最新レビュー


10/1 - 10/31


Son Volt/Wide Swing Tremolo(Warner Bros./9 47059-2)

リハーサル・ルームで録音され、リラックスした中にも緊張感の漂う3枚目。音楽的には2曲のインストや1曲目のオルタナ風味を強めたサウンドなど、一部意欲的な試みもあるが、全体的には大きな変化はない。その代わり歌詞を見ると、相変わらず意味ありげなつぶやきが大半を占める中、今までに比べて、外に向けられた内容が目に付く。「日照りや氾濫の日は来るよ/浸透されない公開/仮面などつけず出発する」("Medecine Hat"国内盤対訳より)というようなフレーズは代表的なものだろう。後半、多義性に満ちた言葉で読者を煙に巻くあたり、凡百のアジテーションと一線を画しているのは間違いないが、警句めいた冒頭に似た部分は他の歌詞にも顔をのぞかせている。「汚れた水は血とまざるだろうか」("Dead Man's Clothes")、「はっきりとした解決のために犠牲にする安全」("Hanging Blue Side")などなど。

ジェイ・ファーラー本人は新作の歌詞について、「今回は無意識のうちに環境問題についての歌詞が多くなったんじゃないかな」と言っている。もちろん「無意識のうちに」というのがポイントで、混沌とした独白の中にふとこぼれおちる言葉の方が、世間に横行する偽善に満ちたキャンペーンよりずっと本質を言い当てていることは言うまでもない。ついでに言っておくと、偽善や権威、政治家や宗教家の使うまやかしといった類への風刺は昔からロックの得意技の一つだが、ジェイはこの方面でもさりげなく才能を発揮している。最後に僕のお気に入りの一節を紹介しておこう。

「百万のドリームデイを泳いだ/服役した神々と握手をした/ディスプレイのそばで待っていたけど/啓示など見えなかった」("Blind Hope")

リットーの新雑誌「Lost & Found」(12月15日発売、売り切れでなければ今も普通のお店で買えるはず)で、ジェイ・ファーラーにインタビューをさせていただいたので、一度ご覧下さい。文字オンリーというあまりに個性的な表紙ゆえ、店頭で見かけても素通りしてしまう可能性が高い雑誌ですが、「スライド・エリア」と題して、新旧のスライド・ギタリストを徹底追及した内容は充実してます。


Golden Smog/Weird Tales(Ryko/Video Arts/VACK-1153)

一般的に言ってどの程度知名度があるのかは知らないが、「ウィアード・テイルズ」と言えば、ラブクラフト、初期ブラッドベリでお馴染みのパルプ怪奇小説誌であり、中学から大学までSFにのめり込んでいた僕にとっては、忘れようにも忘れられない雑誌の一つだ。もっとも内容よりも野田さんの紹介(「SF考古館」「SFパノラマ館」、70年代末のSFマガジン等)で触れることの出来たコレクターズ・アイテムとしてのエピソードやイラストの印象が大きいのだが。マーガレット・ブランテージ、ハネス・ボク、それに何と言ってもヴァージル・フィンレイ(!)など、この雑誌で活躍していた名イラストレイターは数多く、そのまがまがしくアダルトなムードは、当時のSF少年たちに鮮烈な印象を残したものだった(まあ、フィンレイやボクはウィアード・テイルズだけでなく他誌のイメージも強いし、個性的すぎるので、本作では代表的なブランテージ路線でまとめている感じ。ただし、ブランテージよりイラストは上手い。ということは逆に言えば、味わいには欠ける)。このジャケットを見て最近とんとご無沙汰だった彼らの名前をひさしぶりに思い出してしまいましたよ。タイトル・ロゴを筆頭にジャケットも、中のイラストも、明らかにあの雑誌を意識したデザインで、一体誰のアイディアなのか、大いに気になっているところ。デザイン・コンセプトにはダン・マーフィー(ソウル・アサイラム)のクレジットがあるので、最初は彼のアイディアかと思ったのだが、アート・ディレクションと実際のイラストはDan Kahal(誰?)という人物が手がけており、実際はこの人の発案かもしれない。

内容と関係ない話になってしまいました。中身は前作同様落ちついたナンバーがメインで、素晴らしい出来映えを見せています。ビリー・ブラッグ&ウィルコや初期ジェイホークスが好きな人には絶対にお薦め。

なお、このバンドには珍しく国内サイトがあります。詳しい情報はこちら


Vic Chesnut/The Salesman & Bernadette(Pinnacle/PLRCD0011)

Pine Tops/Above Ground and Vertical(Soundproof;Monolyth/MCD1319)

この2枚についてはCB2月号のレビュー参照。一言だけ言っておくと、Pine Topsは最高でした。

Melissa Ferrick/Everything I Need(What Are Records?/WAR60033-2)

アトランティックとは契約切れのようで、新作は初耳のレーベルから。どこでも話題になっていないようなので、取り上げておく。最初に言っておくと、内容的にはそれほど大した出来ではないので、期待をしないように。90年代のオルタナ系女性シンガーとしては、シェルル・クロウよりはリズ・フェアーに近いのかな? でも、リズよりは正当派の音だよね。モリッシーの前座を務めて名前を知られるようになったという経歴を知っても、さほど興味はわかなかったのだが、数年前、デビュー・アルバムにピーター・ホルサップルが参加しているのを知って、急遽2枚とも購入。実際聞いてみても今一つピンと来ず、そのまま、どこにも紹介しなかった記憶がある。だから今回の新作がそれほど話題になっていないのもわからなくはない。

そんな印象に残っていないアーティストの新作をなぜまたもや購入してしまったのか? なぜ、わざわざ本欄で取り上げるのか? 実はそれにはわけがあり、ロブ・ロウファーが全面的に参加していることを知ったからだ。再度ゲストにつられてしまったわけで、このあたり何だかうまくのせられているような気もしないではない。しかし、ロブ・ロウファーの名前で大喜びする人もそれほどいないはずだから、決して商売上手とは言えないだろう。

では、ロブ・ロウファーとは何者なのか? 日本では全く無名の90年代シンガーの一人で、デビューは93年。当時「Yellow Pills」誌に「ビル・ロイド風、T−ボーン・バーネット風フォーク・ロック」という紹介があったので、アルバムを探し回り、偶然中古屋で入手した「Swimming Lesson」を聞いたのが、最初の出会いだった。実際聞いてみると、ビル・ロイドというよりはT−ボーン・バーネット、または渋めのピーター・ケイスといった感じで、ちょっと期待とは違ったが、これはこれで悪くない。気になっていたところにセカンド「Wonderwood」がリリースされる。1stの再録音を数曲含み、地味ながらもメロディー主体の正当派フォーク・ロック・アルバムとしてクォリティは高く、いずれjemで紹介しようと思いつつタイミングを逃してしまっていた人なのだ。その後アルバムこそリリースされていないものの、フィオナ・アップル(ジョン・ブライオンにつられて購入したものの、繰り返し聞く気にはなれず、なぜあんなに絶賛されているのか、よくわからない)のアルバムでもギターを弾いていた。他にも今回調べてみたら、96年から97年にかけて、Morris Tepper, Katell Keineg, Wally Brill(いずれも未聴)といった人たちのアルバムに参加し、最近はセッション・マンとして活躍しているようだ。

で、ようやく話はメリッサに戻るが、本作もロブとしては、セッション活動の一環として引き受けたのかもしれない(推測)。しかし、実際には共作、プロデュースも含めて、ギター、ベース、ピアノとほとんどの楽器を担当し、貢献度が高いのには驚いた。基本的にはメリッサの個性を尊重しながら、随所にロブらしいルーツっぽさが顔を出し、アルバムに味わいを付け足しているのも見逃せない。メリッサもクレジットで「あなたとその素晴らしい才能なしでは、このアルバムは始まらなかったでしょう」とロブに賛辞を送っており、名義はあくまでメリッサのものだが、今回は2人の合作と言っていい内容になっている。それぞれのディスコグラフィは下記の通り。今でも手にはいると思うので、メリッサには悪いけれど、本作よりもまずは「Wonderwood」から聞くことをお薦めしたい。

なお、ドラムはザッパやスティングとの活動でお馴染みのベテラン、ヴィニー・コリュータが担当。彼の持ち味である切れのあるドラミングが楽しめる。

Melissa Ferrick
1) Massive Blur(Atlantic/7 82502-2)93
2) Willing to Wait(Atlantic/7 82747-2)95

Rob Laufer
1) Swimming Lesson(Eye/E2201)93
2) Wonderwood(Discovery/77023)95


V-roys/All About Town(E Squared/1061-2)

待望の2作目。プロデュースは前作に続いてトゥワングトラスト・コンビ(スティーヴ・アールとレイ・ケネディ)が担当。前作も相当良かったけど、今回はそれを上回る出来映えだ。明快でパワフルな面と渋さがほどよく溶け合い、ロビー・ファルクスに比べるとねじれ加減は少ないものの、ストレートなロック・ファンにはたまらない仕上がり。痛快な1や3はバンドの勢いを感じさせるし、トラッドっぽい10はフーターズあたりを思い出させ、曲調も結構ヴァラエティに富んでいる。歌詞を抜きにして音だけ考えた場合、カントリー風味が弱い分、サン・ヴォルトの新作よりこちらの方が日本では受け入れられやすいかも。

Say Zuzu/Bull(Broken White/BW6001)

ニュー・ハンプシャーの4人組による4枚目。オーソドックスなオルタナ・カントリーがメインで、ずば抜けた個性はないとしても、地方をベースに地道な活動を展開している様子がうかがえ、こういう裾野を支えるバンドはずばり好みだ。以前はZuzu's Petalという名前で活動し、アルバムも2枚リリースしていたが、ミネアポリスの同名ガール・バンドとの混同を避けるために改名している。過去のアルバムはいずれもお薦め。1枚となると前作の「Take These Turns」だろうか。今回はそのアルバムと比べるとかなり穏やかになり、スピード感に欠けるのが少し残念。でも、いいバンドです。

1) Say Zu Zu EP(PP)95/EP
Say Zu Zu(PP/003D)96(Live Track付き再発)
2) Highway Signs & Driving Songs(PP/004D)95
3) Take These Turns(PP/005D)97


Sand Rubies/The Sidewinders Sessions(Contingency/1000)

Sand Rubies/Return of the Living Dead(San Jacinto;Contingency/DRAM2029)

97年には過去の秀作をさらに上回る傑作「Glorious Sound of...」をブルー・ローズからリリースし、その後同レーベルからライブも発表したリッチ・ホプキンスから、またも新作が...と思いきや、両方とも編集盤でした。どちらもミネアポリスの新興レーベルからのリリース。前者はRCA時代の音源で構成された普通のベスト盤で、サイドワインダーズ名義の「Witchdoctor」(89年)と「Auntie Ramo's Pool Hall」(90年)を持っていれば特に購入の必要はない。問題は後者。これはサンド・ルビーズ名義で93年にリリースされたアルバム「Sand Rubies」時の未発表曲を中心にした編集盤だが、実にレベルが高く、無難にまとめすぎていたアルバムより、こちらの方がずっと生々しく柔軟性に富んでいる。編集盤というよりも5年ぶりのセカンド・アルバムと言った方がふさわしい完成度の高さである。前作はつまらなかったという僕のような人こそ、このアルバムは聞いておくべきだ。J'anna Jacobsのヴァイオリン(クレジットには"天使のような"と但し書きがある)をフィーチャーした5が最高。デル・シャノンの"Stranger in Town"カヴァーもあり。

名前の面で混乱する人がいるだろうから、ここでもう一度まとめておくと、サイドワインダーズもサンド・ルビーズもメンバーは同じ。リッチ・ホプキンス(Rich Hopkins)とデヴィッド・スルーテス(David Slutes)を中心にしたバンドである。なんで名前を変えたのかはよく分からない。70年代に活躍した同名のサイドワインダーズ(アンディ・ペイリーも在籍したポップ・バンド)からクレームでもついたのだろうか。それに対して、ルミナリオスはリッチ一人のプロジェクトで、メンバーは流動的。いずれにしても、ニール・ヤング&クレイジー・ホースを思わせる音楽性はそれほど変わらず、デイヴがいるのかいないのかという点に最大の違いがある。ディスコグラフィは下記の通り。

Sidewinders/icuacha!(Diabollo;Demon)87 (San Jacinto)93
Sidewinders/Witchdoctor(RCA)89
Sidewinders/Auntie Ramo's Pool Hall(Mammoth;BMG)90
Rich Hopkins & Luminarios/Personality Crisis(House in Motion)92
Sand Rubies/Sand Rubies(Atlas)93
Rich Hopkins & Luminarios/Dirt Town(Brake Out;Enemy)94
Rich Hopkins/Paraguay(San Jacinto)95
Rich Hopkins & Luminarios/Dumpster of Love(San Jacinto)95
Sand Rubies/Live(San Jacinto)96
Rich Hopkins & Luminarios/El Paso(Blue Rose)96
Rich Hopkins & Luminarios/The Glorious Sounds of...(Blue Rose)97
Rich Hopkins & Luminarios/3000 Germans Can't Be Wrong(Live) (Blue Rose)98


George Usher/Dutch April(Parasol/Par-CD-045)

Sugarbuzz/Submerged(Parasol/Par-CD-034)

パラソルものをまとめて2枚。ジョージ・アッシャーは今年過去の作品をCD化したアルバムがスウェーデンでリリースされているが、こちらは正真正銘の新作。個性的なヴォーカルと曲作りは相変わらずだが、「Miracle School」に比べるともう一つかな。次作に期待。

シュガーバズはこれが2枚目だが、ラスト・ジェントルメン、ブライアン・リーチのソロ・アルバムまで含めると、4枚目ということになる。アルバム全体としてはかなりダンサブルな方向に進んでおり、やっぱりソロの方が良かったと思わせる部分もあるが、これはこれでまとまりのある1枚。ストリングスを使って70年代ポップス風に仕上げた"Last Sensation"は出色の出来。


DM3/Rippled Soul(Munster/MRCD144)

Orange Humble Band/Assorted Creams(Half A Cow/HAC67)

続いてはオーストラリアものをまとめて2枚。ドン・マリアーニを中心にしたDM3の方は従来のポップ路線を受け継いでいて、意外性には欠けるものの、安定したまとまりを感じさせる。プロデュースはバンド自身で手がけ、ミッチ・イースターは2曲のミックスのみを担当。なお、同時にオーストラリア盤も出ているが、スペイン盤の方が数曲多いので、マニアは要チェック。

オレンジ・ハンブル・バンドは、かつてドン・マリアーニと組んだサムラブズ名義で名作を1枚残したダリル・メイザーによる新プロジェクト。サムラブズ直系のメロディアスなギター・ポップが炸裂しており、ホーンの効果的な使用には英国ギター・ポップ、5のようにスローなナンバーにはビッグ・スター(サード)の影がちらほらと。これは文句なく傑作でしょう。個人的にはDM3より断然こちらの方が好みで、サムラブズの叙情性はこの人によるところが大きかったのだなと認識を改めさせられた。クレジットを見ると、94年に7才で死亡したらしいビアンカ・メイザー(娘?)にアルバムが捧げられている。憶測でものを言ってはいけないのは承知しているが、明るくはじけながら、一方に哀愁と深みを感じさせるのは、その辺りに原因があるのかも。かつてサムラブズのプロデュースも手がけたミッチ・イースターは今回も共同プロデューサー、ギターなど大活躍。ケン・ストリングフェロウズもヴォーカルで参加している。