※朝日新聞掲載写真を複写しています

 川面は薄緑色に輝いている。周りを深い木々が囲み、せせらぎだけが聞こえる。熊本県・球磨川支流の川辺川。1月か
ら撮影を始めた。「手つかずの自然があり、人が共生している。そこに奥深さを感じる。
 国が66年にダム計画を発表し、五木の子守唄で知られる山あいの里は沈みかけた。知事が白紙撤回を求めた08年9月、
状況が変わる。政府は09年度予算へのダム工事関連費の計上を見送った。「感心が高まった今こそ、レンズを向ける意味
がある」
 熊本県山鹿市生まれ。広告会社のカメラマンだった。演出された被写体ばかりを撮るのに違和感を覚え、旧産炭地の福
岡・筑豊へ。廃墟が住宅街へ変わる様子やボタ山を撮った。10年かけて写真集にまとめ、日本写真協会新人賞を受けた。
 「もっと故郷を撮りたくなった」
 相次いで両親を亡くし、熊本市に移り住んでそう思った。県内の渓谷の写真展を開いた07年秋、川辺川ダム予定地に暮
らす漁師に頼まれた。「宝の川の美しさも記録して」
 漁師の案内で川辺を歩き、「自然を撮るだけで数年はかかる」と感じた。「オオルリが鳴くころにヤマメが瀬に出てく
る」と教わった。秋口には体長30Cmを超す「尺アユ」を狙う太公望でにぎわう。
 清流をさかのぼり、山道が途切れた先にも家々がある。「見た目の美しさだけでなく、人の営みがある。内面の美しさ
も伝えたい。3年後の写真展開催に向け、川を見つめる。
                                             文・写真 阿部峻介

※2009年2月22日朝日新聞「ひと」掲載原文