最新レビュー


5/1 - 5/31


Kyle Vincent/ Kyle Vincent (Carport/Hollywood/HC-62094-2) 1997

今月の一押しがこのカイル・ヴィンセント。パルセノン・ハックスリー(P.ハックス)が演奏、曲作り、プロデュースなど全面に渡って協力したデビュー・アルバムは、ノスタルジックでいながらも、優れて現代的なポップ・アルバムに仕上がっています。どこか哀愁を帯びたメロディー・ラインとさりげなく凝りまくったプロダクションは、ファンならずとも一聴の価値あり。特に1曲目の「Arianne」と2曲目の「Wake Me Up」は絶品です。他にもドラマチックでもの悲しい佳曲が満載で、往年のエリック・カルメンやビートルズ、バッドフィンガーを思わせるポップ・センスが楽しめます。P.ハックスリー以外にもゲストにはトミー・ダンバー(Rubinoosのメンバー)が顔を出しており、4曲を共作しています。

ところで、このカイル・ヴィンセントは「Yellow Pills Vol.2」にも1曲提供しており(やっぱりトミー・ダンバーとの共作)、そこの解説にもあるように、80年代に活躍したキャンディというバンドのメンバーだった人です。キャンディについてはあまり詳しいことは知りませんが、アルバムが1枚出ていることは分かっていて、先日アメリカの通販店から入手したばかり。

Candy/Whatever Happened to Fun.../Mercury/422 824 813-1/85年

僕が買ったのはLPです。時期的に言ってCDはないんじゃないかと思います。ジャケットはもろにアイドル系ハード・ロック・バンドという感じで、知らなかったら絶対手を出さないだろうなという代物ですが、音はジャケットとは裏腹に思い切りポップです。メンバーはジョナサン・ダニエル(b)、カイル・ヴィンセント(vo, piano, sax)、ギルビー・クラーク(g)、ジョン・シュバート(ds)の4人。このうち一番有名なのはギルビー・クラークで、後にガンズン・ローゼズに参加し、ソロでも活躍しています。ただし、音楽的なリーダーはジョナサンだったようで、曲は全部彼のペンによるもの。カイルはヴォーカルに専念していたようです。なお、ジョナサンはその後ラブレスというバンドを結成し、94年にアルバム「A Tale of Gin and Salvation」を出しています。キャンディより若干アグレッシブなサウンドですが、こちらも悪い出来ではありません(「jem」6号でレビュー済み)。


The Minus Five/ The Lonesome Death of Buck McCoy (Malt/Hollywood/HT-62115-2) 1997

スコット・マッコーイ(Young Fresh Fellows)を中心にピーター・バック(R.E.M.)、ケン・ストリングフェロウとジョン・オウア(Posies)らが参加したシアトル・スーパー・プロジェクト第2弾。独盤先行だった1枚目はアメリカではESDから出ており、次作もここから出るだろうと思っていたところ、結局ESDの方針変更(ルーツ系から撤退してしまったのです)もあって、レーベル変更ということになったのでしょう。今回はどうもコンセプト・アルバムのようで、「バック・マッコイの孤独な死」というタイトル通り、スコット扮するバック・マッコイなる男の人生を描いている模様(?)。配役がちゃんとクレジットされていて、ピーター・バックはストリートシンガー、ケンはマーサという女性(?)の役になっています。キンクスの70年代路線をねらったものと思われますが、特にストーリーがわからなくても十分楽しめます。1曲ずつの完成度は前作以上で、中でも3曲目の「Empty Room」は名曲。バーズ+キンクスといったオールド・センスにスコットの趣味性を見るのはたやすいわけですが、もう単に余技では片づけられない、独自の世界を築いていると思います。


Son Volt/ Straightaways (Warner Bros./9 46518-2) 1997

元アンクル・テュペロのジェイ・ファーラー率いるオルタナ・カントリー・バンドによる2作目。ウィルコが2作目で変化球を投げてきたのと比べると、見事なまでの直球勝負で、1作目とほとんど変わりません。でも、どちらの新作が好きかと聞かれたら、僕はやはりサン・ヴォルトに軍配を上げるでしょう。満足満足。


Jayhawks/ Sound of Lies (American/9 43114-2) 1997

最初聞いたときは世評通り、随分ロック色が濃くなったと思ったものですが、よくよく聞き込むとコーラスや曲の流れなどにジェイホークスらしさは十分残されています。一時は解散説まで流れたのに、結局ジェイホークス名義で活動を続けることになったのにも納得してしまいました。新ドラマーのティム・オーリガンはもともとトッド・ニューマンと組んでレザーウッズというバンドで活躍していて、曲も書ける人です(今回は1曲のみ提供)。Twin/Toneからソロが出る予定だったんですが、どうなったんでしょう。


Bob Collum/ More Tragic Songs of Life (In Litigation Records/I.L.R.003) 1997

オクラホマ州タルサ出身のSSW。ルックスはちょっとタランティーノに似てます。これがデビュー作だと思いますが、詳細は不明。もともとは「No Depression」誌(隔月刊のオルタナティブ・カントリー専門誌)の広告で、「Peter Holsapple, Marshall Crenshaw, Peter Caseのファンに」とあったので、ためらわずに注文を決意。もちろん普通のお店では買えないので、最近よく利用している「Miles of Music」(カリフォルニアのルーツ系販売店。ネオ・ルーツ、オルタナ・カントリーに強い)にて購入。聞いてみると、確かにこの3人に近い良質なルーツ・ポップが中心でなかなかの出来でした。ちょっと小粒だけどいい曲書いてます。10曲中4曲のバックを何故かスケルトンズ(前回のレビュー参照)が担当していて、堅実な演奏を聴かせてくれるのもうれしい。プロデュースはその4曲をLou Whitney(スケルトンズ・メンバー)が手がけ、残りをWalt Bowersという人が担当しています。


Arthur Dodge & The Horsefeathers/ Same (Barber's Itch/BIR-045) 1997

昨年トッド・ニューマンの新作が話題を呼んだレーベルがプッシュするカンサスの4人組。ずばり好みです。1曲目からして、サン・ヴォルトがパワー・ポップを演奏しているような曲がいきなり聞こえてくるんだから、よくないわけがないですよね。といってもそういう曲ばかりではなく、全体的にはアコースティックな曲やルーツ色が強い曲もあり、アルバム1枚通して聞いても飽きが来ません。ざらついたギターの感触はクレイジー・ホース、ケヴィン・セイラム、リッチ・ホプキンスあたりも連想させます。「No Depression」では、9曲目のデュエット(ゲストはステファニー・ターナー)がチャック・プロフィットとステファニー・フィンチを連想させるなんて書いてありました。ゲスト(ペダル・スチール)でデヴィッド・ウィリアムス(ウィリアムス・ブラザーズ)も参加。


Barry Holdship Four/ The Jesse Garon Project (Bad Axe Records/No Number) 1996

これはノット・レイム(パワー・ポップ系の通販店)で買った1枚。入手は難しいと思いますが、内容は最高。詳細は不明ですが、LA出身のバンドで、名前の通りBarry Holdshipを中心とした4人組。ロビー・リスト(ワンダーボーイのリーダーでM.L.レノンのアルバムにも参加している)がベーシストとしてクレジットされています。内容はストレートなパワー・ポップからオールディーズ風のポップまで多彩で、3曲目なんかはもろにマーシャル・クレンショウですね。こういう人がぽんと出てくるあたりに、今のLAポップ・シーンの盛り上がりは本物だという感じがします。


The Mind Reels/ Same (Javelin Records/jrcd401) 1997

これもノット・レイムで購入。オハイオ州デイトンの3人組で、カタログに「ビル・ロイド風」とあったので入手したのですが、どちらかというとエリック・ヴォークス(2枚目はまだか)やスウィンガーのように、のびやかなギター・ポップという印象でした。今回ノット・レイムからは20枚くらい購入したんですけど、中ではこの2枚が収穫だったと思います。