire Today」(POS;Upstart Agency/7777)というアルバムをリリースしていたニュー・ジャージーのポップ・アーティスト。前作はそれなりの出来だったが、全体的にはまだぎこちなさも残っていた。マイケル・クエシオ風、コステロ風という評にはうなずけるものの、どうもそれ以上訴えてくるものがなかった記憶がある。今聞き直しても、その印象はそれほど変わらない。しかし、まだどこか中途半端な部分を残しつつ、この新作ではかなり成長の跡がうかがえる。ゆったりとしたテンポの中に瑞々しいメロディーが息づく1やストリングスが効果的な11、そしてコステロから出発し、師匠を越えたとでも言えそうな、エモーショナルで美しいポップ・ソング、12(これは名曲!)など、曲のクォリティは一段と高まり、演奏にも厚みが出てきたように思う。頼りなげなヴォーカルにも前作以上に表情が感じられ、一人のシンガーとして個性を確立した1枚といえそう。

「ナッシュポップ」はタイトル通りナッシュヴィルのポップ派を集めた編集盤。ビル・ロイド、フー・ヒット・ジョン、スワン・ダイブ、シャザム、ミラード・パワーズとオウズリーの2人(どちらもセマンティックス)、ダグ・パウエル、ニールソン・ハバード、ロス・ライスなどはいずれも既にアルバムをリリースしていて、熱心なファンにはお馴染みの顔ぶれ。今後のリリースが待たれるのは、Idle Jets, Luxury Liners, Rayon City Quartet, John Keaney, SWAGなど(既にデビュー済みだったらごめんなさい)。ベストを選ぼうと思ったけど、どれも佳曲ばかりで実に選びにくい。あえて未知のバンドの中から挙げれば、Idle JetsとSWAGかな。

続いては限定版を2枚。スターベリーは、ジェイソン・フォークナーのマネージメントを手がけるゼロ・マネージメントが新たに送り出した3人組。プロデュースをアンディ・ボップ(ミラクル・ブラー、ラブ・ナット)が手がけている。内容はまあ、ヴェルヴェット・クラッシュ+サイケといった感じ。水準はクリアしているが、可もなく不可もなく。ワンダーラストは、ハードでグラマラスなサウンドをメインにしながら、コーラスを重視したメロディアスな曲作りで注目を集め、95年にRCAから「Prize」でメジャー・デビューを飾ったペンシルヴァニアの4人組。分厚いギターの音色と重めの演奏はレッド・クロスを連想させるが(1曲目なんて「サード・アイ」に収録されていてもおかしくない、ビートルズ/バブルガム風ハード・ポップだ)、ちょっとブリティッシュ・ハード・ロック、サイケ風味も入っているところがポイント。ただ基本はあくまでポップなので、ご安心を。前作より確実に出来はいい。これもお薦め。

なお、ノット・レイムは今年、Mockingbirdsの96年作も限定版で再発している(NLL-002)。これはマシュー・スウィートが絡んでいるため話題になったようだが、個人的にはもう一つのめり込めなかった。Chevellesのアルバムは未入手。来年はドゥワイト・トゥイリとポウジーズの未発表曲集を出す予定らしいが、ずっと前から予告されているRooksはどうなったのやら。

ここで紹介したCDの詳細はこちら


The Grip Weeds/The Sound Is In You (Buy or Die/BOD9817-2)

ルークスで思い出したが、ルークスのギタリストでもあるクリスティン・ピネルが参加しているNYのサイケ・ポップ・バンドから新作が届いている。中心であるレイル兄弟の曲作りは前作同様、サイケ風味の効いたポップ・ソングが基本だが、今回は前作よりもパワフルになった上、ポップな味わいが強まり、かなり好みの音になっている。ちなみに、Buy or Dieはグレアム・パーカーへのトリビュート盤やニール・キャサルのアルバムでお馴染みのインディー・レーベル。

バンドのサイトはこちら


V.A./Unsound vol.1:Pop! (To M'lou Music/PIG-3)
V.A./Fire Works Vol.2 (Sound Asleep/ZZZ006)

この2枚については、既にレビュー済(コンク・レコードの新譜コーナーを参照のこと)。後者は今年の編集盤の中ではピカ一の出来。ここで聞かなければ、Buttercupもこのまま見過ごして終わるところだった(この後入手した、Buttercupの97年作「Love」はルーツ・ポップの名盤と言うべき傑作。もっと早く聞いておくべきでした)。

Robert Crenshaw/Robert Crenshaw(Sound Asleep/ZZZ007)

「Fire Works」と同じスウェーデンのレーベルがリリースした、待望のフル・アルバム。ロバート・クレンショウは名前でお分かりのように、マーシャル・クレンショウの弟である。80年代にはマーシャルのバンドでドラムを担当していた経歴を持つ。本作は初めてのソロ作で、編集盤「Fire Works vol.1」に収録されていた"All I Want To Do Is Be with You"と"Put the Bottle Down"も含んだ10曲を収録(「Hit the Hay vol.2」収録の"Blue Sometimes"は収録されていない)。全体的には期待していたよりもおとなしめの印象だが、兄譲りとしか思えない曲作りの才能は十分発揮されている。これまで発表された曲にもあったオールディーズ風味に加えて、それほど顕著ではなかったA&Mポップスへの傾倒が強く示されているのも特徴だろうか。極めつけはずばり、バカラックのカヴァー"This Guy's in Love with You"。お洒落なアルバムとして売り込めば、結構日本で受けるかもしれない。もっともそのためには、あの刺青ジャケットを変更する必要があるが。

V.A./A Christmas to Remember(Velvel/63467-79759-2)

クリスマス・ソング集。Velvel所属アーティストにこだわらず、全米各地から13組を収録。スミザリーンズ、アラームなど80年代組からミッシェル・マローン、ジル・ソビュール、タラ・マクラクランなどの女性シンガー、ニール・カサル、ローエン&ナヴァロなどのナチュラル派、オースティンの骨太ギタリスト、イアン・ムーア、Todd Thibaud、ヘルス&ハピネス・ショウ("Jesus Chrsit"カヴァー!)などのアーシー組まで、結構マニアックな人選にはニヤリとさせられる。中でも話題なのはジン・ブロッサムズ分裂後の新バンド、Lo-Watt(Jesse ValenzuelaとPhillip Rhodesの方ね)の収録だろう。収録曲"Christmas Time"は予想を裏切らないジン・ブロッサムズ・タイプのギター・ポップ・ナンバーで、来年のアルバムに今から期待が高まる。