#2 Reviews (1993-1994)

(K)大町克紀 (S)添野知生 (Y)山下英夫 (W)渡辺睦夫


●クラッカー「Kerosene Hat」 Virgin/Toshiba-EMI/VJCP25080

このアルバムによって、「元キャンパー・ヴァン・ベートーヴェン」のデヴィッド・ロワリイのグループという注釈がとれるのではないか、というのが、たぶん一般的な感想なんだろう。前作は、C.V.B.の方向性を180度変えたかのような曲をずらりと並べたところに、新しい魅力を感じたが、逆にもの足りなさを感じたのも事実。が、この作品ではアメリカンルーツっぽさを深化させつつ、C.V.B.時代の力強さが復活している! 1曲目から、それがわかるし、タイトル曲の渋さもとてもよい。しかも、デッドの"Loser"を取りあげているのも、個人的にはうれしかった。カヴァー選曲のセンスも最高にいいなあ、と再認識した次第。(K)


●カウンティング・クロウズ「August and Everything After」 Gerffen/MCA/MVCG-1

出た!ハイブリッド・ロック新世代。ただしすっごく地味。などと茶化したくなるのは、ちょっと力みすぎに聞こえるから。全編で使われるオルガンの響き、朗々たる歌いっぷりからザ・バンド、ヴァン・モリソンなどのお手本が透けて見える。それでいて先人の絞り出すような開放感につながらないところが食い足りない。ロマンティックで文学的な歌詞は、雨と霧、夜明けと憂鬱を歌ったものばかりで、些かうっとおしい。とはいえ、そんなうつむき加減の優等生らしい真面目さに隠れて目立たないが、メロディは結構キャッチー。サンフランシスコ出身の5人組。T-Bone Burnettのプロデュースは当然はまりまくり、ドラムの音の抜け方など怖いくらい。Jayhawksの二人とMaria McKeeがコーラスで参加。(S)


●レモンヘッズ「Come On Feel」 Atlantic/MMG/AMCY-602

 確かに先日の来日公演では精彩を欠いていたイヴァン。本人曰く「休みたい」のだそうだが、「お前はそれでもプロなのか」と誰も批判しないのは、別に同情している訳ではなく、よく言えば等身大の魅力、悪く言えばプロ意識の欠如を、このバンドがもともと兼ね備えているからだろう。マスコミに翻弄されるナイーヴな青年像、今やイギリスのインディー・バンドから失われてしまった初々しさ。どれをとってもそこには作為が全く感じられず、あまりに無防備だ。よく聞いてみると、この新作には無防備ゆえのイノセンスと確かにけだるい疲労感が微妙に同居している。このままどこまでいけるか楽しみではあるけれど、そろそろ次の策も練らないとね。(W)


●ジゴロ・アンツ「Flippin' Out」 Fire/King/KICP 361

昨年6月の来日でいちばん驚かされたのは、バンドの一体感と演奏のドライヴ感。前年のVelvet Crushよりまとまりがあり、にわか仕立てのバンドとばかり思っていたこっちの頭を痛打された。聞けば、子どものころから今のメンバーで演奏しているとのこと。年期も入っているわけね。そして待望のフルアルバム(一応3作目)が届けられ、これによって、ボストン出身の4人組は華も実もあるバンドとしてのその全貌をようやく現した。泣かせるメロディ、美しいハーモニー、それに馬力のある演奏。この3つが一体となって、なんともいえない甘さと色気を醸しだしている。全10曲の半分が先行EPやミニアルバムと重なっているのは残念。Rhinoの再発もので有名なBill Inglotがマスタリングを手掛けている。(S)


●フロップ「Whenever You're Ready」 Frontier/Epic Sony/ESCA 5839

Flopの魅力は何を考えているのかわからないところ。Y.F.F.周辺の若手バンドとして92年にデビュー。それが1年ぶりの新作はメジャーのEpicから。相変わらず曲数が多く、やりたいことがいろいろあって、取っ散らかっている。厚みのある録音のせいで、前作にあった人懐っこさが後退しているのは残念。Picture BookをカバーしたY.F.F.に対抗してか、前作では同じKinksの「Village Green...」からBig Skyを取り上げていたが、今回はそんなオマケもなし。歌詞はかなり変。訳詞を見ながら聴いても全然意味につながらない。これが歴史意識過剰なX世代向けってやつか。三面記事とSFと聖書を貼り合わせ、意味より効果を狙った? 深夜カルト映画の真打「狩人の夜」の歌なんてのもあり、キュート。(S)


●ザ・ムーン・セヴン・タイムズ「The Moon Seven Times」 Third Mind/Apollon/APCY 8130

 Areaという名前でアルバムを2枚出していたパラソルのお膝元イリノイ州シャンペーンのバンド。パラソルからの7”の3曲を含むデビューアルバムは何故かNYのThird Mindから。これほど形容しにくいバンドもないが、Iynn Canfieldの独特のヴォーカルとHenry Frayneのふわーんとした地を這うようなギター(U2のエッジみたいな)の組み合わせは確実に部屋の空気を変えてくれます。スタジオライブ的な音のラストが特に気持ちいい。カテゴライズされない音が魅力でもあり弱みでもあるが、2つとはない個性を持った魅力的なバンドであることには変わりない。音的にはまったく違うが、Galaxie 500やMomusのファンに聴いてほしい。(Y)


●Uncle Tupelo「Anodyne」 Sire/Reprise/9 45424-2

4作目にして一回りスケール・アップ。いずれ名盤と呼ばれること必至の、落ち着き払った態度がまぶしい傑作だ。ソングライターで、曲によってヴォーカルを分けあう25歳コンビのJayとJeffを中心にしたイリノイ州Bellvilleの3人組。初期のいかにもパンクを通過してきたと思わせる性急で筋肉質の音から、Peter Buckをプロデューサーに迎えた前作の地味なアコースティック路線まで、カントリー・ロックを基盤に様々な迂回を経験してきた成果が、硬軟とりまぜたこのメジャーデビュー作でしっかり開花している。1年後にはSoul Asylumのようなカレッジ・チャートの枠を超えたスターになっているかも。Doug Sahmが1曲提供してゲスト参加しており、いきなり声が聞こえるのでドキリとする。(S)


●Bottle Rockets「Bottle Rockets」 ESD/80772

そのUncle Tupeloにゲスト参加したことがあり、共演名義でRockvilleからEPも出ていたBrian Hennemanのバンド。これが第1作のようで、1曲だけ前記EPと重なっている。音はU.T.よりも2ギター4ピースのロック・バンドの基本に忠実なもの。息の合った演奏を聞かせ、ベテランの風格すら漂う。ジャケットに見られるメンバーの風貌(絵に描いたように垢抜けないのがうれしい)や、長距離トラックやガス・ステーションのことを歌った(と思われる)歌詞と合わせ、中西部のバーバンドとしてかなり長い経験があると睨んだ。John Keaneプロデュースのアセンズ録音。U.T.の二人も応援にかけつけて、ミズーリ州バンド交流の一端を伺わせる。(S)


●Speed The Plough「Mason's Box」 ESD/80872

2年ぶり3枚目。ギターが一人増えて7人組に。ニュージャージー州北部Haledonのバンドで、Feeliesと関係が深い。中心人物は殆どの曲を書いているキーボードのJohnとフルートのToniのカップル。一定のリズム・パターンを繰り返しながら大きなうねりを作っていく手法はFeeliesと共通するが、英トラッドのダンス音楽に強く惹かれているようで、バンド名(どんどん耕せ?)もスコットランド民謡に由来する。前2作を愛聴した耳からすると新作は沈静して感じられる。おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルさが後退したのは、アレンジの幅が狭まったせいか。トラッドでもカントリー・ロックでもないモノトーンの境地に到達している。レーベルメイトBlood OrangesのJimmy Ryanがゲスト参加。(S)


●Standard Fruit「Standard Fruit」 Ellis Islands/EICD 151

未知のバンド。カリフォルニア州の5人組で、プロフィールは不明。しかし聴けば聴くほど気に入った。まず曲がいい。辛辣な歌詞に心暖まるメロディ。ギターポップのお手本のような曲ばかりで、なかば呆然としているうちに聴き終えてしまう。インスト1曲を含む全14曲すべてが掛値なしの名曲・好演奏。編成は2ギターで曲によってキーボードやハーモニカが入る。演奏の息の合い方からみても、一朝一夕でこうはできないだろう。基本はカントリー・ロックで、バタバタした的確なドラム、重心の低いベースが全体を支え、その上でサーフ・インスト調のペナペナのギターが抜けのいい音を出している。はっきりした発音で朗々と歌うヴォーカルもすばらしい。曲作りはKinksあたりの影響が大きいかも。(S)


●Permanent Green Light「Against Nature」 Rockville/Rock6127-2

 前号でも紹介したマイケル・クエシオ率いる新バンドが、待望のフル・アルバムをリリースした。プロデューサーを見てびっくり。かつて20/20やThe Popなどのパワー・ポップ勢を育て、スリー・オクロック時代の最初の2枚も手掛けたベテランEarle Mankeyが復帰しているではないか。これはと期待して聞いたのだけど、Matt Devineのギターに比重を置いた音作りに変化はなく、共作3曲を含み11曲中8曲がMattの筆による作品であるため、むしろ前作よりマイケル色は後退しているほどだ。もともとそういうプロジェクトなのだからしかたはないが、どうせ民主的なバンドなら、もう少しマイケルも自分のカラーを打ち出してもよいと思う。(W)


●Erik Voeks「Sandbox」 Rockville/Rock6130-2

 イリノイとミズーリの境に位置するセント・ルイスから素晴らしいポップ・アルバムが届いた。以前バス・ストップからシングルを出していた新人だが、アダム・シュミット、ニック・ラッドなどイリノイ周辺の人脈に支えられ、新人とは思えない完成度の高い音を作り出している。控えめな音数と洒落たメロディー・センスが生み出す耳障りのよい極上のギター・ポップ。ミネアポリスのDevin HillやカリフォルニアのChris Von Sneidernなども含めて、去年はこうしたポップ寄りシンガーソングライターの当たり年だったのでは。あまりに優等生過ぎて面白くないという批判もあるだろうけれど、個人的に93年最高の収穫と断言しておきたい。(W)


●Tackle Box「Grand Hotel」 Rockville/Rock6132-2

Don Dixonプロデュースにつられて聴いたボストンの4人組Dumptruckにはアルバムが3枚あり、今思えばいいバンドだった。その後名前を聞かないと思ったら、リーダーのSethがテキサスに引越してしまって解散状態とのこと。ギターのKevin SalemはMadder Roseなどのプロデューサーとして再浮上し、ドラムのShawn Devlinと最後期のベースBrian Duntonは女性ヴォーカルと組んだ新バンドHeliumで2枚の好EPを出し、アルバムも待機中。で、その二人が同じマサチューセッツ州Brookline町内の別のバンドにも参加しており、それがこのTacklebox。これは「On!」に続く2作めで、分厚くなったサウンドがバンドの成長ぶりを物語っている。(S/W)


●The Connells「Ring」 TVT/2590-2

ポウジーズやレモンヘッズと並べても何ら遜色のないノース・カロライナのギター・ポップ・バンド、通算5作め。前作もかなりよかったが、今回はそれをさらに上回る出来栄えで、彼らの最高傑作といってもいいだろう。今までもプロデューサーにはMitch EasterやHugh Jonesなど達人ばかりを選んできた彼らは、今回Lou Giordanoを起用。最近ではHypnolovewheelやDillon Fence、Zuzu's Pedalを手掛け、割とラウドでノイジーなギター・サウンドに定評のある人だが、ここではそれを押さえ気味にして、バンド本来の持ち味を損なうことなく、パワー・アップに成功している。勢いで押して行く1、ちょっと引いた9など、いずれもメロディが印象的。(W)


●Gear Daddies「Can't Have Nothin' Nice」 Crackpot/CPCD1223

 ポリドールから「Let's Go Scare Al」(88)「Billy's Live Bait」(90)を出していたオースティン→ミネアポリスの4人組。その2枚からの選曲にライブや未発表曲を加えたベスト盤が本作である。曲はほとんどMartin Zellar(G)が書いており、Billy Dankert(Ds)も数曲提供。リプレイスメンツ後期を思わせるルーツ寄りの良質なアメリカン・ロック中心で、それほど泥くさくなく、クセのない分飽きられやすいけれど、曲の粒はそろっている。この手のバンドがアメリカにはいっぱいあるんだろうなと思わせてしまうのは弱点だし、それをはねつけるパワーにも欠けるが、愛すべき凡庸であるのも事実。(W)


●Billy Dankert「Bowling Shoes Blues」 Crackpot/CPCD1225

 そのGear Daddiesでドラムを叩いていたBilly Dankertのソロ・アルバム。この後Crackpotからアルバムを出しているJohn Ellerの他、レーベル・メイト、Rank StrangerからL.Wisti(全曲でベースを担当)、Mike Wisti、Jaques Waitの3人がゲスト参加。基本的にはバンドと同じルーツ/カントリー色の強いサウンドで、これなら別にソロじゃなくてもできたんじゃないかと思う。ただ、上にも書いたようにGear DaddiesはあくまでMartin Zellarのバンドであり、同等の資質を持つ彼としては、幾分やりにくい面があったのかもしれない。若干の差だが、どちらかというと端正だったバンドに比べて、粗削りな感触あり。ヴォーカルがちょっと弱いけど、そのよたったところが逆に魅力的ともいえる。題名どおりジャケ写がボウリング・シューズなのが笑える。(W)


●Supreme Court「Goes Electric」 DB/156

 その昔アトランタにSwimming Pool Q'sというバンドがあった。トラッド風味を効かせたノリのいいギター・ポップを聴かせる好グループで、Anne Richmond BostonとJeff Calderの男女2人がVoをとり、Bob Elsey(G)Billy Burton(Ds)J.E.Garnett(B)を加えた5人組。DBやA&Mに5枚ほどの作品を残したが、最後にはAnneが脱退して4人になり、その後解散してしまった。これはそのJeff CalderがGlenn Phillipsと結成した新バンドである。2曲ほど昔風の曲があるが、全体的にはR&B色が強く、Swimming PoolQ'sを期待して聴くとはずされてしまうので注意。Tim Leeのソロでも歌っていたAnneとEsta Hillの2人がゲスト参加している。(W)


●The Ottoman Empire「Lester Square」 DB/158

 Coyoteに続いて潰れたかと思われたDBレーベルだが、最近になって元CooliesのRob Galを中心に建て直しを図りつつあるようで、93年は3枚の新譜を届けてくれた。これはその1枚で、Swimming Pool Q`s、Coolies、Jody GrindとDBの名バンドの元メンバーを中心にした7人編成の新バンド。オスマン帝国とはいかにも冗談めいているが、同窓会ぽさは微塵もない。フィドルとアコーディオンを前面に押し出した独自の音楽性と、耳に残るメロディ、ユーモラスな歌詞と、三拍子揃った優良デビュー作だ。良い意味でのアマチュアぽさが生かされ、瑞々しさとたくましさを与えている。Jody Grindはツアー中の事故でメンバー2人を亡くし解散していたとのこと。ご冥福をお祈りします。(S)


●The Health & Happiness Show「Tonic」 Bar/None/A-HAON-030-2

 70年代後半僕がロックを聞き始めたころ、アメリカのロックといえばイーグルス、ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタットだった。あれからもう15年、時代が一巡りしたせいか、Blue Rodeo、Jayhawks、Uncle Tupelo、そしてこのThe Health & Happiness Showなど、この所かつてのウェスト・コースト直系の音を出すバンドが目立ってきている。中心人物James Mastroは元Bongosのメンバーで、Richard Barone & James Mastro名義で83年にLP「Nuts & Bolts」(Passport/PB6021)を出したこともある。そこでのBongos風ギター・ポップからすると、ここまで本格志向になるとは全く予想できなかっただけに、驚きの1枚。(W)


●Kate Jacobs「The Calm Comes After」 Bar/None/A-HAON 031-2

 ホボーケンの新人女性SSW。Small Pond Musicから出ていた同題のアルバムに3曲足して再発された。SchrammsのDave Schrammらのトリオがバックアップしている。元Beat RodeoのGeorge Usherとの共作も2曲。かぼそく子どもぽい声だが、媚を感じさせないところが美質だろう。歌に寄り添うように演奏されるギターやハーモニカ、オルガンの使い方も一級品。本人とベースのJames MacMillanによる控えめなコーラスも気持ちいい。嵐の“あとの”静けさを歌った表題曲をはじめ、機知に富んだ若い女性による短篇集の趣きがあり、ぜひ歌詞カードを見ながら聴くことをお勧めする。多分に自伝的要素もあるのだろう15曲から、若さゆえの理想主義と驕慢さを共に抱えた等身大の女性の姿が透けて見える。(S)


●Green House 27「Smashed」 Bar/None/A-HAON 032-2

 カントリー特集に惹かれて買った米Option誌93年11/12月号にホボーケンのBar/Noneレーベルの広告があり、驚いたことに94年初頭までの新譜として11枚が予告されている。しかも、9組までが初めて見る名前!これはその1枚で、オハイオ州クリーヴランドの3人組。同レーベルらしからぬ若く素直なギターポップで、可愛いだけのネオアコものになっていないのは、簡潔でギミックのない演奏がしっかりしているから。囁くような女性コーラスもムーディなサックスも入っているし、歌詞はドリーミーで、理想主義まるだし、そのうえ“ママと愛犬とニール・ヤングに捧げる”というクレジットまである(笑)のだが、それでも全体としてはロックを感じさせる。ミックスはGene Holder。(S)


●Ms・Lum「Airport Love Song」 Bar/None/A-HAON-034-2

 おかしなバンド名。英語で中黒は使わないよな普通。ミズ・ラムと読むのだろうか。意味は“マリファナ女史”か? いかにも一筋縄ではいかなそうなNYCの5人組。プロデュースはSilosのBrian Doherty。Kevin Salemも同地のMadder Rose、Smileに続いてバックアップしている。今回のBar/Noneデビュー組の中ではもっとも都会的で硬派の音楽性の持ち主。2ギターのかけあいも含めて、最良のLou Reedバンドを思わせると言ったら褒めすぎだろうか。NW、パンク、ロックンロールと巧く応用しながら、それでいて若々しい疾走感、躍動感があり、決して老成して聞こえないのが味噌。断片的に聞きとれる皮肉なユーモア感覚も悪くない。ラストは有名曲のリフをバックにした朗読の趣。これもかっこいい。(S)


●Touch Of Oliver「Touch Of Oliver」 Bar/None/A-HAON-035-2

 Bar/Noneレーベルは米国人アーティストしか扱わないわけではない。元Swell MapsのEpic Soundtracks「Rise Above」は、Rough Trade経由で日本盤も出ている良心作だし、英ハウス・ユニットKLFを主宰するBill Drummondのソロも出ているらしい。この4人組新人は、アイルランドのLimerick出身。レーベルのオーナーが同郷だったことからリリースになった。Soul Asylumを思わせる正統派のロック・バンドで、わずかに荒っぽい演奏も、英国のへなへなバンドと違って芯の通ったもの。それが広がりのある独自の空気感につながっている。都会育ちのバンドがなかなか持ち得ない、ロマンティックな度量の大きさを感じさせる。中規模のホールで、人波に揺さぶられながら見てみたい。ミックスはGene Holder。(S)


●Professor and Maryann「Fairy Tale」 Bar/None/A-HAON-037-2

 Bar/Noneのオーナー二人がFreedy Johnstonの前座でCBGBに出ていた彼らを見て、その場で契約を決めたというスタテン島の男女デュオ。“Paul SimonとRickie Lee JonesがTom Waitsの未発表曲を歌っている”という紹介のとおり、簡素だが洒落たアレンジで、都会の夜の子守歌を歌う。全曲オリジナルで恋愛ものが多いが、ジェームズ・カーン主演の忘れ難い犯罪映画「ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー」をもとにした曲、市のモルグを「The Only Cool Spot in Town」と歌った曲など、ハードボイルドの味わいもあって、決してセンチメンタルなだけに終わっていない。メンバーはDanielleと作曲とギターを手がけたKen。カバー写真のCFから抜け出してきたような二人がそうだとしたら、出来すぎ。(S)


●The Silos「Hasta La Victoria!」 Normal/143CD

 ドイツのノーマルに移籍しての新作。メジャー・デビュー盤「The Silos」(RCA)以来だから3年ぶりか。Gutterballに参加していたBob Rupeの名前はクレジットになく、やはり脱退してしまったらしい。だからというわけでもないだろうが、幾分泥臭さが後退し、ずっと聞きやすくなっている。どこかふっきれたというか悟ったというか、円熟の境地が伝わってくる好アルバム。プロデュースと作曲はすべてWalter Salas-Humaraが担当。ほとんど彼のソロ・プロジェクトの趣もある。ちなみにこのノーマルはこの後もBarbara Manning、A Subtle Plougなどを出す予定だが、これはHey Dayレーベルの創設者Pat Thomasがノーマルに移ったためで、今後の動向には注意が必要。(W)


●Alejandro Escovedo「Thirteen Years」 Watermelon/CD 1017

 そのWalter Salas-Humaraと"The Setters"なるプロジェクト・チームを組んでアルバムを出したばかりのテキサスのSSW。ソロ活動の方も順調なようで、傑作「Gravity」に続く2枚目が出た。2枚目といっても経歴は古く、70年代のパンク・バンド、Nunsに始まり、80年代にはランク&ファイル→True Believersと2つのバンドに在籍していたことがある。プロデュースは前作で印象的なスライドを弾いていたベテラン、Stephen Bruton。ただし今回はスライドをほとんど弾かず、弦楽器を中心に静謐な音の世界を作ることに専念している。Susan Voeltzも参加したストリングスによる短いテーマが何度も繰り返され、トータル・アルバムを意識した分、曲の輪郭が見えにくい部分もあるが、これはこれでまとまりがあってよい。2は名曲だ。(W)


●Joe Henry「Kindness Of The World」  Mammoth/MR-0057-2

 ジュリアナ目当てで「Framed!」を購入してしまった人は多いと思う。そのMammothのオムニバス・ビデオの中にはいろいろと見所があるのだが、中でものどかなカントリー・ソングを歌いながら死体を埋める映像で異彩をはなっていたのが、このジョー・ヘンリーである。ノース・カロライナ州シャーロット生まれ。86年にデビュー・アルバムをリリースし、その後A&Mから「Muder Of Crows」「Shuffletown」の2枚を発表する。前作「Short Man's Room」(92)からMammothに移籍。本作でもザ・バンドやヴァン・モリソンを思わせる相変わらずの渋い歌を聞かせてくれる。ヴィクトリア・ウィリアムズや前作に続いてJayhawksメンバーも参加している。(W) 


●Ass Ponys「Grim」  Safe House/SH 2104-2

 90年の前作があのSchrammsを擁するOkraレーベルから出ていたオハイオ州Bethelの4人組。基本的にはゆったりとしたカントリー・ロックだが、洞窟の奥で鳴っているようなギターの音が突出しており、Grim=厳格というタイトルどおり、こわもてのする印象を受ける。Eleventh Dream DayやYo La Tengoと交流があるというのもよくわかる。だがよく聴けば、メロディが聴きやすく耳に残ること、広くルーツ・ミュージックにこだわっていることもわかってくる。しゃくり上げるような歌い回しが似ていることもあってRichard Thompsonの影響を強く感じずにはいられない。と書いて前作「Mr.Superlove」を聴いたら、これがさらにそっくり。曲も粒揃いで、しかも重たくないので、まだの人はこちらから。(S)


●Liz Phair「Exile In Guyville」  Matador/Ole 051-2

 イリノイ出身の女性SSW。超投げやりなスザンヌ・ヴェガがブレイク・ベイビーズで歌ってるというのが第一印象。よくよく聴いてみると音の作りや環境的にはラウドファミリーに極めて近いような気がする。少し壊れかかった音に自己主張の強い声、存在感のある歌い方。いろいろやったらこんなんになりましたという感じは確かにあるが、どうも確信犯のようだ。特に後半の盛り上がりは凄い。顔は笑っているけれど目が笑っていない人に似ている。ジュリアナやタニヤと比較されることが多いとは思うが、スコット・ミラーと並べてほしい。「いつもあの音」を出し続けるギター・ポップ・バンドより今はこういう人達に惹かれる。(Y)


●Yo La Tengo「Painful」  Matador/Atlantic/92298-2

 フルアルバムとしては5作目、1年ぶりの新作。残念ながら、ここ数年続いている内省的でヘビーな音作りは基本的に変わっていない。が、全体になぜか往時の英国ロックを思わせる渋いビート感があって、Enoの初期ソロにも似たベースとオルガンの絡みなど、編曲に幅の出た分、つい引き込まれて繰り返し聴いてしまった。先行EP「Shaker」(Matador)とは1曲も重なっていない。もともとホボーケンとNYC、ポップとアヴァンギャルドの狭間にいる人たちなので、作品ごとに躁鬱の差が激しいのだが、今回はそのブレンド具合がうまくいって、自然体の荒涼感とでもいうような新たな魅力が出たのではないか。お楽しみのカバーはOnly Ones。原曲のゆったりした気持ち良さがそのまま生かされている。(S)