次の文はウォルター・スコットの名作『湖の貴婦人』の中にあるスコット自身による註Kの翻訳です。この部分はこれまでは未邦訳でした。デンマークのバラッドでありながら、スコットランドのイディオムを用いるとほとんどそのまま理解できるという興味深い事実のよい例です。

アリス・ブランド

 この小さな妖精譚は、非常に興味深いデンマークのバラッドの中にみられたものである。そのバラッドは、英雄頌を集めた『ケンペ・ヴィゼール』(英雄の詩歌)という撰集--初版1591年、再版1695年、デンマーク女王、ソフィアへ当てて、収者であり編者であるアンデルス・ソフレンセンによって記された--の中に収められている。私はオリジナルの逐語訳を、私の学識ある友人、ロバート・ジャミーソン氏から贈られる栄を受けた。スカンディナヴィアの考古的な遺物に関する彼の深い知識は、誰も持ち得ないほどの豊富な資料を含むスコットランドのバラッド詩歌の歴史の叙述中に、いつの日か示されるであろうことを、私は望んでいる。この話は辺境詩歌集の読者に、ヤング・タムリンの話を思い起こさせるであろう。しかし、同詩歌集の中の他の幾つかのバラッドが『ケンプ・ヴィゼール』の中に、全くの対応作品を見つけることをみると、ヤング・タムリンは単なる一つの例であり、そしてまさに注目に値する例とも言えないのである。『ケンプ・ヴィゼール』と辺境詩のどちらがオリジナルなものかは、これからの考古研究家の課題となるであろう。ジャミーソン氏は、逐語訳の力強さを持たせるため、デンマーク語のイディオムを採用した。これにより、一行一行の対応だけでなく、一語一語の原詩と翻訳との対応を可能にし、それ故、多くの詩行中、綴り字方のみに差異が認められる具合になっている。

 このバラッドの、第一連中でいわれている Wester haf (西の綿津見)は、バルト海、或いは East Sea(東の海)に対する「西の海」の意を表すが、ジャミーソン氏は次のような意見を支持しつつある。すなわち、魔法を解かれる場面はオークニーか、ヘブリディーズ諸島のなかの一つに置かれている、という説である。原詩の各連には繰り返しがあり、それ自体、ある意味を持っているが、その付随するスタンザの内容にはあてはまらぬ、少なくとも一律にはあてはまってはいない。この繰り返しの技法はデンマーク、スコットランドの双方の詩歌によく見られるものである。

 

エルフィン・グレイ

デンマーク詩集『ケンプ・ヴィゼール』からの翻訳

 

西海の中に杜ありき

一人の農奴が住まいを建てんと

狩鷹、猟犬と渡来せり

其地の冬越え、もくろめり

(おどろの内の牡鹿と雌鹿は追ん出ろよ)

 

犬と鶏、百姓連れて

それだけ長く住めるものじゃと

おどろの内の牡鹿共は

其の日をさぞや恨やむことよ

(おどろの内の牡鹿と雌鹿・・・)

 

樺の樹を切り、樫をも倒し

グレイのポプラも同じこと

そこで恐ろしエルフの心根気色ばむ

妖魔はさても剛胆ならん

 

さては合わせ梁、さても交わせ梁

大力が急き、切り出せり

それを小塚のエルフは訊けり

乱りに樹を切り荒らすは誰ぞ

 

現われ、語るは最も小さき

蟻とも比すべきエルフなり

「此処に至れる耶蘇の男

我が嚇して去ぬるべし」

 

先のエルフは上り発ちぬ

見渡す姿 かく恐ろしき

「百姓が家に 我等向かひて

奴等裁く 座をば設けん」

 

「蔭とおどろを切り拓き

我を悩まし 苦しめたれば

彼の妻 我に与うべし---

己が生まれを呪うがよからむ」

 

丘に住まえるエルフが皆衆

踊りて進む 一筋の列

百姓が家に近づきぬ

長からむエルフらが尾の垂れ連なるは

 

かの犬、牧場で吠えたける

牧者の角笛 鳴るがごとし

鷹は叫びて 鶏も鳴く

百姓の穀を撒き与う時

 

エルフ等 数えて百と七

そても醜く凄くあり

百姓が客になるべき 彼らは

喰い飲み 彼と共にせん

 

ヴィレン杜出の百姓でござる

窓辺より見る エルフの姿

「マリヤの御子イェス 御助け下され

かのエルフ等の目指すは我なり」

 

家の四隅に十字を印して

全ての角に護符を念ず

全てのエルフは畏れて逃げん

森 野 闇へと飛び去りぬ

 

あるは東へ あるは西

また 北へと飛び去るものあり

深き谷へと飛び去れるもの

今でも そこに留まれり

 

ところが、最も小さきエルフが 其の時

扉の内へと入り来たりぬ

十字の印の効なき様に

かの百姓は震駭す

 

百姓が女房 聡しをもって

エルフを卓へと座らせつつ

その眼前に酒食を饗し

あまたの巧言を駆使しせり

 

「ヴィレン杜の旦那よ、聞き給え

お前に語る 我が言葉を

我等が境に 我が許しなく

家を建てるを 誰か命じぬ

 

「だがもし 我等が境の内に

家を構えて住まんとすならば

お前が愛する女房を

我に妻と捧げねばならぬ」

 

不幸な農奴は応うるべし

神が恵みの助けによりて

「エリンはまさに 我が愛する者なれば

決してお前が持つ能わざるべし」

 

能う限りの答を叫びぬ

「我妻以外は 皆持て去れ

財も 衣服も 我が物どれも

お前と共に消えるがよい」

 

「それなら お前のエリンを攫い

お前を踏みつけ 我は行かん

お前が財も真白き衣裳も

我が住まいの底に隠さん」

 

百姓と女房は そこに

悲しき相談を始めしが

妻のみ 此処で去りゆくが

共に滅ぼされるよりよしと

 

思いは千々に乱れ 百姓は立ち上がる

悲しみ 痛みに心は震え

妻なるエリンを 引き渡し

若きエルフと共に去らせたり

 

エルフは喜び 飛び廻る

彼女を己が腕に抱き

彼女の頬から血の気も失せ

心の痛みに気も失せん

 

彼女は悲しみの女なり

熱き涙も あまた流れる

「神も我を哀れみたまえ

不幸な女、なんとつらき運命(さだめ)!

 

「我が婚礼の誓いは この世で

見られる 最も麗しき男にのみ

それを 今では 醜きエルフと

浮気女がごとく 寝るべきか」

 

エルフが示すひとたびの愛、ふたたびの愛

その毎 彼女の心は憂れう

そはかの姿の恐ろしき様は

人の子の知らざるほどになりしがゆえ

 

彼が三度愛を示すと

彼女はマリヤの御子に祈れり

すると醜きエルフは掻き消え

美しき騎士ぞ 現れたる

 

リンデンの緑の樹の下で

再び己の姿を見出せり

悲しみの嘆きはもはやなく

其の時全ては喜びとなる

 

「ああ 愛しきエリンよ 聞き給え

そして我が妻となり給え

類なきメリィ・イングランドの善き物すべてを

すぐにも お前に与えよう

 

「そはまだ幼き子供なりし時

母は亡くなりて去り給う

継母は 遙かに我を追いて

エルフィン・グレイと 我はなりぬ

 

「お前が夫に 我は贈らん

数多の着物と広き土地

彼の妻 エリンの償いに

我が心にこそ お前は媛しけれ」

 

「高貴な騎士様 神に感謝を

今や 我等の汚名を被らざれば

自由の女を娶り給え

二人が喜びを分かち給え

 

「我は汝に相応しからず

我が娘をば 貴男に捧げん

もし善きこころ成す意志あらば

其れを我等が贈り物と為し給え」

 

「賢き女性 エリンに感謝せん

汝が徳を 我は頌えん

汝が愛を 得られざれば

汝が住まいは 此処に設けよ」

 

かの農奴は 其の島に住み

何者も彼を傷つけたるはなし

イングランドの冠を娘は戴き

長く 幸せに暮らしたり

 

今こそ エリン、農奴の女房

悲しみ 苦しみを贖えり

彼女は高貴な女王が母

王が腕に抱く者の母なり