名古屋港に野生オルカ出現(2000年2月21-23日)
写真提供:八田真由美さん(愛知県在住)
2000年2月21日午後、拡張工事にともない野生オルカを捕獲するのではないかと注目されている名古屋港水族館の目の前に、突然一頭の野生オルカが現れました。体長7.5mに達する成熟した(注1)オスで、そのまま付近を彷徨った後、22日になって、名古屋市内を流れる堀川を溯りはじめました。
23日、彼は河口から4Kmも川をさかのぼっていました。TVニュースなどでこのことを知った市民は堀川の川岸に詰めかけ、2m近くはあろうかと思われる勇壮な背びれと噴気に歓声を上げています。しかし、オルカは力無く同じコースを往復しており、何らかの異常がある様子です。名古屋港管理組合、名古屋港水族館らは、5隻のボートでオルカを海まで誘導するという作戦(オルカが嫌う金属音を船から発生させ、オルカを追い立てた)(注2)を開始し、23日午後、オルカは再び伊勢湾に戻ることができました。

幸い、水産庁はこのオルカを捕獲する一切の許可を出さず、また巨大で成熟した個体であるからか、保護という名目でオルカを捕獲しようとする動きも表面上は起こりませんでした。川岸で見守る市民たちの間からも、「捕まえてしまえ」という声は全く上がりませんでした。彼らは野生オルカの巨大さと迫力に感嘆するとともに迷えるオルカに共感し、ワイドショーのレポーターから散歩のオジサンや小さな子供たちまで、彼が無事海に帰ることだけを願って応援している様子です。一頭の迷えるオルカが、人々の心を一つにしたのかもしれません。まもなく、市民たちの間からは、「またいつかオルカが遊びに来てくれるように、堀川をきれいにしよう。」というムーブメントも起こりました。
この出来事に対する海洋生物学者ポール・スポング博士からのコメントをご紹介します。
「たった一頭のオルカが突然に現れて、多くの人の共感の波を呼んだことは、古屋港水族館をめぐる議論に一石を投じ、その流れを変えるきっかけとなるにちがいありません。」
■再び仲間の元へ■
2月26日、伊勢湾の入り口である伊良子岬沖(通称伊勢湾伊良子水道)で、行動を共にする2 頭のオルカが目撃されました。地元の鳥羽水族館は、新聞社のヘリが上空から撮影した写真を基に背びれの形状を鑑定し、オルカの一頭が、堀川に現れたオルカにほぼ間違いない、と発表しました。
(注1)
このオルカの年齢は、当初名古屋港水族館により5,6歳と発表され、マスコミでもそのまま報道されました。しかし、名古屋港水族館の鑑定は、オルカ導入を計画していながら、オルカに関する基礎的な知識に欠けた不適切な解釈と言えます。
オルカが性的に成熟するまで、つまり背びれが最大限に発達し体長が7.5mにまで達するには15年以上かかります。また、画像を見たところ背びれの後縁に波打ちが見られますが、これは性的に成熟しきったオルカに見られる特徴です。以上のことから、私はこのオルカの年齢はことによっては20歳以上と考えており、これは画像をご覧になったポール・スポング博士の見解とも一致しています。博士は、野生オルカを30年にわたり観察し続けています。
(注2)
1985年、サンフランシスコ湾内に一頭のザトウクジラが現れ、彼はそのまま川を何キロも溯り始めました。
人々はボートに取り付けた水中スピーカーからザトウクジラのフィーディング音を流すことで彼の注意を引き、無事海に連れ戻すことに成功しました。
この出来事は「くじらのハンフリー」という絵本になっています。
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