最新レビュー


9/1 - 9/31


Steve Wynn/Sweetness And Light (Zero Hour/ZERCD 2160)

ずばり傑作。昨年の「Melting in the Dark」は初期Dream Syndicateを思い出させるノイジーなアルバムで、悪くはないが個人的にはちょっと物足りなかった。押しまくるばかりで、曲の出来というかメロディーの切れがもう一つだったのだ。しかし今回は1曲ごとの完成度が高く、歌心あふれるアルバムに仕上がっている。Dream Syndicateで言えば「Out of the Grey」に近い肌触り。リラックスした演奏の中にもしゃきっとした歯ごたえがあって、決してだらけていないところもいい。今までのソロ作品の中で一番好みかも。プロデュースはスティーヴとジョン・アグネロの2人。半分の曲がホボーケンの有名なウォーター・ミュージック、残り半分は同じくホボーケンのジョリー・ロジャー・スタジオ(録音担当はジーン・ホルダー!)で録音されている。ガーターボールでお馴染みのアーミステッド・ウェルフォード(元ラブ・トラクター)がベースを担当し、ローレン・アグネリとデイヴ・レイヴの2人(アグネリは元ワシントン・スクエアズ。現在はこの2人でアグネリ&レイヴとして活動中)がゲスト参加。Return to Senderの編集盤で披露されていた名曲"How's My Little Girl"、キンクスのカヴァー"This Deadly Game"、ピアノが印象的な"If My Life Was an Open Book"等を収録した快作である。  

Chris Cacavas/Anonymous (Normal/210)

ドイツからクリス・カカヴァスの新作がようやく届いた。スティーヴの新作と並べてレビューするのにはわけがある。「Anonymous」はスティーヴ・ウィンとクリス・カカヴァスの共同プロデュースで、録音が行われたのはジョリー・ロジャー・スタジオ(もちろんエンジニアリングとミックス担当はジーン・ホルダー!)...とくればおわかりだろう。そう、このアルバムは「Sweetness And Light」の半分と同じスタッフにより、同じスタジオで録音されているのだ。しかし、こちらは随分地味な仕上がり。Return to Senderの限定盤を除けば、今までで一番静かでパーソナルな印象がある。それもそのはず、今回ジャンクヤード・ラブのメンバーは不参加だし、ベースとドラムを軸にしてバッキングが最小限に押しとどめられているのである。全曲通して参加しているのはミルキー・ボレンズ(b)とリンダ・ピトモン(ds)の2人。ただし弾き語り風の作品はむしろ少数であり、ほとんどの曲では、味のあるクリスのエレクトリック・ギターやリッチ・ギルバートのスライド、スティーヴ・ウィンのノイジーなギター(5と13)が要所要所を押さえ、単調にならないよう気が遣われている。全体的には落ち着いたナンバーが多く、秋の夜長にしみじみと味わいたいアルバム。サイコ・シスターズが1曲ゲスト参加している。  

Charlie Chesterman/Dynamaite Music Machine (Slow River/SRRCD 28)

ボストンで80年代に活躍したロックンロール・バンド、スクラフィ・ザ・キャットのリーダーによる3枚目。レーベルは今までと同じスロウ・リヴァーだが、今回からライコが配給するようになった模様。チャーリーとピート・ウェイス[Pete Weiss]による共同プロデュースは変わっていないし、バック・バンド、レジェンダリー・モーターバイクスの面々も前作と同じ。ただ、音の方は今までの2枚に比べるといくぶん派手めで、バンド時代に戻ったかのようなご機嫌なロックンロールを聞かせてくれる。献辞にはフレイミン・グルーヴィーズとラモーンズに加えて、チャック・ベリー、ジーン・ヴィンセント、バディー・ホリー、ハンク・ウィリアムスら、ロックとカントリーの礎となったアーティストが並んでいるので、今回は自らのルーツを自分なりに辿りなおす狙いが特にあったのかも知れない。本領発揮の1枚というところか。ちなみにプロデューサーのピート・ウェイスはボストンでジッパー・スタジオを経営するエンジニア兼ミュージシャンで、他にもケヴィン・ジョンソン、 マーロウズなどを手がけている。自分のアルバムも1枚出しているらしいが未聴。ジッパー・スタジオの詳細についてはこちら

Bottle Rockets/24 Hours A Day (Atlantic/83015-2)

ミズーリのパワフルなオルタナ・カントリー・バンドによる3枚目。最初の2枚はESDがリリースしていたが、2枚目の「ブルックリン・サイド」(国内盤はビデオアーツから)がアトランティックの目に止まり、メジャー移籍を果たす。ESDがああなってしまった今となっては幸運な移籍だったと言えるだろう。前作に続いてエリック・アンベルがプロデュースを手がけ、相変わらず、豪快で骨太なロックンロールを聞かせてくれる。6曲目あたりはもろだが、サン・ヴォルトやウィスキータウンに比べると、さほどカントリー色は濃くないので、カントリーは苦手という人にもお薦めだ。新作発表後は順調にツアーをこなしていたようだが、最近になってベースのトム・レイが脱退してしまったというニュースが飛び込んできた。何があったんだろう。


Honeydogs/Seen A Ghost (Debris/Mercury/314 534 959-2)

オルタナ・カントリー・バンドをもう一つ。3枚目にしてやはりメジャー移籍を果たしたハニードッグスだ。ミネアポリスを拠点にした4人組。こちらはサン・ヴォルトやボトル・ロケッツのようなざらついたギターの感触は薄く、同じ中西部でもジェイホークス、ゴールデン・スモッグに近い落ち着いたサウンドが中心。ドラムのノア・レヴィはゴールデン・スモッグ参加の経験もあるし、部分的に使われているコーラスなどヴォーカル・ラインを重視しているところもジェイホークスを連想させる要因だろう。前作の冒頭を飾った名曲"Your Blue Door"が再収録されている以外は新曲で構成されており、1や2のようにどこか懐かしく、温かみのある佳曲がそろっている。とはいっても結構バラエティに富んだ音作りをしていて、13のようにストレートなカントリーもあれば、6や12のようにソフト・サイケ調の曲も入っているところがこの手のバンドにしては面白い。ランク・ストレンジャーズやギア・ダディーズを手がけた名匠トム・ハーバーズが前作に続いてプロデュースを担当し、バンドの飾らない魅力を最大限引き出すことに成功している。


Artful Dodger/Artful Dodger (P.E.G./PEG 011/A28598)

Artful Dodger/Honor Among Thieves (P.E.G/PEG 012/A28599)

jem7号でも触れた70年代のパワー・ポップ・バンドによる最初の2枚が再発された。ワシントンDCの5人組で、75年に「Artful Dodger」でデビュー。76年に「Honor Among Thieves」、77年に「Babes on Broadway」、80年に「Rave on」、計4枚をリリースしている。音としてはラズベリーズ風の甘いメロディーにハイトーン・ヴォイス、シンプルで脳天気な演奏...と紛れもなく元祖パワー・ポップである。声を大にしてお薦めはしないけれど、好きな人はどうぞ。


Grandpaboy/Grandpaboy (EP) (Soundproof/Monolyth/MCD1315)

ポール・ウェスターバーグの変名プロジェクトによる5曲入りEPをようやく入手。僕はMiles of Musicで購入しましたが、国内に入荷したかどうかは未確認です。内容は前評判通り、ラフなロックンロール主体で、楽しめます。お遊びプロジェクトにしては意外にまっとうな曲が多く、ファンなら間違いなく買いでしょう。


Yellow Pills Vol.4 (Big Deal/9043-2)

やっと出たシリーズ第4弾。今回も聞き所がいっぱいだ。サントラ「ヘヴィー」への参加、スペインでの7インチ発売等、小出しに復活をアピールしている再結成プリムソウルズ(アルバムはどうなったんだ)は期待通りのエネルギッシュな演奏を聞かせてくれるし、ワンダーラスト、CVS、ジェイソン・フォークナー、ラウドファミリー、DM3らも手堅くまとめてきている。びっくりしたのがアンドリュー・ゴールドの参加で、ブライアン・ウィルソン調の作品(「キャロライン・ノー」そっくり!)を提供している。新人(?)ではデヴィッド・グラハムの"I Love You Better"が気に入った。81年に録音された曲で、ピアノ弾き語りを軸にして、ポール・マッカートニーやバッドフィンガーを連想させる小品だが、どっぷり70年代しているあたりが何とも微笑ましい。カナダのナインズやフロリダのフォー・オクロック・バルーンもよかったし、最近数多いパワー・ポップ・コンピの中でも、パイオニアとしての位置と評価は当分ゆるぎないだろう。次にも期待。