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 ベーオウルフ [Beowulf]  (古英語からの翻訳|刊本は参考文献を参照のこと)

『ベーオウルフ』に登場する国々

 

 

 

『ベーオウルフ』に登場する北欧伝説の英雄たち  
物語の始まり 1-52
ヘオロットの館: 53-114

 

 物語の始まり

聴け!

我らは、古往の槍のデーン人達の、

王達の戦人の武勇を知っている

如何にかつて高貴なる君子達が勲(いさおし)をたてたのかを。

 

シェフの息子シュルド1は、幾度も敵の軍隊から

多くの部族から、密酒の宴席を奪い、

貴人たちを威した。それははじめに彼が

寄る辺なき身で見いだされてから後のこと。彼はその慰めを見いだした。

雲の下に成長し、栄光を伴い繁栄した。

遂には、回りに住む者共すべてが、

鯨の道を越え、彼の命を聞く者となり、

公租を奉じるほどとなった。彼こそは良き王であった。

12

そののち、彼に息子が、その住まう宮の若木が産まれた。

神は、彼を民の慰めとして贈り与えたのだった。

彼らが以前に味わった苦しみ、君主なき長き月日にかえて。

それゆえに、命の君主、栄光の主は、彼にこの世の栄光を与えた。

シュルドの息子ベーオウルフは--その威光は広きに渡り--

シェデランドの中において その誉れは覚え愛でたくあった。

[シェデランド=スカンジナヴィア半島南部、現在のスコーネ周辺を指すが、シェラン島(Selund/Sjæland)まで含むのか、デネの国を指す言葉として用いられている]

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そのように、若者は良き技を伴い、父の懐にある

素晴らしき財宝によって、行動すべきである。

齢を重ねた時、彼に見返りとして、

寵臣たちとして保つようになるために。

戦火の訪れる時に、民が従うように。

それぞれのくにたみの中で、高貴な行いによってこそ

人は栄えるのである。

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その後シュルドは、意気盛んなる者は、さだめの時に、主の御手の中へと行くために旅立った。

彼ら愛すべき廷臣たちは、そのとき彼を海の波へと運んだ

彼自身が命じたように

それはシュルディングの親しき君主が、愛すべき国主が、長きに言葉を操るすべを持っていた間のこと。

港には(黄金の)輪で飾られた舳先を持つ船が、

君子の船が、氷をかぶり、出立の時の備えをして泊まっていた。

その時彼らは愛する王を、指輪授与者を、名高き者を、マストのそば、船の懐に、横たえた。

そこには多くの宝物があった。彼方からの道を越えてきた武具も置かれた。

私はより素晴らしい戦いの武器、武具、剣、また帷子が船を飾るのを聞いたことがない。

宝の多くが、彼の懐に横たわり、その後、彼と共に、波の力の中へと遠く行かねばならぬのだ。

43

彼らは、シュルドが最初にたった一人で海を越えて 子どもとして 送られてきた際に

彼が飾られていた姿のよりも劣るような飾り方をしたのではまったくなかった。

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それから彼らはシュルド王のため、 その頭の上には黄金の軍旗を高く据えた。

潮が彼を運ぶにまかせ、大海に彼を与えたのである。彼らの心は哀しみに満ち、

心根は嘆きの声をあげた。天の下にある人々、また 館を持つ高貴なる人々も

かの船の荷(シュルド王の亡骸)を誰が受け取ったか 確かなことを言える者はいないのである。

ヘオロットの館

53-

かくして シュルディング族のベーオウルフは城址の内にあって 民の王として愛され 

諸々の民の間で名声高く 既に多くの時が過ぎた--父は その一方で この地より

すでに去って久しい--ついにベーオウルフにも 気高きヘアルフデネが生まれたのである

ヘアルフデネは長じて 長きにわたり 戦において猛々しく シュルディング族を 栄誉を

もって治めたのであった

ヘアルフデネ王というこの民の王に 生まれた子供らはこの世に於いて四人を数えた

ヘオロガルとフロースガル そして善良なるハールガ [以上が息子の名] そして[損傷箇所=娘の名前]

そう、私は聞いた、彼女は「戦人」とあだ名されたシルヴィング族の王オネラの后として 

王の愛すべき寝所の供であったことを。

その頃 フロースガルには戦における幾つもの勝利と、戦におけるいくつもの栄誉とが

与えられた それがゆえに彼の友も親族も彼の言葉に従い ついには若き従士たちの数も

増え 王の側近の兵士たちの数も増していった。その彼の心の中に一つの思いが募った。

すなわち、館の住まいを、大いなる 蜜酒の社を、人々に作らせようと

それも人の子らが 未来永劫話題にのぼらせるのを耳にするような住まいを

そしてその館の内では 老いも若きも

共有地や人々の家畜を除いて 神の与えるあらゆる物を 互いに分かち合うのだと。

私は聞いた この中つ国の端から端へと 広くにわたり 多くの民に 

民の住まいたるその建物を飾り立てるように、と、この仕事の為の命令が行き渡ったことを。

こうして次の通りになった

人々によって たちまちのうちに その最も大いなる館のための 準備は整い

言葉の力を 広く及ぼすことのできる者 [すなわち王自身] によって その館はヘオロット、すなわち「牡鹿」と名付けられた。

[訳注:牡鹿は王権を象徴する獣であった]

80 王は誓いを違えなかった。宴の席で 黄金の環をば分かち、宝物(ほうもつ)を人々に分け与えた。

館は 高く そして屋根も広々として 建てられた。敵意の渦、炎の災いが待っていた。

未だ その時は遠くにあったが・・・死を導く敵となり 義父と婿との間に剣の敵意(恐ろしいほどの敵対)が沸き起こる時はまだ来ていなかった。<NOTE>

その頃 暗闇の中に身を潜めていた かの恐ろしき生き物は苦しみの時を被っていた 

彼は毎日歓喜の声音を耳にした 王館の喧噪を。 そこでは竪琴の音が

明るい詩人の歌があった。古に起きた人々の創造を語ることのできた彼は話した

かの全能者が 地を作り 見目麗しい世界を

 

 

 

 

 

Notes

82b-5 ジャック(1994)ここで短く仄めかされている事件は、2024-69行目により長く語られる。それはベーオウルフがフロースガルの娘フレーアワルが、ヘアゾバルド族の王フロダの息子インゲルドに嫁ぐことを語る場面であり、その婚姻は、デーンジンたちとヘアゾバルド族との間の不和を集結させる目的のものだった。しかしベーオウルフはこのような脆い平和は長続きしないとわかっていた。自分の父をデーン人たちとの戦で亡くした若き息子が、かつて父王が持っていた剣をデーン人の戦士が持っているのをめにした。年寄りのヘアゾバルド人に唆されて、若き王子はそのデーン人を殺してしまい、二つの部族の不和は再燃するのであった。ヘオロットが焼け落ちることは、82b-85行目に言及されている義父と婿との敵意と結びつけられていて、明らかに『ベーオウルフ』詩人は、館の焼失をデーン人とヘアゾバルド族との不和の結果だということを知っている。