最新レビュー


8/1 - 8/31


Richard Buckner/Since(MCAD11780)

シスコのSSWによる3枚目。ジョン・マッケンタイア(トータス、シー&ケイク、ステレオラブ、ガスター・デル・ソル、etc...)がドラムを叩き、デイヴ・シュラム(シュラムズ)がギターを弾く、ど迫力の1曲目が前作以上にロック色を濃くしたこのアルバムの方向性を象徴している。肺活量が常人の3倍くらいありそうな、腹の底から絞り出すヴォーカルは相変わらず。続く2、3曲目は弾き語り風だが、しっとりとはいかず素朴な粗っぽさがにじみ出てしまうところはこの人の特徴で、プリミティヴな力強さを感じさせる唱法においてはロック界随一と言っていいだろう。全編で印象的なスティール・ギターを聞かせるエリック・ヘイウッドは、ジョー・ヘンリー、サン・ヴォルト、トミー・キーンのアルバムでペダル・スティールを担当している注目株。他にもデヴィッド・ブロムバーグ、スティーヴ・フォーバート、ジョン・プラインなどで知られるベテラン、スティーヴ・バー(マンドリン)、2でハーモニーをつけているシド・ストロー、デヴィッド・グラブス(ピアノ)、クリス・コクラン(ギター)らが参加している。とっちらかりそうな演奏陣をまとめ上げ、危うく壊れそうな狂気とオーソドックスな演奏のミックスを成功させたのは、前作も担当したプロデューサー、J.D.フォスターだ。

全体的には前作までの流れを踏襲しつつ、新しい方向に一歩踏み出したといった感じで、SSWファン以外のロック・ファンにもアピールしそうな魅力に満ちあふれている。傑作。


Cracker/Gentleman's Blues(Virgin/7243 8 46263 2 7)

いずれ国内盤が出るだろうけど、店頭で見かけてつい買ってしまった。80年代の無国籍ポップ・バンド、キャンパー・ヴァン・ベートーヴェンからクラッカーへの転身はある意味でオルタナ・カントリーの先駆けであったが、早いものでクラッカーとしてのリリースも4枚を数える。安定路線を保ちつつチャレンジ精神も忘れないという、デヴィッド・ロワリーの意欲はまだまだ健在であり、前作で見せた音の凝り方は十分刺激的だった。クラッカーが素晴らしいのは、そんな実験精神と、正当派として十分通用するオーソドックスな曲の構造が見事に両立しているところ。今回もその長所が生かされ、前作にも増して見事に現代と古典が交錯するアルバムを作り上げてくれた。リチャード・バックナーと違って表面的にはさらりと聞けてしまうが、奥にはさまざまな企みが隠されているようだ。1や7のようにストレートな曲はますますポップに仕上げられている反面、意識的に古びた音作りがなされていたり(キーボードの使い方がうまいんだよね)、タイトル・トラックのようにブルースへの接近があったり、14のようにCVB時代を思わせる曲があったり、一筋縄ではいかない部分も目立つ。

ギターのジョニー・ヒックマンは当然として、ベースのボブ・ループ[Bob Rupe](ex-Silos,Gutterball)も引き続き参加。ただし、ドラムは前作の大ベテラン、チャーリー・クィンタナ[Charlie Quintana] (Plugz, Cruzados, Havalinas, Walking Wounded,etc)からフランク・フナロ[Frank Funaro](ex-Del Lords)に交代し、キーボードにはMink DeVilleやSilosのアルバムにも参加していた、Lucky 7のケニー・マーゴリス[Kenny Margolis]が加わっている。トミー・スティンソン(ex-Replacements,Bash & Pop,現Perfect)、ベンモント・テンチ、マイク・キャンベル等がゲスト参加。プロデューサーにはドン・スミスが復活している。


Bap Kennedy/Domestic Blues(E-Squared/1058-2)

スティーヴ・アールのレーベルからデビューしたロンドン出身の新人。ナッシュヴィル録音で、プロデュースはもちろんトゥワングトラストが手がけている。ロイ・ハスキーJr.(ベース/昨年他界)ピーター・ローワン(マンドリン)、ジェリー・ダグラス(ドブロ)などベテラン陣がしっかり脇を固めており、収録されたカントリー・ロック全12曲はその演奏に見合うだけの本格的な自作曲だ(スティーヴ・アールのカヴァー1曲あり)。

No Depression誌によれば、もともとバップ・ケネディは80年代に活躍したエナジー・オーチャード[Energy Orchard]というポーグス風のバンドに在籍し、アルバムも2枚あると言うが未聴。スティーヴと知り合ったのはバンドがロンドンで演奏しているときらしい。しかし、90年代に入るとご存知のようにスティーヴはドラッグ問題で表舞台から姿を消し、エナジー・オーチャードも活動休止。しばらく途絶えていた2人の接点が交わるには、スティーヴが95年に「Train A Comin'」で復活するときまで待たねばならなかった。このアルバムを友人に教えられて聞いたバップは衝撃を受け、以前から考えていたように、自分もアコースティックなカントリー・ブルースのアルバムを作ろうと決心する。その結果出来上がったのがこのアルバムというわけだ。「Train A Comin'」に比べるとずっとカントリー風味が強く、完成度も高いこのアルバムで、彼の狙いは十分成功していると言っていいだろう。

今の英国からこういうグラム・パーソンズ・タイプの存在が登場したというのは本当に驚きであり、以前紹介したグッド・サンズと共に今後のイギリスに少し期待したくなってきたのも事実(モントローズ・アヴェニューはEP聞いたけど、まったく期待はずれ。あれでバーズとかCSNとか言うのもねえ)。だが、両者共に自国のレーベル契約はないというあたり、もう一つ素直に期待しづらいのも確かなわけで...。うーん。ナンシー・グリフィスが2曲ゲストで参加しているので、彼女のファンはチェックをお忘れなく。


James McMurtry/Walk Between the Raindrops(Sugar Hill/SHCD-1060)

シュガーヒル移籍第2弾。基本的には前作と変わりなく、落ち着いたルーツ・ロックの世界が楽しめる。リサ・メドニック(key)、ロニー・ジョンソン(b)、クリス・シールズ(ds)といった演奏陣やプロデューサー、ロイド・メイネス(父と叔父がメイネス・ブラザーズだと最近知りました)も前作に引き続いての参加。この人の特徴は前向きとか後ろ向きとか、そういったステレオタイプな人生の捉え方を超越しているところで、歌詞は読み込んでいないけど、多分今回もクールな視点に基づく、独特の人生哲学が盛り込まれているのだと思う。取り立ててすごいというほどではないが、期待を裏切らない佳作と言っておきたい。

Stacey Earle/Simple Gearle(Gearle/no number)

さて、今までの4枚は国内でも探せば買えると思うが、ここからはちょっと入手困難なCDが続く。一応全部 Miles of Musicで扱っているはずなので、興味のある方はどうぞ。

まずは以前ニュース欄でお伝えしたスティーヴ・アールの妹、ステイシー・アール(eのないStacey Earlというアーティストの方は中古屋でよく見かけるのでご注意を)のデビュー・アルバムをようやく購入。一応スティーヴ・アールも参加はしているが、兄とは違って随分と穏やかなアルバムに仕上がっている。女性らしいというか、和み系というか、弾き語り中心な素朴なアルバムだ。悪くはないが、ちょっと物足りなさも残る。


Original Harmony Ridge Creek Dipper/Pacific Coast Rambler(no label)

逆にこちらは前作のイメージと大きな違いはなく、もうこういうものだという先入観が出来上がっているので、得してるかな。まあ、前作同様マーク・オルソン、ヴィクトリア・ウィリアムズ、マイク・ラッセルの3人を中心にしたプライヴェート色の濃い小品集である。ジャケ裏写真の、まったく農園の従業員にしか見えない(笑)マークの笑顔が全てを物語っているような気がする。

Ray Mason Band/Old Souls Day(Wormco/WCO-002)

僕の知る限り3枚目のリリースとなるマサチューセッツのほのぼの・ロッカー。ジム・アーメンティ[Jim Armenti]と組んだロンサム・ブラザーズでも昨年アルバムをリリースしている。この人のルーツはずばりNRBQ。メロディーや音の作り方にこれでもかというくらいNRBQテイストが詰め込まれているのだ。影響を隠そうともしないオープンなファン心理にはあきれるのを通り越して、微笑ましくなるし、何と言ってもあのチープでドリーミーな味を換骨奪胎して自分のスタイルに取り込んでしまえるなんて、そう口で言うほど簡単なことではないだろう。それに、スタートは同じでもちゃんと自分の音になっているところも評価したい。シェリ・ナイトがバッキング・ヴォーカルで2曲参加している。

Arthur Dodge & the Horsefeathers/Cadillacs, Ponytails & Dirty Dreams(Barbe's Itch/BIR52cd)

7号でファーストをレビューしたカンサスのルーツ・ロッカーによるセカンド。ファースト同様サン・ヴォルトからカントリー風味を抜いたようなロックンロールにはますます磨きがかかり、トラッカーのBGMにはもってこいの心浮き立つ野暮ったさが楽しめる。洗練とはほど遠いこのぶっきらぼうな魅力がやはりアメリカン・ロックの本質だろう。スクラフィ・ザ・キャットとかテリー・アンダーソンとか、この手の小気味よい音作りに僕は弱いんだなあ。

Vigilantes of Love/To The Roof of The Sky...(Meat Market/no number)

3枚目が一部ピーター・バックのプロデュースで話題になったアセンズの泥臭いルーツ・バンド。4枚目以降はカプリコーンからのリリースだったが、どうやら契約が切れたらしく、今回はインディーからのリリースだ。メジャー移籍後はどうも力が入りすぎていてちょっと窮屈な感じもしたが、最近はリラックス・ムードも板に付いてきて、のびのびとやりたいことをやっているという感じ。ずば抜けた個性はないけれど、こういうアルバムが一番聞いていてほっとできる。ディスコグラフィは以下の通り。ホームページはこちら

Jugular(Fingerprint)90
Driving The Nails(Core/9247-2)91
Killing Floor(Fingerprint/Sky/7-5020-2)92
Welcome to Struggleville(Capricorn/2-42025)94
Blister Soul(Capricorn/42042-2)95
V.O.L.(Warner Resound/9 46309-2)96 *Best
Slow Dark Train(Capricorn/314 534 509-2)97


The Scruffs/Angst(Northern Hights/NHM40210)97 *1
The Scruffs/Wanna' Meet The Scruffs?(Nothern Hights/NHM40212)97 *2
The Scruffs/Teenage Gurls(Nothern Hights/NHM40214)98 *3
The Scruffs/Midtown(Nothern Hights/NHM40216)98 *4
Messenger 45/Signs & Symbols(Nothern Hights/NHM40220)97 *5

ここまでがルーツ・ロック編でしたが、後半はポップ編をお送りします。スクラフズは都内ではHMV渋谷店に置いてあるし、マーシャルや20/20については国内でも買えると思うけれど、入手困難な場合は Not Lameでどうぞ。

というわけで、スクラフズ。上記中*1,*2,*5の3枚は昨年暮れに入手済みだったのだが、取り上げるタイミングを逃していたところ、最近さらに2枚が追加されたので、まとめてレビューすることにした。まず、スクラフズについて簡単に説明しておくと、70年代に活躍したパワー・ポップ第1世代のバンドで、これまで発表されていたアルバムは、77年にパワー・プレイがリリースした「Wanna' Meet The Scruffs?」1枚のみ。ビッグ・スター、トミー・オーエン、ヴァン・デューレン等と並んで、メンフィス・ポップ・シーンの先駆的存在であり、ライノのパワー・ポップ編集盤「Come Out And Play」(93年)に"My Mind"が収録されている。

*1は74年から76年の未発表曲を集めた編集盤。トミー・オーエンが数曲ゲスト参加しているのは見逃せない。録音は主にシュー・スタジオで行われ、77年の再録音にアーデントが初登場している。「Yellow Pills vol.2」に収録された"This Can't Go On"を含む。*2は前述の唯一のLPをボーナス・トラックつきで再発したもの。アーデント録音で、エンジニアはジョー・ハーディーとジョン・フライ。*3は79年のシングル"Teenage Girls/Shakin"を含めて、70年代後半の録音を集めたもの。録音は引き続きアーデントで、エンジニアは先の2人にお馴染みジョン・ハンプトンが加わっている。*4は80年から88年にかけての未発表曲を集めたもの。NY、フィラデルフィア、メンフィス等様々な場所での録音が収められている。*5はスクラフズのリーダー、スティーヴン・バーンズが中心になった新バンド。90年以後ヨーロッパに移住して、音楽活動から遠ざかっていたスティーヴンだが、最近メンフィスに戻り、7年ぶりに地元の若手ミュージシャンと一緒に活動を再開した。録音はメンフィスのロッキングチェア・スタジオ。ジム・ディッキンソンがゲストでピアノを弾いている。取りあえず1枚買うとしたらやはり*2で、これが気に入った人は順次他のアルバムを買っていくとよいだろう。

2年前にはほとんど聞くことができなかったこれらの音源が一気に世に出たのは大きく評価したい。もちろん、世に出たからといってロック史が書き換えられるわけではないし、個人的にこの手の音は大好きだが、では、スクラフズがシューズや20/20以上に個性を持っているかというと疑問も残る。だが、契約もないのにこうしてこつこつと録音が続けられていたという事実からは、時代の要請とは無縁の意地と反骨精神が感じられ、ある意味では痛快だ。さらに、一時引退状態だったスティーヴンを過去の集大成、活動再開に向けて動かしたのが、最近のポップ・シーンの盛り上がりなのかもしれないと考えると、デヴィッド・バッシュ(ライノのパワー・ポップ編集盤を手がけたゲイリー・ステュワートから収録曲についてアドバイスを求められた彼の頭には、まず真っ先に"My Mind"が浮かんだのだという)やジョーダン・オークス、ブルース・ブロディーン等による熱心なサポート活動も決して無駄ではなかったということだろう。

特に日本のリスナーにとっては、当時のメンフィス・ポップについての情報は皆無に等しかったはずで、ビッグ・スター以外にもこれほどポップなバンドがあったのかという驚きは、聞いた人なら誰もが感じるのではないだろうか。トミー・オーエン、スクラフズときて、次はヴァン・デューレンのリイシューと復活を是非望みたいところだ。


Vox Pop/Sandbox(CDLP-1012)

ここ数年パワー・ポップ・シーンでは70年代に活躍したベテランの復活が目立っている。コンスタントにリリースを続けてきたシューズは別格として、20/20(95年「4 Day Tornade」)、オフ・ブロードウェイ(97年「Fallin' in」)、昨年のトミー・オーエン、スクラフズ(メッセンジャー45)、今年に入ってからは、何と言ってもあのルビヌーズのトミー・ダンバーがVox Popという新バンドで復活したことが一番の話題だろう。ちょっと遅れたがようやく入手できたので、取り上げておきたい。メンバーはルビヌーズからトミー・ダンバー(g,vo)、アル・チャン(vo,g)、ドン・スピント(ds)の3人にジョン・シーベリ(b)を加えた4人。要するにジョン・ルービンが抜けただけで、実質的にはほとんどルビヌーズと同じラインナップと言っていい。内容は驚くほど従来の路線に忠実。曲によっては切れ味がもう一つだが、ヴォーカルの伸び、甘いコーラスなど、とても40過ぎ(推定)のバンドとは思えないほど瑞々しくてびっくりだ。メッセンジャー45や20/20が高音を出せなくなってそれなりの枯れた味にシフト・チェンジしていることを考えると、この違いは大きい。生まれついてのパワー・ポッパーとは彼らのことだと改めて思う。今年は国内盤もリリースされたナック(掲示板にも書いたけど、なかなかの出来です)に続いて、大物中の大物、エミット・ローズの新作も控えており、ポップ・ファンにとってはたまらない1年になるのでは。

20/20/Interstate(Oglio/OGL89101-2)

さて、パワー・ポップ道を一直線に突き進むトミー・ダンバーに対して、20/20の方はかなり路線変更が目立っている。「4 Day Tornade」に続くこの新作は、いきなりスライドが印象的なスロー・ナンバーで始まり、前作でも導入されていたルーツ指向が表面に出てきているのだ。もっとも、ナッシュヴィルにスタジオを構え、プロデュース業にも精を出すスティーヴ・アレンにしてみれば、これは当然の変化であり、今さら驚くことではないのかもしれない。3や5などに従来のポップな方向も残されているが、渋みが加わることによりユニークな味が出てきているのは面白い。全体的に悪くはない仕上がりだ。ただ、アルバムとしてどっちつかずの作品になってしまったのも確かで、この際バンド名を変えて思い切り渋く作った方がよかったのではないかと個人的には思ったりもする。

Marshall Crenshaw/The 9 Volt Years(Razor & Tie/7930182838-2)

初期のデモやアルバム未収録曲を集めた編集盤。デビュー・シングル"Something's Gonna Happen"やシングルB面曲"(You're My)Favorite Waste of Time"など、貴重な音源を多数収録しており、編集盤といえども侮れない。ファースト・アルバムこそ最高傑作と信じるファンにとっては、最高の贈り物といえるだろう。

The Spongetones/Where-Ever Land(Permanent Press/PPCD52710)

87年のサード・アルバムがようやく再発された。彼らの作品の中では割とロック風味が強く、「Oh Yeah!」に比べるとやや切れ味が鈍いが、マージービートを基本にしたポップ・バンドとしての魅力は十分感じられる。中でも素晴らしいのは冒頭のコーラスからドラムが入ってくる瞬間が最高にスリリングな名曲"Anna"で、これは最近出たポップ・コンピレーション「Pop Under the Surface vol.2」にも収められている。

Kenny Howes/Back to You Today!(AAJ;Shoeleg/AASH361-2)

8号でも取り上げたポップ・アーティストによる3枚目。フロリダからアトランタに移ってからは初めてのアルバムとなる。後半が少し弱いけれど、初期ポウジーズ+クリス・ヴォン・スナイダーンといった感じの哀愁ギター・ポップ路線を軸にして、全体的にはまあまあの仕上がり。残念なのは、曲の完成度が高まることにより、逆に今まで余り気にならなかった録音での詰めの甘さが目立ってしまっているところかな。今回はほとんどジェイソン・ネスミスとの共同プロデュースだが、次作は一人録音の先達として、アダム・シュミットかCVS、ブラッド・ジョーンズあたりにでもお願いしてみてはいかが?