最新レビュー


5/1 - 5/31

Big Hello/Apple Album(Parasol/Par-CD-039)

 エルヴィス・ブラザーズやスリー・アワー・ツアーのドラマーとして知られるブラッド・エルヴィスの新バンドによるデビュー・アルバム。エルヴィス・ブラザーズが来日したとき(そのときのレポートはこちら)に間もなくアルバムがパラソルから出るよとブラッド本人が言っていたので、ずっと待っていたのだが、もうあれから3年も経ってしまった。この3年間何をしていたのかというと、地道にライブ活動を続けていたらしい。メンバーこそ当時とはがらりと変わっているが、ようやくリリースされたこのデビュー作には、エルヴィス・ブラザーズ直系の、すっきりとした現代版パワー・ポップがぎっしりと詰まっている。既にノット・レイムのコンピレーションで披露されていた"Today Will Be Yesterday Tomorrow"は心地よいスピードと抜群のメロディーが一体となった名曲。これが前半の山場とすれば、後半の山はゆったりと聞かせる"Clouds Cover The Mountain"だろうか。最後の"Kamikaze"ってのはどんな内容なんだろう? 女性ヴォーカリスト、Chole F. Orwellは曲も2曲提供して、頑張っている(もろビートルズの8などはいかにもブラッドの好きそうな曲)。全11曲全てのテイク違いをまるまるボーナス・トラックとして収録してしまうサービスも嬉しい。

The Doleful Lions(Parasol/Par-CD-032)

 ノース・キャロライナの新人、ジョナサン・スコット率いる4人組のデビュー・アルバム。プロデュースをミッチ・イースターが手がけ、ミックスはクリス・ステイミー、さらにキーボードでジェフ・ハートも参加、という豪華なサポート陣から想像できるように、いまどき珍しくストレートなギター・ポップが中心だ。ヴォーカルも素人っぽく、まだまだ荒削りではあるが、これからに期待できそうな好バンド。

Map of Wyoming/Round Trip(MW1024)

 80年代に活躍したサン・フランシスコのギター・ポップ・バンド、フライング・カラーのメンバー、デイル・ダンカンがクリス・ヴォン・スナイダーン(かつてFlying Colorに在籍)、ジョン・ステュアート(Flying Colorのドラマー)と組んだプロジェクトのデビュー作。だてに年は食ってないとでもいいたげな余裕の感じられる1枚だ。スティーリー・ダンみたいなイントロからアダルト・コンテンポラリーに迫る1や西海岸の爽やかな風が感じられそうなフォーク・ロック調の2、ゆったりとしたワルツの3、ペダル・スティールが気持ちいいカントリー・ロック風の5など、多彩な曲作りが楽しめる。かつての若々しさはさすがに後退していて、まあ年相応のアルバムだなと思っていたら、後半の7"Caroline"でがつんとやられてしまった。こんなに甘酸っぱく切ないメロディーが作れるのなら、まだまだ大丈夫。すっかり枯れてしまったのかという印象を見事にくつがえしてくれた。CVSプロデュース、チャック・プロフィット、ラリー・デッカー(ex-Translator)等も参加の好盤。

Wheat/Wheat(Sugar Free/004)

Chris Mills/Every Night Fight for Your Life(Sugar Free/005)

Jon Langford/Skull Orchard(Sugar Free/006)

 少し遅れたけど、以前吉本さんがクロスビートでも紹介していたシカゴの注目レーベルからの3枚をまとめて聞いてみた。まず、マサチューセッツのウィートはリリカルなハンサム・ファミリーといった趣で悪くない。ノイジーすぎたり、ロー・ファイすぎたりするとちょっと個人的にはついていけなかったりするのだが、このバンドはその一歩手前でとどまっている感じ。その分個性という点では弱いかも知れないが、僕はOKでした。

 クリス・ミルズは同じシュガー・フリーからの"Nobody's Favorite"に続く2枚目。ジェイ・ファーラーやスティーヴ・アール・タイプのぶっきらぼうな声で歌われる弾き語り調の作品に混じって、2や5のように豪快なバンド・サウンドが絡む。全体的にはサン・ヴォルトからカントリー臭さを減らして静かにまとめあげた感じだが、オルタナ・カントリーの一部に共通する、強烈な無法者のイメージがある。かなり気に入った。

 ジョン・ラングフォードについては今さら説明するまでもないだろう。MekonsやWaco Brothersでお馴染みの大ベテランだが、今までにジョニー・キャッシュのカヴァー集以外にソロ名義の作品はなく、まともなソロ・アルバムとしてはこれが初めてと言ってもいい。期待に違わぬ傑作で、軽快でリラックスした演奏の中に、適度な緊張感とここぞという聞き所を混入する手つきは鮮やかの一言。ただし、Waco Brosのようなジャンルへのこだわりはさほど感じられない。特にオルタナ・カントリーにこだわらず、優れたロック・アルバムとして評価すべきでしょう。反省して、ほとんど聞いていなかったMekonsを今集めてます(何枚か聞いてみたところ、89年の"Rock & Roll"が本作とかなり近い感じでした)。それにしても、プレスリー風の衣裳を着て仁王立ちした内ジャケの写真には大笑い。自信作だからこそできるギャグだね(それとも本気なのだろうか?)。Mekonsの新作「Me」も出ているが、未聴。

Sugar Freeのホームページはこちら


Old Joe Clarks/Town of Ten(Checkered Past/CPR001)

Lonesome Bob/Things Fall Apart(Checkered Past/CPR003)

 続いてもう一つシカゴから。最近立て続けに注目作を送り出しているこれまた注目レーベルがチェッカード・パストだ。第1弾となったオールド・ジョー・クラークはシスコを経て、現在はカンザスで活動しているらしい4人組。渋めのカントリー/フォ−ク・サウンドが中心で、かなり地味だが味わいは深い。

 ロンサム・ボブはベン・ヴォーン・コンボ出身のドラマー。ただし、今回はドラムを全て他人に任せ、歌とアコースティック・ギターに専念している。現在はナッシュヴィルで活動しているらしく、同地にスタジオを持つスティーヴ・アレン(20/20)のプロデュースにより、ルーツ色の濃い、R&Rアルバムの佳作を届けてくれた。バックにはデュエイン・ジャーヴィスやティム・キャロルなどナッシュヴィルで活躍する注目アーティストも参加しており、以前紹介したデュエインやケヴィン・ゴードンのアルバムと同じく、ナッシュヴィル産オルタナ・カントリーの系譜に連なる1枚でもある。旧友ベン・ヴォーンやウィルコのケン・クーマーらもゲスト参加。ほとんどの曲でバッキング・ヴォーカルを担当したAllison Moorerの活躍が光る。

 他にも、トム・ハウス(002)、ポール・バーチ(004)、ジョニー・ダウド(005)、"Dizzy Spell"(独Blue Rose)の米版をここから出したシュラムズ(006)、ブラッド・ジョーンズのプロデュースが話題のトミー・ウォマック(007)、シカゴのベテラン、ソウルド・アメリカンの新作(008)などがリリースされており、今後も目が離せない。ブラッドショットだけでも追いかけるのが大変だというのに、この手のレーベルがどんどん生まれてくるシカゴは本当にすごいとしか言いようがない。

ホームページはこちら


Paul Kelly/Words and Music(Vanguard/79499-2)

 早いものでヴァンガードに移籍して3作目(ライブを入れると4枚目)になるオーストラリアのシンガー・ソングライター。どちらかというと地味だった近作に対して、今回は徹底してバンド・サウンドで迫り、A&M時代の勢いが戻ってきている。タイトル・トラックにもなった"Words and Music"は子供の頃にラジオを通して出会った音楽へのストレートな賛歌だが、この曲に代表されるように、初心に立ち戻ることで、再スタートを図ろうという狙いが本作にはあるのではないか。ジャケ写に見られる丸めた頭からも何だか決意のようなものが感じられる。ベスト・トラックは13。美しいメロディの影に悲劇が隠れているのは彼の得意技だが、ここでも楽しいロックンロールの裏に病んだ精神が隠されている。

Soul Asylum/Candy from A Stranger(Sony/SRCS8608)

 今回の新作は世評通りかなり出来がよい。それでも3曲目あたりまでは、ふんふんという感じで聞いていたのだが、4,5と続く曲のよさに好感度アップ。さらに8,9と続く2連打にはたまらず降参。いや、こんなによいとは思っていませんでした。今までの最高作ではないだろうか。各誌の絶賛に異議はない。これに星2つしかつけなかったPulseのスコット・シンダーはやっぱり厳しいねえ。今に始まったことではないから驚きはしないけど、ほんと辛口だよな。

Parlor James/Old Dreams(Sire/31015)

 5月の期待作と言っておきながら、ごめんなさい。前言撤回します。正直言ってこれにはがっかりしてしまった。マルコム・バーンというプロデューサー表記を見たときにちょっといやな予感はしたんだけど、この中途半端に人工的でモダンな音作りには全く賛成しかねる。まあ、本人達が望んでこうしたんだろうが、この方向はどうかなあ。

Connells/Still Life(TVT/9030-2)

 その点、こちらはプロデューサー、ジム・スコット(ボ・ディーンズ、ローエン&ナヴァロ、ニール・カサル、ウィスキータウンなど)の名前から連想されるように、清涼感、カントリー風味、どちらもアップした傑作に仕上がっており、安心して聞ける1枚。ウィスキータウンのときは少しきれいにまとめすぎて賛否両論あったジムだが、今回はコネルズの持ち味であるラウドなギター・サウンドを残しつつ、ジムの持ち味であるナチュラルな伸びやかさを上手くミックスしており、コネルズの長いキャリア、そしてジムのキャリア、双方の中でも1,2を争う佳作となった。今のところ出る様子がないようだが、前作よりは出来がいいので、バンダイさんには是非国内盤のリリースをお願いしたいところ。

Continental Drifters/Vermilion(Blue Rose/BLUCD0064)

 3月にライブを見て以来、出るのを心待ちにしていた新作。ニュー・オリンズを拠点に活動するコンチネンタル・ドリフターズによる4年ぶりのセカンド・アルバムがドイツの注目レーベルからようやくリリースされた。Carlo Nuccio(Monkey Hillからのソロ・アルバムは延期になっていたが、そろそろ出ているはず)の脱退に伴い、ドラマーがラス・ブラッサード[Rus Brousard]にチェンジした以外のメンバーは変わらず、ピーター・ホルサップル(ex-dB's)、スーザン・カウシル(Cowsills)のおしどり夫妻に、ヴィッキー・ピーターソン(ex-Bangles)、マーク・ウォルトン(ex-Dream Syndicate)、ロバート・マック[Robert Mache](Steve Wynn Band)の計6人による大所帯バンドである。ドラマー交代の前は6人中、5人までがヴォーカルを取り、曲作りも手がけるという民主的なバンドであり、前作「Continental Drifters」は、その辺りがいい方向に生かされ、南部風の泥臭さあり、ポップ・バラードあり、グラム・パーソンズやリチャード・トンプソンのカヴァーあり、と実にヴァラエティに富んだ作りになっていた。

 翻ってこのセカンドはどうかというと、全14曲中カヴァーは1曲もなく、ピーター単独作が5曲、ヴィッキー単独作が3曲、スーザン/ヴィッキーの共作が2曲、スーザン/ピーターの共作、ヴィッキー/ピーターの共作、スーザン単独作、ロバート単独作がそれぞれ1曲ずつ、という構成になっている。共作を含めると半分の7曲がピーターの作品であり、オリジナルが1曲しかなかった4年前に比べて随分と創作意欲が戻ってきているのがわかる。ただ、今回目立つのは自作曲でもヴォーカルを女性陣にまかせていることで、ヴォーカル面ではスーザン5曲、ヴィッキー4曲、ピーター3曲、ヴィッキー/スーザンのツイン・ヴォーカルが1曲、ヴィッキー/ピーターのデュエットが1曲ということになる。

 ここからこのアルバムの制作過程を勝手に推測してみると、作曲の面で主導権を握ったピーターだが、元々リーダーシップを取ることにそれほどこだわりがない(初期dB'sはどちらかというとクリスがフロントだったし、後期dB'sにおいてもリーダーがいかに大変なものか後のインタビューで語っていた)ため、ヴォーカルは女性に任せたというところだろうか。その方がステージで映えるのは言うまでもないし(SXSWでも女性ヴォーカル2人のバンドっていうのはほとんど見なかった。言っちゃ悪いが、身なりにほとんど気を遣わないおじさんが多いので、その辺は察して下さい)、もっと言えばステージでのピーターは演奏の要であり、アコーディオン、エレキ・ギターを取っ替え引っ替えして忙しいのである。

 結果として、今回は前作のような雑多な方向性は姿を消し、音楽的にもサウンド的にも統一され、良くも悪くもすっきりとしたアルバムに仕上がっている。ヨーロッパを意識したのか、ピーターが趣味に走ったのか、随分と英国的な翳りを感じさせるアルバムであることも付け加えておこう。以前から傾倒している英国フォークの影響が強いピーター、血筋故かポップ・バラードに強いスーザン、アグレッシブなフォーキー・ポップのヴィッキー、と三者三様ではあるが、それぞれの持ち味がうまくコンチネンタル・ドリフターズに溶け込んで、バンドとしての色がはっきりしてきた点は前向きに評価したい。個性の集合体でしかなかったファーストに比べると、ある意味ではこちらの方を実質的なバンドのデビュー作と呼ぶべきではないかとも思われる。ちなみに池田さんからの情報によると、"Vermilion"は実際にあるニュー・オリンズの地名で、Vermilionvilleという昔のケイジャン・タウンを再現したテーマ・パークもあるのだそうだ。