サルスベリは悲恋物語の花です

 サルスベリは真夏の暑さで大方の植物が緑の葉をちからなく、おもたげに広げて
いる時期に、今を盛りと咲き続け、花の期間も長いことから百日紅という漢名が与
えられているのはご承知の通りです。

      散れば咲き散れば咲して百日紅    千代女

 サルスベリは中国原産で江戸時代のはじめ頃に渡来したものらしく、当時から、
本種に「紅、白の二種あり」と、記載されていたといいますから、その頃にはもう
栽培されていたものと考えてよいでしょう。

 この木は樹皮がなめらかで猿もすべるというところからサルスベリとの名がつい
たとされていますが、ナツツバキも樹皮がなめらかのことから、サルスベリとの別
名があります。

 松田修著の「花の文化史」や近藤米吉偏の「植物と神話」の中で、百日紅にまつ
わる朝鮮の伝説、悲しい恋の物語が書かれていますので、ここに概要を紹介させて
いただきました。

  むかし、朝鮮の海岸の漁村で毎年水難を防ぐために村の娘を竜神に捧げる
  風習があった。ある年、この村の第一の長者の娘がそれに選ばれた。
  
  娘は終日泣き続けたが、長者であるからといって村のおきてにそむくわけ
  にもいかず、娘はいけにえとして最後の化粧を終え、海岸に立って竜神の
  来るのを待っていた。 その時、この国の王子が黄金の船を操ってこの岸
  に通り合わせ、この娘から事情を聞き、美しい娘が人身見御供にされるの
  を不憫に思い、娘のために竜神と戦ってこれを征伐した。

  自分の命を救ってくれた恩人に、烈しい思いを寄せるのは自然のなりゆき
  で、王子とこの娘は恋仲になったが、王子は王の命令で他所へ行くべき使
  命があったので、百日目の再会を固く約束して旅立つことになった。
  一日千秋の思いというのは、娘の心情であったことでしょう。 百日は千
  秋の思いであったが、ついに、再会の楽しい日を前にして娘は死んだ。
  
  百日目の朝、役目を果して現れた王子は明るい顔をして娘を訪ねたが、娘
  の死を知り地に伏して慟哭した。 その娘の遺体をねんごろにとむらい埋
  めたところ、そこにいつしか一本の木が生え、薄紅の花を咲き続けた。 
  
  これこそ百日間も王子を待ち侘た娘の化身だろうというので、この木をそ
  れから百日紅と呼ぶことにしたという。 それが百日紅で、この木が百日
  もの長い間花が咲いているのもそのためだという。

どこにでもある恋い物語、特に花にまつわる話には多い話の筋ですが、サルスベリ
の花が風に揺れている姿に出会ったならば、恋いを胸に秘めて、何日も何日も待ち
続けた、娘さんの話を思い出してください。

                         うめだ よしはる

晩春から夏の花へ

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