恐竜化石
発見の記憶


1996年9月1日(月曜)
午後の発掘(15:00出発)にて

 キャンプ地滞在の最終日の午後の発掘タイムです。 時刻は昼の暑さをやり過ごした午後3時、場所はキャンプ地の真正面の斜面。 このあたりはこれまでの班が手をつけていない地域らしく、 この最終日までろくな発見をあげていないボクらにとって「最大・最後のチャンス」といえます。 (というか、そう自分に言い聞かせた)

 化石の出そうな地層が露出しているだいたいの範囲を説明されてから、みな思い思いに化石を求めて散らばっていきました。 目的もなく歩き始めてすぐに、地面の上にぽろりと落ちている小さな上腕骨のような化石を見つけました。
 自分が見つけたものとしては2つめの「骨らしさを感じさせてくれる」ほどしっかりしていたものなので、ちょっとウレシイ。

 見つけたのは、雨水による浸食の跡の溝だったので、「最近になって地表に露出したものが流されてきたのかもしれない。 この上流の方にも何かあるかも」と思って、このあたり1〜2mほどを探してみました。

 でも、他には何もたいした物は見つかりませんでした。

 で、あきらめて別の溝の方へと移動してみたのですが、なんとなく先の溝の方が気になっていたので、すぐに戻ってきて もう少し上流の方を探してみることにしました。(うろちょろと優柔不断な…)
 5mくらい上流の方へ行くと、水による浸食が浅くなってきました。このあたりのの地表で骨の化石のクズをたくさん見つけました。 鳥の骨を砕いたように長手方向にさけて割れている骨の化石で、3mくらいの範囲に散らばっていました。
 そのクズ骨をかき集めている最中に、ひとつまったく違う、関節骨のような化石を見つけました。 色が薄い茶色で表面もつるつるしていたので最初は、キャンプ地に来てからよく見かけた羊の脊椎の骨かと思ったくらいでした。 ところがこの骨をスタッフの人に見せると、ハルピミムスのようなダチョウ型恐竜の後肢の指の関節だといわれて、驚きました。

 「非常にキレイでいい化石だ」と(骨が)絶賛され、骨はそのまま彼のポケットの中へ素早く保護されました。 対して、発見の呼び水とも言えるクズ骨の方は、まったく見向きもされませんでした。 目の肥えた人はの視点は、量より質なんですね。

 「周囲を掘ったりして探してみるといい」というアドバイスにしたがって、 周辺6m四方くらいの地表を探し回ってみると、例のクズ骨がさらにたくさん見つかりました。 地表に落ちているのを探すのは一通り終わったので、いよいよ掘ってみることにしました。
 まずは、地表の砂質の層(現代の風化によるものだろう)をスコップでかいて取り除きます。その下には、茶色くて少し硬い層があります。 ただ、数十cm間隔くらいで点在する草が邪魔をしているので、あまり簡単に広範囲をさらうことはできません。

 そこで、目の前の草を引き抜こうとして、草をつかみ、根元にスコップを突き刺して、根ごとえぐり出したら、骨が出てきました。

 えぐったら根と土が出てくるだろうと思っていたのに、想像もしていなかったものが突然視界に現れたので、何事かと思いました。 (それにしても、よく骨をスコップで直撃しなかったものだ……)
 スコップがまだ地面にささっているそのままの状態で、とにかくスタッフを呼びました。見てもらうと、これも同じ恐竜の別の指の関節だそうです。
 同じ地点から同じ恐竜の似たような部位の骨が出てきたので、どうやら「当たり」のようです。 つまり、骨がばらばらに流されてきて化石になったのではなく、ある程度まとまったまま化石になってこの下に眠っている、と考えられるわけです。

 当たりが「発見」されたとなれば、ここからはプロの「発掘」の出番です。
 我々素人は邪魔してはいけないので、騒ぎを聞きつけて集まってきた他のメンバーともども、表面の砂層や草を取り除く手伝い作業に徹します。

 スタッフのハグワさんやニャマさんは、化石の配置や地層の方向などから判断するらしく、次の骨がどの方向にあるかを素早く見抜いて掘り進めていきます。 化石の一部が露出すると、慎重にハケで回りの土をのけて、接着剤で固定し、着実に作業を進めていきます。
 爪、肢、骨盤(?)、背骨、アバラ、と次々と骨が出てきます。 ひとつ新しい骨が出るたびに覗き込む素人陣からどよめきが上がり、 それらしいものだけどハグワさんの判定の結果「チョロ(石)」と分かると笑いがおこります。

 ワクワクして、楽しくて、ウレシイ時間が過ぎていきました。

 やがて、予定時間を40分ほどオーバーし夕食の時間に差し掛かるころ、日も暮れてきて作業は終了になりました。
 みんなで掘りはじめてから2時間くらいがたっていたようだけど、この時点では頭部のあたりまでは掘り進めていませんでした。 もっと急げば進めたような気もするけれど、はやりこういうものは慎重さが肝心なので、無理はしないのだそうです。
 いくつかの種類があるダチョウ型恐竜のうち、歯があることで重要視されているハルピミムスだとしたらこれが世界で2体目の発見になるのですが、 頭部の出ていないこの段階ではまだなんと言えないようです。 まずはすべてを掘り出して、持ち帰ってみないと最終的な判定は下せないのでしょう。
 (ダチョウ型恐竜にしては小さいようなので、獣脚類のインゲニアなどかもしれない、などと素人考えで思ったりもするけど…。 それに、頭のありそうなあたりの真上の別の層でもなにかの化石が出てきていたので、これが邪魔になって発掘は面倒になりそうだし…。)
 ともあれ、ボクたちはこの日でこのキャンプ地を去ってしまうので、あとはスタッフの人たちに任せるしかありません。

 振り返ってみると、この日は暑すぎも寒すぎもせず、ハエも風も少なく、地表の化石を探すのに集中しやすかったのが助けになったようです。 それに、指の関節の骨が地面から露出していたのは、前日の強風によるものかもしれないのだから、まさしく「運がよかった」のでしょう。

 あの日、あの時、あの場所での、すべての巡り合わせに感謝。


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Last update at 1998/07/05