ヤマブキ



ヤマブキは私の家の付近では玉川上水の緑のトンネルに黄色にポットと細かな
灯をともしたように、緑と黄の配色も美しく観察されます。
春の今の時期、株立ちした枝が垂れて、鮮やかな黄色の花を輝かしている姿は緑の
葉との対比で気品もあり、本当に美しい花だと思います。


ヤマブキの花というと誰でもが思い浮かべるのが太田道潅にまつわる話で、知らな
い人は居ないほどに有名な故事でもあります。


  道潅がある日、鷹狩りに出かけたおり雨に降られ、近くの小屋に立ち寄って蓑
  を貸してくれるよう頼んだところ、若い女性が無言で山吹の花一枝を折って差
  し出したと言う話です。道潅は花を貰いに来たのではなく蓑を貸りに来たのに
  と怒って帰ってしまったということです。
     この話を伝え聞いたある人が、これは古い歌にある心を伝えたものであること
  を道潅に教え、道潅は自分の無知を大変に恥じたということです。それからと
  いうももは道潅は歌の道にいそしみ、後には歌の大家になったという教育的な
  お話です。


その歌というのが、


       ななへ八重はなはさけども山吹の
             みのひとつだになきぞ悲しき


というもので、書物によりますと、後拾遺和歌集にある兼明親王(914ー987)
の歌であるといいます。 この歌の出来たいわれも、親王が小倉に住んでいたとき、
雨の日に傘を貸りに来た方がありましたが、親王は山吹の枝を折って渡してやったと
ころ、それが何を意味するのか解らないということで、親王は上の歌を書いて返事に
したということです。


道潅の話は武蔵野に伝わる話なのですから、玉川上水に沿っての緑のトンネルにヤマ
ブキが美しい、そして気品のある姿を示しているはそんな話も考えてというところか
もしれません。

ヤマブキは本当に実を付けないのでしょうか。歌にある八重山吹は雄蕊が花弁に変化
したものですから、実は付けないことはわかります。しかし、一重咲きのヤマブキは
結実性はやや不良であるとはいうものの実をつけます。
「植物と神話」の本を参考に開きますと、「面影を映した鏡が山吹になる」と題して
次ぎのような話が紹介されていました。
古歌に「古(イニシエ)の面影草の夕映えや 留めし鏡の名残なるらむ」とか「面影
をたがひに留めし鏡草 忘衣の名残恨めし」とあるように、山吹には面影草とか鏡草
の別名があります。これは次ぎのような物語からそんな名前が附されたのでしょう。

  むかし、あるところに相思相愛の男女がいた。二人は共白髪までと将来を誓いあ
  ったのだが、浮世の義理とでもいうものか、二人は別れなくてはならないことに
  なった。そこで二人は別れに際してお互いの面影を忘れないようにと、互いの面
  影を鏡に映し合って持ち帰ったという。その鏡を地中に埋めておくと、そこに山
  吹が芽吹いて明るい黄金色の美しい花が咲いたといわれている。


                            うめだ よしはる


   春の花へ