最新レビュー


6/1 - 6/30

Martin Zellar & The Hardways/The Many Mood of...(Owen Lee/OLR3939)

 ミネアポリスのルーツ系シンガー・ソングライターによる3枚目。80年代に在籍したギア・ダディーズ解散後、ソロ活動に移りライコから2枚のアルバムを出していたが、今回はインディーからの発売で、ますます入手困難になってしまったのは残念(この新作はMiles of Musicで購入できます)。しかし、内容的には今まで一番いい出来ではないだろうか。しっとり聞かせる曲もあれば、ホーンが入ってノリのよい曲もある。ストリングスとピアノが印象的なカントリー・バラードがあれば、クールなビート・ポップもある。まさに緩急自在で、購入以来毎日のように聞いていても、飽きが来ない。軽すぎるという人もあるかもしれないが、自然体ともいうべきスタンスが僕は気に入っているし、何と言っても特徴ある声が素晴らしい。文句なく6月のベスト。

Joe Ely/Twinstin' in The Wind(MCA/MCAD-70031)

 大傑作だった「Letter to Laredo」(MCA,95年)に続く新作。前作でも大活躍だったフラメンコ・ギターの名手Teyeを再度フィーチャーし、ベースには日系のグレン・フクナガ(前作にも参加していたこの人、SXSW98ではダーデン・スミスやアレハンドロ・エスコヴェードとも演奏していたし、ティッシュ・イノホサのアルバムでも常連で、テキサスではかなり売れっ子のようです)、スティール・ギターにロイド・メインズ(メイネス?)、エレキ・ギターにミッチ・ワトキンス(プロデューサーとしてもAbra Moore, Betty Elders, Christine Albertらを手がける)、ドラムにドナルド・リンドレイなど、一流どころをそろえたゴージャスなアルバムだ。前作に顕著だった国境の匂いは薄れ、本来の姿に戻ったかのようなストレートで力強いサウンドを聞かせてくれる。好みで言えば前作の方が好きだが、これはこれでまとまった1枚。

Butch Hancock/You Coulda Walked Around World(Rainlight/RLT-37)

 ジョー・イーライときたら、やはりこの人も紹介しておかなくては。かつてジョーやジミー・デイル・ギルモアと組んだフラットランダーズでお馴染みのブッチ・ハンコックも新作を出している。クレジットを見てもゲストはなく、ブッチ一人の弾き語り集といった趣き。弾き語りってときどき退屈なときがあるけど、このアルバムは何故か飽きずに最後まで聞けた。内ジャケの崖っぷちに立つ枯れた巨木がまさにこのアルバムを象徴しているかのようだ。どこか不安定な重みと渋さが、落ちそうで落ちない絶妙なバランスを保ちつつ、屹立している。ジョー・イーライとブッチの共同プロデュース。

Dave Alvin/Blackjack David(P−ヴァイン/PCD-5365)

 P−ヴァインより国内盤が絶賛(?)発売中。ライナーを書かせていただいたので、詳しくはそちらをご覧下さい。と宣伝しておく。ボーナス・トラック2曲入りです。お近くのお店にない方は、上記の番号で取り寄せてもらいましょう。グレッグ・レイズ・プロデュースのフォーキーな傑作です。

Brian Wilson/Imagination(Giant/Revolution)

 大傑作とまではいかないでも、今のブライアンにできることをまあまあの線でまとめた力作。「駄目な僕」やヴァン・ダイクとの共作じゃやっぱり駄目でしょう。これをファンはみんな待っていたと思う。取りあえず満足です。ここにもグレッグ・レイズ参加。

Billy Brag & Wilco/Mermaid Avenue(Elektra)

 「僕はジェフに言い続けたんだ。−−"ウディは3分間ポップスを聞いたことがなかったんだ"ってね。僕らは彼にそれを押しつけることは出来ない。ちょうどその頃「ベースメント・テープス」について書かれたグリル・マーカスの「The Invisible Republic」を読んでいたんだ。彼ら(ディランとザ・バンド)は大好きなオールド・タイミー・ソングを演奏していたわけだけど、リトル・リチャードを聞いてしまったという事実は変えようがなかった。僕らも似たような状況にあったんだよ」(Folk Roots, June 1988)

 そんなわけで、彼らの奇妙なチャレンジはにじみ出る体臭をいかに消し、いかに生かすか、という点にしぼられた。結果はお聞きの通りで、最上の成果が得られたと言ってもいいだろう。ジェフの歌う2曲目が一番好きかな。

 もう一つこのインタビューで面白かったのは、マイク・スコットにまつわるエピソードだ。そもそも娘のノーラ・ガスリーが父の遺作を整理し始めた頃、最初に彼女のもとを訪れたのはビリー・ブラッグではなくて、マイク・スコットだった。彼はウディ・ガスリーの曲を録音してアルバムに入れようと計画していたのだ。しかし、当時の管理者であるハロルド・リーヴェンサルは首を縦に振らず、マイクは結局「フィッシャーマンズ・ブルース」の最後に"This Land Is Yours"のコーラスを使うにとどまった。

 その後ハロルドは間違いを認め、ノーラの開放政策により、トリビュート・コンサート、このアルバムなど、ウディの遺産がどんどん公開されるようになったわけだが、マイクはきっと今頃悔しい思いをしているに違いない。タイミングというやつはいつもやっかいなものなのだ。


Kate Jacobs/Hydrangea(Bar/None/AHAON097-2)

 早いものでもう4作目(EP含む)。キュートな歌声と素朴なフォーキー・ポップという路線は変わっていないが、ぱらぱらと歌詞や内ジャケの写真を見てみると、今回はどうやら実在したケイティ叔母さんとその一生をテーマにしたコンセプト・アルバムのようだ。途中で少年少女合唱団にまるまる1曲歌わせたり、変わった試みも見られる。今回もデイヴ・シュラムがギターにアコーディオンに大活躍。ピーター・ホルサップル、スーザン・カウシル、ヴィッキー・ピーターソンらも参加している。元々ピーターはホボーケンとは縁が深いので、それほど意外ではないが、ピーターとデイヴ・シュラムの共演はひょっとして初めてでは?

Patti Griffin/Flaming Red(A&M/31454 0907 2)

 これが2作目になるナッシュヴィルの女性シンガー。弾き語り中心だった前作に比べると、今回はバンド・サウンドがメインで、かなり華々しく変貌を遂げている。オルタナ色の強い1曲目がいきなり派手でびっくりだが、2曲目以降は少し落ち着いてきて、ほっと一息。かなり作りこんだサウンドで、一歩間違うとイメージ大崩れになるところが、楽曲の魅力で何とか救われているといった感じ。慣れてくるとそれほど悪くない。ギリアン・ウェルチやウォールフラワーズのアルバムに参加していたジェイ・ジョイスをプロデューサーに迎え、キム・リッチーとの活動で知られるアンジェロ(80年代にフェイス・トゥ・フェイス−−ローリー・サージャント率いるアメリカン・ロック・バンドで、今のフェイス・トゥ・フェイスとは別物−−に在籍していたアンジェロと同じ人物なのだろうか?)、ソロ・アルバムが日本でも出ているダニエル・タシアン(追記:勘違い。出てませんでしたね)らが演奏に参加。エミルー・ハリス、バディ・ミラー、ジュリー・ミラーらがバッキング・ヴォーカルを担当しているが、今回はあまりジュリーやエミリーのイメージで接しない方がよいでしょう。

Protones/Not That Difficult(Rock Indiana/CINDI-071)

 7号でも紹介したスペインのパワー・ポップ・バンド。3作目かな。今までも悪くなかったけど、これはかなり出来がいい。夏の暑さを吹き飛ばす爽快なスピード感に満ちていてお薦めだ。プロデュースはポール・コリンズ。同時にレコーズの新作も同じレーベルから出ている。

The Coal Porters/EP Roulette(Prima/SID008)

 シド・グリフィン(ex-Long Ryders)率いるカントリー・ロック・バンドによる6曲入りEP。秋に出る予定のアルバム「Western Electric」からの2曲+4曲(CCRの"Who'll Stop The Rain"が聞ける!)という構成だが、1曲目の"Everything"がとにかく素晴らしい。もともとバーズ風の曲を書かせたら右に出るものはいないシドの才能が見事に発揮された名曲である。こりゃ新作が楽しみだ。