最新レビュー

なかなか追いつきませんが、やっと2月分をアップ。Tommy KeeneやPosiesなどは次回に回します。一部8号に流用したものを含む。

2/1 - 2/28


Plimsouls / Kool Trash (Musidisc/121252) 97

 噂の新作がついに登場。仏盤先行で97年に出ていたものだが、今年の2月に英盤がリリースされ、ようやく出回るようになった。既報通り4人中3人がオリジナル・メンバー。しかし、米盤の予定はないのが残念だ(出すと言っていたエピタフはどうした?)。BやGのように落ち着きを感じさせる曲もあるが、@やEのようにパワフルな曲の印象がやはり強く、全盛期に比べてほとんど衰えは感じられない。ソロの方が徹底して枯れた味わいだったのも、パワーをこちらに注ぎ込んでいるためか。両立は不可能ではないと語っている位だから、次作もあるんでしょうね。プロデュースはバンドとアンドリュー・ウィリアムスが手がけ、ゲストはエピタフのオーナー、Bret Gurewitz(歌ってる場合じゃないぞ、ブレット)、Jon Brion (ex-Grays)、Williams Bros.など。

Peter Case / Full Service, No Waiting (Vanguard/79504-2) 98

 プリムソウルズの新作と同時期に購入したので、ちょっと印象が薄くなってしまったが、これはこれで悪くない。とにかく前作「Torn Apart」は素晴らしすぎた。あれを越える作品をこの先簡単に作れるわけはないだろうから、まずはこのレベルでコンスタントにリリースが続くことを願う。プロデュースはPlimsoulsに続いてアンドリュー・ウィリアムス。ゲストはお馴染みのグレッグ・リーズ、ドン・ヘフィントンなど。Diane Sherry Case(奥さん)、Joshua Case(娘?)との共作以外は全部自作曲である。

Michael Fracasso/ World in a Drop of Water (Bohemia Beat/0008) 98

 オースティンのSSW。以前5号でアルバムは2枚と書いてしまったが、オースティンに移る以前、NYで活動していた頃にアルバムが1枚あるそうで、今回は3枚目ではなく4枚目ということらしい。前2作もよかったが、今回はチャーリー・セクストンをプロデュース、演奏に迎えて、一部ロック色を強めた結果メリハリのきいた傑作に仕上がっている。ただし全体的には彼の持ち味である、郷愁を誘う優しいメロディーを持ったバラードがメインだ。ケリー・ウィリスのコーラス(D)やマック・マクナブのスライドもいい味を出しており、ロイ・オービソンやバディー・ホリーを思わせる、厚みのある声と唱法も相変わらず冴えている。早くも98年のベスト候補。

The Good Sons/Angels in the End(Watermelon/1068) 98

 5号でグリッターハウスからのデビュー・アルバムをレビューしたときはどこのバンドかよくわかっていなかったのだが、その後イギリスのバンドと判明。同じくグリッターハウスからメール・オーダーのみで販売された「The Kings Highway」(これは7号で本間さんが96年のベスト10に選んでましたね)と2作目「Wines, Lines and Valentines」(97年)をリリースしている。さて、このアルバムはジャケットもタイトルも違うけれど、前年の「Wines, Lines and Valentines」と実は全く同じ内容である。グリッターハウス盤を持っている人は買う必要は全くないが、ドイツ盤は入手が面倒でという人には、是非この米国デビュー盤をお薦めしたい。内容は今までの作品中ベストと言ってよい出来映えで、英国出身とはとても思えないほど堂々としたカントリー・ロック路線にいっそう磨きがかかっている。サン・ヴォルトやウィルコのようにざらついた感触は薄く、以前のジェイホークスやブルー・ロデオを思わせるクリアなサウンドと張りのあるヴォーカルが印象的。オルタナ・カントリーというよりは、70年代のウェストコースト・ロックを現代に甦らせたという方が近いかも知れない。とにかく、これまた98年を代表する1枚になるだろう。

Joe Grushecky and the Houserockers/ Coming Home (Viceroy/Light Year/54244-2) 98

 5号でレビューした前作「American Babylon」はスプリングスティーン・プロデュースという話題もあってか、その後国内盤がめでたくリリースされている。解説は五十嵐正氏が担当し、それまでのアルバムやスプリングスティーン参加の経緯についても詳しく触れているので、詳しくはそちらを。こういう立派なライナーばかりだと本当に日本盤で買い直してよかったと嬉しくなるのだが、実際はひどいのが多いからね。さて、3年ぶりの本作では、スプリングスティーンとの共作が前作の1曲から4曲に増えている。ただし、それ以外に彼の参加はなく、プロデュースはジョー自身とRick Witkowskiが担当。内容的には、前作が気に入った人には文句なく大推薦のアメリカン・ロックがぎっしりだ。タイトル・トラックの"Coming Home"は中でも特にキャッチーなメロディー・ラインを持つ佳作であり、15年前だったらすぐシングル・カットされて、絶対ヒットしてたと思うけどなあ。

Jim Lauderdale/Whisper (BNA/07863-66996-2) 98

 ノース・キャロライナ出身で、今はナッシュヴィルで活躍するカントリー系のSSWによる5枚目のソロ。バディー・ミラーとは古くからお友達で、演奏面での参加は今回はなしだが、1曲だけ共作している。他にロドニー・クロウェル、ジョン・リーヴェンサル、ショーン・コルヴィン(以上1st)、グレッグ・リーズ、ジル・ソビュール(2nd)、タミー・ロジャーズ、ガーフ・モリックス(3rd)、ゲイリー・タレント、ビリー・ブレムナー(4th)など、今までの豪華ゲスト陣を挙げるだけでマニアなら思わず飛びついてしまうことでしょう。ただし、かなり音は洗練されていて、本物カントリー志向が強いので、ロック・ファンは注意。ラドニー・フォスターやロドニー・クロウェルがOKな人は是非聞いてみよう。

 ホームページはこちら


Kevin Gordon/ Cadillac Jack's #1 Son (Shanachie/6029) 98

 同じナッシュヴィルでもこの人は少しロック寄り。ジムも悪くはないけど、僕はやっぱりこちらの方が好きかな。ルイジアナ出身で一時アイオワに移り、現在はナッシュビルで活動するSSWによる3枚目(EP含む)。ただし、厳密に言うと完全な新作というわけではなく、録音自体は95年から96年にかけて行われたものが使われている上、5曲は昨年EPで発表済のものだし、1st収録の"Lucy and Andy Drive to Arkansas"が録音をやり直して収録されているし、全12曲中半数の6曲が既発表曲ということになる(しかし、これから買う人にとってはそんなことはどうでもいいことでしょう。どうせ1stやEPはその辺では買えないので、まずはこのアルバムからで全く問題ありません)。
音としては1stのライナーに書かれているように「スプリングスティーンがジョニー・ホートンやジェイムズ・バートンを聞きながらルイジアナ州シュリヴポートで大きくなった」ようなサウンドであり、他にもエルヴィスやチャック・ベリー、マディー・ウォーターズらの名前が引き合いに出されているが、それもうなずける仕上がりを見せている。プロデュースはゲイリー・タレント(E Street Band)で、ゲストは元Theives(マーシャル・クレンショウ・プロデュースでアルバムを1枚出していた)のGwill Owen、Jeff Finlin、アイオワ時代のよき先輩Bo Ramsey、20/20のSteve Allenなど。

 ホームページはこちら


Duane Jarvis/Far from Perfect (Watermelon/1070) 98

 ついでにもう一つナッシュヴィルからの力作を。もともとはLAをベースにルシンダ・ウィリアムスやRosie Floresらと活動していたギタリスト(ビル・ボンクとも交流がある)だが、最近これまたナッシュヴィルに移って活躍。近々サイアーからアルバムが出るはずのティム・キャロル(ex-Blue Chieftains)、今回取り上げたケヴィン・ゴードン、さらには既にCapitolからメジャー・デビュー盤をリリースしたDelevante兄弟、そしてこのデュエイン・ジャーヴィスあたりが、僕の今注目するナッシュヴィルの新世代(といってもデュエインは今年40才だが...)ということになるだろう。
 ナッシュヴィルとパワー・ポップとの組み合わせも実際にある動きだから、僕は別に反対はしないが、むしろナッシュヴィルという土地柄に逆らわず、伝統を取り入れながらも新しさを感じさせる彼らのような、いわばロックの王道を行く一群をしっかりと紹介することが、今の音楽ジャーナリズムの課題ではないだろうか。パワー・ポップはまずLAシーンからにしておいて、個人的には是非この辺りはどこかでまとめて紹介したいと思っている。
 閑話休題。3号で紹介した「D.J's Front Porch」(94年)に続くセカンドは、前作にあった渋さを残しつつ幅を広げることに成功した傑作だ。キンクス(前作では"This Is Where I Belong"をカヴァーしていた)やイアン・ハンター、そしてストーンズなどイギリス勢からの影響とバディー・ホリーやボビー・フュラー流のオールディーズ感覚が見事に融合し、曲ごとの完成度も高い。ゲイリー・タレントのプロデュースも的確で、ケヴィン・ゴードン同様そつなくまとめている。共作陣がまた豪華で、LA時代の友人マーヴィン、SXSWでは一緒に演奏していたティム・キャロル、20/20のスティーヴ・アレンらとの作品を収録。いずれも出来はいいが、個人的な集中ベストは単独作の"I'm Not Gonna Let You Break My Heart"。ゲストにはバディー・ミラー、スティーヴ・アレンなど。

The Hangdogs/East of Yestreday(Crazyhead/CH-66622) 98

 NYのネオ・ルーツ・バンドによる、95年のEPに続くフル・アルバム。NYではサンクス欄にも名前の挙がっている5チャイニーズ・ブラザーズやMr.ヘンリーと並ぶ有望株だと思う。いい意味でリラックスした演奏は、オルガンやフィドルを効果的に使った正統的なカントリー・ロックが中心で、ここにはうるさいギターも性急なビートもないが、代わりに「Same Old Story」があり、本物の匂いがある。それで十分だろう。

 ホームページはこちら


Jules Shear/Between Us (High Street/72902-10352-2) 98

 昨年夏頃に一旦予告されながら、延期となっていた新作(「ミュージック・ライフ」で岡村さんが書いていたように「何の前触れもなく」出たわけでは決してない)。予告通りさまざまなアーティストとのデュエットを含む変則的なアルバムで、弾き語りが中心である。共演相手は男性5人に女性が10人。圧倒的に女性が多い。どうやら国内盤は出ないようなので、簡単に共演アーティストの紹介をしておくと、
 ポーラ・コールはつい先日98年のグラミー新人賞をとった有望女性シンガー。日本でも昨年の夏に、ピーター・ガブリエルやトニー・レヴィンが参加した2枚目「ディス・ファイアー」(イマーゴ)とファーストが一気にリリースされている(実は未聴)。
 パティ・グリフィンは96年に「Living with Ghost」(A&M)をリリースしているナッシュヴィルの女性シンガー。これは出た当時買って2,3回聞いたけど、弾き語り中心の地味なアルバムだった。ただ、ジュールズはこのアルバムがかなり気に入っていたようです。
 Curtis Stigersは初耳だったので調べてみると、91年に「Curtis Stigers」(ダニー・コーチマー・プロデュースでジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ペイチらToto勢が参加)、95年に「Time Was」(デヴィッド・フォスターやスチュアート・ラーマンがプロデュースし、ウィリー・ナイルやショーン・コルヴィン参加)をリリースしている。AORとSSW系の両方から人脈が絡んできているところはなかなか興味深い。
 Rob Shearはジュールズの弟(兄?)で、子供の頃からよく一緒に歌っていたそうです。今はLAの「National Academy of Songwriters」で働いているとか。
 それ以外の人については大体お馴染みでしょう。Angie Hart (Frente!)、Mary Ramsey (10,000 Maniacs)、Margo Timmins (Cowboy Junkies)についても個人名まで知らなくても、グループの名前を見れば、ああそうかという人たちばかり。それにしても、グラミー・アーティストに加えてキャロル・キングも参加だよ。これは日本でもロン・セクスミスより大きなセールス・ポイントになると思うんですが、それでも駄目なんでしょうか。内容的にも同系統の「サード・パーティー」に比べるとヴォーカル面での工夫がある分飽きずに聞けるし、出来は悪くないと思うんですが。

 掲示板にも書いたように、本人による解説はこちら