噴気について

 鯨類を発見する目印として、まず挙げられるのは噴気です。大型クジラの噴気なら、最大5-8mの高さに及び、時には20Km以上のかなたからでも発見できるからです。噴気の形は鯨種によって特徴があり、実際に何種類かの噴気を見るうちに、誰にでもある程度鯨種を特定できるようになります。下記に実例を示します。
(写真:すべて(c)Yoshi NAGATSUKA)

マッコウクジラ


マッコウクジラの噴気は比較的低く濃密で、必ず進行方向に対し斜め左前方に上がります。彼らの噴気孔は、頭部の左側先端に一つだけであるからです。近くで見ると、背中の背びれというか「こぶ」も目に付きます。

ザトウクジラ


すべてのヒゲクジラ亜目には2つの噴気孔があります。したがって、噴気の形は基本的に左右対称となります。ザトウクジラの噴気はハート形か風船型をなし、細部は美しいパターンを示します。
 また、ザトウクジラの場合、噴気を見つけるよりも先にブリーチングやペタンクルスラップといった、ダイナミックな行動が発見につながる場合もあります。

シロナガスクジラ


シロナガスクジラの噴気は量、高さ、濃密さ、すべてにおいて他のクジラの比ではありません。吐息に含まれる水蒸気だけではなく、すさまじい排気のパワーで周囲の海水も吹き上げ、白く柱状に見えます。

オルカ


この例では海面付近の寒冷な空気のおかげで比較的はっきりと噴気が見えていますが、オルカの噴気は大型のクジラほどの濃密さがありません。気象状況によっては全く見えない場合もあります。オルカを発見する決め手は、噴気よりもむしろオスの漆黒の背びれです。

オルカの見え方 もし遠方を移動中のオルカを双眼鏡の視野で見るならば、黒い針のような背びれが、30-90秒毎に5秒間ほど海面からそびえ立つのが見ます。休息中ならば、海面上に見え続ける時間はさらに長くなります。オルカの背びれは最大2mですから、遠方に人が直立しているのとほぼ同じスケール感です。これは、たとえ数キロのかなたでも、双眼鏡の視野の揺れを最小限に押さえて注意深く観察すれば、細かな波頭などと見分けられる大きさです。私は決して視力が優れていませんが、冬のノルウェーの、風雪とうねりがある状況でも、数Kmかなたから波頭と見分けて発見できた経験があります。
 希にオスのオルカが単独で行動していることもありますが、ほとんどの場合、オス一頭を発見すれば、その周囲には最低数頭、多ければ十数頭のオルカがいると考えられます。

イルカの場合

 イルカも噴気で発見することはできません。彼らの方から観察者が乗る船に積極的に遊びに来る場合がほとんどですが、大規模なイルカの群れが遠方を移動している場合、海面が局所的に沸き立つように見えます。海況さえよければ、これで10Km近い遠方からでもイルカの群を発見することができます。
 また、休息しているイルカであっても、浮上したイルカの皮膚が波頭とは違ったニュアンスで太陽光を反射させることが、発見につながった経験もあります。