オルカ解剖学
ORCA ANATOMY

大きさの比較

オルカは、イルカの仲間では最大の種であり、オスの体長は最大9mにも及び体重は約6-8t。メスは7〜8mで体重4-6t。

体色
 背びれとともにオルカを印象付けている鮮明な黒と白の体色は、群で行動するときに仲間同士の位置を確認するため、生殖器の位置を示すため、あるいは、獲物の目に対しオルカの進行方向を混乱させる迷彩効果がある、とも言われます。生後間もない赤ん坊のオルカでは、白い部分は薄い茶色もしくはオレンジ色を帯びています(左写真)。体色のパターンは、生息海域や個体によってばらつきがあり、背びれの後ろにあるサドルパッチと呼ばれる模様は、背びれの形と同様にオルカを個体識別するための目印として重要です。サドルパッチ付近はオルカ同士軽く噛んだ痕が多く見られることから、社会的なスキンシップをサドルパッチ付近に集中させることで、目や噴気孔、ひれといった精巧な部位を損傷から守っているとする考えもあります。また、全身白一色のアルビノのオルカの記録もあります。

皮膚
オルカやイルカの皮膚はきわめて平滑で弾力に富み、粘液を分泌しないため魚類のような「ぬめり」がありません。手触りはちょうどビニールでくるまれたボンレスハムによく似ています。皮下組織は2層に分かれ、遊泳時大きな抵抗力を発生させる表面の乱流を自動的にうち消す機能を備えています。そして、強靱な筋肉とも相まって、オルカの速度は最大30ノット(約50Km/h)にまで達します。

 

顎と歯

オルカの口には鋭い円錐状の歯が上下のあごに計46-48本あります。
イルカやオルカは獲物を食べるとき咀嚼することはしません。したがって、彼らの歯は食物を飲み込みやすいように噛み砕くことよりも、獲物をしっかりと捉え、必要ならば噛みちぎるという機能に特化しています。歯の形状はほぼ均一で犬歯や大臼歯のような区別がなく(これを「同歯性」が高いという)、頑丈なあごで支持され、イルカやクジラのような大型動物の体であっても強引に引きちぎる威力があります。

 

 

 

 陸上に比べて視界がきかない海中で聴覚に依存しているイルカ、クジラの視力は一般にはあまり良くありませんが、オルカはハンターの例に漏れずかなり鋭い視力をもっているとされます。魚類とは異なり目を閉じることができます。色をどの程度検知できるかは、確かなことはわかっていません。

 

 

 

噴気孔

イルカ、クジラ、オルカの噴気孔は、私たち陸上の哺乳類で言う「鼻」が水中生活に適応して頭頂部方向に移動したものです(これを鼻孔のテレスコーピング(望遠鏡の意)と呼ぶことがある)。オルカ、イルカなど、ハクジラ亜目では、水中生活への適応の過程で鼻孔が一つになってしまっています。ヒゲクジラ亜目では、私達の鼻と同じく噴気孔は2つあります。「鼻」の位置が移動したといっても、頭蓋の各パーツの位置関係が他の哺乳類と異なるわけではなく、噴気孔の直後に脳が位置しています。
 噴気孔の奥はいくつかの気嚢をもった複雑な構造をなしており、気嚢中の空気を移動させることで音波を発生します。(左下図)

 
メロン

オルカをはじめ、ハクジラ亜目はエコロケーション(ソナー)やコミュニケーションに音を用います。噴気孔の前方内部には「メロン」と呼ばれる脂肪で出来た器官があり、気嚢で発生した音波を任意の方向に収れんさせるレンズの機能を果たします。

 
生殖器

 イルカや、性的に未成熟なオルカの性別を見分けるには、下腹部に着目します。生殖スリットと呼ばれる、生殖器を格納した溝の長さと、その左右に乳首があるかどうかが雌雄を見分ける決め手となります。オスのペニスは遊泳時の抵抗となるため、使用しない時は生殖スリット内に格納されています。メスは生殖スリットの左右に黒く小さなへこみがあり、ここに乳首が格納されています(左図)。
 従来、オルカに限らずイルカ、クジラの仲間はいわゆる逆子で誕生するとされてきました(*)。これは、頭部を最後に出すことで、齊帯(へその緒)が断ち切れてから水面で最初の呼吸をするまでの時間を最小限にしているのだ、と説明されています。しかし近年の観察結果では、逆子とそうでないものの比率はほぼ1:1であるという報告もあります。
 オルカのへそは多くの場合黒く、わずかに凹んでいます。

(*)イルカに関する知識が不足していた時代、飼育下のイルカが出産するとき、逆子が異常であると勘違いした人間が赤ん坊を無理矢理引きずり出したことから母子共に死亡してしまった、という例もあります。

背びれ、胸びれ、尾ひれ
 特徴的なオスの背びれは、子供である間はイルカ型でメスと区別がつきませんが、性的成熟とともに、本来の機能である垂直安定板として必要な高さを超えて高くそびえ立ち、最大2mにも達します。また同様に胸びれは巨大化し、尾ひれの先端も内側にカールしてきます。 このように、成熟したオスがきわだった特徴をもつことを一般に性的2型と言います。さらに年齢が高まると、背びれの後部は次第に波打ってくることもあります。

 オルカの背びれは水面上に露出する機会が多く、またその形は個体差が大きいため、野生オルカの研究者たちは背鰭の写真を撮影することで個体識別を行っています。
 背びれ、尾ひれ、胸びれには皮下脂肪がほとんど無く、広大な表面積をもつこれらには、体内の熱を逃がすラジエターの機能があるとも考えられます。
 鯨類は陸上哺乳類から進化しました。もちろんオルカも例外ではなく、陸上を歩いていた頃の痕跡は、彼らの胸びれの中に5本の指の骨格として残っています。筋肉は退化しており、指の痕跡を動かすことはできません。また、左右に身体をくねらせる魚類とは異なり、背筋と腹筋を用いて尾ひれを縦に振る推進運動も、オルカの祖先が陸上を疾走した運動の名残であると言えます。

 

水族館のオルカは、なぜ背びれが曲がっているのか。
オルカの背びれは内部に骨格を持たず繊維組織でできており、外力がかかればしなやかに曲がります。しかし、水族館で見られるオスのオルカの背びれは、100%折れ曲がっています。これは、つぎのような原因が複合したものと考えられます。
・背びれを長時間水面上に突き出しているため、背びれが自重による負荷にさらされている。
・限られた範囲を低速で周回し続けることで、背びれに対し同じ方向に外力がかかり続けている。
・肉体的、精神的ストレスによる体調の変化。
残念ながら、折れ曲がったオルカの背びれが復元した例はありません。

 野生オルカにおいても、ごく希に背びれが折れ曲がった個体が観察されています。先天的な変形が無いとは言い切れませんが、長期間の観察データがあるカナダ太平洋岸、アラスカ沿岸のオルカで知られている2つの例では共に後天的なものであり、何らかの疾病、前後状況からタンカー座礁による海洋汚染の影響が強く指摘されています。これら2つの例とも、背びれの変形が観察されてまもなく後に該当する個体が死亡していることから、背びれの状態はオルカの全身状態とも関係があると思われます。