■Orca in Cinema 映画の中のオルカ

 

「オルカ」

1977 アメリカ/イタリア
リチャード・ハリス、シャーロット・ランプリング他
監督:マイケル・アンダーソン
音楽:エンニオ・モリコーネ
アイルランド(?)からアラスカへの移民漁師であるノーラン(リチャード・ハリス)は、夢破れて国に帰る資金を調達するために、オルカを捕獲して水族館に売ろうとする。だが、捕獲は失敗し、身重のメスのオルカを胎児ごと殺してしまう結果となる。目前で家族を殺され怒りに狂ったオスのオルカはノーランへの執拗な復讐を始める。やがて地域社会からも追い出されたノーランはオルカとの対決を決意するが、自らの手で家族を失わせてしまったオルカと、過去に過失事故で家族を失った自分の境遇とを重ね、ついにはオルカの復讐を受け入れる運命を選ぶ。
 70年代後半、スピルバーグの「ジョーズ」の世界的ヒット以後、数々の動物パニック映画が制作された。本作もその一本なのだが、「ジョーズ」とはかなり異なる風合いを持つ。
「ジョーズ」で、巨大ホオジロザメは何があっても倒さねばならない絶対的な死と恐怖の権化として描かれたが、「オルカ」でのシャチの姿はあくまで美しい。「ジョーズ」は本能に従って手近な獲物=人間を捕食しているだけだが、オルカは感情をもち、家族を愛し、確固とした意志を持った存在として描かれる。復讐の鬼と化したクジラに追われる男、という「白鯨」の裏返しのプロットを基本としながら、オルカは、同じような境遇を持つノーラン自身の鏡像でもある。つまり得体の知れない怪物ではなくて、悲しみに暮れ復讐に狂う「男」である。
 「ジョーズ」では、ロイ・シャイダーの奮闘で恐怖を葬り去ったアミティ・ビーチには平和が戻りハッピーエンド。一方、オルカはラストで復讐をとげても、一部始終を目撃していたシャーロット・ランプリングの鯨類学者に悲しげな視線を投げかけると、「マッド・マックス」ラストのメル・ギブソンように黙って去るのみであった。
  もっとも、鯨類に対する最低限の知識やオルカに感情移入できないかぎりこういう構図は成り立たず、単なる「ジョーズ」の劣性の変種と映ってしまうだろう。現に、クジラは海の資源で食物という認識しかなかった公開当時の日本人に、それは無理なことであった。しかし、この作品を少年少女期に見てオルカの魅力に目覚めた者は私の周囲にも少なくないようだ。少なくとも日本で、シャチを指す「オルカ」という呼び名が認知されたのはこの映画がきっかけだ。
  音楽は「ニューシネマ・パラダイス」の(同時に「遊星からの物体X 」の)エンニオ・モリコーネだ。リチャード・ハリスは非業の死を遂げる役回りが多いアクション俳優だったはずだが、最近「グラディエーター」で死期間近の老皇帝役を演じていて、いつのまにか老成した性格派俳優になっていた(その後2002年秋に亡くなった)。鯨類学者を演じたシャーロット・ランプリングは、たまらなく後味の悪い映画である「エンゼルハート」でミッキー・ロークやデ・ニーロと共演した。
 もう一つ。 この作品に出演したメスのオルカはジョンストン海峡で1968年に捕獲されたA5ポッドの一頭で、1978年、映画出演後カリフォルニア・「マリンワールド」から和歌山県白浜の「アドベンヤーワールド」に移籍、1980年に死亡したことがわかっている。

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