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3/6

Walter Clevenger/The Man With The X-ray Eyes (Permanent Press/PRCD 52704) 1997

97年のポップ・シーンを代表すること間違いなしの傑作がついに登場! 6号でも紹介した西海岸のニック・ロウこと、ウォルター・クリヴェンジャーが放つデビュー・アルバム、全12曲入り。カセット「PoPgOeStHeMuSiC」(全14曲/95年)に収録されていた曲がほとんどだが、"I Gotta Feeling", "I Wanna Know", "Give Me A Chance", "Complicated", "Everything Forever", "My Phone Message"の6曲がはずされ、新たに録音された"Yesterday's News Now", "Lose My Mind", "Love", "Cries of Desperation"の4曲が追加されている。追加曲もいいけれど、"I Wanna Know"あたりは残してほしかったなあ。まあ、でも"Yesterday Come Back"や"My Little Girl"など後世に残る名曲群がようやく店頭に出回るようになったことは評価できる。とにかく今アメリカで一番メロディアスで胸を打つロックンロールを聞きたいと思ったら、迷わずこの1枚を購入すること。6号で紹介したアーティストの中で誰を聞くべきかと問われたら、僕はためらわずウォルターの名前を挙げるだろう。Not Lameで50枚以上CDを買った僕が言うのだからまず信用していただきたい。ほんと、これはいいよ。

Tim Lee/All That Stuff: 1983-1993 (Fundamental/HYMN 10) 1997

80年代を代表するサザン・ポップ・バンド、ウィンドブレイカーズ・メンバーのベスト盤。昨年から予告されていたが、遅れて最近やっと発売。僕はMiles of Musicで買った。何と2枚組なので、これは88年の1st「What Time Will Tell」(Coyote/CDもあるらしいが、僕はLPしか持っていない)全曲収録か、と期待していたのだが、結局同アルバムからは5曲のみ収録。全体的には2ndソロとウィンドブレイカーズ時代の曲が多く、他は「Any Monkey with A Typewriter」(83)から2曲「Terminal」(85)から3曲、「A Different Sort...」(87)のアウトテイク3曲、2ndソロ「New Thrill Parade」(92)からは実に7曲、EP、シングルから2曲、未発表曲2曲、新録音(といっても93年のもの)6曲、といった構成。新録が聞けたのはうれしいが、不満は次の3点。

(1)さっき言ったように1stはこの際全部収録してほしかった。 

(2)2ndの曲が多すぎる。日本には割とCDが出回った(僕は新宿のヴァージンで買った)ので、あまり嬉しくない。ただし、これは仏盤のみ発売で、アメリカでは未発売であるため、方針としてはわからないでもない。 

(3)LPのみ発売の「Run」(86)から1曲も収録されていない。DB盤とZippo盤両方あって、それほどレアなアルバムではないが、今となっては入手は結構難しいはず。このあたりにも配慮がほしかった。そんなわけで、もうちょっとかゆいところに手の届くものに出来たのでは...というのはファンのわがままでしょうかね。

Freedy Johnston/ Never Home (Elektra/61920-2) 1997

ダニー・コーチマー・プロデュースの4枚目(EPを入れると5枚目)。ダニー・コーチマーって言っても若い人は知らないだろうな。70年代のLAを代表するセッション・プレイヤーで、ジェイムズ・テイラー、キャロル・キング、リンダ・ロンシュタットらの諸作で腕を振るう一方、自らのソロ(2ndにはジュールズも参加)やバンド、ザ・セクション等で活動。個人的にはドン・ヘンリーのプロデュースなんかも印象的でしたね。とにかく70年代から80年代初期のウェストコースト・ミュージックを語る際には落とせない人なのだ。だからと言って、今回フリーディーがイーグルスになってしまったわけではないのでご安心を。アーティストを自分の色に染め上げるほど自我の強い人ではないのだから、今回もスタジオ職人としての技術を買われての起用なのだろう。「Can You Fly」に比べると落ちるが、前作「This Perfect World」よりはいい出来。メロウでハードでポップな4が気に入った。

The Pursuit of Happiness/ The Wonderful World of... (Iron Music/77876-51010-2) 1996

1,2枚目がトッド・ラングレンのプロデュースで話題を呼んだカナダのハード・ポップ・バンドによる5枚目。買い逃していた1枚だったが、一聴後もっと早く購入するんだったと後悔してしまった。前作「Where's The Bone」(Iron/95年)がハードな側面を強調した作品だったので、今回もあまり期待はしていなかったのだが、これがあけてびっくり。実はラズベリーズやバッドフィンガーに通じる大甘ポップ路線で統一した傑作だったのだ。リーダー、モー・バーグがもともとこういったポップ指向も兼ね備えた人物だと知ってはいたけれど、ここまでやる(やれる)とは思っていなかった。とにかく大変身の1枚。エイジアン・ポップ風のジャケットも変としか言いようがない。漢字で「追求幸福的奇妙世界」って書いてあるし、写真は東洋系のおねーちゃんだし。それどころか裏ジャケには寿司のアップ(これは勘違い?)。一体どうしちゃったんだろう。なお、2枚目で脱退してしまった女性メンバーとベーシストによる新バンド、Universal Honeyもアルバム「Earth Moon Bansit」(96/Alert)を出して頑張っているが、こっちは今一つ。

Slaid Cleaves/ No Angel Knows (Philo/1201) 1997

「Hit The Hay」にも収録されていたルーツ/フォーク系のSSWによる充実の1枚。出ていることも知らなくて、斉藤さんに教えられてあわてて購入。プロデュースはピーター・ケイスとの活動やセッターズのプロデュースでも知られるGurf Morlixで、期待を裏切らないネオ・ルーツ・ロックを聞かせてくれる。連想したのはやはりピーター・ケイス、しかも「Torn Again」に近い音楽性を持った新人だと思う。


2/2

Peter Holsapple/ Out of My Way (Monkey Hill/MON 8135-2) 1997

The dB'sの元リーダーにして現在はニュー・オリンズに在住し、Continental Driftersの一員として活動を続けるピーター・ホルサップルがついに初のソロ・アルバムをリリース。元々は95年に録音されていたものなので、2年近く待たされたことになる。まずはお蔵入りにならなかったことを喜びたい。クレジットを見ると1曲を除いて92年となっているので、曲自体は随分前から用意されていたようだ。手法的には特に目新しい要素はなく、コンチネンタル・ドリフターズを思わせるオーソドックスなバンド・サウンドを軸にして、近年の活動から予想されるとおりの泥臭いサザン・ポップを聞かせてくれる。今回特に連想したのはドン・ディクソン。同郷の上に音楽的に共通項が多く、年と共に貫禄がついて似てくるのも仕方あるまい。さびのメロディーが印象的なM-3、痛快なM-8、60年代ポップスの香り漂うM-11等が気に入った。初期dB'sのようなねじれぶりやホルサップル&ステイミーのような澄んだ音作りを期待するとはずされるので注意。

The Nerk Twins/ Either Way (Broken Records/BE12345-2) 1997

シューズのJeff Murphyと、ソロで優れたアルバムを2枚出しているHerb Eimermanの2人が組んだユニットによるフル・アルバム。結論から言うと両者の持ち味が上手くミックスされた佳作で、若干の差ではあるが、jeffのハードなポップ・センスとHerbのソフト・ムードが拮抗することにより、飽きのこないパワー・ポップ・アルバムが完成したと言えよう。全13曲の内訳もJeff5曲、Herb5曲、共作3曲ときれいに2等分されている。