最新レビュー


1/30

Glen Burtnik/ Palookaville (Deko Music/1006) 1996

オーディティーズのメイリング・リストで褒めている人がいたのであわてて購入。

ニュー・ジャージー出身で60年生まれのGlen Burtnik(以前はBurtnickだった)は80年代にA&Mからソロを2枚リリースしており(「Talking in Code」86年、「Heroes & Zeros」87年-両者国内盤CDあり)、そもそもは83年にヤン・ハマー率いる「ハマー」に参加したのがキャリアの始まりというから、経歴はいわゆる草の根系とはちょっと違っている。ハマーとニール・ショーンのアルバム「Here to Stay/パワー・オブ・エナジー」では共作・共演を果たし、以後マーシャル・クレンショウやブルース・スプリングスティーンとライブで共演したり、シンディー・ローパーと曲を書いたり(未発表)したりしていたが、85年にA&Mと契約。ソロ2枚は今聞くと大仰なアレンジが鼻につき、また基本がどちらかというとハード・ロックに近く、あまりお薦めはできないが、ポップ志向が前面に出た2枚目(ブルース・ホーンズビー、ニール・ショーンがゲスト参加)はまあまあ。その後はご存知の方も多いだろうが、なぜか再結成したStyx(そう、あのStyxです)に参加、90年の「Edge of Century」(A&M)では曲を書き、リード・ヴォーカルも取っている。

元Styxという肩書きがこのコーナーではむしろマイナスの効果しか持たないことは百も承知だが、それだけ表街道の人だったんだから、このソロももう少し話題になってもいいんじゃないかということを言いたいわけなのだ。というのも本作は彼が今までのハード路線を切り替え新しいスタンスで作り上げた佳作だからである。どう言ったらいいんだろう。Enuff Z'nuffが急にEに変身したって感じかな。

まずいきなりフォーキーな1曲目がDarden Smithとの共作で驚かされる。2曲目もアコースティックでしっとり。他にもジョン・ブライオン風に技巧をちりばめたM-5や中期ビートルズ風(歌い方もレノンを連想させる)のM-7や美しいバラードのM-8、アコーディオンをフィーチュアしたM-12(Kasim Sultonとの共作――ユートピアのKasimなんだろうなあ、これも意外)、トラッド風味を効かせたアップ・テンポのM-13(これがベスト・トラックだろう。名曲!)などなど、とにかく多彩な切り口で迫る。アルバム全体としても途中短いインストが幾度か挟まれ、凝った作りになっている。プロデュースを自分自身で手がけ、やりたいことを全部ぶちこんだ意欲作。

なお、同じく96年にドイツから「Retrospectacle」(MTM Music/199613)というアルバムも出ている。こちらは"Love Is the Ritual"(Styx「Edge of Century」冒頭の曲)を含む未発表曲集(?)と思われるが、詳細は不明。

V.A./ Piss and Vinegar : Graham Parker Tribute (Buy or Die/BOD CD 96032) 1996

ニュー・ジャージーのインディー・レーベルが送る豪華トリビュート。全体的にはおとなしめのカヴァー集で、東海岸の無名フォーキー派が大挙して参加している。目玉はSmithereensのPat Dinizio(単独でも1曲提供), Frank Black, Gary Lucasによるユニットだろうが、個人的にはHealth & Happiness Show, Neal Casal, Agnelli & Raveあたりの参加がうれしい。時代的には76年の「Howlin' Wind」から92年の「Burning Question」まで幅広く選曲されている(一番多いのは「Heat Treatment」で4曲。96年の未発表新作も1曲カヴァー)。

おまけ: Ego Trip名義で"Fool's Gold"をカヴァーしたJon Tivenは企画担当者でもあり、Otis BlackwellやArthur Alexanderのトリビュートも手がけた、いわば監修のプロ。調べてみると、どうもチルトン関係の人だったようで、Alex Chilton「One Day in New York」(77年)、Yankees「High 'n' Inside」(Big Sound/78年)、Van Duren「Are You Serious?」(Big Sound/77年)――最近ようやく入手。初期Emitt Rhodesすなわちポール・マッカートニー風で世評通りの傑作だった――などに参加。Tommy Hoehn「Losing You To Sleep」(London/78年)では1曲共作もしている。

V.A./ Bam Balam Explosion Vol.4 (Bam Balam/B.B.R.005)

スペインのパワー・ポップ・レーベルから待望の第4弾が届いた。今回はVol.3の続編的な内容で、90年代のアメリカ編。Gregg Swann, Cotton Mather, Tearaways, Hector Penalosa, Jeremy, Jigsaw Seen, Murtin Luther Lennon, Michael Guthrie, Shamblesなど、jemでもお馴染みの面子がずらりと並ぶ様はまさに壮観の一言。まだアルバム・デビュー前のアーティストも今回は多数含まれているが、相変わらず詳しい解説付きなので、資料としても役に立つ。


1/6

Martin Luther Lennon/ Music for a World without Limitations (Not Lame/NL-0039) 1996

LA期待のパワー・ポップ・アーティストがついに出した全12曲入りのデビュー・アルバム。Yellow Pillsに収録されていたM-2"Nobody I Know"のみが既発表で、残りの11曲は新録。6号で大プッシュした手前、本来なら絶賛といきたいところなのだが、正直そこまでは入れ込めなかった。そこそこ良い曲が揃ってはいるものの、やっぱり"I Own The World"を越える曲がないというのが理由の一つ。もう一つはサウンド・プロダクションの平板さ。プロデュースは自身とギタリスト(Steve Refling)が手がけているが、全体的にメリハリに欠けるフラットな音作りで、例えばこの辺はスタジオ経験豊富なBrad Jonesなんかがやはり一枚上手をいっている。まあ、でも独特の甘いヴォーカル(つくづくパワー・ポップ声だよね)やキャッチーなメロディーは堪能できるので、初期チープ・トリックあたりのファンは是非聞いてみてほしい(期待が大きかった分ちょっと辛口になってしまいました)。

以下余談:裏ジャケでついにルックスが判明した。しかし...マイケル・スタイプのような広いおでこに下から睨みつける強面の表情、そして下っ端のやくざ風ないでたちには唖然。こんな人だったのか。声と合わない...(失礼)。

Gary Frenay/ Jigsaw People (Tangible/56807-2) 1996

元Flashcubes(70年代後半に活躍したパワー・ポップ・バンド)のメンバーが95年の「Armory Square」(Tangible/56801-2)に続いて発表した2ndソロ。意表を突いてまるっきりフォークだった1stに比べると、かなりヴァラエティに富んだ仕上がりとなっている。メロディアスなギター・ポップ(M-1、M-8)、ドラマチックに歌い上げる70年代ウェストコースト風のナンバー(M-2)、ジャージーなAORサウンド(M-3)、バカラック風ソフト・ロック(M-4)、前作路線のアコースティックなバラード(M-5)、トラッド風味の効いたカントリー・ポップ(M-6)、ジャズのスタンダード・ナンバー風(M-10、M-15)などなど、とても同じ人物の作とは思えないほどだ。念のためクレジットを確認したところ間違いなく全部自作曲だった。いったい何なんだ、この人は? 分裂症なのか? ただし、どの曲も完成度は高く、ここまで職人技が徹底していれば文句は言えない。美しいフォーク調のM-12ではゲストのPete & Maura Kennedyが絶妙のコーラスを聞かせてくれる。他にはTommy Allen, Arty Lenin, Paul Armstrong(以上3人ともFlashcubesメンバー), Mark Doyle, Gorge Rossi, Catie Curtisらがゲスト参加。隠しトラックM-16ではChris von Sneidernが参加しているらしいが、詳細は不明。

Stellaluna/ @ Divinity 5 (No Label) 1996

Jamie Hoover(Spongetones)がプロデュースを手がけたギター・ポップ・バンド。やや軽めだが、初期ビートルズ風のポップ・ナンバーが緩急取り混ぜてずらりと並び、いかにもJamieが好きそうな音ではある。曲を書いたのはライナーも書いているRob Robison(vo,g)で、自分の曲をJamieに送ったところ気に入られて、友人のTim Bell(ds)とJamie(g,organ,mandolin)の3人でプロジェクト的に録音したのが本作と言うことらしい。本作の後Jamieは自分の仕事に戻ったため、メンバー2人を補充し、現在は4人で活動中とのこと。取りあえずJamieの助力により本作は水準以上の出来映えを見せているが、次作で真価が問われることになるだろう。