Close Up

V.A. "Yellow Pills" Vol.1


 93年の初めにライノがアメリカン・パワー・ポップのコンピレーションを出してから、このところパワー・ポップ再評価の動きが目立っている。かくいう僕もあのコンピには随分お世話になったものだ。キャッチーなメロディー、シンプルなビート、分厚いコーラス。そのどれもが今では逆に新鮮で、砂漠で出会ったオアシスのように、メロディー渇望症だった僕の喉をうるおしてくれた。全部違ったバンドなのに何故こうも同じに聞こえるのかは不思議だったし、区別がつかないと文句を言う人もあろうが、それがムーヴメントというものである。その点別に不満はない。ただ一つ文句があるとしたら、古いということだ。ライノのコンピは80年で終わっている。歴史的にみても確かにパワー・ポップの全盛期は70年代後半であり、これはいたしかたない事実である。

それにしても、この種の音はその後全く死に絶えてしまったのだろうか。確かにヴェルヴェット・クラッシュやマテリアル・イシューなど、その筋のバンドがいないわけではないが、彼らはやはりロック寄りで、もう一つ「ポップス」的ではないような気がする。かといってスニーチーズでは線が細すぎるし。ううむ。ここは一つ割り切って、プログレ・ファンのように古いものだけ追いかけていればいいと考え、ブートレッグをあさるしかないのだろうか。プログレのブートならいざしらず、20/20やRubinoosのブート(笑)なんて見たことないぞ。

しかし、そんな心配は全く無用だった。というのも前号でも紹介したアメリカのファンジン「Yellow Pills」が、昨年秋に新旧のアーティストを取り混ぜて編集したコンピレーションをリリースしてくれたからである。副題からもわかるようにパワー・ポップだけにこだわらず、幅広くアメリカン・ポップを紹介しようという内容なのだが、これがまたこちらの嗜好と一致した新しいバンドもざくざくと収録されており、ライノのコンピに感じていた不満は、これでようやく解消されることになった。今回のクローズ・アップでは早速このコンピレーションに焦点を当ててみることにした。特に注目すべきアーティストについて解説しておこう。

Dwight Twilley

Dwight Twilleyは70年代後半にシェルター・レーベルからアルバムを出していたDwight Twilley Bandの中心人物。シェルターはあのリオン・ラッセルがデニー・コーデルと設立し、70−78年頃まで続いたレーベルで、リオンはもちろん、グリース・バンドやJ・J・ケイルなどの作品を世に送り出し、終焉間際にはあのトム・ペティをデビューさせたことでもよく知られている。で、そのトム・ペティの前にシェルターが売り出していたのが、このDwight Twilley Bandというわけである。バンドと言っても最初はDwigt TwilleyとPhil Seymourを中心とした2人組で、後に5人まで拡張している。デビューは75年の「Sincerely」、続いて「Twilley Don't Mind」「Twilley」をリリースし合計3枚をシェルターに残すが、その後はソロで活躍。僕の唯一持っている77年の2枚目を聞く限りでは、トム・ペティの参加も得て、南部っぽさとポップ性が同居した一風変わったサウンドを聞かせてくれる。アチラでそれほど高い評価を受けているとは思えないのだが、こういう人を冒頭に持ってくるセンスのよさ! このコンピの質の高さ、視野の広さを保証する人選であろう。

Adam Schmitt

Adam Schmittは先日2ndソロ「Illiterature」を出したばかり。また近年はプロデュース業にも精を出しており、前号で紹介したTitanic Love Affair、Blownの後もHoncho Overload、Erik Voeksなどを手掛けている。(多分)イリノイのSSWで、91年リプライズから「World So Bright」でデビュー。すべての楽器を1人でこなすマルチぶりとそのポップ性の高さで、高い評価を受けている。ただし2ndは1stに比べてかなり音が分厚くハード・ロック的になっており、どちらかというと1stに近いこの収録曲とは随分感触が違うので注意してほしい。この曲が気に入った人は1stから聞くことをお勧めしたい。

Devin Hill

ミネアポリスの新人SSWだが、もともとはアイオワのバンドThe Dangtripperの初期メンバーだった人。僕の知る限りでは2枚アルバムを出していて、最初の「Days Between Stations」(Dog Gone)のクレジットを見るとメンバーはDoug Roberson(G) 、Mark Bruggeman(D)、Devin Hill(G) 、Scott Stecklein(B)の4人。発表年は書かれていない。曲はすべてDoug RobersonとDevin Hillの合作で、スリー・オクロックをもう少しハードにしたようなカラフルなギター・ポップが聞ける。続く「Transparent Blue Illusion」(ZEROCD 1005)はオーストラリアの新興レーベルZero Hourからのリリースだが、Devinが抜けてPat Whiteが加入。おそらくDougの趣味なのだろう。サイケ調のジャケットに冒頭いきなりインド風のギターが鳴り響き、かなり60年代、というか中期ビートルズを意識した作りになっている。The Dangtripperについてはこの位にして肝心のDevin Hillに話を戻すと、こちらもやはり昨年Zero Hourからファースト・アルバム「Devin Hill」(ZEROCD 1009)を出している。収録曲“Stars”に始まり全編見事なまでに甘いメロディーにコーティングされた充実のデビュー作であり、これぞ90年代型アメリカン・ポップの完成形といった仕上がりである。前述のDoug Robersonも友情参加している。

Chris Von Sneidern

Chris Von Sneidernはサンフランシスコの優良レーベルHey Dayからファースト・アルバム「Sight & Sound」が出たばかりで、同レーベルの女性シンガーBarbara Manningのアルバムに参加していたこともある新進アーティストだ。かつてはFlying Colorというギター・ポップ・バンドにも在籍していたが、唯一のアルバム「Flying Color」(Grifter/Frontieer/87年)には参加していない。最近の西海岸勢にしては珍しくメロディー重視で、同じサンフランシスコのスニーチーズをもっとポップにしたようなサウンドがうれしい。Devin Hillによく似たタイプだが、こちらはブリティッシュ特有の哀愁味も若干漂わせている。静と動の対比が見事な表題作は名曲。

Mark Johnson

トリを飾る彼の作品が本作のベスト・トラックであることは衆目の一致するところだろう。マーシャル・クレンショウを思わせるオールディーズの感触に現代風のスピード感をプラスした、新世代のためのロックンロールとも言うべきこの曲は、Mark Jhonsonの豊かな才能の一端をうかがうには十分の出来である。この一曲のためにこのコンピを買っても惜しくはないと言ったら大袈裟だろうか。Mark JohnsonはNYのアーティストで、リチャード・バロンやウィリー・ナイルのアルバムに参加、ロバート・ゴードンやデイヴ・エドモンズに曲を提供している実力者でもある。自らも92年にソロ・アルバム「12 In A Room」(Tabula Rasa)を出している。ただしこのアルバムは現在入手困難(レーベルでも品切れ状態)で、かくいう僕も随分長いこと探しているが、まだ手に入れていない。

Chopper

最後にここには収録されていないが同じBig DealからリリースされているChopperというバンドにも触れておこう。というのもDevin Hill同様このバンドが、オーストラリアとアメリカの通時性を図らずも証明しているからだ。具体的には1st「Chopper」(ZEROCD 1000)をZero Hourから、2nd「Sloagans And Jingles」をBig Dealからリリースしており、真のポップ・バンドはオーストラリアを経由して現れるという最近の原則(?)にのっとた経緯を見せているのだ。最初は3人組だったのが新作では1人抜けてSteven DealとRobert Dietrichの2人組に。Zero Hourのプリムソウルズ・トリビュートにも前述のThe Dangtripperなどと一緒に参加していた。マイケル・クエシオに似た風貌が物語るように、音はスリー・オクロックを思わせる甘酸っぱいギター・ポップの典型。どちらかというとSteven Dealの作る曲の方にその傾向は大である。今後が期待出来る新人デュオだ。(W)

関連ディスコグラフィ

●V.A.「Yellow Pills Volume1」 Big Deal/9003-2

●Dwight Twilley Band 「Twilley Don't Mind」  Shelter/4140

●Adam Schmitt 「World So Bright」 Reprise/926551-2

●Adam Schmitt 「Illiterature」 Reprise/945265-2

●The Dangtripper 「Days Between Stations」 Dog Gone/DOG0005

●The Dangtripper 「Transparent Blue Illusion」 Zero Hour/ZEROCD1005

●Devin Hill 「Devin Hill」 Zero Hour/ZEROCD1009

●Chris Von Sneidern 「Sight & Sound」 Hey Day/Hey032

●Mark Johnson 「12 In A Room」 Tabula Rasa/TRCD10002

●Chopper 「Chopper」 Zero Hour/ZEROCD 1000

●Chopper 「Sloagans And Jingles」 Big Deal/9002-2