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ジェイ・ファーラー本人は新作の歌詞について、「今回は無意識のうちに環境問題についての歌詞が多くなったんじゃないかな」と言っている。もちろん「無意識のうちに」というのがポイントで、混沌とした独白の中にふとこぼれおちる言葉の方が、世間に横行する偽善に満ちたキャンペーンよりずっと本質を言い当てていることは言うまでもない。ついでに言っておくと、偽善や権威、政治家や宗教家の使うまやかしといった類への風刺は昔からロックの得意技の一つだが、ジェイはこの方面でもさりげなく才能を発揮している。最後に僕のお気に入りの一節を紹介しておこう。
「百万のドリームデイを泳いだ/服役した神々と握手をした/ディスプレイのそばで待っていたけど/啓示など見えなかった」("Blind Hope")
リットーの新雑誌「Lost & Found」(12月15日発売、売り切れでなければ今も普通のお店で買えるはず)で、ジェイ・ファーラーにインタビューをさせていただいたので、一度ご覧下さい。文字オンリーというあまりに個性的な表紙ゆえ、店頭で見かけても素通りしてしまう可能性が高い雑誌ですが、「スライド・エリア」と題して、新旧のスライド・ギタリストを徹底追及した内容は充実してます。
内容と関係ない話になってしまいました。中身は前作同様落ちついたナンバーがメインで、素晴らしい出来映えを見せています。ビリー・ブラッグ&ウィルコや初期ジェイホークスが好きな人には絶対にお薦め。
なお、このバンドには珍しく国内サイトがあります。詳しい情報はこちらへ
そんな印象に残っていないアーティストの新作をなぜまたもや購入してしまったのか? なぜ、わざわざ本欄で取り上げるのか? 実はそれにはわけがあり、ロブ・ロウファーが全面的に参加していることを知ったからだ。再度ゲストにつられてしまったわけで、このあたり何だかうまくのせられているような気もしないではない。しかし、ロブ・ロウファーの名前で大喜びする人もそれほどいないはずだから、決して商売上手とは言えないだろう。
では、ロブ・ロウファーとは何者なのか? 日本では全く無名の90年代シンガーの一人で、デビューは93年。当時「Yellow Pills」誌に「ビル・ロイド風、T−ボーン・バーネット風フォーク・ロック」という紹介があったので、アルバムを探し回り、偶然中古屋で入手した「Swimming Lesson」を聞いたのが、最初の出会いだった。実際聞いてみると、ビル・ロイドというよりはT−ボーン・バーネット、または渋めのピーター・ケイスといった感じで、ちょっと期待とは違ったが、これはこれで悪くない。気になっていたところにセカンド「Wonderwood」がリリースされる。1stの再録音を数曲含み、地味ながらもメロディー主体の正当派フォーク・ロック・アルバムとしてクォリティは高く、いずれjemで紹介しようと思いつつタイミングを逃してしまっていた人なのだ。その後アルバムこそリリースされていないものの、フィオナ・アップル(ジョン・ブライオンにつられて購入したものの、繰り返し聞く気にはなれず、なぜあんなに絶賛されているのか、よくわからない)のアルバムでもギターを弾いていた。他にも今回調べてみたら、96年から97年にかけて、Morris Tepper, Katell Keineg, Wally Brill(いずれも未聴)といった人たちのアルバムに参加し、最近はセッション・マンとして活躍しているようだ。
で、ようやく話はメリッサに戻るが、本作もロブとしては、セッション活動の一環として引き受けたのかもしれない(推測)。しかし、実際には共作、プロデュースも含めて、ギター、ベース、ピアノとほとんどの楽器を担当し、貢献度が高いのには驚いた。基本的にはメリッサの個性を尊重しながら、随所にロブらしいルーツっぽさが顔を出し、アルバムに味わいを付け足しているのも見逃せない。メリッサもクレジットで「あなたとその素晴らしい才能なしでは、このアルバムは始まらなかったでしょう」とロブに賛辞を送っており、名義はあくまでメリッサのものだが、今回は2人の合作と言っていい内容になっている。それぞれのディスコグラフィは下記の通り。今でも手にはいると思うので、メリッサには悪いけれど、本作よりもまずは「Wonderwood」から聞くことをお薦めしたい。
なお、ドラムはザッパやスティングとの活動でお馴染みのベテラン、ヴィニー・コリュータが担当。彼の持ち味である切れのあるドラミングが楽しめる。
Melissa Ferrick
1) Massive Blur(Atlantic/7 82502-2)93
2) Willing to Wait(Atlantic/7 82747-2)95
Rob Laufer
1) Swimming Lesson(Eye/E2201)93
2) Wonderwood(Discovery/77023)95
1) Say Zu Zu EP(PP)95/EP
Say Zu Zu(PP/003D)96(Live Track付き再発)
2) Highway Signs & Driving Songs(PP/004D)95
3) Take These Turns(PP/005D)97
名前の面で混乱する人がいるだろうから、ここでもう一度まとめておくと、サイドワインダーズもサンド・ルビーズもメンバーは同じ。リッチ・ホプキンス(Rich Hopkins)とデヴィッド・スルーテス(David Slutes)を中心にしたバンドである。なんで名前を変えたのかはよく分からない。70年代に活躍した同名のサイドワインダーズ(アンディ・ペイリーも在籍したポップ・バンド)からクレームでもついたのだろうか。それに対して、ルミナリオスはリッチ一人のプロジェクトで、メンバーは流動的。いずれにしても、ニール・ヤング&クレイジー・ホースを思わせる音楽性はそれほど変わらず、デイヴがいるのかいないのかという点に最大の違いがある。ディスコグラフィは下記の通り。
Sidewinders/icuacha!(Diabollo;Demon)87 (San Jacinto)93
Sidewinders/Witchdoctor(RCA)89
Sidewinders/Auntie Ramo's Pool Hall(Mammoth;BMG)90
Rich Hopkins & Luminarios/Personality Crisis(House in Motion)92
Sand Rubies/Sand Rubies(Atlas)93
Rich Hopkins & Luminarios/Dirt Town(Brake Out;Enemy)94
Rich Hopkins/Paraguay(San Jacinto)95
Rich Hopkins & Luminarios/Dumpster of Love(San Jacinto)95
Sand Rubies/Live(San Jacinto)96
Rich Hopkins & Luminarios/El Paso(Blue Rose)96
Rich Hopkins & Luminarios/The Glorious Sounds of...(Blue Rose)97
Rich Hopkins & Luminarios/3000 Germans Can't Be Wrong(Live) (Blue Rose)98
シュガーバズはこれが2枚目だが、ラスト・ジェントルメン、ブライアン・リーチのソロ・アルバムまで含めると、4枚目ということになる。アルバム全体としてはかなりダンサブルな方向に進んでおり、やっぱりソロの方が良かったと思わせる部分もあるが、これはこれでまとまりのある1枚。ストリングスを使って70年代ポップス風に仕上げた"Last Sensation"は出色の出来。
オレンジ・ハンブル・バンドは、かつてドン・マリアーニと組んだサムラブズ名義で名作を1枚残したダリル・メイザーによる新プロジェクト。サムラブズ直系のメロディアスなギター・ポップが炸裂しており、ホーンの効果的な使用には英国ギター・ポップ、5のようにスローなナンバーにはビッグ・スター(サード)の影がちらほらと。これは文句なく傑作でしょう。個人的にはDM3より断然こちらの方が好みで、サムラブズの叙情性はこの人によるところが大きかったのだなと認識を改めさせられた。クレジットを見ると、94年に7才で死亡したらしいビアンカ・メイザー(娘?)にアルバムが捧げられている。憶測でものを言ってはいけないのは承知しているが、明るくはじけながら、一方に哀愁と深みを感じさせるのは、その辺りに原因があるのかも。かつてサムラブズのプロデュースも手がけたミッチ・イースターは今回も共同プロデューサー、ギターなど大活躍。ケン・ストリングフェロウズもヴォーカルで参加している。