『全部の映画が見たい!』

 両親の影響もあり、ガキの頃から映画が大好き。その昔、フリーライターをしていた時分は、すっかり映画館通いを止めていましたが、今はサラリーマンのような生活をしていますので、休みの日には映画館に籠り、一日を過ごします。明大前に住んでいるのも、新宿と渋谷に出やすいところということで選びました。
 自宅はビデオの山で、約800本の映画を撮り溜めています。世界の偉大な映画作家の傑作は大抵ありますし、黒澤のものなど好きな作品は特に、台詞を覚え込んでしまう程繰り返し見ています。若い頃、家にいる間中、ビデオに映画を掛けていたことがありました。家に帰ると、まずビデオのリストに目を通し、その日の気分で数本のバックグラウンド・ムービーを決める、それが日課でした。幼い頃の、ビデオデッキが無かった時分を知っている私にとって、一日中名作が流れている環境が、至上の幸福に思えたものです。いつかビデオデッキの具合が悪くなった時、出張に来たメーカーの修理工が、こんなにツルツルになったヘッドは見たことがない、と言ったことがありましたっけ……。
 ――が、現在は余りビデオで映画を見なくなりました。ビデオテープが劣化して、切れたり、音声が不明瞭になったり、トラッキングが合わなかったりすることが多くなって来たからです。また、飲みながら映画を見ると、後半眠ってしまうこともあります……。今では、お休みの昼間に映画館で新作映画を見て、夜、寝酒を飲みながら世界の名作や懐かしい映画を見る、という生活が定着してしまいました。

 そもそもは総合芸術たる映画に惹かれ、『面白い映画が見たい』という思いだけで映画ファンになったはずでした。ベストムービーは? と聞かれると、1位が黒澤の『七人の侍』、2位が『ゴッドファーザーI and II』、3位が『大脱走』または『スティング』、と答えるようにしています(ベスト3なのに何で5本なの? などと突っ込まないで下さい(^ ^))。勿論、フェリーニやチャプリン、トリュフォー、ゴダール、ヒッチコック、溝口に小津、等々が監督した名作は好きですし、好きな名作に序列など付けられるはずはないのですが、私の嗜好を示すベストムービーとして選んだ、ということです。
 ――しかし最近、映画を見続ける生活を何年も続けている訳ですが、そんな源初の欲望が段々変質してきたように思えています。特に映画産業が収金マシーンとして機能するようになった昨今、満足の行く大作映画は余り見られなくなりました。その反動として、ミニシアター系の映画の中に、好きになる映画が多くなっています。中東やアジアの映画も面白く見ます。
 映画を見ることが、出来るだけ多くの価値観を身体の中に入れ、世界に対する許容力、理解力を広げる、という手段に変貌してきたのです。最近では、芸術とはそう言うものかと、妙に納得するようになってしまいました。働いて食べる、現代日本人の最も基本的な社会活動を楽しむよう努力しつつ、このままあらゆる芸術を享受しながら、しっかりと毎日を生きて人生を全うするのも悪くないか、などと……。
 今ではすっかり、『全部の映画が見たい』というのがモットーになってしまいました。たった一人で書く小説と違い、映画は、多くの人間が、それなりのお金を使って作るもの。どんな映画にも、それだけの人とお金を動かす『何か』があるはずです。出来るだけ肯定的にそれらを認め、楽しむように努力して見れば、必ず何かを得ることができるはず。映画日記では、少し茶化して否定的な感想を書いている映画もありますが、基本的には全ての映画を楽しんで見ています。
 自分の人生はたった一つだから、他の人生も経験してみたい、というのは、人間の本性なのでしょう。――しかし、そんな私でもこんなホームページを作ってしまう、――何かを表現したい、伝えたいというのもまた、人間の本性なのでしょうね(^ ^)

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