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4/1 - 4/30

The Gourds/Stadium Blitzer (Watermelon/11071)

 オースティン期待の新人による待望の2枚目。前作「Dem's Good Beeble」(Musa/501/96年)同様、マイク・スチュアート(ワイルド・シーズ、ポイ・ドッグ・ポンダリング等を手がける)とバンド自身のプロデュースにより、味わい深いルーツ・ロックが16曲収録されている(曲数まで前作と同じ)。マンドリン、バンジョー、場合によってはピアノやホーンも加えて、伝統的な味付けが各曲にさりげなく施され、ブリティッシュ・トラッドからテックス・メックス、カントリーなど、さまざまな要素が渾然一体となった懐の深さが楽しめる。それでいてきちんと統一感のあるアルバムに仕立て上げる手腕は相変わらずだ。大胆なアプローチとは縁がないけれど、ザ・バンドやライ・クーダー、ロス・ロボスなどの探求的側面を受け継いだ好バンドだと思う。J.D.グラハム他ゲスト参加多数。

Pete Droge/Spacey and Shakin (57/Epic/EK68974)

 既にあちこちで言われているが、今風の音作りがメインになっていて、ちょっとがっかり。これなら前作の方がよほどよかった、と思う私はあまりいいファンではないのかもしれない。でも、こういうものだと思って聞き直すと、3、7、11など曲自体の出来はまあまあなので、去年出ていたElain Summersのソロ(これはなかなかの出来)を聞きつつ次作に期待。せっかくのCD Extra形式だが、ビデオ・クリップは冒頭の1曲のみ。あとは曲に合わせて表示されている歌詞に色が付くだけなので、これはもう一工夫欲しかったところだ。

Todd Snider/Viva Satellite (MCA/MCAD-11726)

 国内盤が出るだろうと思ってしばらく待っていたのに、さっぱり出る気配がないので、結局輸入盤を購入した。1曲目からパワフルに飛ばしていて、これは文句なしの傑作。96年夏のツアーに参加し、最後の曲でピアノを弾いているアイオワのルーツ・ロッカー、デヴィッド・ゾロ(ハイ・アンド・ロンサム名義で3枚、ソロで1枚アルバムをリリース、詳しくはjem8号を参照のこと)は、「ナッシュビルはとても商業的な町」とあまりよい印象がなかったようだが、この一大商業都市の中で、時流に背を向けつつこれだけの力作を作ってしまったトッドはさすがだと言えよう。"Joker"(スティーヴ・ミラー)のカヴァーは、現代のスペース・カウボーイを目指す意気込みの表れ?(追記:書き忘れていたけど、プロデュースはジョン・ハンプトンです。なお、国内盤は7月23日に出る模様)

Cordelia's Dad/Spline (Appleseed/APR1023)

 Okraからの2枚ではトラッドとハードなエレクトリック・ナンバーが交錯した独自の世界を築き上げていたが、3枚目の「Comet」では落ち着いたトラッド路線でアルバムをまとめあげ(最後のボーナス・トラックだけ爆発してましたが)、96年の限定ライブ「Road Kill」ではオルタナ・トラッドともいうべき迫力を見せつけ、さあ次はどうなるのか、というところでの新作。実際に聞いてみると「Comet」路線を継承し、クールな深みを備えた1枚に仕上がっている。最近ピーター・ホルサップルの影響で、遅蒔きながらフェアポート・コンヴェンションやリチャード・トンプソンにはまっているので、基本的にはこの方向もOKなんですが、ちょっと寂しいかな。数曲くらいがつんとくる曲もほしかったという気がする。なぜかスティーヴ・アルビニがプロデュース。

Danny Wilde and The Rembrandts/Spin This (East West/AMCY-2626)

 1作目からずっと好きなバンドなので、新作が出るのはうれしいし、期待を裏切らない良質なポップ・アルバムだ。ヴァン・ダイク・パークスがアレンジに参加し、曲によってはストリングスが前面に押し出されているが、ギター・サウンドが軸であることに変わりはない。ジェシ・ヴァレンズエラ(ex-Gin Blossoms/現Low Watts)との共作が1曲収められているのも話題だろう。ただ残念なのは友好的であるとはいえ、フィル・ソーレムが脱退してしまったこと。ライブを続けたいというダニーとスタジオ・ワークに専念したいというフィルの方向性がかみ合わなかったことが理由らしい。

 フィル・ソーレムは脱退後、ジョン・ストロベリー・フィールズ(ミネアポリスでファンキータウン・スタジオを経営する敏腕プロデューサー。レンブランツの「LP」にはエンジニア、ゲストで参加した他、ウィリー・ワイズリー、ハニードッグス、ディライラスなど地元バンドを多数手がけている。ふざけた名前は絶対芸名だと思っていたら、ヒッピーだった両親につけられた本名なのだとか)と組んでTHRUSHというバンドを始め、一時はホームページもあったのだが、このプロジェクトがどうなったのかはよくわからない。続報を待とう。


Russ Tolman/City Lights(Blue Rose/BLUCD0047)

 4年ぶりにリリースされた、6枚目のソロ・アルバム。前作「Sweet Spot」よりさらにロック色が薄まっており、基本的には前作同様、穏やかで落ち着いたサウンドが中心。前作と変わらない印象を受けるのは、引き続きほとんどの曲でコーラスを担当したカナダの女性シンガー、ウェンディー・バードの参加によるところが大きい。彼女の参加はどちらかというと単調なラスのヴォーカルに対するアクセントとして機能しており、この辺りは自らの弱点をカヴァーする方法をうまく見つけたなという気がする。前作も今作も、もしウェンディーの存在がなければ、随分と味気ない作品に仕上がっていたことだろう。3、9、11などではかすかにゴスペル風のコーラスも聞こえ、これは新機軸と言えるかも。  全12曲中半分がシスコ、残りの半分がポートランドでの録音。ロバート・ロイドのオルガンも相変わらず控えめながらいい味を出しており、スティーヴ・ウィン(共同プロデュース)、チャック・プロフィット(ギター)、CVS(エンジニア、パーカッション)、J.W.ハーディング(vo, ハーモニカ)など、過去と現在を集約したサポート陣も見逃せない。

Mercury Dime/Darkling(Yep Records/YR2007)

ノース・キャロライナのネオ・ルーツ系バンド。前作「Baffled Ghosts」 (Opry Field Hank/OFH1)も一部手がけていたが、今度はミッチ・イースターが全部をプロデュース。ピアノが効果的に使われ、きらびやかなサウンドにスライドが絡む、アーシーかつポップな傑作。

Steve Poltz/Left One Shoe(Mercury/314 536 941-2)

 ひねくれたユーモアとそこはかとなく漂うペーソスでは右に出る者がいないスティーヴ・ポルツの才能は、ロバート・ドリスコルと組んでいたラグバーンズのファースト・アルバム「モーニング・ウッズ」(たぶん廃盤だろうけど、対訳付きの国内盤が4年前に出ていた。-- Polystar/PSCW5072)で十分堪能できた。例えば「独身生活は快適」と歌いつつ、享楽のはかなさを描く"Single Life"や、現代文明に翻弄される大衆の混乱が言葉遊びと共に語られる"My Carphone's On The Hill"あたりが代表的な例だろう。ステージでは女装したり、奇行で知られたスティーヴだが、反面結構ナイーヴなところもあって、ビートルズをテレビで見たときの思い出を通して60年代の回想を描いた"Hollison Street"などは、ストレートな感傷がメイン。音は歌詞からすると驚くほど正当派で、シンガー・ソングライター風弾き語りあり、ギター・ポップ風あり、なかなかの多才ぶりにかなり惹かれたのを覚えている。この後EP「Mommy I'm Sorry」(Bizarre,95年)セカンド「Taking The World by Donkey」(Priority,95年)をリリースしたが、それほど話題にならず、昨年Jewelのヒット曲を手がけていたのは、桐野さんに教えてもらうまで全然知らなかった。

さて前置きが長くなったが、そんな経歴を経て、メジャー第1作となったソロ・アルバムは素晴らしい出来映えを見せている。歌詞は読み込んでいないので、以前のユーモア感覚がどの程度残っているのかは不明だが(追記:後から確認したら歌詞はついていませんでした。望む! 対訳付き国内盤)、プロデューサーにSteven Soles(ex-アルファ・バンド)、エンジニアにLarry Hirsh、ベースに大ベテランJerry Sceffなどを迎えて(ピーター・ケイスの2,5枚目と同じ布陣だ)、70年代を思わせるフォーキー・サウンドで統一した傑作。他にヴァン・ダイク・パークス、ベンモント・テンチ、ジュエルなどバック・アップ・メンバーも豪華だ。


Jono Manson/ Little Big Man(Paradigm/PME024-2)

 ブルース・トラヴェラーのアルバムにも参加していたNYのルーツ・ロッカーによる2枚目。「No Depression」の15号に面白いエピソードが掲載されていたので、少し紹介しておこう。ジョノがいつものように酒場で演奏していたある日のこと、偶然居合わせたムーヴィー・スターが彼のプレイに感激し、ギターを教えてくれと言ってきた。スターの名前はケヴィン・コスナー。中でも放浪者の思いを描いた"Almost Home"(1stに収録)が気に入ったコスナーは、ちょうど取りかかっていた新作「ポストマン」にその曲を使い、映画にも演奏シーンが収録されたという(未確認。原作のブリンもあんまし好きじゃないし、前の「ウォーターワールド」がひどかったんで、見に行ってない。)。トム・ペティが出ているのは知っていたけど、この人まで出演していたとは知らなかったなあ。「もしこの映画が当たっていたら、セリーヌ・ディオンの代わりに僕のビデオがあちこちで流れていただろうね」とは本人の弁。

いくら映画が当たってもそこまではいかないだろうと思うのだが、閑話休題。エリック・アンベルがプロデュースを手がけた新作は期待を裏切らない痛快なロックンロール・アルバムだ。ウィル・リグビー(ex-dB's)が全曲ドラムを叩いていたり、エンジニアがルー・ホイットニー(Skeletons)だったり、話題には事欠かないアルバムだし、デイヴ・エドモンズやNRBQあたりにも通じる、R&B風の味付けを施したバラード・チューンには、何とも言えない味がある。パブ・ロック・ファンには絶対にお薦めの1枚。


Big Tent Revival/ Amplifier(Forefront/FFD5186R)

 何で話題にならないのか不思議なほど、気持ちのいいアメリカン・ロック/ギター・ポップを聞かせてくれるメンフィスの5人組(最初はトリオだったのに段々数が増えている)。「Big Tent Revival」(Forefront,95年)「Open All Nite」(Forefront,96年)に続く3枚目は、前作と同じくジョン・ハンプトン(トミー・キーン、リプレイスメンツ、ジン・ブロッサムズ等を手がける)をプロデューサーに迎え、持ち前のメロディー・センスに一層磨きをかけ、やや大味ではあるけれど、ジン・ブロッサムズを思わせるアーシーでポップなアルバムを作り上げることに成功している。今回新たに加わったのはキーボード・プレイヤーのデイヴ。随所で彼のハモンドやメロトロンが従来にない幻想味を醸し出している。音作りにも余裕が出てきて、これからがますます楽しみと言えるだろう。前作と同じくAudio Vision CDで、9のビデオ・クリップが収録されている。

Kyle Davis/ Raising Heroes(Encoded Music/N2K-10009)

 プロデューサーがドン・ディクソンだと斉藤さんに教えられて購入。なるほど1や3のリズム・トラックは「E.E.E」あたりを連想させるし、ソウルフルなヴォーカルもどことなくドンに似ている。ただ、ドンの持っていたどこか野暮ったい魅力には欠け、モダンで洗練された雰囲気が逆に作品を薄っぺらく感じさせてしまうところもある。悪くはないけど、もう一つかな。ピーター・ホルサップル(ex-dB's/現Continental Drifters)がオルガン、マンドリン他で大活躍。詳細については以下のサイトを参照のこと。

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Kieran Kane/ Six Months, No Sun(Dead Reckoninng/DEAR0008)

 デッド・レコニングからの2枚目は、これまた期待通りの傑作だ。前作よりも地味になった分、男の渋さが前面に打ち出され、いい方向に枯れてきたという感じ。タミー・ロジャーズのフィドル、ハリー・スティンソンのドラム、マイク・ヘンダーソンのギター、いずれもさりげないサポートが光る。ぎりぎりまで絞り込んだ音数が逆に豊かな音楽性を感じさせてくれるのは、彼の歌が本物であることの証明だろう。

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