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6/1 - 6/31


V.A./Poptopia! vol.1 - Vol.3 (Rhino/R2 72728 - 72730)

パワー・ポップの歴史を辿り、現在へと結びつけた労作。まあ、個人的にいろいろ不満はありますが、一つの流れをこうやって提出したことに意義があると思い、あえて書きません。ただ70年代に関しては、既に同じライノからもっとディープな編集盤「Come Out and Play」と「Shake It Up!」が出ているので、これでハマった人は是非そちらも聞いてみて欲しいと思います。

Off Broadway USA/ Fallin' in (Pavement/76962-32257-2)

70年代末から80年代初めにかけて活躍したシカゴの本家パワー・ポップ・バンド。同郷ペズバンドのメンバーを加えて17年ぶりの復活だ。7号ではあまり詳しく触れられなかったので、ここでまとめておこう。

まず、オフ・ブロードウェイUSAより少しだけ先輩に当たるペズバンドは、77年の「Pezband」(Passport/PP98021)でデビュー後、78年の「Laughing in the Dark」(Passport/PB9826)、79年の「Cover to Cover」(Passport/PB9837)、以上計3枚を残して活動停止。3枚目は僕も持っていないので、2枚目までのことしかわからないが、一応メンバーは1st、2ndともに変わらず、Mimi Betinis(g,vo)、Tommy Gauvenda(g)、Mike Gorman(b)、Mick Rain(ds)、の4人である。上記「Poptopia! Vol.1」にも収録された"Baby It's Cold Outside"(1stの1曲目でシングル・カットされた)は、キャッチーなメロディー、甘いヴォーカル、厚めのコーラス、野暮ったいけれどもツボを押さえた演奏、全体を流れるドリーミーなムード、僕の考える70年代パワー・ポップの要素をほとんど備えた名曲。アルバムも大体この路線で統一されており、ロマンチックな1st、ちょっとNW色が強まりパワフルになった2nd、どちらも出来は悪くない。曲はミミ・ベティニスと他メンバーの共作がほとんど。1stだけでもいいから再発してほしいものだ。

ペズバンドと入れ替わるように浮上してきたのがオフ・ブロードウェイUSAで、79年に「On」(Atlantic/SD19263: CD/Atlantic/82914-2)、80年に「Quick Turns」(Atlantic/SD19286)と2枚のアルバムをリリースしている。場合によってはサックス、ストリングス、キーボード等を多用し、柔軟性のあったペズバンドに対して、オフ・ブロードウェイUSAはもっとごりごりのギター・サウンドがメインで、1stはそれでもプロデューサー、トム・ワーマン(初期チープ・トリックでお馴染み)の持ち味であるポップ性が上手く出ており、まあまあの仕上がりだが、2ndはハード・ロック路線が強まり、あまり出来はよくない。1stにおけるメンバーはCliff Johnson(vo)、John Ivan(g)、Rob Harding(g)、John Pazdan(b)、Ken Hark(ds)の5人で、曲はほとんどクリフ・ジョンソンが単独で書いている。その後ベーシストが脱退し、2ndでは後任にペズバンドのマイク・ゴーマンが加入。ミミ・ベティニスとの共作曲もあり、この頃からペズバンドとの交流が目立ってきている。

地元で地道にライブ活動を続けていたのか、引退していたのか、80年代に彼らが何をしていたのかはよく分からない。90年代に入ると、クリフ(金髪)とミミ(黒髪)の2人は "Black and Blonde" というプロジェクトで活動を始め、自主製作で6曲入りCDEP「Just in Time」をリリース。その内の1曲、"Just in Time"が「Yellow Pills Vol.3」(6号でVol.2とあるのは間違い)に収録され、再び注目を集めた。このときのバックはドラマー以外は旧知の仲間が担当しており、これが新作へと発展していくのも、自然な流れだった。一見、唐突な再結成にも見えるが、伏線はちゃんと用意されていたのだ。

新作でのメンバーはクリフ・ジョンソン(lead vo)、ミミ・ベティニス(vo,g,key)、ロブ・ハーディング(g)、マイク・ゴーマン(b)、ケン・ハーク(ds)の5人。ミミとマイクがペズバンド組(マイクは途中からオフ・ブロードウェイにも参加しているが)、残り3名がオフ・ブロードウェイUSAのオリジナル・メンバーということになる。曲は1曲を除きクリフとミミの共作。オフ・ブロードウェイの2ndを引き継いだギター重視のハード路線が目立ち、残念ながら出来の方はもう一つと言わざるを得ないが、昔のヒット曲におぶさるわけでなく、ほとんどオリジナルの新曲で固めた前向きな姿勢は大きく評価したい。再録音(?)されたポップ・バラード"Just in Time"がやはり一番光っている。


Tommy Hohen/The Turning Dance (Frankenstein/FR0071)

こちらもひさしぶりのフル・アルバム。96年の「Of Moods & Fools...」(Frankenstein/FR0069)は未発表曲を集めた編集盤だったので、実質的には78年の素晴らしい初ソロ・アルバム「Losing Your Steps」(London/PS719)以来何と19年ぶりのオフィシャル・アルバムである。この間一体トミー・オーエンは何をしていたのか。改めて「Of Moods & Fools...」のライナーを読むと、そこには彼の何とも数奇な半生が詳しく描かれていた。かいつまんで説明しよう。

メンフィスのアンダーグラウンド・シーンで早くから演奏活動を始めたトミーは、72年頃に地元でリック・クラーク(Ryko版「シスター・ラヴァーズ」の解説を書いていた人ですね)、スティーヴン・バーンズ(後にスクラフズを結成)らと演奏活動を始めた。76年には何と(サード・アルバムの制作が難航していて、ソロ活動に移る寸前の)アレックス・チルトンと同じ家に住んで、一緒に曲作りをしていたという。チルトンの有名なガール・フレンド、リサ・アルドリッジ(「シスター・ラヴァーズ」というネーミングの元になった双子姉妹の片方)も当然のごとく頻繁にこの家を訪れており、「Losing Your Steps」にはチルトンとの共作が1曲、リサとの共作が2曲収録されている。

デビューを夢見て曲作りを進めていた彼のもとに幸運が訪れたのは77年のこと。地元で"パワー・プレイ"というインディー・レーベルを始めたヘンリー・ローブが彼の曲を気に入り契約を申し出たのだ。ヘンリーは早速「Spacebreak」というアルバムをリリースし(正式に販売されたのかプロモ用かは不明)、またも幸運なことにこれがメジャーのロンドン・レーベルの目に止まる(パワー・プレイは同年スクラフズのアルバムもリリースしているが、こちらは残念ながらメジャーからの引き合いはなかった)。翌78年、タイトルを変更し、1曲加えた形でリリースされたのが前述の「Losing Your Steps」というわけだった。

ジョン・ハンプトンが全曲でドラムを叩き、アーデント・スタジオで録音(プロデューサーの表記はなく、ジョー・ハーディ他がエンジニアを担当)されたこのアルバムは、後にライノのコンピ「Come and Out Play」に収録された"Blow Yourself Up"のようにポップでリズミックな曲とメロウでムーディーなスロー・ナンバーを組み合わせた、高い完成度を誇る1枚であり、洗練されたメンフィス流「モダン・ポップ」アルバムである(これも是非再発して欲しい)。

1枚目の好評を受けて、続くアルバム「I Do Love the Light」が録音され、リリースを待つばかりだったのだが、ロンドン・レーベルがポリグラムに吸収され、大幅な方向転換が行われる。このあおりを食らって、2枚目はお蔵入りに。その後このアルバムはパワー・プレイから発売されたらしいが(ごめんなさい。この辺ちょっと読解に自信がありません)、レーベル自体が準備不足で販売する力もなく、ほとんど出回らずに、人々の記憶から消えていったという(アルバム中8曲は「Of Moods & Fools...」に収録)。

82年にはNYのレーベルからEPをリリースする話があり(後にお流れとなった模様)、トミーは住み慣れたメンフィスを離れてNYに移住。83年にはチルトンと別れて、ニュージャージーに住んでいたリサ・アルドリッジと結婚する。2人は一緒に曲を書き、CBGB他で演奏を続けるが、マイナー・レーベルからシングルをぽつりと発表するくらいで、契約とは縁のない生活を送る。85年にはNYからヴァージニア州に移り住み、やがてナッシュビルに落ち着き、しばらくは家庭に専念することに。3人の子供をもうけ、生活は順調に見えたが、93年には離婚(どうも長年に渡る彼のアルコール依存症が原因らしい)。ナッシュビルに残った家族と別れて、一人メンフィスへと帰郷する。

一時は失意から自殺を考えたり、酒に溺れたり、自暴自棄の暮らしを続けていたが、94年の入院をきっかけに健康を取り戻し、事態は好転していく。あちこちに送りつけていたテープが関係者の目に止まり、96年の編集盤、そして今回の新作リリースへとこぎつけることができたのだ。

19年間一体トミー・オーエンは何をしていたのか。答はこうだ。メンフィス、NY、ナッシュビル、そして再びメンフィスへと旅をし、家族の誕生と崩壊を経験し、音楽業界の片隅で曲を書き続けてきたのである。天真爛漫で、美しいメロディーの影にまさかそこまでのドラマが潜んでいようとは。今はとにかくポール・マッカートニーやエミット・ローズの後を継ぐ、稀代のメロディ・メイカーの復活を心から歓迎したい。最初聞いたときはあんまりぱっとしない印象だったのだが、この辺りの事情を頭に入れて聞いている内に、段々心にしみてきた。アルバム中のハイライトは6曲目の"Let's Get Lost"。ウィングス調の出だしから徐々に盛り上がるミッド・テンポのバラードで、ストリングス風のシンセがうまくアクセントをつけている佳作である。インディー盤なので入手は難しいけれど、Not Lameで扱っているので、興味のある方は一度問い合わせを。


Hannah Cranna/ Hannah Cranna (Big Deal/9039-2)

バッドフィンガーのジョーイ・モランドをプロデューサーに迎えた2枚目。バンドの持ち味を考えると人選は悪くないのだが、1stに比べるとルーツ色の濃い曲が増え、結果的にはあまり意味のない起用だったのではないか。モランドの名前に惹かれて買うようなバッドフィンガー・ファンには是非もっとポップな1stの方をお勧めしたい。念のために言っておくと、だからといってこのアルバムに聞く価値がないというわけではなく、これはこれでまとまった1枚だと思う。

Barely Pink/ Number One Fan (Big Deal/9040-2)

フロリダのパワー・ポップ・バンドによるデビュー・アルバム。以前出ていたEPからは4曲が再録音されて収録されている。前から好きだった"Dot to Dot Elvis"の収録はうれしいのだが、印象的だったアカペラのエンディングが何と全面的にカットされ、芸のないフェイド・アウトに変更されているのにはがっかり。でもパワフルな演奏とはじけるメロディーは新曲でも健在で、90年代パワー・ポップを代表する1枚に仕上がっている。

James McMurtly/It Had to Happen (Sugar Hill/SHCD-1058)

レーベル移籍して放つ4枚目。今までは国内盤がすぐ出ていたけど、今度はシュガー・ヒルだから多分出ないでしょう。ドン・ディクソンがプロデュースした前作に比べると印象は地味だが、ゆったりとしたリズムに落ち着いたヴォーカルというスタイルは変わらず、いつの間にか何度も聞き返してしまう。味わい深い佳作。オースティン録音で、リサ・メドニックがキーボードで全面参加している。ちなみにプロデュースとラップ・スティールを担当したロイド・メインズは、テキサス州ルボック出身のスタジオ・ミュージシャン兼プロデューサーで、今までにジョー・イーライ、デイル・ワトソン、ラドニー・フォスター、アンクル・テュペロ、ウィルコ、ブルース・ロビンソンなど多数のセッションに参加。プロデューサーとしてもテリー・アレン、ブッチ・ハンコック、ジミー・デイル・ギルモアからリチャード・バックナー、ワゴンまで実に40以上の作品を手がけてきたベテランである。