最新レビュー


7/1 - 7/31


Lucinda Williams/Car Wheels on A Gravel Road(Mercury/314 558 338-2)

文句なく傑作。カントリー、ブルースを軸に、ロック、ポップ、ケイジャン・ワルツなど、いろんな要素が見事にまとまっている。これなら6年待った甲斐があったというものだ。No Depression最新号のインタビューを見ると、ルシンダがかなりの完全主義者で、妥協を嫌う性格であることがよく分かる。前のアルバム「Sweet Old World」でも一度作業が終わった段階で再録音したそうだし、ライブでも気に入らないと途中で演奏をやめて、最初からやり直すという。そして、このアルバムだが、そもそもはスティーヴ・アールの大傑作「I Feel Alright」(96年個人的ベスト1)収録の名曲"You're Still Standin' There"に参加したことが、ここまで遅れた原因のようだ。そのときレイ・ケネディの録音技術にいたく感心したルシンダは、レイとスティーヴに全てを任せることに決定。95年の春に録音したマテリアルを放棄し、96年の夏、ナッシュヴィルで録音をやり直すことになったのだとか。その後ルシンダはミックスをLAのロイ・ビタンに依頼。ロイはグレッグ・レイズ、バディ・ミラーらのギターをオーヴァーダビングしたラフを作り上げ、最終的な仕上げをリック・ルービンとジム・スコットが担当した。要するに名シェフたちが最高の素材に丹念な味付けを施したフカヒレ・スープのようなもので、手間暇かけた極上の逸品がおいしくないわけはないのである。

可哀想なのは長年のパートナーでもあり、一番最初のプロデューサーだったガーフ・モリックスだが(ギターのクレジットのみで、録音関係からは名前を削られてしまった。何でもここ2年ほどルシンダとは口をきいていないらしい)、バディ・ミラーも言っているように結局これは「彼女のアルバム」なのだし、まあルシンダに捨てられた(といっては語弊があるが)男は他にもたくさんいるので、あんまり気にしない方がいいでしょう(旦那だった元ロング・ライダーズのグレッグ・ソウダーズとは最近離婚が成立)。何だかんだ言ってもアーティストは作品が命。トゥワングトラスト(スティーヴ、レイ)との作業がこれだけの傑作を生みだしたのは間違いないので、ここは我慢のしどころだ。負けるなガーフ(?)。


Chris Harford/Band of Changes(Black Shepherd/003)

 8号でも取り上げたニュージャージーのSSWによる3枚目。「アルバム3枚分の曲がリリースを待ちこがれている」という言葉から予想できたとはいえ、全35曲を収録時間いっぱいに詰め込んだ2枚組の大作を目の前にすると、聞く前から何だか満腹状態である。これでも足りないんだというクリスのぼやきが聞こえてきそうだが、まずはリリースを素直に喜びたい。ディスク1は前作「Comet」の世界に近い静かな弾き語りを中心に、ディスク2ではファーストの一部を思い起こさせる、エレクトリック・ナンバーを中心に構成されており、後者ではときにニール・ヤングを思わせる奔放な魅力を再確認できたのがうれしい。ケヴィン・セイラムやデヴィッド・マンスフィールド、アンドリュー・ウェイス(ウィーンのプロデューサー)、ハブ・ムーア(一足先にメジャー・デビューしている)らがゲスト参加し、リチャード・トンプソンの曲をカヴァー。ただ、意図は十分理解した上で正直に言うと、ここまで極端に分ける必要があったのかは疑問だ。両者を取り混ぜた上で厳選して、1枚にまとめた方が印象に残るアルバムになったように思う。

George Usher's Lazy Gentlemen/Ludlow(Lonesome Whipporwill/INGY-006)

東海岸のポップ・アーティストによる3枚目。といっても新作ではなく、この前のHouse of Usher「Neptune」同様、以前のテープをCD化し、3曲ボーナス・トラックを加えたもの。もちろんハウス・オブ・アッシャーのメンバーも参加しているが、バンド・サウンドで力強く迫ったHouse of Usherに対して、こちらはもっとパーソナルな小品集といった趣きで、シンプル・イズ・ベストの好例。簡素な演奏ではあるが、ギター1本というわけではなく、ヴィオラ、サックスなどを効果的に使用し、独特の美しいメロディとヴォーカルがくっきりと浮かび上がる仕掛けになっている。本当に愛聴したアルバムだけに、うれしい再発。

Steve Almass/Human, All Too Human(Lonesome Whipporwill/INGY-007)

かつて、ジョージ・アッシャーとはGornack Brothersなるデュオを組んでいた(アルバムをずっと探してます。どこかにあったら連絡下さい)スティーヴ・アルマース(元ビート・ロデオ)によるソロ3作目。こちらは新録音。前作ではミックス担当だったミッチ・イースターとの共同プロデュースにより、今までのソロの中では一番ロック色が強くなっている。さすがにビート・ロデオ再びとまではいかなかったが、まだまだやれるんだというアピールは強く感じられるし、時折のぞくメロディー・センスに往年の冴えも復活している。

Marah/Let's Cut the Crap and Hook Up Lather on Tonight(Black Dog/)

吉本さんがクロスビート今月号で取り上げていましたね。ヒルトップス(ブルー・マウンテンの前身バンド)やギミーキャップス(ジョン・スティラットのバンド)でお馴染みのレーベルが送る話題の新人バンド。ロニー・レインやザ・バンドを思わせるブラス入りルーツ・サウンドを、緩急自在に聞かせる傑作だ。近年伝統を意識したバンドは数多いが、このバンドは個性という点でも群を抜いている。ルシンダの新作がなかったら、今月のベストはこのアルバムになっていたはず。大推薦。

The Silos/Heather(Normal/218)

「Susan Across The Ocean」以来ソロ作、ベスト盤を挟んで4年ぶりとなった新作はドイツのノーマルから。米版は9月に出るそうなので、少し待ってもいいかも。内容はいつも通り重心の低いオルタナ・ルーツ・ロック。奥には何か熱いものがあるのだろうが、表面的には淡々と曲をさばいていくウォルター・サラス・ヒューマラの手つきは相変わらずクールで、重すぎず軽すぎず、切れ味鋭い歌の数々が楽しめる。曲ごとのクレジットがないので詳しくは分からないけど、ダーレン・ヘスやメアリー・ロウエルなどお馴染みの面子に加えてチャック・プロフィットも参加している(10のギターはたぶんチャックだろう)。

Sam Lapides/Wake Up From The Wasteland(Blue Rose/BLUCD0068)

ゴーストハウスというバンドで3枚のアルバムを発表している西海岸出身のルーツ・ロッカー、サム・ラピデスの初ソロ・アルバム。僕は3枚目の「Thing Called Life」(Birdcage/95年)1枚しか聞いたことはないが、ジョン・トーマンやロバート・ロイドが参加し、スティーヴ・ウィンの曲をカヴァーしたそのアルバムには、なるほどスティーヴ・ウィンやラス・トールマンのソロに近いポスト・パンクのギター・サウンドと、ジェイホークス、ゴールデン・スモッグ等にも通じるさわやかなネオ・ルーツ風味の両方があった。バンド解散(?)後は、スティーヴのNY移住の後を追うかのように、ボストンに移り住む。新たな仲間を得て注目独レーベルから発表したこのソロ・アルバムは、スティーヴ・ウィンのプロデュースにより(彼はゴーストハウスの1stでも一部プロデュースを担当している)、バンド時代の方向をさらに押し進め、素朴な中に深みを与えることに成功した力作となっている。なんて冷静に書いてますが、個人的にこの手の音にはもう全く逆らえません。上記のアーティストが好きな人には是非。

Tommy Keene/Songs from The Film(Geffen/GEFD25225)

LPのみだったセカンド・アルバム全曲にEP「Run Now」収録曲5曲(残念ながらルー・リード"Kill Your Sons"のライブ・ヴァージョンのみカットされている)+未発表4曲という大判振る舞い。一度は冷たくあしらっておきながら、一体どうしたのゲフィンさん、と不思議になるくらい充実した再発だ。

気になるの未発表曲は以下の通り。

11)Take Back Your Letters

19)We're Two

20)Faith in Love

21)Teenage Head

フレイミング・グルーヴィーズのカヴァー21以外はオリジナルで、今までどこにも発表されたことのない貴重なトラック。11と21はジェフ・エメリック、19と20の2曲がT-Bone BurnettとDon Dixonによるプロデュースである。えー、これはどういうことかというとですね。ご存知のように「Songs from the Film」には、ドルフィンの消滅により発表されずに終わったドルフィン版(Burnett/Dixon版)の同題アルバムというのがありまして、これはEP「Back Again...」で1曲、「Run Now」で4曲(ただし、1曲は「Back Again...」と同じもの)が発表済みなんですが(このCDでは15-18に該当する)、ゲフィン版「Songs from the Film」にはいずれも収録されていない曲ばかりだったので、題は同じでも別のアルバムと考えられているのです。当然ファンとしては、全貌が知りたくなりますね。今回ゲフィンはその要求に見事に応え、ドルフィン版「Songs from the Film」のみに収録されていた曲を2曲発掘してきたというわけなのです。これで今のところ計6曲が判明したことになりますが、もっとあるのか、これでおしまいなのか気になるところ。


Mark Johnson/12 in a Room(Not Lame/NTLMCD10003)

今月はポップ系の再発が異様に充実しているが、極めつけはこれ。92年にTabla Rasaというインディーからリリースされ、その後入手困難となっていたアルバムがついに再発された。僕もずっと探していて、ここ数年探求盤の筆頭だったので、ようやく聞くことができて感無量。この手の再発は実際に聞いてみてがっかりということもよくあるわけだが、このアルバムの場合どうかというと、うれしいことに期待は裏切られなかった。

マーク・ジョンソンは東海岸を中心に活躍するポップ・アーティストで、72年にヴァンガードからデビュー。その後長いブランクを経て発表したセカンドが本作である。他にはリチャード・バロンやウィリー・ナイルのアルバムに参加している。よくある名前で、確か他のジャンルにも同姓同名の人がいたので、お間違いのないように。ほとんどの楽器を一人で担当しているが故のチープな音像は弱点だが、曲の魅力はそれを補って余りある。マーシャル・クレンショウやELO、ビーチ・ボーイズ、最近ではジェフリー・フォスケットにも通じるポップ・テイストが心地よい傑作揃い。集中ベストは切なくも美しい"Desperate"かな。セルフ・プロデュースだが、1曲だけリチャード・ロイドがプロデュースを担当し、ゲストはジュールズやローチェズなどでお馴染みのスチュアート・ラーマン、現在アグネリ&レイヴで活躍中のデイヴ・レイヴなど。「Yellow Pills Vol.1」収録の名曲"I Like The World"の別ヴァージョン他4曲のボーナス・トラックまで付いている。それにしても、20年以上のキャリアでアルバム2枚とは何という寡作ぶり。3枚目はまた20年後になるのだろうか?

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