最新レビュー


10/1 - 10/30


Jeffrey Foskett/ Cool And Gone, (Gone Gone) (Pioneer/PICP-1149)

お恥ずかしい話だが、この人については全くノー・チェックだった。マーシャル・クレンショウやビル・ロイドが参加しているというので、あわてて買い込み、聞いてみたらあんまりいいのでびっくり。何者だと思って解説を読んだら、カリフォルニア出身で70年代末から80年代初めにかけて、プランクス[Pranks]というバンドに在籍していたという。このときのメンバーに個人的に期待しているランデル・カーシュ[Randelle Kirsh](後にショウ・オブ・ハンズ。現在はソロで活躍。「Yellow Pills Vol.2」や「Closet Pop Folk」などの編集盤に作品が収録されています。)がいたというから、またびっくり。その後はカール・ウィルソンの代わりにビーチ・ボーイズのツアーに参加し、80年から90年をビーチ・ボーイズと共に過ごす。87年にはプランクスを再編したがうまくいかず再び解散。90年代に入ってからはソロ活動を始め、今までにデビュー・アルバム「スルー・マイ・ウィンドウ」(96年)、EP「ハーティング・イーチ・アザー」を同じくパイオニアからリリースしている。

この新作は、ソロ・アルバムとしては2作目に当たり、ほとんどビーチ・ボーイズそのままだった1作目に比べて、ヴァラエティに富んだ仕上がりを見せている。根っこにバディ・ホリーやエヴァリー・ブラザーズへの傾倒があるのは明らかだが、マーシャル同様それを上手く自分の持ち味として解体/再構成するのに成功していると言っていいだろう。16曲中自作曲は8曲あるが、やはり1曲目の「It's My Fault」(プランクス時代の曲だとか。解説で長門氏はホリーズを思わせると書いている。)の出来が群を抜いていい。他にはエヴァリー・ブラザーズ(Gone Gone Gone)やマーシャル・クレンショウ(My Favorite Waste of Time)をカヴァーし、ゲストとしてランデル・カーシュ、マーシャル・クレンショウ、ビル・ロイド、P・ハックスリーらが参加。パワー・ポップというには全体的にソフト・ロック風味が強いのだけど、傑作であることに間違いはない。ボーナス・トラックとして収録されたプランクスのライブ(こちらは完全にパワー・ポップ)がまたよくて、こうなると多数あるというプランクスの音源も聞きたくなってくる。是非リリースをお願いしたい。


54-40/ Trusted by Millions (Vap/VPCK85745)

カナダのギター・ポップ・バンドによる7枚目。唐突に日本盤が出たので、驚いて買ってきた。シガレット・ケースを模した缶ケース入りの凝った仕様。しかもCDエクストラ形式で、ビデオ・クリップが5本も収録されている。どっしり構えたギター・ポップが中心なのは相変わらずだが、以前に比べて随分貫禄がつき、曲によってはちょっと重め。だが、それとは逆にメロディーがクリアで聞きやすくなっており、全体的にはR.E.M.とジン・ブロッサムズを混ぜて、ポップ度を上げた感じに仕上がっている。今までの作品の中ではベストだろう。

Steve Earle/ El Corazon (Warner Bros./E-Squared/9 46789-2)

前々作「Train A Comin'」(95)はアコースティックな弾き語り集、前作「I Feel Alright」(96)はエレクトリックな熱血曲集、というようにこのところ全体の統一感にこだわっていたスティーヴだが、今回はかなりヴァラエティに富んだアルバムとなっている。アコースティックな弾き語りあり、伝統的なスタイルのカントリー・ソングあり、前作からの流れを受け継いだ泥臭いロックンロールあり、持てる技を全てつぎ込んだかのような力作である。

これだけの作品を毎年出し続けるとは...。旺盛な創作意欲には本当に頭が下がるし、ここ数年の充実ぶりは確かにただごとではない。復活後のスティーヴ・アールは本当に無敵だ。ベスト・トラックは前作でのルシンダ・ウィリアムズとのデュエットを思わせる、シオバン・ケネディ[Siobahan Kennedy]とのデュエット・ソング"Poison Lovers"。ブラッド・ジョーンズ、ロス・ライスらが参加した"Here I Am"もパワフルでグッド。


Pat Dinizo/ Songs and Sounds (Velvel/VEL 79706-2)

以前から噂のあったソロがようやくリリースされた。プロデュースはお馴染みドン・ディクソン。スミザリーンズは3枚目の「イレヴン」あたりまでは好きなんだけど、それ以降はポップ度が低くてもう一つだった。特に前作「デイト・ウィズ...」はせっかくひさびさにドン・ディクソンと組んだのに、初期の明快なメロディー・ラインはほとんど姿を消していて、残念に思ったものだ。そんな中でのソロ・アルバムだけに、期待半分、不安半分といったところだったのだが、結果から言うと前半はもう一つ、後半は期待以上ということになる。具体的にはジャズ風のイントロに続く2−5曲目までは割と近年のスミザリーンズ路線で、ちょっと重い(4曲目はまあまあ)。こりゃ駄目かなあと思っていると、6曲目の"No Love Lost"で印象が一変する。バンド・メンバー、Sonny Fortuneのサックスを大きくフィーチャーしたミディアム・テンポのバラードで、これが名曲なのだ。この1曲のためにアルバムを買っても損はないと言い切ってしまおう。余韻に浸る間もなく、続くアップテンポの7曲目"A World Apart"で、初期スミザリーンズの軽やかさに再会することに。8曲目の"Today It's You"も同じ曲調でなかなか。アコースティックな9曲目で一休みの後は、"Somewhere Down The Line"でまたまた盛り上がる。ラストはまたまたジャズ風のカヴァー・ナンバー"I'd Rather Have The Blues"で締めくくり。基本的にはスミザリーンズの新作で通りそうな内容だが、サックスの大胆な導入など、ソロならではの新機軸もあって楽しめた。ところで、ベースのJ.J.バーネル[J.J.Burnel]ってやっぱりストラングラーズのJ.J.なんだろうか。内ジャケに写っているベーシストは何故か一人だけ上半身裸(笑)なんで、きっとそうなんだろうな。

Kevin Johnson & The Lineman/ Parole Music (SAM/003)

ヴァージニア州のルーツ・ロッカーによる3枚目(プロモ用のベスト盤を入れると4枚目)。96年のカセット「Kevin Johnson and the Linemen」から1曲除いて、2曲追加したもの。相変わらず自主製作盤なので、入手は難しいと思われますが、Miles of Musicで扱っています。ソロ名義の前作「The Rest of Your Life」(SAM/002/94年)の方向性をさらに押し進めたルーツ寄りの作品が13曲収録されており、タウンズ・ヴァン・ザント(ケヴィンはここで"Buckskin Stallion Blues"をカヴァーしている)やガイ・クラークのファンに是非聞いていただきたい1枚です。プロデュースはチャーリー・チェスターマンとピート・ウェイス。ベスト・トラックはやはりしみじみと聞かせる"Blue Train"。

V.A./ Fire Works: 24 Explosive Tracks (Sound Asleep/ZZZ005)

「Hit The Hay!」でお馴染みのスウェーデンのインディー・レーベルから新しいコンピレーションが届いた。パワー・ポップとオルタナ・カントリーの2本立てだった「Hit The Hay!」シリーズに比べると、こちらはポップ(とロックンロール)系に的を絞った編集盤のようだが、アメリカのマイナー・アーティストを中心によい曲を収めるという編集方針に違いはない。参加バンドを並べてみると...

説明不要のインクレディブル・カジュアルズ [Incredible Casuals]、

Big Dealからデビュー盤を出したばかりのマイケル・シェリー [Michael Shelly]、

そのマイケルが在籍していて、Disel Onlyからシングルをリリースしていたスロッピー・ジョーズ [Sloppy Joes]、

「Hit the Hay!」でもお馴染みのロバート・クレンショウ [Robert Crenshaw]、

同じく兄弟発掘シリーズ第2弾として、ダン・ゼインズ [Dan Zanes] (ex-Del Fuegos)の兄弟であるウォーレン・ゼインズ [Warren Zanes]、

83年から91年にかけて3枚のアルバムを残したが(内1枚はドン・ディクソンが一部をプロデュース)、ここ数年は沈黙していて、今回見事に復活を果たしたアクセルレイターズ [Accelerators]

80年代初期にビル・ロイドと一緒に [Sgt.Arms]というバンドを組んでいて、今はNYのシャイナーズ [The Shiners]というバンドで活躍中のデヴィッド・サーフェイス [David Surface]、

今までにホール&オーツ、シンディー・ローパーのような大物とツアーしたり、ロドニー・クロウェル、ジム・ローダーデイル、ダン・ベアード、マーシャル・クレンショウ、ビル・ロイドら多数のアルバムに参加しているパット・ブキャナン [Pat Buchanan]がスワン・ダイブのビル・ディメイン [Bill Demain]と組んだ新バンド、10スピード [10 Speed]、

元ヴェルヴェット・エルヴィス [Velvet Elvis](そう、ミッチ・イースター・プロデュースでエニグマから88年に傑作「Velvet Elvis」を出していたあのヴェルヴェット・エルヴィスです!)のダン・トリスコ [Dan Trisco]が組んだ新バンド、スリム・チャンス [Slim Chance]などなど、

何と言ってもアクセルレイターズを復活させたことと、元ヴェルヴェット・エルヴィスのメンバーを発掘してきた功績は大きい。特にスリム・チャンスについては、CDを1枚出しているそうで、これについては現在問い合わせ中です。